北海道書店ナビ

第493回 BOOKニュース:森の六畳書房&虹いろ図書館シリーズ

[イベントレポート] ・浦河町「森の六畳書房」代替わり発表! ・話題の『虹いろ図書館』シリーズ第二作発売!

今週の北海道書店ナビはBOOKニュースをお届け。《まちでただ一軒の本屋さん》浦河町「森の六畳書房」の最新情報と、岩見沢市で盛り上がる氷室冴子青春文学賞大賞受賞作シリーズ新刊紹介の二本立て!

[NEWS 01]「六畳書房」次の「店番」が決まりました!

2020年7月15日、浦河町出身の作家・馳星周氏が『少年と犬』で直木賞を受賞したニュースがまだ記憶に新しいが、その浦河町でただ一軒の新刊書店「森の六畳書房」から先日、近況が届いた。

現在、櫻井けいさん・廣志さんの自宅一室で毎週月曜にオープンしている「六畳書房」の「長いこと探し続けてきた次の店番」が見つかったとのこと!
櫻井家での営業は11月末まで。そのあとは次の経営者が出張販売とネット販売から取り組み始め、最終的にはリアル店舗での営業を目指すという。

もとはコンビニ以外に新刊を買う場所がなかった浦河町。2014年に民家を活用して町民出資型書店「六畳書房」を始め、地域おこし協力隊を中心とする有志が交代で「店番」を務めていたが、徐々に売上面で苦戦。
開店3年後に閉店が決まり、そのときに「自宅でよかったら」と手をあげたのが、夫婦で移住してきた櫻井けいさんだった。

Vol.130 森の六畳書房 櫻井 けいさん[本日のフルコース] 浦河町で復活!「森の六畳書房」が届けたい よりよい世界を考えるためのフルコース

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次の店番に手をあげたご家庭には1歳半のお子さんがおり、「その子が育っていくときに、本屋のない町にしたくない」という思いが強い動機になったという(新店情報はこれからも書店ナビで追いかけたい)。
はじめての自宅本屋を2年半続けてきた櫻井けいさんの奮闘ぶりは誰もが認めるところであったが、「そろそろ次の方に」と探していたバトンの行き先が見つかり、本人も安堵に胸を撫で下ろす。
「ひょんなことから引き継いだ本屋でしたが、結構、性に合っていた気がします。過ぎてしまうと、2年半もあっという間でした。たくさんの素敵な方たちとも出会えたし、たくさんの方たちに応援していただけて、ありがたかったです。遠いですが、お時間があったらぜひお出かけください」
櫻井家での営業は11月末まで。

森の六畳書房

北海道浦河郡浦河町東町かしわ3-296-50
毎週月曜開店 10:00~19:00

[NEWS 02]新作『ひなとゆん』発売の著者にメールインタビュー!

あの「虹いろ図書館シリーズ」が再び! 2019年に刊行された第1回氷室冴子青春文学賞大賞受賞作『虹いろ図書館のへびおとこ』は、図書館を舞台にした物語。
学校でも家庭でも身の置きどころがない小学6年生の「ほのか」が、図書館の『へびおとこ』こと、司書のイヌガミさんから紹介される本や、館内で知り合う人々を通して自分の世界を広げていく青春文学だ。

虹いろ図書館のへびおとこ
櫻井とりお  河出書房新社
いじめで学校に行けなくなった小学6年生のほのか。たどり着いたおんぼろ図書館で体の右半分がみどり色の司書や謎の少年、たくさんの本に出会う。第1回氷室冴子青春文学賞大賞受賞作を大幅に加筆修正して単行本化! 


現役の図書館司書でもある著者の櫻井とりおさんは、本作が作家デビュー作。自身の司書経験を反映させた作品で、2018年に岩見沢市有志が始めた氷室冴子青春文学賞に応募。見事、第一回の大賞に選ばれた。

本作の特徴は、主人公ほのかの成長を古今東西の名作児童文学が導く上質なブックガイドにもなっているところ。章ごとに『ぐるんぱのようちえん』『ドリトル先生の楽しい家』『指輪物語』といったキーブックのタイトルがつけられており、物語の登場人物とほのかの心情が交差する。

かつてそれらの名作を読んで育った大人には懐かしく、初めて読む小中学生にも押しつけがましくない筋立てが、〈ユニークフェイス〉の持ち主であるイヌガミさんを軸に進んでいく。

第480回 氷室冴子青春文学賞オンラインイベントレポート《前編》

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こうした児童文学と図書館への愛情にあふれた世界観が全国の読者に受け入れられ、本書は2019年11月の刊行以来、5刷に突入。
そしてなんと今年10月22日にはシリーズ2作目の『虹いろ図書館のひなとゆん』が発売! 異例のスピードで続編が出版され、全国のファンを喜ばせている。

そこで今回の北海道書店ナビでは、新刊発売を記念して著者の櫻井とりおさんと編集者の岩崎奈菜さんにメールで質問を送り、おふたりからよせられた回答を紹介する。

虹いろ図書館のひなとゆん

虹いろ図書館のひなとゆん
櫻井とりお  河出書房新社
今度の主人公は小学4年生の「ひな」と、ひなが図書館帰りに出会った女の子「ゆん」。「全然違う」ふたりが物語を共有しながら互いを知り合っていく。あの人たちもちらりと出演。「物語の最後に読み切った人だけが分かる〈おまけ〉は今作も付いていますのでお楽しみに!」(岩崎さん)

「世に出さなくてはならない作品!と確信しました」

書店ナビ前作『虹いろ図書館のへびおとこ』は、全国でたくさんの方に読まれました。一番心に残っている感想はなんでしょうか?

櫻井ほとんどの人にほめていただいて、こそばゆい感じです。多くの人が「表紙を見て、ファンタジーだと思ったらファンタジーじゃなかった」とおっしゃってて、それはとても興味深かったです。ファンタジーじゃなくて、すいませんでしたっ!

書店ナビ新人作家としては異例のスピードで2冊目が出ました。

櫻井私自身の中に尺度がないので、「ふうん、早いんか?」とぽかんとしています。新型コロナの緊急事態宣言で図書館の仕事が自宅待機になったせいか、時間的にはあまり苦しく思いませんでした。『へびおとこ』が動いているうちに出していただけて、出版社をはじめ周りの皆様には感謝するばかりです。

編集・岩崎一作目の編集中から「この愛すべき世界を一作で終わらせたくない。第二作を是非実現させたい!」という気持ちがありました。櫻井とりおさんから第二作の構想をうかがい〈物語の大切さ、豊かさを描く作品であること〉〈女の子二人の友情という王道の物語ながら、とても現代的であること〉に、これはぜひとも世に出さなくてはならない作品!と確信しました。

書店ナビ構想はいつ頃から?

櫻井投稿サイト「エブリスタ」に上げた「ゆんとひな」という話がベースになっています。出てくる司書はイヌガミとは別人なのですが、これはイヌガミにあざがあるという描写ゆえに『へびおとこ』を刊行してもらえなかっただいぶ昔に、「顔にあざのない司書なら本にしてくれるかも」と考えて書いたからです。

書店ナビ2冊目ならではの難しさや課題はありましたか?

櫻井舞台は同じ図書館ですが、時間的には『へびおとこ』が九月から、『ひなとゆん』は同じ年の五月から物語が始まります。どちらから読んでも、支障のない話にしたいと思いました。それでいて、両方を読んだ人にはおまけのような気付きがあると、より楽しくなると考えて書きました。 さて、うまくいったでしょうか? 今は、読んでくださる方の反応を緊張して待っています。

「何の役に立つの?」物語の存在価値を問いながら

書店ナビ『虹いろ図書館』シリーズの魅力はなんといっても、各章のキーブックとなっている名作のラインナップだと思います。どの本を使うかは物語を描きながら選んでいくのでしょうか。

櫻井物語を書きながら、話に沿った本を探すことも多いですが、決まった本をキーにして物語が開かれることもあります。たとえば、今回の『ひなとゆん』に出てくるある本を、私は正直あまり好きではありませんでした。でも多くの人から長く支持されている本です。なぜかと考えるうちに、『ひなとゆん』の後半のお話ができあがりました。

書店ナビ「友達づくりがテーマなら、この本よりこっちの本かな?」と迷ったりしますか?

櫻井しょっちゅう迷ってます。なるべく皆が知っていて、手に入りやすくて……などいろいろな指針で本を選んでいます。図書館に勤めていると、すぐ実物の本が手に入るので便利です。

書店ナビ前作同様、装丁がすごく素敵ですね。”見る人が見たら分かる”表紙がたまらないです。

編集・岩崎全体に『へびおとこ』とシリーズ感が出るようにデザイナーの野条友史さんと相談しました。カバーでは、タイトルのフォントや地の文様などは前作を踏襲しつつ、メインカラーや主人公を囲む枠の形を変えています。シリーズで揃える楽しさ、見比べる面白さもあると思います。
カバー装画も浮雲宇一さんに『へびおとこ』同様、作中のモチーフをちりばめて描いていただきました。書店さんに置いていただいているリーフレットにモチーフの謎解きが掲載されていますので、是非ご覧になってください。

書店ナビ最後の質問です。2020年はコロナの時代になり、読書の力が見直されています。『ひなとゆん』がどんな風に広がっていったらうれしいですか。

櫻井『ひなとゆん』は、「物語なんて何の役に立つの?」という質問に対する答えのつもりで書きました。物語をひとつも読まなくても、たぶん人は生きていけると思いますが、その人生は楽しいのだろうか? また、今生きている自分の人生は、もしかしたら誰かに筋書きを書かれたひとつの物語かもしれない……なんて理屈をこねてもいいですし、虹いろな世界のお話を純粋に楽しんでいただけたらとてもありがたいです。
『へびおとこ』と同じに、口コミでじわじわ皆さんに知っていただければ、と心から願っております。

櫻井さんが受賞した氷室冴子青春文学賞は、ただいま第3回の作品を募集中!

氷室冴子青春文学賞 |

seisyun-bungakusyo.com

幕別町図書館では前作の「虹いろ図書館のへびおとこメイキング展 本ができるまで」を11月1日から16日まで開催する。一冊の本が出来上がるまでの工程を実際のゲラや色校正で徹底解説。『虹いろ図書館』シリーズの世界にたっぷり浸れそう!

「虹いろ図書館のへびおとこメイキング展 本ができるまで」

【ブックフェア】本ができるまで

mcl.makubetsu.jp

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