北海道書店ナビ

第259回 絵本作家 そらさん



5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や編集者が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.35 絵本作家 そらさん

札幌出身のそらさん。2014年、15年と2年続けてニベアの限定缶デザイン&絵本動画も手がけた。


[本日のフルコース]
人気絵本作家のバレンタイン・セレクション
「この愛をとどけたい」フルコース

[2016.2.8]




書店ナビ 今回のフルコースはバレンタイン・デー編。この企画にぴったりの選者として絵本作家のそらさんにフルコースづくりをお願いしました。
JR北海道ICカード乗車券「Kitaca(キタカ)」のエゾモモンガや北海道観光PRキャラクター「キュンちゃん」など、誰からも愛される作風で知られるほか、絵本の読み聞かせやライブペインティング、テレビ出演…と多方面にひっぱりだこのそらさん。
フルコースづくりはいかがでしたか?
そら バレンタイン企画という大きなテーマをいただいていたので、まずは「愛情ってなんだろう」というところから考えてみました。
恋人同士や家族愛など「人を思う」気持ちが詰まった、あげてももらってもうれしい5冊を選んだつもりです。


[本日のフルコース]
人気絵本作家のバレンタイン・セレクション
「この愛をとどけたい」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

どうながのプレッツェル

どうながのプレッツェル
マーグレット・レイ/文 H・A・レイ/イラスト  福音館書店

どうながが自慢のダックスフント、プレッツェル。大好きなグレタにアピールしようといろいろ頑張りますが、なかなかうまくいきません。でもあるとき、思いがけないことが起きて…かわいらしいハッピーエンドをお楽しみください。

そら 小さいころに読んでもらって、いまでも大好きな絵本です。ドッグショーで優勝するくらいのプレッツェルが「どうだい、僕ってかっこいいだろう」と自慢するところは、にんげんの男の子とおなじですね(笑)。
書店ナビ取材班A はい、おなじ男として一言もありません…。
そら でも犬もにんげんも、そういう態度のコには女の子たちもなかなかなびかなかったり…・(笑)。「僕、すごいだろう!」よりも「君のためにがんばる!」という姿に女の子たちはぐっとくるのではないでしょうか。
そんな恋愛の真理を教えてくれる絵本なので、意中の人に告白の意味で贈ってもいいですし、つきあい始めた二人にもぴったり。前菜のカルパッチョにのっているピンクペッパーのように愛らしい、でもぴりりとくる一冊です。


スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

べんり屋、寺岡の夏。

どんなにきみがすきだかあててごらん
サム・マクブラットニィ/文 アニタ・ジェラーム/絵  評論社

お互いのことが大好きなチビウサギとデカウサギ。二匹の“両思い”ぶりに胸がきゅんとする名作絵本です。

そら スープは胃をあたためてメインの料理に備える役割があると聞いたので、ほっこりと心をあたためてくれる作品を選びました。
この絵本を知ったのは、私がまだ喫茶店でアルバイトをしていた20代のころ。上京を決めた私に常連のお客様がプレゼントしてくださったんです。
その方は幼稚園の園長先生だったので、きっと素敵な絵本をいっぱいご存知だったんだと思います。「こういう作品を描けるようになってね」というエールにも感じられて、いまも大切にしています。
デカウサギがチビウサギをやさしく見守る大きな愛情は、親子の愛にも通じますよね。おかあさんおとうさんたちにお子さんと読み合ってほしいです。

一般社団法人札幌地区トラック協会発行の企画絵本「ランディー・シリーズ」も描き続ける。「昨年に続いて今年も11作目となる新作もあるかもしれません」



魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

ワンダー

小さき者へ・生れ出づる悩み
有島武郎  新潮社

文庫に収められている「小さき者へ」は、有島武郎が3人の子どもたちにあてて書き残した手記のような短編です。中学校国語の教科書にも載っているので、ご存知のかたも多いかもしれません。結核で母を亡くした幼子たちに父として人として作家として何を伝えようとしているのか、ぜひご一読ください。




書店ナビ 有島の妻・安子は三人の子どもたち、上から行光、敏行、行三が幼い頃に亡くなりました(当時長男の行光は5歳)。
そら作中では「母上」が子どもを出産するくだりから細かく書かれていて、いかに苦労して生んだかが伝わってきます。
その後の結核の発病や療養生活と、つらい内容が続きますが、命が生まれる尊さや、いつかは親を乗り越えて生きていく子どもたちの未来に託した思いがせつせつと書かれています。
有島のような作家が私的な心情を包みかくさずに書いたことにも、驚かされました。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

世界を平和にするためのささやかな提案

グレート・ギャツビー
スコット・フィッツジェラルド  新潮社

ニューヨーク郊外の豪邸で毎夜、豪華絢爛なパーティーを開く謎の大富豪ギャツビーの目的はただひとつ、かつての恋人を取り戻すことだった…。ディカプリオ主演の映画化で知りました。ハッピーエンドではありませんが「愛のフルコースには外せない」と思い、メインディッシュに。



書店ナビ 映画はご覧になったんですか?
そら はい、圧倒されました。一人の青年がたった一人の女性のために「そこまでするんだ!」という底知れぬ愛のパワーを感じました。
これほどの情熱を注がれたら? 女性としてはうれしいんじゃないでしょうか。
ギャツビーの愛情はベクトルの方向が人とは違いすぎたかもしれませんが、愛情が人をどこまでも突き動かす原動力になる、ということを教えてくれる名作です。
ビターな結末もかえって現実味を感じさせます。愛を考えるフルコースのなかでは《噛みごたえありのシカ肉》というイメージです。


デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

清陰高校男子バレー部

赤い糸 [The Red String of Love]
そら  パルプ出版

自作で恐縮ですが、誰もが優しくあたたかい気持ちになれるように願いをこめて描いた私の原点のような作品です。初めて描いた絵本です。




書店ナビ 以前『赤い糸』について取材させていただいたときのことを思い出します。
そら 当時の、揺れ動いていた心境を素直に描いた作品なので、今読んでも「ああ、こういう気持ちだったなあ」と思い出がよみがえります。
ふたりをつなぐ赤い糸は途中でこんがらかったり、もつれたりもしますが、最後には互いに納得する距離を見つけて…。
私もこれを描いたころよりは大人になりました。気持ちのコントロールや自分は変えられても相手を変えることはできないことを学んで、人や社会との上手な距離の取り方が見えてきた…と、信じたいです(笑)。


ごちそうさまトーク 参加した短編映画が観光庁長官賞に

書店ナビ 2015年は滝川市の商店街で撮影した中鉢貴啓監督の短編映画『シャッター×シャッター』のためにシャッターアートを描き下ろし、同作は札幌国際短編映画祭の観光庁長官賞を受賞しました。
ご活躍が続きますね。

過疎化の問題を取り上げた『シャッター×シャッター』(25分)



そら 今回のフルコースづくりにあたって本屋さんに通ううちに「こんなにも本を書きたい人がいて、その数だけ伝えたいことがあるんだ!」ということに気づかされました。
私もこれからどういう思いを描こうとしているのか、しっかり自問して、同時に一枚一枚のクオリティーを高めていきたいです。
書店ナビ 本を料理に見立てるフルコース企画の意図を的確に汲んでくださったハートフルなフルコース、ごちそうさまでした!






2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんや編集者の方にお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。

《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。

読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。

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