5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.42 のこたべ 代表 平島 美紀江さん
コープさっぽろ広報誌「ちょこっと」の編集長も兼任する平島さん。2児のおかあさんでもある。
[2016.3.28]
書店ナビ | 「残さず食べる、食べるを残す。」をモットーに、生産者と生活者をつなぐデザインに取り組む合同会社「のこたべ」代表の平島さんは、食育活動のプロフェッショナル。 2015年からは食育&人材育成プログラム「アニマドーレ」にも力を注いでいます。 |
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のこたべではコープさっぽろの広報誌「ちょこっと」の制作も手がけている。毎号おいしそうな表紙が目印の「ちょこっと」はコープさっぽろ全店または宅配システムトドックにて無料配布中!
平島 | 食育の先進国イタリアには「アニマトーレ」(ANIMATORE)と呼ばれる食育の専門家がいて、子どもたちに食の生産・加工現場を楽しく紹介する活動が浸透しています。 食料生産地である北海道ですらも子どもたちと農家さんとの距離が遠いいま、その距離を縮めて食の大切さを教えてくれるアニマトーレのようなプロを育てたいと思い、元コンサドーレ札幌の曽田さんたちと一緒に2015年にこの活動を立ち上げました。 「アニマドーレ」(ANIMADORE)の「DO」は、HOKKAIDOの「DO」。「行動に移す」という意味の動詞「DO」の意味もこめています。 |
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書店ナビ | 今回のフルコースづくりにあたって平島さんの頭には真っ先に、ある一冊の本が浮かんだとうかがっています。その本の正体を楽しみに、早速フルコースを見てまいりましょう! |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
新装版 夏子の酒
尾瀬あきら 講談社
主人公夏子が理想の日本酒づくりをしていく物語。「あきらめない」という意志の強さだけでなく、周囲の意見を聞いて落ち込み、それでも自分のこだわりを捨てきれない人間らしさに共感して応援したくなります。「自分も負けられない!」という気持ちにしてくれる元気コミックです。
平島 | 学生時代に札幌の吟醸酒専門店でアルバイトをしていて、多分その頃にはじめて読んだと思います。ストーリーを楽しむというより、私にとって『夏子の酒』は日本酒の教科書がわり。登場人物のせりふにマーカーを引きながら読み、その勢いのままワープロで日本酒に関するレポートを自作して、バイト先の人に「読んでください!」と配った記憶があります。そういえばどこにいったのかなあ、あのレポート。 |
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書店ナビ | それはすごい!『夏子の酒』は1994年に和久井映見さん主演でドラマ化もされ、日本酒ブームを起こすきっかけにもなった作品です。 |
平島 | 嗜好品としての味がどう、ということだけでなく、有機農法の話や地域社会が支援する農業「CSA」(Community Supported Agriculture)など時代を先取りしたテーマも取り上げていて、非常に先駆的な作品だと思います。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
ローマ法王に米を食べさせた男
高野誠鮮 講談社
ストーリー性があるので、さらりと読めます。できない理由は考えない。できることしかイメージしない。そのイメージに向けて突っ走る著者の高野氏に比べると「自分はけっこう言い訳をしているなぁ」と反省しきり。「なんかやってみよう!」という気力を奮い立たせてくれる一冊です。
書店ナビ | 著者の高野誠鮮(たかの・じょうせん)氏は石川県羽咋(はくい)市の市役所職員。2005年に過疎高齢化で「限界集落」に陥った農村・神子原(みこはら)地区の再生プロジェクトに取り組み、神子原米の名前を広めるために「神の子であるローマ法王に神子原米を食べてもらおう」というトンデモアイデアを思いつき…という「スーパー公務員」による驚きの実話です。 |
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平島 | タイトルに惹かれて買って、枕元に置きっぱなしになっていたんですが、今年の3月5日に札幌で講演会が開かれるのを知り、申し込んだあとで「そういえばうちにこの人の本があった…」と思い出して、いま読んでいます(笑)。 講演会では地方創成をテーマにいろいろなお話を聞かせていただき、桁外れの行動力に刺激を受けました。まちが元気になれば、若い夫婦がやってきてカフェを開いたりして、子育てに困ったときは近所のおばあちゃんたちが知恵と手を貸してくれる…私たち「アニマドーレ」の活動にもそんなふうに”子育ては一人でしなくていいんだよ”というメッセージをこめています。 |
「うちの次男も普段は偏食ですが、アニマドーレの活動で畑に連れていくと嫌いなトマトにかぶりつく。”畑に行くと子どもたちは本能で食べる”ということを実感しました」
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ〈1〉
ルーシー・モード・モンゴメリ 新潮社
次に紹介する《肉料理本》と同じ「世界名作劇場」つながりで。なんとなくあらすじを知っている人は多いと思いますが、改めて読み返してみるとゆったりした気持ち、少女の気持ちがよみがえってくる永遠の名作です。
平島 | もうネタバレしてしまいますが、私がフルコースのお話をいただいて真っ先に思い浮かんだ本が『少女パレアナ』で、日曜夜7時30分からのアニメ枠「ハウス食品世界名作劇場」では『愛少女ポリアンナ物語』として放映されていました。 |
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書店ナビ | 調べてみると、『赤毛のアン』は1979年に放映され、『ポリアンナ』は1986年の放映です。 |
平島 | アンもパレアナも孤児の設定で、二人とも少女独特の妄想力で周囲の大人を変えていくというところも共通していますが、日本ではなんとなくアンのほうが人気じゃないですか? なので、このフルコースでも《肉料理本》の前に入れてみました。 |
書店ナビ | 確かに「子ども時代に赤毛のアンシリーズを全巻読みました」という話は結構聞きますね。親友ダイアナとの女子トークや気になる同級生ギルバート・ブライスとかも出てきて、学園ドラマ風な要素もあるからかもしれません。 |
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
少女パレアナ
エレナ・ポーター 角川書店
主人公パレアナがやっている「喜びゲーム」。これこそまさにポジティブシンキング! どんなことも自分次第で喜びに変えることができると教えてくれた、私の人生の一冊です。「今回はどんな喜びに変えるんだろう?」とワクワクしながら読み進めていった記憶がいまも鮮明に残っています。ちなみに《魚料理本》のアンとこのパレアナ、どちらも村岡花子さんの翻訳です。
平島 | 中学時代、ブラスバンドの顧問だった先生が学校をやめるときに、私たち部員全員にこの本を贈ってくださったんです。「大人になったらもう1度読んでください」ということばを添えて。 それで30代の前半ごろかな、ふと「そういえば…」と思い出して読み返してみたら、上の解説にも書きましたがどんなことも喜びに変える発想法「喜びゲーム」がめちゃめちゃいい! 私自身も、これまでつまずきそうになったとき、ひょっとするとこういう「喜びゲーム」みたいな発想の転換を無意識にでもしてきたから、ここまでやってこれたのかもしれないなと思うようになって。これからは一人でも多くの人に『少女パレアナ』を広めていこうと決意しました。たくさんの方にこの本を読んでほしいです。そして世の中がいろんな喜びにあふれますように。 |
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デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
チャンネルはそのまま
佐々木倫子 小学館
余韻に楽しいご当地コミックを。札幌のローカルテレビ局に「バカ枠」で採用された主人公・雪丸花子のドタバタコメディ。”北海道あるある”を素直に楽しめる身近なネタが満載です。
書店ナビ | 著者は『動物のお医者さん』を描いた佐々木倫子さんです。 |
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平島 | あれも面白かったですよね! あちらは北海道大学の獣医学部、こちらはどうやらHTBさんがモデルのようで、「水曜どうでしょう」でおなじみの藤村Dらしき人物も出てきます。 冬の農家取材で、雪の下に寝かせた野菜を掘り起こす場面を撮ろうと思っても吹雪で掘れないとか、現場を知らないと描けないエピソードがいっぱいあり、丁寧に取材しているのがよくわかります。 |
ごちそうさまトーク 心にいつもパレアナが
平島 | フルコースをつくるとき、一瞬「5冊ともパレアナでいく?」とも思いましたが、それはさすがに思いとどまりました(笑)。 |
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書店ナビ取材班K | もしかすると、はじめて読んだ中学のときからずっと平島さんの中に小さなパレアナがいるのかもしれませんね。 |
平島 | そっかあ、そうかもしれませんね。 |
書店ナビ | おいしい採れたて野菜さながらに、心の栄養分たっぷりの元気本フルコース、ごちそうさまでした! |
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