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第279回 北海道教育大学 岩見沢校 芸術スポーツビジネス専攻 スポーツマーケティング研究室 専任講師 曽田 雄志さん




5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.52 北海道教育大学 岩見沢校 芸術スポーツビジネス専攻 スポーツマーケティング研究室 専任講師 曽田 雄志さん




[本日のフルコース・アラカルト編]

取材は5月半ば。6月、「ノルディーア北海道」は2016プレナスチャレンジリーグEAST第8節で今季初勝利をあげた。

[2016.6.27]


高校・大学やコンサドーレ札幌時代のお話をうかがった前編の記事はこちらからご覧ください。








書店ナビ 「読書家ではない」と謙遜される曽田さんですが、三島由紀夫などの文豪や詩集など思索的な本にも数多く触れてきた《読書ヒストリー》に驚かされました。
さて、前編はコンサドーレ札幌の現役時代までのお話をうかがいました。そして2009年、曽田さんは現役を引退されます。31歳でした。
曽田 引退する一年前くらいからいろいろ考え始めて、そのときに気づいたのは「サッカー選手はとてもいい仕事だ」ということ。
自分が好きなことを仕事にしているし、つねに成長が求められる世界。そんな自分を応援してくださるサポーターの方々もいて、仕事の成果は収入に直結します。

そうすると現役後は、「このサッカー選手という仕事よりも楽しくて、充実感があって収入も増やせるような仕事をしたい」と考えました。引退後もずっと過去のいいときの話ばかりしている自分になるのはイヤでしたから。

それで次は”経営”に興味がわいて、海外でMBAの資格を取ろうとしていた矢先に日本中が2011年3月11日を体験し、いったんすべてが白紙状態に。被災地支援で自分ができることに集中しました。
書店ナビ 曽田さんが声をかけて集まった各競技のアスリートによる支援団体「EN project Japan」は、募金活動や被災地訪問など積極的に動いていましたね。
その後、一般社団法人アスリートバンク北海道(通称A-bank)代表理事にも就任されました。
曽田 北海道のイメージというと食や観光が先立って、スポーツがすぐにこないのは一体感がないから。「EN」でようやく横の結びつきが目に見えるようになり、周囲に賛同してくださる方々も集まってきて、A-bankという形になりました。
学校教育と並行してアスリートのセカンドキャリアを考えるA-bankでは道内の小中学校に「アスリートせんせい」を派遣して、体育授業や部活動の充実をはかっています。2015年は札幌市内で150回派遣し、今年は余市からの要請も受けて動き出しています。

スポーツのいいところであり悪いところでもあるのは、弱者をつくってしまうところ。自己実現のためにやっているはずが他者比較だけにとらわれてしまうと、「自分はやってもダメなんだ」とマイナス思考になってしまう。
そこをもっと楽しい環境をつくることで、子どもたちとスポーツの距離を縮めていきたいです。

2010年に自著『生きているから生きてゆける』(エイチエス)を出版。ライターは使わずに全ページ書き下ろし。「面白い経験でした」




曽田 A-bankが動き出した3年前のことです。北海道教育大学岩見沢校から芸術・スポーツビジネス専攻で教えないかと声をかけていただきました。
このとき周囲の方から言われたのは「基礎的な知識や教養をもう一度インプットし直した方がいい」ということ。「自分の経験だけだと言動に深みが出ない」とも言われました。

それから一気に読み始めたんです。経済学者のマックス・ウェーバーや『国富論』のアダム・スミス、”近代マーケティングの父”といわれる経営学者コトラーも読んで、資本主義の仕組みを一から学びました。
バングラデシュにあるグラミン銀行のことを読んだのもこの頃です。マイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした比較的低金利の無担保融資を始めて、ノーベル平和賞を受賞したことも知りました。
ナチス強制収容所体験を綴った『夜と霧』も読みました。世界で何が起きていたかを知ることも大事だと思って。
書店ナビ 世に言う傑作や大著ばかり。難しくなかったですか?
曽田 難しいです(笑)。一度では理解できず前のページに戻ったりしながら、とにかく読み続けました。このときの読書は自分に説得力を持たせるためのもの。でも、「部下の心をつかむなんとか」的なビジネス本はいっさい読みませんでした。
ありがたいことに自分の周りには一目置かれている経営者やリーダーの方々がいらっしゃるので、そういう話は直接ご本人たちからうかがっています。



新版 夜と霧
ヴィクトール・E・フランクル  みすず書房

著者はユダヤ人精神分析学者。悪名高いアウシュビッツとその支所に収容されるが、想像も及ばぬ苛酷な環境を生き抜き、ついに解放される。「人間」を知る世界的なロングセラー。



書店ナビ 16年1月、女子サッカーチーム「ノルディーア北海道」の球団代表に就任されました。当初は監督での就任要請だったところをを話し合いの末、現職に。曽田さんのまた新たな挑戦が始まりました。

2016年5月に公開された曽田さんによるクラブの初心表明「これからのノルディーア北海道」




曽田 実際にチームの話を聞いてみると選手個人やチーム、スタッフ、経営サイドといろいろな側面でのマネジメントが必要だということがわかってきました。
いくらドラッカーやコトラーを読んでいても、やはり目の前にいるのは一人一人違う人格を持つおとなの人間。
チームに必要な人材として俯瞰してマネジメントしていく視点と、自立した一人の人格としてフォーカスをあてる視点の両方を行き来することが重要だと考えています。
書店ナビ 曽田さんにとって息抜きの読書、たとえばマンガなどは縁がないですか?
曽田 先日、息子と本屋に行き、息子が手塚治虫の『ブッダ』が気になるみたいだったので買って帰ったら僕がハマりました。1巻の冒頭、衝撃的ですよね。息子も「哀しい本だね」と驚いてました。
最近の小説とかはあまり読まないですね。犯人探しや人間関係がどう、とかはコナンくんで十分かな、と(笑)。

自分にとって本は教材の意味が強くて、感性を高めるためや自分に説得力を持たせるための大事なもの。今後は、今まで読んできた読書経験から得られたことばの使い方が試されると感じています。
クラブ内外の信頼構築に努め、新しい未来をつくろうとしていることを北海道の皆さんに力強くアピールしていきたいです。

…なんか5冊に絞り込んだ本のフルコースにならなかったですね。すみません、アラカルト風ということで(笑)。
書店ナビ いえいえ、書いてあることをどんどん自分の中に吸収していく、豊かな栄養と味わいが詰まった曽田さん流のフルコース、ごちそうさまでした。ノルディーア北海道の活躍も応援しています!

ブッダ 第1巻
手塚治虫  潮出版社

”マンガの神様”が描くブッダの生涯。架空の人物とゴータマ・シッダルタ(ブッダ)ら実在の人物が入り乱れて物語が進んでいく。アニメ映画にもなっている。

「もう少し年を重ねたら読書自体が好きになれるといいなと思ってます」





●プロフィール
曽田雄志(そだ・ゆうし)さん
札幌市出身
ノルディーア北海道 球団代表
北海道教育大学岩見沢校 芸術・スポーツビジネス専攻 スポーツマーケティング研究室 専任講師
一般社団法人 A-bank北海道 代表理事
札幌市教育委員会「学ぶ力」推進委員


●「北海道からなでしこリーグ参入を目指す」女子サッカーチーム
ノルディーア北海道

http://www.norddea.jp/



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