
青色が好きという「祝日」館長の佐々木夕方さん。「青色の本ばかりを集めた棚は開館準備を手伝ってくれたボランティアさんたちが作ってくれました」
[2026.6.5]

書店ナビ:「最近タイムラインに頻繁に上がってくる『私設図書館 祝日』ってどんなところ?」「館長の佐々木さんってナニモノ?」と昨年から北海道の本好き界隈で飛び交っていたギモンにお答えする今回の「本のフルコース」。
「祝日」館長の佐々木夕方さんご本人に登場していただきます。まずは2026年2月に現在の一軒家への移転オープンおめでとうございます!
マンションの一室から、情緒たっぷりの昭和のすりガラスが残るとてもステキな一軒家に。物件探しにまつわるエピソードがあるとうかがいました。
佐々木:前の場所での「祝日」オープンは2025年1月です。事務所可のマンションが見つかったので、そこに什器を持ち込んで完全予約制で運営していました。
もともと広い戸建てでやりたいなという思いがあって、Xでも「引越ししたい」と呟いてたらあるとき「ここ、いいんじゃないですか」と借家の貼り紙が貼ってある今の物件の画像が知らない人から送られてきたんです。
書店ナビ:知らない人から!
佐々木:フォロワーさんではない方でしたが「祝日」のことを知っていてくださったようで、たまたまその方のタイムラインに私の引越ししたい投稿が流れたらしく、偶然見つけた借家情報を送ってくださったんです。
しかもそれを受け取ったのが、本業だった公務員を辞めてトルコ旅行をしていた旅先で。間取りを見ると「茶室」とか「舞台」とか書いてあって「なんだここは!」と気になって、張り紙に書いてあった電話番号にすぐ電話しました。実物を見たらあまりにもステキで「ぜひ借りたいです!」とオーナーさんにお願いした、といういきさつです。オーナーさんも快く承諾してくださって「札幌いいまちだな」って思いました。

移転開館前の2026年5月、日本舞踊のお稽古に使われていた舞台に青本コーナーだけが完成していた。
書店ナビ:今の「祝日」を見たらきっと物件のオーナーさんも「面白い場所になった」と喜んでくださるのではないでしょうか。
それでは佐々木さんが悩みに悩んだ末に選んでくれた〈祝日を知るための5冊〉を解説していただきます。

佐々木:この本を《前菜》に選んだのは素直にタイトルに共感して。私も「祝日」をそういう場所にしたくて。ここで本を読んでも読まなくてもどっちでもよくて、ただ本がある場所で好きに過ごしていただけたら。私自身がそういう場所が好きなので。
あとは幅さんのキュレーションや著書を〈本がある場〉を作るうえでよく参考にさせてもらっているというのも選書の理由です。

「祝日」にある3000冊の蔵書は一部の寄贈を除きほぼ佐々木さんの私物。貸し出しも買取もしていない。利用料金はあえて決めておらず「投げ銭」制。
書店ナビ:私設図書館というアイデアはどこから?
佐々木:「みんとしょ」(一箱本棚オーナー制度の民間図書館)や「まちライブラリー」(大阪から始まった私設図書館)みたいな公共じゃない図書館があちこちにできていることは耳にしていました。
自分が小さい頃はよく母親が絵本の読み聞かせをしてくれたり、家に父の書斎があったりして、壁一面が書棚ってかっこいいみたいな思いがあったんでしょうね。本は身近な存在だったと思います。
でも20代半ばの頃に一度「もう電子データでいいんじゃないか」と紙の本を全部処分したことがあって。断裁機とスキャナーを買って残したい本だけをデータにしてEvernoteに入れる。それで手持ちの紙の本がゼロになった時期もあったんです。
書店ナビ:かつて「自炊」と言われた作業ですね。
佐々木:それがどこかのタイミングで旅行中に個人書店に入ったときに「あ、本屋さんってやっぱり楽しいな」と思って。そこから行った土地の本屋さんをのぞいてはまた紙の本を買うようになって徐々に蔵書が増えていった、という感じです。
私設図書館を始めたのはシンプルに本の置き場がほしかったのと、本のある場を開きたいという願望がずっとあったから。やるんだったら自分のわがままを全部詰め込まないと面白くない。当時はまだ公務員でしたからあくまでも趣味の領域で、という軽い気持ちで始めました。

佐々木:小学校低学年の頃から何回も読んでます。アニメの「ちびまる子ちゃん」のさくらももこさんしか知らない人が読んだらビックリするような、さくらももこさんの”毒”の部分が詰まってますよね。名言集的に取り扱われることもありますが、私にとって『コジコジ』はとにかくバカバカしくて笑える、ナンセンスが詰まった名作ギャグ漫画なんです。

さくらももこ作品の棚。「『祝日』はコジコジが読める場所でありたいです」
書店ナビ:タイトルのコジコジは宇宙の子。メルヘンの国の学校に通ってクラスメイトやまちの人たちと日常を過ごしている。でも頭がやかんの子がいたりして、好きな子を見ると沸騰しちゃうとか一人一人のキャラクターが濃ゆいのが特徴です。
ハレハレくんの説明には「親友のジョニーに、友情以上の気持ちを感じながらも、その気持ちをおさえて生きる日々」とありました。
佐々木:私が子どものときに「同性も恋愛対象になることがある」ということを知ったのは、このジョニーくんとハレハレくんでした。「多様性」と一般に言われ始めるずっと前にこういうことが当たり前に描かれているところも含めて名作だと思います。
コジコジで育ちましたので、私という人間は根がバカバカしいんです。「祝日」という場所も特に立派な目標があるわけではなくて、私が勝手に開いてそこにお客さんが来て棚を見て帰っていく。それはこれからも変わらないと思います。

書店ナビ:ZINE(ジン)という単語をあちこちで聞くようになりました。生業とは別に皆が思い思いに表現したいことを本というカタチで発表しています。
佐々木:この本はご近所にある「NOMAD BOOKS」さんで買いました。ざっくり言ってしまうと、執筆当時は28歳だった著者が「死にたさ」と「幸せになることへの執着」の両面を持ちながら生きていくエッセイです。一見重そうなんですが、その中におかしみだとか救いがあるし、書き口やリズムがすごくいいんです。

「祝日」の目玉の一つであるZINEコーナー。全国のZINEイベントに足を運んで佐々木さんのアンテナに響くものを収集している。
佐々木:一番いいなと思ったのは、著者には友達がちゃんといるんですよ。人数は多くなくてもすごくいい友達が登場する。そのやりとりとか友達の言葉の抜き取り方が自分に刺さりました。
書店ナビ:「そういえばケーキをいつもあげている友達に、以前一度だけ「お菓子をくれるときは、調子があんまりよくないときなんだろうな、と思う」と言われたことがある。」という一文が。
佐々木:ケーキを焼くってすごくないですか? 趣味だったとしてもそれはもうやっぱり希望だなって思う。生きるうえでお菓子は別に作らなくてもいいものかもしれないけれど、著者にはケーキをあげたい友達がいて、それをわざわざ相手のポストに入れに行くっていう希望がすごい。
きっと大変なことがいっぱいあるんだろうけど、周りにちゃんとわかってくれる友達がいて、それはこの人自身にすごく魅力があるからなんだろうなっていうのが文章から伝わってきます。

「祝日」には棚貸しコーナーもある。岸川さんも棚オーナーの一人(中段左端)で、ここでしか読めないエッセイもそっと更新されている(棚貸しは現在キャンセル待ち)。

佐々木:「祝日」を開館した2025年の正月に両親と兄、前妻に1万円を渡して「好きな本を選んで」とお願いしました。そのとき、母のセレクトの中に入っていたのがこの絵本です。素直に「懐かしいなあ」という思いもありましたし、やっぱりとてもいいお話なんです。

身内に選んでもらった一万円選書コーナー。身内に、という切り口がとても新鮮。
書店ナビ:「祝日」が今の場所になってから広くなったのもあって割とお子さんが来てくれるようになりまして。この前もマンション時代から常連だった女性が初めてご家族みんなで来てくれたんです。
就学前の2人のお子さんもすごくはしゃいで楽しそうで、そのうち上の子が棚から丸木俊さんの絵本『ひろしまのピカ』を持ってきて、おかあさんに「読んで」って言ったんです。
おかあさんも「◯◯にはちょっと早いかもしれないけど」と前置きしつつ、ショッキングな場面は早送りしながら、昔、原爆が落ちてとても怖いことがあったと、でもこうやって今私たちが住んでいる国であったことを知らないとね、みたいにすごく上手にまとめて読み聞かせしていました。
子どもたちがその日のことをどう思ってるかはわからないですけど、でもこういう場でそういう本に触れられるのはとても意味のあることだと勝手に思っていて。
「この場所をやっていてよかった」と思えるのは割とそういう子どもたちが出てくるエピソードが多いです。幅広い年代の子どもたちに来てもらえる場所になりたいなって思っています。
私が現代短歌を読むきっかけになった歌集です。タイトルの『ナイトフライト』とは夜間飛行のことで、まさに夜に読むのにピッタリな静かなトーンで、さらっとした歌が多いと思います。
この前文学フリマ東京に行ったとき、出店していた伊波さんに「これで現代短歌が好きになりました」と直接お伝えすることができてうれしかったです。
特に印象に残っている作品は
「おたがいを語り尽くした僕たちが寝起きにはなす夢のあらすじ」とか
「散りぎわがいちばん恋人らしかった僕らを残し日々はつづいて」。

「シティポップなタッチの永井博さんの装画に惹かれて買いました」「難しい表現が少なくて、カタカナや英語が多用されてストレートに情景が浮かんでくるところが、短歌初心者の私の胸を打ちました。」
書店ナビ:ご自分も短歌をつくる側にはいかないんですか。
佐々木:いや、もう全然ダメです。友達が書いたものを見せてもらってマネしようと思っても全然ダメ。もう、任せます(笑)。
書店ナビ:「祝日」のXを見ていると次々とフレッシュな企画を考えて、まさに佐々木さんの「わがまま」をためらうことなく形にしていく、破竹の勢いを感じます。
佐々木さんは一度始めたらなんでも長く続けるほうですか。

2025年の夏には毎年石狩で開催されるライジングサンにも出店した。そのときのボランティアもXで募った。
佐々木:凝り性のオタク気質ではあると思うんですが、割と「やめる」と思ったらスパッとやめる性格です。10年以上勤めた公務員も仕事自体は好きだったんですが持病の影響で納得のいく仕事ができなくなり、「辞めるか」と後先を考えずに辞めたくらい。
「祝日」ももちろん注目してくださるのはとてもありがたいんですが、あまり人の期待を過度に背負いすぎないようにして。自分が楽しみながらやれるところまでやっていきたい。そう思っています。

投げ銭制の「祝日」は収入面が課題。「LonesomeDanceBooks」の屋号で自費出版本を中心とした新刊を発売中。

こんな素敵なセッティングもできる「祝日」で書店ナビもコラボイベントをしてみたい。
書店ナビ:確かに「本のある場所」はとかく周囲から期待が集まりがちですが、まず何よりも自分自身の居場所であることが大事。それに西線6条電停エリアは他に「本と喫茶 NOMAD BOOKS」「ものがたり広がる書店 laboratory haco」、シェア型書店「よはくの本やさん」など本屋さんやステキなカフェが多い。ぜひ天気のいい日に散策を楽しんでほしいですね。「私設図書館 祝日」を知るためのフルコース、ごちそうさまでした!
1991年岩見沢市出身。2025年1月から札幌・中央区のマンションの一室で「私設図書館 祝日」をオープン。貸し出しなしのその場で読む閲覧専用・完全予約制・利用料無料でスタートしたところ、全開館日が予約で埋まるという盛況ぶりで評判に。2026年2月に札幌市中央区南5条西14丁目2-11の一軒家に移転。引き続き閲覧専用・予約制・投げ銭制で、予約は下記のリンク先から受付中。予約なしで入れる「開放日」もあり、行く前は公式サイトのチェックがおすすめ。

©2026北海道書店ナビ,ltd. All rights reserved.