本に関わる人たちの交流会で書店ナビ取材班が知り合ったピタチョークさん。「フルコース?面白そう!」とその場で快諾してくれた。
[2019.11.25]
書店ナビ:ちょっと変わった語感のペンネーム「ピタチョーク」とは、くまのプーさんの親友ピグレットのロシア語読み。音が気に入って、自分のペンネームにしたそうです。
ピタチョークさん、簡単な自己紹介をお願いします。
ピタチョーク:みなさん、こんにちは!札幌生まれのピタチョークです。東海大学の国際文化学部デザイン文化学科を卒業後、いろいろな仕事を経験して今は図書カードや診察券といった特殊印刷を得意とする印刷会社のオペレーターをしています。
大学の卒業制作はドットを使った作品に取り組みました。海外ではPIXEL ARTIST、日本ではドッターと言われる人たちがいて、私もドット絵作成ツール「EDGE」でカチカチと打ち続けました。
作品はTumblrやTwitterで発表。PIXEL ART以外にもさまざまなタッチを勉強中だ。
ピタチョーク:「将来はイラストレーターとして独立したい」という夢を職場の皆さんも応援してくださって、印刷の仕組みも「知っておいたほうがいいから」と詳しく教わっています。
書店ナビ:いい職場と出会いましたね。フルコースのテーマはすぐに決まりましたか?
ピタチョーク:先に本を決めてから共通点を考えました。読書の思い出といえば、うちは母親が読書好きで、私が小学1年のときから私を含め4人の子どもたちに毎晩「ハリー・ポッター」シリーズを朗読してくれたんです。
毎回30分とか1時間くらいだったかな?『死の秘宝』で完結するまでの8年間ずっと。
書店ナビ:すごい!かけがえのない読書体験ですね。
ピタチョーク:自分で本を読むようになったのは中学生になってからですが、母親のおかげで物語世界に入るのが大好きになりました。
ハリポタのあのちょっと暗いトーンで育ったので、今回のフルコースも「暗躍」とか「陰謀」とかそんな言葉が渦巻く5冊になりました。
ピタチョーク:中学1年のときに図書館で借りて、最後まで自力で読み通した初めての本です。後から読んだ兄貴もハマって「兄妹でそんなに好きなら」と親が全巻買いそろえてくれました。
サーカスというものを見たことがなかったので、あやしげなサーカスの世界がすごく新鮮でしたし、せっかく親友のスティーブを助けるためにバンパイアになったダレン・シャンが逆恨みされて終わる1巻の最後にビックリ!そこからやめられなくなりました。
あまりにも好きすぎて、読みかけの本をいつも持ち歩いていました。
書店ナビ:兄妹で同じ本に夢中になるっていいですね。
ピタチョーク:それが、先に読み終わった兄貴が「○○○の正体、誰だか知ってる?」とバラそうとするので「やめてーーー!」と家中逃げ回ったのに、追いかけてきて無理矢理教えられました。今でもあのネタバレは許せないです!
書店ナビ:チョコレートという子どもらしい題材を扱いつつ、非常にポリティカルな風刺に満ちた世界観。大人にもファンが多い児童文学です。
ピタチョーク:子どもたちが大人の決めたことに反発して地下に潜ってチョコレートを密造しちゃう、という設定がもう、ドキドキしますよね。
仲間をどうやって集めるとか、子どもたちがそれぞれ違う役割を分担して理想を実現しようとする姿は大人顔負け!
密造がバレてしまうのではないかという緊張感と、大好きなチョコレートが食べられる子どもらしい喜びを交互に味わえるところも魅力です。
ゲームも大好きなピタチョークさん。「ビジュアルとストーリー重視」で小島秀夫の新作が出たら手を伸ばさずにはいられない。
ピタチョーク:高校生のときにコミックを先に読んでから原作を読みました。先ほどもお話ししましたが、私はハリポタ原作で育ったので映画ももちろん観に行きましたが、映像化はどうしても「もの足りないな~」と思っちゃうんです。
逆に『マルドゥック・スクランブル』のようにコミックを先に読むと、賭博師のシェルがしている指輪の意味まで原作にしっかりと書かれているので「そういう意味だったのか!」と二度楽しめます。
書店ナビ:物語として惹かれたところは?
ピタチョーク:人に支配されていた主人公のバロットが蘇生して特殊な力を持つと、今度は自分が他者を支配していいのだと錯覚してしまう。
それを自身もたくさんの人を傷つけてきたウフコックが諌めようとして……自分は何のために、誰のために生きようとするのかを見つけていくバロットに胸が熱くなります。
書店ナビ:村上春樹の『1Q84』やレイ・ブラッドベリ『華氏451度』、映画では『時計じかけのオレンジ』などさまざまな創作活動に影響を与えてきたSF文学の金字塔です。
ピタチョーク:私が好きなミュージシャン平沢進のアルバム『ビストロン』に「Big Brother」という曲があって、手に取りました。
通常、反政府的な主人公を描くときはレジスタンス側だと思うんですけど、この『一九八四年』のウィントン・スミスは政府側の役人。
しかも劇的な事件が起きるわけでもなく淡々と日常生活が書かれていて、私もゆっくりゆっくり読み進めていきました。
恐かったのは、政府の管理下で2分間だけ思い切り罵詈雑言を叫んでもいい時間があるところ。こういうはけ口があるところが生々しくて、人を操っている感じがすごくリアル。
世界観がアツくて、さすが後世の作品に影響を与えるだけのことはあるなと実感しました。
きっかけとなった平沢さんの曲も、政府に支配されているような不気味な曲。興味がある方は聴いてみてください。
ピタチョーク:大学時代に「芋虫」を読んで友人に見せたら「結末に愛を感じる!」「だよね!」と盛り上がりました。
でも3巻で一番のお気に入りは「虫」。登場人物の内面や状況が克明に描かれていて、主人公が意中の女性に笑われてしまう場面は、読んでいる私まで「うわああああ!」と叫び出したくなるような共感性羞恥を感じました。
書店ナビ:乱歩の作品は映像化も多いですよね。NHKが企画した満島ひかり主演の短編シリーズは見事でした。
ピタチョーク:今回の5冊の中で一番「小説でよかった!」と思うのが、この乱歩です。エログロは頭の中で自由に想像できる文字がイチバンだと思います。
書店ナビ:ピタチョークさんが目標とするイラストレーターは?
ピタチョーク:『コララインとボタンの魔女』というストップモーションアニメのコンセプトアートで、第37回アニー賞の最優秀美術賞を日本人で初めて受賞した上杉忠弘さん。
本の装幀やアルバムジャケットなど幅広く手掛けていらして、『コララインとボタンの魔女』からずっとファンです。
早く、ああいう自分だけの世界観を確立できるようになりたいです。
書店ナビ:ピタチョークさんは『ようこそアヤカシ相談所へ』を書いた道産子作家、松田詩依さんと高校・大学の同級生なんですね。
ピタチョーク:ええ、いま彼女がシナリオを書いて私がビジュアルを担当、もう一人がシステムをつくる同級生3人組でオリジナルのゲームを作っています。ちょっと時間がかかっていますが、来年挑戦するクリエイターEXPOに出せるようがんばって完成させます!
書店ナビ:ハリポタ朗読から始まったダークな読書世界で成長し、これから先は独自の”ピタチョーク色”を探していくんですね。今後のご活躍、楽しみです!
ダレン・シャンから始まり乱歩でフィニッシュした日本&イギリスのアンダーグラウンド本フルコース、ごちそうさまでした!
1994年札幌市生まれ。東海大学国際文化学部デザイン文化学科卒業。2019年3月から特殊印刷会社に勤務。2020年4月にはクリエイターEXPOに初参加予定。
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