北海道書店ナビ

第284回 Northern Graphics 吉田 ナオヒロさん




5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.57 Northern Graphics 吉田 ナオヒロさん

取材は吉田さんがよく行く「BUDDY BUDDY」で。
古き良きアメリカ南部をイメージした内装とおいしい料理が楽しめる。


[本日のフルコース]
そこに海が、山があるかぎり!
「ボクらを魅了するヨコ乗り系スポーツ雑誌」フルコース

[2016.8.1]


書店ナビ 今回のフルコース選者は札幌で、サーフィンやスケボー、スノーボードといった”ヨコ乗り系スポーツ”のメンバーが制作・登場する季刊誌『king garage magazine』を発行している編集長兼アートディレクターの吉田ナオヒロさんにご登場いただきました。
札幌出身で、元プロスノーボーダーのキャリアもお持ちの吉田さん、『king garage magazine』を立ち上げたきっかけは何ですか?
吉田 一番の動機は、自分の身近におもしろい仲間がいっぱいいたこと。ヨコ乗り系スポーツが好きな連中はやっぱりどこかぶっ飛んでいるというか、それは別にワルいことをしているという意味じゃなくて(笑)、おかしな人たちが僕の周りにうじゃうじゃいたんです。
好きなものをどこまでも追いかけてたり、実は文章や写真が上手だったりして、「この人のことを世の中に紹介したい」と思える素敵な人達がたくさんいた。
その彼らに寄稿やインタビューに協力してもらって、2015年に創刊号を出すことができました。基本は夏・冬の年2回発行。僕自身が”好きなものはお金を出して買いたい”ほうなので、フリペではなく本体800円に設定しています。北海道の主要書店に置いてもらっています。
これから紹介するフルコースは、自分のところの雑誌ももぐりこませていて恐縮ですが、ヨコ乗り系の世界を知っていただくには格好の雑誌を選んできたつもりです。


[本日のフルコース]
そこに海が、山があるかぎり!
「ボクらを魅了するヨコ乗り系スポーツ雑誌」フルコース



前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

UNABARA vol.2 
三栄書房

2015年に創刊したビーチカルチャーマガジンです。創刊号は日本のビーチを特集して、今年3月に出た2号目はアルゼンチンが舞台。見ているだけでうずうずしてきます。




吉田 僕がプロ現役時代に知り合ったスノーボード雑誌の編集長だった小山内隆さんが「本当にやりたいこと」を注ぎ込んだ雑誌です。サーファーが集うまちをテーマに、彼らのライフスタイルやファッション、カルチャー、愛する時間、モノたちを丁寧に紹介しています。
知り合いがこうやって第一線でいいものを作っているのは、刺激になります。書店で並んでいるのを見ると自分のことのようにうれしいです。
自分もいつか海外に取材に行きたくなる!


スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

Fall Line 2016(2)  
双葉社

こちらは雪山を愛するすべてのボーダー・スキーヤーのための雑誌です。なんといっても国内外のフォトグラファーによる写真が圧巻!

書店ナビ Amazonの解説を読むと、「高度な技術を持つスキーヤー・スノーボーダーのためのフリースキーマガジン」とありました。
それを裏付けるように「ここ、こんなところを生身の人間が滑っているの?」と驚かされる場面の連続です。人間はどこまで自然に分け入っていくのか、冒険心の果てのなさを見る思いです。
吉田 世界のバックカントリー好きの大半が、「人のいないところを滑りたい!」という冒険心につき動かされていて、サーファーの雑誌にプールが出てこないように、この雑誌にもゲレンデの写真は一枚も出てきません。
自然の地形そのままの、誰も滑っていない場所を滑ることにすべてを捧げる彼らの生きざま、哲学みたいなものがストイックな文章から伝わってきます。
ちなみに僕自身もこの雑誌に取材されたことがあるんですよ。

ちょっとした小宇宙だったノーザングラフィックスのオフィス。「今は引っ越しして、もうちょっと整理されています」。



魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

Diggin’MAGAZINE
三栄書房

不定期刊行ですが、こちらはスノーボードオンリーのムック本。スノーボードを文化として位置づけて多角的に掘り下げています。デザインがすごくかっこいい。ぜいたくな余白の取り方にシビれます。


吉田 ヨコ乗りの歴史はサーフィン、スケートボード、スノーボードの順に発展していきましたが、北海道はこの逆でスノーボードから入る人が多い。
小学校の授業を含めて、小さい頃から雪山になじみがあるので、のんびりまったりとスノーボードを楽しむ人口が多いように感じますね。
書店ナビ この本に出てくるのはむしろ、自然との一体感を自ら求めてヤミツキになっているような人たち。同じスノーボードでもいろんな距離感がありますね。
吉田 結局は滑る「人」次第で、その距離が違っていいと思うんです。シーズン中に長野県に部屋を借りて夢中になっている人もいれば、家族で楽しむ人もいる。
ただ、ヨコ乗りに共通する「予測不能な世界に身を投げ出して、普段見れないものを見るあるいは体験する」という感覚を、スノーボードは比較的早く得られやすいと思います。なんだろう、雪がそうさせるんですかね。



肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

LEBANON (RIDE THE EARTH PHOTOBOOK)
児玉毅著、佐藤圭著・写真  スキージャーナル

僕の仲間のプロスキーヤー、”タケちゃん”こと児玉毅と『king garage magazine』のチーフ・フォトグラファー佐藤圭の「地球を滑る」二人旅の本です。しかも「え?その国で滑れるの?」というところばかりを狙って行くからズルくて、カッコイイ。

書店ナビ 札幌出身の児玉さんは『king garage magazine』の1号・2号にも「Ride the World」というコラムを書かれていますね。
「スキーと旅をして生きて行こう」「無計画な旅というのは良い」「これだからスキーを背負った旅はやめられない」。
気取りがなく明快な文章にお人柄を感じます。

吉田さんはアートディレクターとして本シリーズに参加。続く『モロッコ』『アイスランド』(HS)も好評販売中!



吉田 そうなんです、タケちゃんは僕の友人知人の中でもずば抜けてクレイジーで、文章もすごくうまい。
旅先で人と出会い文化を知って、一番の目的である「その土地を滑る」喜びを全身で浴びてまた次の目的地に行く。
同行する佐藤圭の写真もめちゃくちゃいいですから、ぜひ一度手に取っていただきたいです。
書店ナビ 児玉さん、佐藤さん、吉田さんと皆さん札幌出身のメンバーで、こんなカッコイイ旅本を作っているなんて知りませんでした。ただいま準備中という第4弾も楽しみです!

「毎回、現地の民族衣装を着て滑っている場面もあります。自分もいつか同行したいなあ」





デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

king garage magazine Vol.3
Northern Graphics Sapporo

機内誌のように1時間くらいで気軽に読み切れるような内容・デザインを意識して作りました。トイレでも邪魔にならない182mmの正方形サイズです。


書店ナビ 雑誌名の由来はなんですか?
吉田 ガレージというと男の遊び場みたいなイメージがあって、それが”王様のガレージ”くらいになれば、楽しいものはなんでもあるだろう、と。
なので内容も滑りや旅に関するコラムもあれば、好きな車やきのこ愛を語るページもあり。
毎回「人」のインタビューも載せていて、仕事観や世界情勢について語っている回もあります。とにかくなんでもありの、まさに「雑」誌です。
書店ナビA 1号・2号にはさりげなーく音楽プロデューサーの藤原ヒロシさんのコラムが載っています。
吉田 藤原さんもスノーボードがお好きで、よく北海道に滑りに来られるんです。リフトで隣り合わせたときにコラムを依頼しました(笑)。




ごちそうさまトーク 今年も滑れる喜びを噛みしめながら


書店ナビ お話をうかがっていると、吉田さんは雑誌づくりを通してもう一度「滑る」楽しさを再確認しているように感じました。
吉田 自分はいま45歳で、体力的に無茶ができなくなる60歳まであと15回しか夏・冬がないと思うと、やっぱり毎年滑れることの喜びをしっかりと味わいたいと思うようになりました。
「若いときはやっていたけど最近はね」という人たちにも、できればまたご自分のペースでいいので始めてほしい。僕らの雑誌がそのきっかけになったらうれしいです。
書店ナビ 海・山を愛するライダーたちの情熱と遊び心が詰まったフルコース、ごちそうさまでした!
吉田ナオヒロさん
1971年札幌生まれ。旭川の東海大学時代に始めたスノーボードで頭角を現し、在学中にプロになる。現在はデザイナー・アートディレクターとして活躍し、スノーボードシーズン中はイベント開催やレッスンにも力を注いでいる。










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