[2020.12.28]
2020年の北海道書店ナビのアクセスランキングトップは、新型コロナの影響による北海道緊急事態宣言下に始まった短期連載企画「いま、あなたとシェアしたい この本を このことばを」でした。
第466回 いま、あなたとシェアしたい この本を このことばを
思いも寄らない事態になったときにでも、本の力に助けられることがあるのではないか。そう思い、3週にわたって30人30冊の選書をご紹介したところ、SNSでも多数シェアしていただき、ありがとうございました。
2020年という特別な一年の締めくくりは、この「今年の一冊」企画の流れをくみ北海道の読書人10人が選ぶ「今年の一冊」をお届けします。
ブックコーディネーターや出版社、書店員、作家のほかに彫刻家やプロデューサーなど北海道各地で活躍する読書人の方々にご協力いただきました。
この場を借りて、心より御礼申し上げます。
[選者]
「えべつセカンドプロジェクト」のBrick radioでも活躍中!江別蔦屋書店の三ツ井瑞恵さん
[今年の一冊]
[推薦のことば]
今年はコロナ禍の影響で困った状況に陥ってしまったり、不安になったり、「この世に神様なんていないんじゃないか?」と思わず恨み言をいいたくなるような一年でした。
その中で私にとってパワースポットのような心の拠り所になった一冊が、神様が集う短編集『すべての神様の十月』です。
死神、貧乏神、 疫病神……人に災いをもたらすと嫌われている神様も、実は人間を幸せにするために存在しているらしいです。
「絶望しても、どん底に落ちても、人間という生き物はそこから這い上がる力を持っている。生きる力を持つ。それを、ほんの少し手助けするために私たち神様はいる。この国にたくさん。」
もしかすると皆さんの隣にいる人も、本当は神様なのかもしれません。
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「えべつセカンドプロジェクト」Brick Radioには小路幸也先生や桜木紫乃先生も登場!
EBETSU SECOND PROJECT|えべつセカンドプロジェクト | えべつセカンドプロジェクトは大好きな江別をぼくたちになりに表現するプロジェクトです
[選者]
2013年に創業した旭川の出版社ミツイパブリッシング編集者の中野葉子さん
[今年の一冊]
[推薦のことば]
当別町のスウェーデン交流センターに2019年まで勤務していた著者が、日本の読者向けに書きおろした一冊。
スウェーデンではゲイやレズビアンであることはもはや特筆すべきことではなく、結婚はもちろん子どもをもつための法整備もあり、職場などにも差別禁止法があって若い世代には社会的な差別を感じたことがない当事者もいるそうです。
その背景にあるのは、マイノリティも「自分に正直に、オープンに生きる」ことを求めることが許容される社会。
マジョリティであっても正直だったりオープンであることがあんまりよいこととされていないらしい社会(日本のこと)で生きてきた者にとっては、今年最大の驚きと発見があった本でした。
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書店で本に出会う喜びをご存じの方、ご一読いただけましたらうれしいです。
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「商品・サービスの税込表示義務をなくし、価格表示を自由化する法改正を求めます!」
キャンペーン ・ 商品・サービスの税込表示義務をなくし、価格表示を自由化する法改正を求めます! ・ Change.org
[選者]
2020年はオンラインの北海道ブックフェスを開いたブックコーディネーターの尾崎実帆子さん
[今年の一冊]
[推薦のことば]
アメリカの作家バリー・ユアグローが今年4月から5月にかけて、新型コロナウイルスのため都市封鎖されたニューヨークで執筆した超短編の寓話が12篇。
得体の知れない疫病に対する恐怖、価値観の転換、情報の錯綜、日常のはかなさ、人間関係や空気感の変化などが、鏡や鯨、猿や水たまりなどさまざまなモチーフで描かれる。 気づいたらあまり呼吸をしていない感覚に陥りながら一気に読み終え、ほうっと息を吐いた。 その後たびたび本作を開いては目に留まった篇を読んでいる。2020年の“特殊な空気”を閉じ込めたこの本をこれからも私は手に取るだろう。データでも解説でもなく、解釈でも感情の吐露でもないこんな「物語」が、色褪せず残っていくような気がする。
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「北海道ブックフェス」に参加してみたいという方、お気軽にお問い合わせください!
[選者]
ひっくり返しながら読む著書『ぐるり』が新カバーに更新!北海道在住の作家・島崎町さん
[今年の一冊]
[推薦のことば]
折にふれ、ふと読み返したくなる本。というのがあって、きっとこれもそうなるだろうと思ってる。
海外のすばらしいマンガをクラウドファンディングで出版する企画の第1弾。フランス人が描いたギリシャのマンガ、しかもトルコ移民の音楽「レベティコ」を奏でる音楽家たちが主役。全然なじみがない!と思われるかもしれないけど、読めばわかるこの面白さ。「ここではないどこか」であると同時に、「いまここ」の物語だ。
1936年、独裁政権下で抑圧されながらも、ひょうひょうと抵抗し、たくましく自由を謳歌する、はぐれものの音楽家たち。暑い日差しを避け、夜の闇に生きる彼らの長い一日。その旅の終着点は、ちょっとだけ苦く、深い味わいを残す。
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小説『ぐるりと』のカバーイラスト募集コンテスト、結果ページはこちら!
小説『ぐるりと』カバーイラスト募集コンテスト 結果発表 | コンテスト – アートストリート(ART street) by MediBang
[選者]
選書もできる北海道大樹町の地域おこし協力隊・長谷川彩さん
[今年の一冊]
[推薦のことば]
今年は特別な1年だった。人の生き死にについてよく考えた。新型コロナの影響で、自ら命を絶つ人も増えているという。そんな理不尽なことがあるか。しかし、「死にたい」と思うのは悪いことなのだろうか。
――「死」は、どれだけ頑張ってもうまくいかない人に最後に残された、これだけは自分の手でなんとかできること。それが、自分の命を自由にする、コントロールするということ。
精神科医のことばが響く。
だとすれば私は、あなたが自ら死を選んだとしても、その選択を尊重したい。でも、だとしても、やっぱり悲しすぎるから。あなたに生きていてほしい。本とは、人にそっと寄り添ってくれるもの。自分にとってお守りになる一節がきっと見つかるはず。
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大樹町への移住体験記も読める長谷川さんのnoteはこちら!
[選者]
JRタワーアートボックスで『場の彫刻』を展示中!苫小牧在住の彫刻家・藤沢レオさん
[今年の一冊]
[推薦のことば]
暇ができたら好きなことをしたい!
と思いつつ、今年多くの方がいつもと違う時間を過ごしたのではないでしょうか。
暇を謳歌した人は、きっと好きなことがはっきりしているのかもしれません。
暇をつぶした人は、きっと退屈だったかもしれません。
アーツ・アンド・クラフツ運動を提唱したウィリアム・モリスは当時現実的に起こり得た社会主義革命の到来後にやってくる自由と暇を手に入れた生活を「どう飾るか。」と考えました。
暇は豊かさの象徴であるはずなのに、その豊かな生活を目指しているはずなのに、ついつい暇を持て余す現代人。
暇のあり方を考えることは、これから先の日常に向き合うこと。
充実した暇を過ごせますように。
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藤沢さんの活動「樽前arty+」はこちら!
[選者]
コロナ対策を考える「しくみ」プロジェクトを立ち上げた札幌のプロデューサー・山岸正美さん
[今年の一冊]
[推薦のことば]
生物の生態系の変化を通して、人類が直面するいろいろな問題を取り上げ、警鐘を鳴らしている。
第1章「性のしくみ」ではメスに対してオスは悲しい生き物であるという事を、第2章「生物学からみる人間社会」では長い歴史の中で人間は滅びる確率が高い動物であると知る。
第3章「遺伝」、第4章「遺伝子優生論」では、優秀な遺伝子のみ残していくと急激な環境の変化に適応できなくなり、しまいには滅亡に繋がることを説き、第5章「生物の多様性」、第6章「生物学と未来」で語られるのは、かつてないペースで生物種が消える大絶滅時代になっている事実。
それは今を生きる我々に残された道、新型コロナウイルスによって人類が「分断」の道を選ばず「連帯と協同」を目指すヒントにもつながっている。
ともすると硬い内容になりがちですが読みやすく、分かりやすい。
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「しくみ」プロジェクトって何?という方はただいま展示中!「しくみ」のしくみ展at ICCをご覧ください。
[選者]
北海道書店ナビ取材班撮影&WEB担当・麻生悠木
[今年の一冊]
[推薦のことば]
人と人との繋がり方が見直された2020年。北海道書店ナビでもオンライン取材をおこなった。はじめての経験でリアル取材とは違う感覚だったが、無事に遂行できた。その裏で気持ちを持って行動してくれた人がいたからだ。
この本は75歳の女性と17歳の女性が主人公だ。2人は親子以上に年齢が離れているが友人関係にある。
最初はちょっと不思議な関係だと思っていたが、話を読み進めていくとお互いがお互いのことを想い、行動する友人同士だと認識できるようになる。
不思議な関係と思ったのは年齢差が原因だろう。今後、人と人との繋がり方がどんどん変化していけば、こんな関係は当たり前のことになるのかもしれない。
コミックスがもうすぐ完結する。早く読みてぇーーー!!!
[選者]
北海道書店ナビ取材班インタビュー担当・佐藤優子
[今年の一冊]
[推薦のことば]
2020年12月上旬に出たばかり。朝日新聞の名物・名文記者であり、大分県で猟師をしている著者の書き下ろし。副題は「〈善く、生きる〉ための文章塾」。よく書くための指南書です。
ドキリとするタイトルは猟になぞらえたもの。初心者は一羽の鴨を獲るのに25発かかるところを、この本の読者は「3行で撃つ」技巧を学びます。
ほんの一部を引用すると「文章は短くする」「形容詞と被形容詞はなるべく近づける」「一つの文に、主語と述語はひとつずつ」。
「うまい文章を書く人は、人に対して、世界に対して謙虚です」
一行一行が突き刺さります。でも全てがリセットされた2020年にこの本と出会えたのだから、体幹から鍛えなおして新年にのぞみます。
[選者]
「北海道書店ナビ」運営会社コア・アソシエイツ代表の麻生榮一
[今年の一冊]
[推薦のことば]
どうも「植本一子病」に感染したような2020年。ミシマ社発行の「ちゃぶ台」の中でエッセイ「言葉をもらう」を読んだのが始まりであった。
主人公の心の高ぶりと冷静に自分を見つめながら彼との別れを描いた連載は、映画を観ているかのように進行する。映像は魔物のように私を裏切っていく。彼女はカメラマンでもあった。
本書『かなわない』は、二人の子供と夫との人間関係をありのままに書いている。怒り、喜びといった素直な心情や届かない気持ちのもどかしさや葛藤を絵の具にして、日常というキャンパスを1枚1枚描いていく。結末の無い生活は、日めくりのような「いま」が続く。日記スタイルのエッセイが波のよう大きくうねり、そして静かに凪いでいく。
この病気としばらく付き合おうと思っています。
2020年も北海道書店ナビをご愛顧いただき、ありがとうございました。
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