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第615回 注目商品紹介 石田製本研究所「世界の装幀プレミアムBOX」

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各国由来の上製本サンプルが詰まった「世界の装幀プレミアムBOX」は2025年1月から販売開始。製本職人が1冊1冊手作業で仕上げた。

[注目商品紹介]
製本業の未来を託して札幌の製本職人が2年がかりで完成
石田製本研究所「世界の装幀プレミアムBOX」好評発売中!

[2025.2.14]

ハードカバーの文具「bocoo」や自費出版印刷「CRAFT ZINE」を展開

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2021年10月に大通り地下街で展開したboocoダイアリーのウインドウディスプレイ。完成を見つめる背中は石田製本の吉田幸宏さん。

札幌で1936(昭和11)年に創業した石田製本株式会社は、上製本(じょうせいほん)といわれるハードカバーを得意としている。
本文より硬い厚紙の表紙を使うからhard coverであり、対するソフトカバーの並製本は柔らかい表紙を使う。週刊誌や文庫、新書でおなじみの製本だ。

上製本は厚紙系の表紙で本文をくるみこむため耐久性に優れ、長期保存に適している。ページ数が厚く、高級感を出したいあるいはブックデザインに凝りたいときなどにはやはり上製本が好まれる。
この上製本の技術と2010年に導入したオンデマンド印刷機を使って、石田製本は同年から卒園アルバムを少部数から注文できるWEBサービスを開始。自社で直接仕事を取るという攻めの姿勢を打ち出した。

2020年には自社初の文具ブランド「booco」(ボッコ)から「本みたいなノート」を発表。表紙裏の角に至るまで仕上げが美しく、通常は4、5mm出る本紙と表紙の段差(業界用語で「チリ」という)をギリギリまで詰めた職人仕事が高く評価され、一躍文具業界に名乗りをあげた。

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2021年秋の街頭ディスプレイ制作風景。什器に1冊ずつダイアリーの実物を貼り付けたレイアウトで地下街を歩く人々の衆目を集めた。

2023年4月には自費出版市場にも進出し、「本棚に並べても絵になるような一冊を」とうたう少部数対応の印刷製本サービス「CRAFT ZINE」を立ち上げた。書店ナビでも詳しく紹介している。

石田製本の新サービス「CRAFT ZINE」の魅力と個性豊かなZINEの世界 – 5冊で「いただきます!」フルコース本 北海道書店ナビ

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本や紙媒体の発行とともに売上を作ってきた製本業界は、いまや「待ち」が許されない状況だ。かといって攻めの一手をどう繰り出したらいいのか。価格競争が唯一の解なのか。
その問いかけに対する石田製本の答えが、今年1月に発売された「世界の装幀プレミアムBOX」の中に入っているのでないか。企画者である吉田幸宏取締役部長にお話をうかがった。

創業90年を前に製本職人と「かっこいい仕事がしたい!」

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書店ナビライターも購入した「世界の装幀プレミアムBOX」。表紙イラストは吉田さんが描き下ろしたという。

書店ナビ2025年1月の販売以来、売上はいかがですか。

吉田おかげで60箱くらい出ています。ご注文は道内と道外が半々くらい。主に製本業界や文具業界関係者、クリエイターの方々にお買い上げいただいています。
なかには「教材にしたいので各営業所に送ってほしい」というご要望もあり、こちらの狙いどおりに受け入れていただいてうれしいかぎりです。

書店ナビ「世界の装幀プレミアムBOX」は発行元が石田製本研究所となっています。この研究所は御社の中でどういう位置付けでしょうか。

石田製本研究所

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吉田2022年に活動を始めた当初は同好会的な集まりでした。当時boocoのシリーズ展開やOEMのご相談が活発になってきた時期でしたが、どうしても動くのは中堅社員で、入社数年目の若手が中心になれる場所がなかった。

何かものづくりの楽しさを共有できる場があればいいなと思い、若手に「社内にある残紙を使って自由に製本サンプルを作ってみて」と声をかけ、作りためてもらったものを一つの箱に入れて「石田製本研究所BOX」として売り出した。それがSNSの告知だけで2週間で100箱完売したんです。

書店ナビ製本サンプルの詰め合わせにそんなに需要があったんですね。

吉田ビックリしました。そのときに「製本っていろんな種類があるんですね」とか「他の製本も見てみたい」「同じ業界にいて、こういう教材的なものが欲しい」などの声をいただき、そこから世界の装幀プレミアムBOXのアイデアが生まれました。

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和綴じやコデックス装、フランス装、スイス装など8種類の装幀サンプルと三大特典がセットで11,500円(税込)。限定100箱を石田製本研究所サイトで販売中。

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大福帳まで入ってる!と思ったら中身は商品解説というアイデアもいい。

吉田実はそれと並行してもう一つ、僕のわがままというか思いつきがありまして。当社の工場に長年勤めている製本職人の佐々木祐二さん、皆「ゆうじさん」と呼んでいますが、彼の技術が社内の贔屓目を抜きにしても本当にすばらしいんです。
ゆうじさんは今60代後半ですから、引退する前に「一緒にかっこいい仕事をしようよ!」とくどいて、このプロジェクトに参加してもらいました。
各国の製本事情を調べたり素材選びは僕がやりましたが、僕の希望どおりのサンプルをゆうじさんが通常業務とは別にコツコツと1冊ずつ手作業で仕上げていってくれた。そうして2年の歳月をかけて出来上がったのが、この世界の装幀プレミアムBOXなんです。

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右から製本職人の佐々木祐二さんと吉田さん(画像提供:石田製本)

吉田若手にとってもBOX発売にあたり石田製本研究所のサイトに手を入れたり発送作業をしながら、自分たちが売上を立てて会社に貢献しているという実感を持ってもらえる場になりました。
いきなり「世界の装幀BOXをやりたい!」と言っても普通はできないですよね。ゆうじさんという職人の存在と若手が続けてきてくれた研究所の下地があったからできた。そう思います。

福本や箔押し見本帳などの新商品も製本が土台にあればこそ

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開きやすさや強度など用途に応じて様々な製本技法が生まれてきた。

書店ナビBOXの三大特典には、本来は製本ミスである断ち残し、通称「福紙」を意図的に盛り込んだ「福本」や可愛らしくて実用的な箔押し見本張など、吉田さんのアイデアが詰まった商品が入っています。

吉田福本は各国の装幀について調べているうちに思いつきました。これは面白い!と勢いにまかせて作ったところ、宝くじ売り場を経営されている企業さんから「売り場に置きたい」とご注文いただき、OEMの副本が今年4月以降に東京宝くじ売り場で販売決定です。まさに「こうなったらいいな」と思っていた夢のような展開です。

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ページの角が内側に折れ込んだまま裁断することで残ってしまった部分を製本業界では「福紙」と読んでいる(画像左、ライター私物)。その三角形のカタチが恵比寿様の頭巾に似ていることから「えびす紙」とも言われ、「福本」はそこを売りにしたノートブック。1冊に数カ所、福紙をわざと残している。

吉田箔押し見本張も前々から当社とおつきあいのあるデザイナーさんたちが「今普及している見本帳より使い勝手がいいものがあったら」と言っていたことを思い出し、それを形にしました。今は少し仕様を変えた第二弾を製作中です」

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人気イラストレーター高旗将雄さんが描いたクマのイラストで印刷仕上がりをリアルにイメージできる箔押し見本張。

書店ナビお話を聞けば聞くほど吉田さんの自由な発想と行動力に驚かされますが、石田製本さんは現在どのように売上を作っておられますか。

吉田印刷会社から製本依頼を受けて何百、何千部も製本するという案件は、全盛期の半数以下になりました。そこを埋めてくれたのがBto Cである卒園アルバムやいしだえほん、CRAFT ZINEのお客様です。早くからオンデマンドを導入し、少部数対応ができるようになったことも大きかったと思います。

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作品集やブランドブックなど多様なハードカバーzineを生み出したCRAFT ZINE。

吉田文具ブランド「bocoo」を立ち上げたときも同じ気持ちでしたが、これからは自分たちで仕事を作っていく。そうでなければ製本業の継続は相当厳しいと思います。
ただ、当社の場合、何をしても製本が土台にあってこそのサービスです。そこは今後も変わりませんし、製本会社だからこそ今回のBOXや福本みたいな遊んだ企画も形にできる。
まだまだ知られていない装幀や製本の魅力をいろんな形で知ってもらいたいですね。

書店ナビ本を取り巻く状況が変わる今、元気が出てくるお話です。

吉田これを言ったら笑われるかもしれませんが、僕なんかはまだ紙の可能性をすごく信じてるんですよ。
もっと言うと、フレーズ好きな自分としては最近よく「僕らは製造業だけども同時に感動業なんだ」と言って歩いています。
本が出来上がったときに「こんなに立派な本を作ってもらって」とか「作ってよかった!」とお客様が感動してくださる姿を見て、ぼくたちも成長していく。お客様と直接接する営業職だけじゃなくて、社内の皆にそう思ってもらえるように発信し続けたいと思っています。

今年は「bocoo」が5周年です。記念企画も考えていますので世界の装幀プレミアムBOX同様、楽しみにしていてくださいね!

石田製本研究所

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