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北海道書店ナビ  第203回 特別企画 新年に読みたい名作絵本特集

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心を揺さぶる一冊との出会いは人生の宝物。書店独自のこだわりやオススメ本を参考に、さあ、書店巡りの旅に出かけてみませんか?


12月22日・29日の2週連続掲載!北海道書店ナビの年末年始スペシャルは、札幌の「ちいさなえほんや ひだまり」ご店主の青田正徳さんが選ぶ[名作絵本]をラインナップ!初心に返りたいこの時期こそ、久しぶりに絵本と向き合ってみませんか?[2014.12.15]

[youtube:http://www.youtube.com/watch?v=kebKg4chkCI]

この書店が存在することを「(札幌の)マチの豊かさのあらわれだ」とたたえた本がある。2014年4月に開店20周年を迎えた手稲区の「ちいさなえほんや ひだまり」。店主の青田正徳さんに寄せられたたくさんの祝辞のなかでも、とびきり嬉しい一言だったに違いない。
「絵本じゃありませんが、作者の長谷川さんご本人もとても素敵な方なのでぜひ紹介させてください」と最初に持ってきたのが、青田さんを取材した冒頭の一冊。2014年の秋に出版された、札幌のライター長谷川圭介さんが書いた『愛しのはんかくさい人物語』(エイチエス)だった。「はんかくさい」(北海道弁で「ばからしい」の意味)というタイトルを共有している時点で、取材する側・される側双方の信頼関係を読み取ることができる。青田さん(と他に掲載されている9人)がどれだけ“はんかくさい”かは、ぜひ本書でご確認いただきたい。


さて、北海道書店ナビの年末年始スペシャルは、その青田さんに新年におすすめの[名作絵本]セレクトをお願いした。初心に立ち返りたい新年こそ、絵本が教えてくれることはたくさんある。青田さんが胸を張っておすすめする6冊とともに希望に満ちた一年を始めたい。


ミナ・ペルホネンのデザイナーが描く新世界
長江青文・絵『ぐるぐるちゃんとふわふわちゃん』(福音館書店)
作者の長江青(ながえ・あおい)さんはベルリン在住。日本でも大人気のブランド、ミナ・ペルホネンの創立メンバーで、現在もデザイナーの一人として活動されています。2011年に子リスを主人公にした『ぐるぐるちゃん』で絵本作家デビューし、2作目の本書ではぐるぐるちゃんにうさぎのお友達ができました。デザイナーならではの大胆な雪の描写や色使いは、すでに長江さんだけの世界観を構築しており、「こんな表現は見たことがない!」と、ページをめくる度に新しい感動に包まれます。女性の作家では私がいま一番期待している新人です。皆さんもぜひ長江さんのお名前を覚えておいてくださいね!
青田さん大注目の北海道出身作家!世界も認める絵の力
きくちちき作『みんなうまれる』(アリス館)
続いて男性作家で私が惚れ込んでいる新人、きくちちきさんをご紹介します。北海道出身で、2011年に『しろねこくろねこ』でデビュー。このデビュー作で2013年、権威あるブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)で金のりんご賞を受賞しました。日本人としては酒井駒子さんに続く快挙です。4作目の『みんなうまれる』は、画家でもあるご本人の画力を惜しみなく打ち出した“いのち”の本。すべてのものに“うまれる瞬間”があることをあたたかい絵で私たちに語りかけてくれます。
“失敗”さえも愛おしい、銅版画家のフワフワワールド
樋勝朋巳文・絵『フワフワさんは けいとやさん フワフワさんのいちにち』(福音館書店)
こちらも新人ですが、初めての絵本『きょうはマラカスのひークネクネさんのいちにちー』が2014年第19回日本絵本賞大賞に輝いた版画家、樋勝朋巳(ひかつ・ともみ)さん。2014年11月に出たこの2作目では、前作で出てきたフワフワさんが主人公になりました。銅版画でしか出せない色や線のやわらかさと、なんともトボけたおかしみにあふれた不思議な世界。実は前作も本書も主人公たちがちょっとした“失敗”をするんですが、それをふわりと受け止めてくれる友達の存在がとてもいい。「あなたはあなたのままでいい」と言ってくれているようで、子どもたちにそう伝えることも大人の役目だと実感させられます。
天才が語る[私たちの命は喜びでできている]
荒井良二作『わらうほし』(学研教育出版)
荒井良二は天才です。通常の大人が決して描けない絵を描き、語ります。この最新作でも、“わらう”ことだけでストーリーができるところもすごければ、「わらうほしのわらうまちです。/まどをあけただけでわらうまちです。」という、簡単なのに幸せに満ちた語りもすごい。そして途中に待つ「あ、あめです。」の展開ときたら、もう…このページを描けることこそが天才、荒井良二の証明です。3.11以降の社会にわらうことが生きることであり、私たちの命が喜びでできていることをじわりと思い出させてくれる大傑作。荒井さんといえば、長新太に継ぐナンセンスな要素も僕は大好きで、読み聞かせや講演会にはいつも荒井作品を持っていきます。
戦火の国に絵本が差し込む希望の光
八百板洋子文・小沢さかえ絵『ほしをもったひめ セルビアのむかしばなし』(福音館書店)
『わらうほし』と一緒に、僕の《2014年のベスト3》に入るのがこちらの作品です。昔むかし、森の城に住む王様がおふれを出しました。お姫様の体にある星がどこにあるかを当てた者に国の半分と姫を譲る、と。そこに羊飼いがやってきて、自分はお姫様の花嫁衣装を作りたいと申し出ます…。この衣装の素材探しの場面では毛織物を特産とするセルビアのお国柄が垣間見え、現実社会では政治的な緊張感が続く地域ですが、物語の結末には明るい光が差し込みます。僕はどんなときでも絵本には希望を語ってほしくて、この本のように読んだ人の体温を高めてくれる絵本をこれからもおすすめしていきたいです。
いい絵本からは作者が生きた時代が立ちのぼる
ニコラ・デイビス文、ローラ・カーリン絵『やくそく』(BL出版)
僕の《2014年のベスト3》最後の作品はイギリスの絵本です。主人公がスリで、ある晩おばあさんからカバンをひったくろうとします。そのときにおばあさんと交わした“やくそく”とは…。先ほどのセルビアと同じようにイギリスもいま人種問題などさまざまな課題を抱えています。その中で皆が幸せになる方法はないのか、作者の願いに共感しました。時代を超えた普遍的なことを描くのが絵本、と思われがちですが、いい絵本からはちゃんとその作者が生きた時代や社会背景を読み取ることができます。その意味でも《2014年のベスト3》から『やくそく』をはずすことはできませんでした。

昔ばなしは先人たちの価値観を知る予防注射のようなもの



近年の読み聞かせでは日本の昔ばなしに力を入れている青田さん。「本当の『かちかち山』は残酷だから、と現代風に編纂した内容が伝わっていますが、そもそも昔ばなしとは自分たちの先人がどういう価値観を大事にしてきたか、を再確認させてくれるもの。怖い、残酷だと思われる要素も実は予防注射と同じで、“生きるための毒”のようなものなんです」。絵本の意味、面白さ、役割、作者の魅力…絵本のすべてを受け止める青田さんの〈絵本道〉は2015年も変わらず続く。インタビュー本に書かれたとおり、「ちいさなえほんや ひだまり」がある札幌でいたいーー。心の底から、そう思う。
Basic information
【  住    所  】札幌市手稲区新発寒3条4丁目3-20
【 電 話 番 号】011-695-2120
【 営 業 時 間】10:00〜19:00
【 定  休 日  】月・金・土・日・祝日のみの営業

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