北海道書店ナビ

第549回 BOOKニュース 札幌発・書店×デザイン×ハコの三位一体「函文庫」プロジェクト

前田麦さん、デザイナーの小島歌織さん、ハコ担当は(株)モリタの近藤篤祐さん

「函文庫」プロジェクトの3人組。左から企画発案の前田麦さん、デザイナーの小島歌織さん、ハコ担当はモリタ(株)の近藤篤祐さん。

【BOOKニュース】
札幌発・書店×デザイン×ハコの三位一体「函文庫」プロジェクト
ブックカバーで作るDIYキット製品化をクラウドファンディング中!

[2022.5.30]

「カバーはおかけしますか?」は日本だけ

ブックカバーは日本独自の文化だということをご存知だろうか。「カバーはおかけしますか?」は、この国だけ。
高価な稀覯本を除けば、欧米ではペーパーバックにわざわざカバーをかけたりはしない(book coverも和製英語で、日本のブックカバーはbook jacketなどと言うようだ)。

ひるがえって日本に暮らす私たちが本屋さんの思い出を語るとき、「いつも行ってた本屋さんで買うとね…」と、幾度もレジで手渡されたあの懐かしいビジュアルごと思い浮かべる人も多いのではないか。
そんな日本独自のブックカバーを紙箱にリメイクして見直すプロジェクトが2022年5月に札幌で誕生。製品化を目指し、6月26日までのクラウドファンディングで支援を呼びかけていると聞いて、関係者にお話をうかがった。

【書店のブックカバーを残したい】 文庫サイズの「紙箱」をつくるDIYキット – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

camp-fire.jp

プロジェクト名は「函文庫」(はこぶんこ)。札幌在住のアーティスト、前田麦さんの発案だ。

第484回 アーティスト 前田 麦さん – 自然の造形物と変形に魅せられたアーティスト、前田麦さんが何度も開く「形態」本フルコース

www.syoten-navi.com

「ブックカバーが持つ昔ながらのカッコよさが大好きで、数年前から温めていた企画です。これを形にするのなら、真っ先に声をかけるのは何度もコラボしたことがあるモリタの近藤さんしかいませんでした」

2022年で創業90年を迎える札幌の老舗紙箱メーカー、モリタ株式会社の近藤篤祐さんは社長就任以前から札幌のデザイナーたちを積極的に起用し、デザインの力で同社に新しい風を吹き込んだ人。
今回も前田さんの企画にすぐに賛同し、早速サンプル作りに取りかかった。

箱は文庫サイズ。

箱は文庫サイズ。撮影:クスミエリカ(以下、★)

まるで本物の文庫のよう!

まるで本物の文庫のよう!近藤さんの提案で身箱の素材に「目」のある紙を使い、ページが重なっているように見える質感を出した。

平置きしてもいいし、立てて書棚

平置きしてもいいし、立てて書棚にさしてもいい。★

出来上がったサンプルを見て「この発想はなかった!」と感嘆したのが、同じく札幌のデザイナー小島歌織さんだ。
「文字を使ったデザインが得意な小島さんなら、ブックカバーがまとう昭和レトロな世界観をうまく伝えてくれそう」と前田さんが話を持ちかけ、3人目の主要メンバーが決定した。

まるで本物の文庫のよう!

取材はモリタの一室で。「函文庫」のネーミングは3人で話し合ううちに自然に決定。ハコの漢字は手紙などを入れる意味を持つ「函」を起用した。

「本屋のオヤジ」のブックカバーが函文庫のために復刻!

製品化の第一歩は、主役となるブックカバーを提供してくれる書店への営業から。初めてコンタクトをとる相手からはなかなか色よい返事をもらえない苦労もあったが、ツテをたどって札幌東区にある「ダイヤ書房」や浦河町の「六畳書房」、全国でも珍しい市が運営する書店「八戸ブックセンター」、東京・神楽坂の「かもめブックス」、「Shibuya Publishing & Booksellers」の各店から60枚のブックカバーを買い取った。

「かもめブックス」の店長、柳下恭平さんといえば、北18条にある新刊書店「Seesaw Books」オーナー神輝哉さんの良き相談相手として知られている。今年4月9日に行われた同店の開店半年イベントにもゲストで来札している。

第545回 「Seesaw Books」開店半年イベントレポート

www.syoten-navi.com

その2人が札幌で飲んでいた某日、某所のカウンターに偶然居合わせたのが、小島さんだった。
「本屋さんだと聞いて、その場でお願いしたら柳下さんが気さくに”いいですよ~”と了承してくださったんです。 お酒も入っていましたし、もしかしたらよくわからないまま引き受けてくださったのかもしれません(笑)」
柳下さんがオープンマインドなお人柄であることは事実だが、小島さんの引きの強さもあったのではないか。幸先のいいスタートを切っている。

またもう一つ特筆すべきは、この「函文庫」のためにすでに閉店したかつての札幌の人気書店「くすみ書房」のブックカバーが復刻されたことだろう。
故人である店主・久住邦晴さんの長女、写真家のクスミエリカさんは「函文庫」プロジェクトの広報に使われる写真の撮影もかって出てくれたという。

「くすみ書房さんにもご協力いただけませんか、と麦さんからお声がけいただいたことをきっかけに、ブックカバーの提供だけでなく撮影もやらせていただきました。

くすみ書房が閉店して7年、父が亡くなってから5年。それだけの月日が経ったにも関わらず、今でも本屋として関わらせていただけること、とても嬉しく思っています。

ブックカバーのキャラクターは「ブックン」という父が描いたキャラクターで、ドット柄のデザインと合わせてかわいいと評判でした。

今でも本と共に大切に持っていてくださる方が多く、函文庫のワークショップでも函にするために持ってきた方がいらして感激しました。まさに本屋と共にある思い出の一つなんだなあと思います。

そんなブックカバーの新たな可能性を見出せるこの函文庫というプロジェクト。一人でも多くの方に手に取っていただけたら、元書店の娘としても嬉しい限りです」(クスミエリカさん)

赤いドット柄がくすみ書房の復刻カバー

赤いドット柄がくすみ書房の復刻カバー。★

こうした書店からのカバー集めと並行して、前田さんたちは函文庫オリジナルのブックカバーをデザインしてもらうために「この人!」と思うクリエイターにも声をかけている。
3人とも接点があったグラフィックデザイナーの大原大次郎さんと、前田さんがグループ展で一緒だったことがある画家のアジサカコウジさん。
「お二人ともすぐに賛同してくださって、こちらは”1案出してくれれば”という気持ちだったんですが、実際に届いたのは4パターンや6パターン。どれもすばらしかったので絞り込むのが本当につらかった。楽しんで描いてくださったのが伝わってきました」(前田さん)

前列の左端が小島さんがデザインしたロゴを使った「函文庫」オリジナルバージョン

前列の左端が小島さんがデザインしたロゴを使った「函文庫」オリジナルバージョン。懐かしさを感じさせる藍色とビビッドな緑色の2色づかいが効いている(各ボックスの特定はCAMPFIREのクラファンページでご確認を)。

子どもも簡単に作れる「貼り箱」式のDIYキットで販売

ブックカバーを紙箱にリメイクする「函文庫」のもう一つの特徴は、購入者に愛着を感じてもらえるように紙箱を自分で作るDIYキットにして販売するところにある。
「昔からボール紙にいろんな紙を貼って作る《貼り箱》という手法があるんです。ただ、DIYキットにする以上は誰でも簡単かつ確実に作れることが大切で、熱を加えて溶かすニカワのりなんかは使えません。手順もごくシンプルにして、ブックカバーを両面シールの台紙に貼ってから、それを箱本体に貼り付けて組み立てていくやり方にしました」(近藤さん)

KIT以外に用意するものはペンと使いたいブックカバー、ハサミまたはカッターだけ。

DIYキット以外に用意するものはペンと使いたいブックカバー、ハサミまたはカッターだけ。★

「昭和の学習誌の付録のような雰囲気で作りました」

小島さんデザインの説明書きとシール台紙。「昭和の学習誌の付録のような雰囲気で作りました」

5月3日には江別蔦屋書店で初めてのワークショップを開いたところ、評判は上々。20名近い参加者のうち、親子揃っての参加者も難なく完成し笑顔で完成品を持ち帰っていったという。
自宅からくすみ書房のブックカバーを持参して作った人もいて、同行撮影していたクスミエリカさんも目を輝かせてシャッターを切っていた。

書店ナビライターも江別でのワークショップに参加。

書店ナビライターも江別でのワークショップに参加。「ブックカバーは持ち込み可」とあったので松岡正剛氏プロデュースの実験的書店「松丸本舗」のブックカバーを持参した。

完成した函文庫と、左は「松丸本舗」ブックカバーをかけたままの新書。

完成した函文庫と、左は「松丸本舗」ブックカバーをかけたままの新書。並べて見ているだけで買った当時の思い出が蘇る。

ここまでの道のりに手応えを感じている発案者の前田さん。
「ブックカバーという日本独自の文化を残したくて始めたプロジェクトです。函文庫がきっかけになって、”そういえば、あそこの書店ってどんなカバーだったっけ?”と書店に足を運ぶきっかけにしてもらえたらうれしいです。ハマる人はハマってくれるのがだんだんわかってきたので、あとは裾野をいかに広げるか。カバー集めの書店営業もこれから再開します。関心がある書店さん、ぜひご連絡ください!」

「こういうDIYキットのデザインは初めて」だった小島さん。
「函文庫ほど、《書店》と《デザイン》と《ハコ》の3つが自然に一体化したプロジェクトはないと思うんです」という小島さんの言葉に、前田さんと近藤さんも深く頷いた。
「集まったカバーを見ているとブックカバーはいくらでもデザインできる表現の場だということがわかりました。”私も本屋さんを応援したい!”という気持ちも再確認できた気がします」。自身の中に生まれた発見を語ってくれた。

モリタの近藤さんも函文庫に見出したものがあるようだ。
「ハコ屋目線で言いますと、ハコが主役ではないけれど、先ほど小島さんが言ってくれたみたいにハコがないと成立しないところがとても新鮮です。ハコを媒体として使ってもらえる新しい可能性に満ちたものになる予感がします」

5月から始まったクラファンは実は目標額の20万円をすでに達成している。けれども本当の勝負は、集まった支援を初期費用にあてた後に始まる。
本格的に製品化したDIYキットを全国の書店や雑貨ショップで販売し、ワークショップも展開するといった継続的なビジネスにしていくには「これで十分」と言うことはないはずだ。

気になるリターンには紙好き・ハコ好き・DIYキット好きが喜ぶコースが豊富に揃っており、個別の参加書店や参加クリエイターに興味がある人はその店・人に特化したコースもある(完成品だけのコースもある)。
普段、私たちが当たり前のように享受しているサービス「カバーはおかけしますか?」が聞こえなくなってしまってから惜しむのでは、もう遅い。
ネットショップにはない日本独自の書店文化を、一緒に応援しませんか?

6月26日までCAMPFIREでクラウドファンディング中!★

【書店のブックカバーを残したい】 文庫サイズの「紙箱」をつくるDIYキット – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

camp-fire.jp

モリタ株式会社

www.hakop.jp

ページの先頭もどる

最近の記事