利尻島で書店を営む佐藤悟さん。妻の春美さんがデザインしたオリジナルの手ぬぐいを持って。画像協力:利尻町まちづくり政策課長佐藤弘人さん
[2020.9.28]
今回の北海道書店ナビは利尻町役場のご協力をいただいて、札幌からオンライン取材を実施。
書店ナビが初めて取り上げる”島の本屋さん”、利尻島の本庫屋書店さんにご登場いただいた。(Zoom取材のセッティングおよび撮影は利尻町まちづくり政策課長佐藤弘人さんにご尽力いただきました。ありがとうございました!)。
北海道最北のまち、稚内市の港からフェリーに乗って鴛泊(おしどまり)港まで約100分。西方約53kmの日本海に面積約182平方kmの利尻島がある。
島は西側半分を占める利尻町と東側の利尻富士町からなり、公式発表の人口を見てみると前者は2000人を切っており(令和2年7月末現在)、後者は2400人強(令和2年8月末現在)。島全体に2200強の世帯が住んでいる。
稚内・利尻間を結ぶフェリーは9月現在、往復3便(新型コロナや天候の影響で2便のときも)。島に必要な生活用品も朝イチ便のフェリーに乗って8時25分にやってくる。
利尻昆布で知られる天然の良港におろされた積み荷を、フェリーが来ない月曜日をのぞいて毎日心待ちにしている書店主がいる。それが島の本屋さん、本庫屋書店の佐藤悟さんだ。島の本屋は現在、利尻富士町と利尻町にそれぞれ1件ずつ。鴛泊フェリーターミナルの近くにブックブラザ川端があり、本庫屋書店は利尻町側。沓形岬のふもとに店をかまえている。
島には東北からの入植者が多く、名詞のあとに親しみをこめて「~っこ」とつける呼び方が定着。そこからヒントを得た佐藤さんが「本庫屋書店」と命名した。「それに佐藤書店にすると、よくある名前ですから流通の途中で荷物が迷子になっちゃうかなと(笑)」 画像協力:本庫屋書店
「私たちの前に本屋と新聞配達をやっていた伊藤書店というお店があったんです。そこの経営者ご夫婦が高齢を理由に島を離れることになり、私たちが引き継ぐ形で平成6(1994)年から今の店を始めました」
島生まれ・島育ちの佐藤さんは、以前はバスの運転手。接客やサービス業が好きで、いつか自分で店をやれたらという思いもあったという。
伊藤書店の閉店を知り、「島に本屋さんがなくなったら皆が困るだろうから」と一念発起し、売りに出ていた店を買い取った。
小学校教員だった妻の春美さんも開業1年後に学校を辞めて、ともに本屋に専念することに。「皆が気軽に立ち寄れる場所」を目標に、四半世紀経った今もふたりで仲良く店を切り盛りしている。
島の学校は利尻町に小学校2校、中学校1校、高校1校。利尻富士町に小学校2校、中学校2校。店では教科書販売を行い、学習参考書や辞典も充実させている。
雑誌や書籍、コミックのほか文具やゲームなどのおもちゃも取り扱う。道内誌は札幌と同日発売だが、少年ジャンプなどの全国誌は札幌から1日遅れになる。
佐藤さんがエプロンにつけていたキャラクターは春美さんがデザインしたオリジナルマスコットの「リッキーくん」。利尻昆布と同じ漆黒で、利尻島のとんがり頭に雲のはちまきを巻いている。昆布パワーで力こ(ん)ぶを作っているところにも注目! 画像協力:本庫屋書店
こちらも春美さんがデザインした本庫屋書店オリジナルのブックカバー。2016年9月に刊行された書皮友好協会監修『日本のブックカバー』(グラフィック社)にも掲載されている。
店にはお客様が作ってくれた切り絵が飾られている。
営業時間は朝9時から夜9時まで(新型コロナ対策で現在は夜8時まで)。伊藤書店時代に新聞と一緒に届けていた客注本の配達も、佐藤さんたちがそのまま引き継いでいる。
「ほぼ毎日、一冊からでも」届けてまわる数は毎週約20~30件。
「島も高齢化が進んでいますから”店に行かれないんで届けてほしい”とか、フェリーの欠航が続くと新聞が何日も届かないので”テレビジョンがほしい”とかね」。
そうした事情を察して電話口でこちらから「配達しますか?」と声をかけることもあるという。
佐藤さんが午前中配達に出ている間、店は春美さんに任せておけば安心だ。
子どもたちが500円分買える商店街のスタンプカードを持ってコミックやジャンプを買いにくるときは、おつりがでない分10円ガムやキャンデーなどの駄菓子を選ぶようにうながしている。
そういう小さな思い出を子どもたちは案外忘れないものだ。将来もし島を離れたときも、島の思い出のなかに本庫屋書店に通った日々がそっと立ちのぼってくるのではないだろうか。
新型コロナによる影響は、利尻島にも及んでいる。北海道の緊急事態宣言を受けて、学校が休みの間は学習参考書やドリルが例年になく売れたという。
自粛中に大ヒットしたNintendo Switch「あつまれどうぶつの森」は、利尻島でも大人気。もとは攻略本のみを置いていたが、コロナを機に本体やソフトも多めに仕入れたところ、「札幌やネットでも売り切れなのに本庫屋さんに来たらなんでも揃っている!」と驚かれたという話もある。
自粛営業で閉店時間は早まったが、「元旦を除いて休日なし」は変わらない。
「店を閉めてからも電話がかかってきて”うちのコがこんな時間になって、明日学校に持って行くノートが必要だって言うんだわ。悪いけど今から買いに行ってもいい?”なんて言われると、”いいよ、いいよ”って答えちゃいますね」。
買えなかったときの子どもの泣き顔も浮かぶのだろう。もう一度店の明かりをつけに行く。
変わらないことがある一方で、新しく始めたこともある。本庫屋書店は2020年1月に小学館が立ち上げた「御書印プロジェクト」に参加中だ。
このプロジェクトは神社仏閣参拝の記念に集める御朱印にならって「御書印」を作成し、リアル書店への来店をうながす試みとして始まったもの。
参加書店には主催者から御書印帖が配布され、来店者はそれを入手し(開始当初に配布分は無料、なくなり次第有料)、店に「御書印をください」と声をかけてはんこを押してもらう(御書印代200円と御書印帖代はその店の収入になる)。
本庫屋書店の御書印はもちろんリッキーくんが主役。各書店が好きに選んで添える一筆は、利尻島が登場する吉村昭著『海の祭礼』を選択。版元の文藝春秋から許可を得て引用している。
2020年3月からスタートした御書印プロジェクトの第一次参加店は46店舗。本庫屋書店は第二次参加書店に応募し、登録番号は48番。9月現在、137店舗が参加している。
うち北海道の加盟店は札幌弘栄堂書店パセオ西店(登録番号1番!)、江別蔦屋書店、そして本庫屋書店の3店舗のみ。
第二次参加店も6月8日からサービスを開始したところ、早速この御書印だけを目的に札幌から車を飛ばして朝イチのフェリーで島に渡り、本庫屋書店を訪れた男性がいたという。
「この店で一番最初のはんこをもらいたかったと言って来てくださったんですが、実は申し訳ないことに二番目だったんです(笑)。その前に観光でいらしたご夫婦が御書印参加のポスターを見て興味を持ってくださって、当店の第一号になりました」
「札幌からいらした方は残念がっていましたが、うちの近所にあるラーメン屋『味楽』で腹ごしらえをして帰って行かれました」
「北海道の参加店がもうちょっと増えて、本屋さん同士の横のつながりが増えたらうれしい」という佐藤さん。おいしい海の幸と豊かな自然が人々を魅了する利尻観光の新しいコンテンツに、地元書店の御書印という新たな切り口が加わった。
こうした新しい試みに佐藤さんが積極的に参加するのも、店を続けていきたいという切実な思いがあればこそだ。
海風が通り抜ける利尻島では今日も朝から、島のみんなが頼みとする本屋さんが配達に回っている。
島の旅館・民宿を応援する「利尻応援プラン」は、夕食クーポン券4000円と島人おすすめの体験施設で使える体験クーポン券1,000円付きのお得プラン。宿食のかわりに近隣の飲食店を使うことで新型コロナ対策や宿の人材不足も同時に解決。宿泊期間が令和3年3月15日までのプランなのでお見逃しなく!(補助金予算が上限に達し次第販売終了)
利尻観光の要のひとつである利尻島登山道の整備は、島にとって重要課題。利尻山登山道等維持管理連絡協議会は「コマドリプロジェクト応援手ぬぐい」を販売し、その収益を利尻山の山岳保全にあてるという。山の「コマった」を「トリ除き」これからも安心して登れる山を目指すための応援手ぬぐいは、町役場や利尻富士町観光案内所、キャンプ場で販売するほか郵送にも対応。詳細は利尻富士町事務局(電話0163-82-1114)または利尻町事務局(電話0163-84-2345)まで。
住所 北海道利尻郡利尻町沓形字緑町8
電話 0163-84-3280
営業 9:00~21:00 無休
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