北海道書店ナビ

第237回 MARUZEN 札幌北一条店




5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.14 MARUZEN 札幌北一条店 店長 佐藤 圭吾さん

海外文学好きの佐藤店長。以前の取材ではスティーヴ・ハミルトン著
『解錠師』を紹介していただいた。「あの作品もハードボイルドです」


[本日のフルコース]
残暑に勝つ!ハードボイルド・フルコース

[2015.8.24]





書店ナビ フルコースのテーマは「ハードボイルド」。海外文学がお好きな佐藤店長らしい切り口ですが、それにしても硬派なテーマです。
佐藤 私事で恐縮ですが最近家族が増えまして。実感が持ちづらい世界情勢とかに気持ちを割くよりも、家族のこと、自分の身のまわりのことに集中したいと思うようになりました。そんないまの内向き思考の自分と、目の前の事件に一直線にのめりこんでいくハードボイルドの主人公の波長が合う。個人的に「ハードボイルドの時代がきた」という気持ちで、5冊考えてみました。


[本日のフルコース]
残暑に勝つ!ハードボイルド・フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

ストリート・キッズ

ストリート・キッズ
ドン・ウィンズロウ  東京創元社

生意気な見習い探偵の話ですが、こいつは間違いなくハードボイルド青年。いまや売れっ子、ドン・ウィンズロウのデビュー作。内容はそれほどハードじゃないのでどなたにでもオススメ。名作です。







書店ナビ 主人公はニール・ケアリー。元ストリート・キッズの設定です。
佐藤 5作完結のシリーズですが、やはり1作目が一番面白い。ニールのへらず口もいいですし、ニールの才能を見込んで探偵業へと後押しする師匠のグレアムもいい味を出しています。
書店ナビ 主人公が見習い探偵のかたわら大学院に通う年齢ということは、事件の解決と平行して本人の成長も描かれるジュブナイル小説の要素もありますか?
佐藤 ええ、そのへんが大人の読者をせつなくさせるところでもありますし、文章が読みやすいので高校生も読めると思います。
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スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

愛しき者はすべて去りゆく

愛しき者はすべて去りゆく
デニス・レヘイン  角川書店

ハードボイルド探偵としてはちょっと感情が先走りし過ぎる主人公パトリックとその「女友達」アンジーのシリーズ4作目。僕はシリーズの中でこれが一番好きです。ベン・アフレック初映画監督作品。





佐藤 パトリックとアンジーは友達以上恋人未満というか、くっついたり離れたりを繰り返す、仕事上は“バディ”の関係です。本作では子どもの行方不明事件が続き、二人の関係も事件の方針をめぐってモメることに…。
ラストは人によって受け止め方が違うはず。特にお子さんがいる方にはぜひ読んでほしいですね。
書店ナビ これを原作としたベン・アフレック初監督作、ベンの弟ケイシー・アフレック主演の『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(原作タイトルが“Gone,Baby,Gone”)はご覧になりましたか?
佐藤 観ました。ケイシー・アフレックがよかったと思います。ハードボイルドにはいくつかの定義があると言われていて、「一人称であること」のほかに「主人公が淡々としていて気持ちを表に出さない」というのがあるんですが、このパトリックは結構感情的。
かえってアンジーのほうが男らしいくらいなので、そんな優男ぶりがケイシーはハマってました。


「パトリック&アンジーシリーズは2010年に
最終巻の『ムーンライト・マイル』が出ました。全6作です」



魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

星の王子さま オリジナル版

血と暴力の国
コーマック・マッカーシー  扶桑社

殺し屋史上もっともおかしな道具を使う「シュガー」。彼と彼に追われる者、彼を追う者の物語。会話文に「 」を使わないという独特の手法のせいで、ページを開くと白身魚のようにあっさりとして見えますが、読めば半端ない脂感。これも映画原作。





書店ナビ 会話文に「 」を使わない? 斬新というか読みづらくないですか?
佐藤 確かに著者から挑戦されてる感はありますが、「読んでやろうじゃないか」くらいの気概があれば大丈夫です。殺し屋のシュガーが、映画ではシガーになっていましたが、とにかく不気味で容赦がない。その不気味さに取り憑かれたように先を急いで読んでしまいます。
書店ナビ 映画化はコーエン兄弟が監督した『ノーカントリー』。殺し屋を演じたハビエル・バルデムは滑稽なおかっぱ頭と強烈な演技で観客の心を鷲掴みにし、アカデミー賞助演男優賞に輝きました。
原作ではシュガーがどう描かれているのか、興味がわいてきました。


肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

酔いどれの誇り)

酔いどれの誇り
ジェイムズ・クラムリー  早川書房

少ないながらも著書が全部傑作、故クラムリーの2作目。全てのページから安い酒とたばこと暴力の香りが匂い出すコッテリハードボイルド。アーチャーやマーロウよりは洗練されていないが、彼らより優しい男に感じるのは、より多くの地獄を見てきたから。実は本があまり書店に置いてないところが一番ハード。










書店ナビ 書店に置いてないところが一番ハード、とは絶版ですか?
佐藤 いえ、絶版ではないんですが“品切重版未定”の状態で、僕自身、札幌市内の書店でクラムリーが全作揃っている棚は見たことがありません。紹介しておいて恐縮ですが、もし書店で見つからない場合は図書館もしくはネットで探すのが現実的だと思います。
クラムリーには本書の私立探偵ミロシリーズのほかに私立探偵スルーシリーズがあり、どちらも似たようなダメ人間ですが、この二人がクロスオーバーする作品もあります。
書店ナビ ハードボイルドといえば、酒やクスリのイメージがあります。
佐藤 このミロもほぼ毎ページ酒を飲んでますし、犯人を追う気合いをいれるためにコカインを打ったりします。
書店ナビ取材班A うわー、アル中でクスリ漬け。最低だ。
佐藤 でも快楽のためじゃないんです。酔って正体をなくすことはないし、コカインも次の行動に必要だから打つ。絶対友達にはなれないタイプ(笑)。それでも魅力があるのがハードボイルドの主人公です。

「日本ではチャンドラーの書く探偵のイメージが強すぎますが、
それだけではないというところをもっと知ってほしいです」


デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

虐殺器官

虐殺器官
伊藤計劃  早川書房

はい有名作品。近未来SFでアニメ映画化されます。しかし子ども向けと侮るなかれ。酒と女は少ないし、テーマや描写はハードボイルドのそれとは違いますが、主人公は紛う方なきハードボイルド兵士。エンターテインメント性も高くてスイスイ読めます。





書店ナビ 著者の伊藤計劃さんは長編小説『虐殺器官』と『ハーモニー』のわずか2冊を遺し、34歳の若さで病没したSF作家。
冒頭30枚だけが遺された『屍者の帝国』は盟友である円城塔氏によって完成され、この3作のアニメ化が「Poject Itoh」というプロジェクトのもと、進行中。2015年10月から『屍者の帝国』、11月から『虐殺器官』、そして12月に『ハーモニー』と3カ月連続公開が決まっています。
佐藤 この『虐殺器官』の設定は近未来ですが、テロ事件や民族紛争が過激化している現在の世界情勢を考えると「あながちそう遠くの未来でもないな」と思えてきます。
主人公は米軍特殊部隊のクラヴィス・シェパード大尉。若者らしいやる気のなさをまといつつ、一連のテロ行為の背後にいるジョン・ポールなる男を追いつめていきます。
ロボットも出てきませんしマトリックス的な世界でもないので、SFが苦手という方でも大丈夫。若干のオタク臭がいいスパイスになっています。

ごちそうさまトーク 日本では「社会派」に姿を変えて


書店ナビ ハードボイルドの読み手、もっと増えてくれるといいですね。
佐藤 本に限らず映像作品においても日本ではチャンドラーやマーロウの影響が強くて、日本流ハードボイルドといえば“松田優作的な世界”が一番想像しやすいところでしょうか。
ではなぜ日本ではハードボイルドというジャンルが広がりづらいのかを突き詰めて考えていくと、結局は「銃社会」がキーワードなのかなと思います。
あるいは日本におけるハードボイルドは「社会派」や「クライムサスペンス」に組み込まれたりして、欧米とは違う形で棚に並んでいるような気がします。
書店ナビ なるほど、鋭い分析に膝を打つ思いです。家族を守るおとうさんであり、心はハードボイルドな佐藤さんが選んでくれたフルコース、ごちそうさまでした!








2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんにお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。

《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。

読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。

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