[2025.11.11]

取材はプレオープン前の11月頭、「よはくの本やさん」店主の小川順子さんにお話をうかがった。
この記事が読まれるころにはすでに「札幌市中央区にシェア型書店がプレオープン!」の知らせがネット上をかけめぐっているはずだ。
2025年11月11日、市電「西15丁目駅」から徒歩5分、札幌市立二条小学校やNTT東日本札幌病院などが建つ西15丁目エリアにシェア型書店「よはくの本やさん」が誕生した。
店主は浦幌町出身の小川順子さん。農協職員やベンチャー企業の人事等の経験を経て、「人と人とのつながりが交差する場所に携わりたい」とシェア型書店開店を決意。この場所から”心の余白”が生まれるようにという願いを込めて「よはくの本やさん」と命名した。
広さ35㎡の店舗は、元ジュエリーショップ。「近くに小学校や病院があって人通りも多く、1階の路面店で公共交通機関から徒歩圏内。しかも前のオーナーさんが規模拡張のために移転することになったと聞いて、それも縁起がいいなと思って決めました」

取材時はまだ前店舗の看板が。ブルーグレーの壁と少し奥まった木彫のドアが目印。設備メーカーグッドマンと隣接している。

レイアウトは壁沿いに書棚を並べ、中央に6人程度が座れるテーブルを配置。玄関入って右側をレジスペースにした。
物件が決まると小川さんはすぐに棚づくりに着手した。1枠30cm四方の棚が縦に6段並ぶサイズで計算すると、全ての棚が埋まれば216枠という北海道のシェア型書店最大規模が完成する。
ということは制作の作業量も膨大になり、置く場所によっては1列、2列、6列と幅も異なる…というなかなかの大仕事をDIYするのは困難だと判断した小川さんは、知人の紹介で札幌市西区にある老舗工務店「やまもく」に棚制作を依頼した。

壁がコンクリ剥き出しなので棚は明るい無垢の色に。「何を置いてもなじむところも気に入っています」
「もちろんそれなりの費用はかかりましたが結果はやまもくさんにお願いして本当によかったです。2人の職人さんが手をかけてくれた丁寧かつ頑丈な大工仕事のおかげで、長く使えるものが出来上がりました。文部科学省の学校環境衛生基準を満たしている子どもたちに安全な水性塗料も使っています」
「よはくの本やさん」では、新刊・古書の本以外にアートやクラフト作品の展示販売も受け付けている。小川さん本人が昨年から洋服を自作したりアート書道を習い始め、表現の楽しさを知った経験から生まれた判断だ。
「ものづくりやアートは他の分野から受ける刺激も大切ですよね。ここでも他の棚を見て、お互いに影響を受けたりコラボしてもらえたらうれしいです」
地元十勝から職場があった江別市を経由して2022年から札幌が拠点となった小川さん。自己紹介も兼ねた棚オーナー募集のクラウドファンディング「みんなの「好き」が集まり、物語が交差するシェア型書店を札幌で開きたい!https://camp-fire.jp/projects/877356/viewを9月17日から開始した。プラットフォームは自身も支援側で使ったことがあるCAMPFIREを選択。All In型にして160万円を超える支援が集まった。
気になる料金プランは縦6段のうち上から2~4段が毎月6,600円(税込、以下同じ)、最上段と下段2段の中から選ぶと毎月5,500円の賃料で、11月頭の取材時点で45棚が埋まっているという。
現在営業中の札幌市内のシェア型書店と比較すると高めの設定だが、販売手数料や保証金はなく、店番は任意(店番による棚代の割引はなし)。
自作を展示販売できる固定した場所が欲しいクリエイターたちにとって、中央区に「自分の棚=店」が持てることのメリットは大きいが、一方でまだその存在が浸透期にあるシェア型書店は、人の流れができるまでそれなりの歳月を必要とする。
書店ナビライターも他店で棚オーナーを継続中の経験を踏まえると、基本は長期戦の構えで、まずはシェア型書店の立ち上がりに参加できるという貴重な経験を楽しむことをおすすめしたい。

すでに予約が入っている棚には予約済みの紙が貼ってある。
まだ札幌暮らしが浅く「土地勘がなくって」という小川さんにとって南4条西14丁目というこの場所は、実は嬉しい驚きも待っていた。まず近隣に大型書店やチェーン書店が一軒もない。そのこともあってか、徒歩3分の二条小学校は近隣住民も利用できる開放図書館になっており、本好きの大人も子どもも学校近くにできたシェア型書店をきっと歓迎してくれるだろう。
また徒歩5分の場所にマンションの一室で看板を掲げている予約制・閲覧専用の「私設図書館祝日」https://coubic.com/shukujitsu_libがあり、市電一駅離れた「西線6条」停留所すぐの所にお一人様専用喫茶室のある本屋「本と喫茶 NOMAD BOOKS」https://nomadbooks1901.stores.jp/がある。
前者は2025年1月18日に、後者は5月25日にオープンし、11月11日にプレオープンを迎える「よはくの本やさん」を入れるとこのエリアはまったく偶然にも今年3つの「本がある場所」が産声を上げた個性派BOOKエリアになっている。

新刊・古書、アート、クラフトの多彩な表現の場となる「よはくの本やさん」

おかあさんと小学生のお子さん2人、家族で棚オーナーになった「市電の見える本屋さん」。この場所にぴったりの店名で絵も上手!
祝日もNOMAD BOOKSもオーナーそれぞれの想いやそれを実現するための運用ルールがあり、利用者・来店者と”ともにつくる”空間だ。 12月1日にグランドオープンを控えている「よはくの本やさん」も、これから出会う棚オーナーとともにどんな空間を作り上げていくのか。今の心境を小川さんに聞いてみた。
「今は開店準備に追われ、いろいろ間に合っていないこともありますがとにかく毎日が楽しくて!現在お申し込みいただいている棚オーナーさんたちと出会えたこと自体がすでに刺激になっています。棚オーナーさんたちの想いに運営者である自分はどう応えていったらいいかを日々考えています」
根拠はないんですが、と笑いつつ「きっと楽しんでもらえる空間になるはず」と目を輝かせる小川さん。個性派BOOKエリアに生まれた新たな”余白”を誰よりも楽しんでいるようだ。
https://yohakunobi.co.jp/yohaku_no_honya.html
札幌市中央区南4条西14丁目1ー24
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