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第287回 株式会社ルーツ・オブ・ジャパン 代表取締役社長 湊源道さん




5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.60 株式会社ルーツ・オブ・ジャパン 代表取締役社長 湊源道さん

お話は札幌市中央区にあるリサイクルショップ「モノココ」円山店でうかがいました。


[本日のフルコース]
就社経験無しの経営者が手本にする
「リーダーとはかくあるべし本」フルコース

[2016.8.22]


書店ナビ 不要品の買い取りや遺品整理などのリユース事業を営む札幌の企業ルーツ・オブ・ジャパンのリサイクルショップ「モノココ」は、厚別店、円山店のほかにタイのチェンマイにも進出。
代表の湊源道さんは、一般社団法人北海道タイ親善協会の代表理事もお務めです。
もしかして今回のフルコースも「リユース」か「タイ」をキーワードに作ってこられるかなと予想を立てていましたが、違いました。
僕は学生のときにベンチャー企業を立ち上げて以来、アジア雑貨店や便利屋を自分でやってきたので、実は「就社」経験がありません。
そんな自分にとって会社の経営論や理想のリーダー像を教えてくれる本は、大事なよりどころ。
今日はそのなかでも特に感銘を受けた5冊を持ってきました。


[本日のフルコース]
就社経験無しの経営者が手本にする
「リーダーとはかくあるべし本」フルコース



前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

武士道―いま、拠って立つべき”日本の精神”
新渡戸稲造  PHPエディターズグループ

北海道大学の前身、札幌農学校の卒業生である新渡戸稲造がしたためた武士道の世界。日本人の心、生き方に世界が感動した名著中の名著が、わかりやすい現代語に訳されています。




1冊目からちょっと重ためですが、高校時代に読んで以来大きな影響を受けた本です。
当時、空手をやっていたので、武士道の世界をなんとなくですが、体で理解できるところもあったと思います。
書店ナビ 特に感銘を受けたところは?
「義を見てせざるは勇なきなり」は、今も大切にしている教えです。
仕事上、タイに行くことが多く、現地で日本人が尊敬のまなざしで見られるのは、こういう「義」を大切にする思いが僕らの中にあるからかもしれませんね。
もっとたくさんの人に読んでほしいので、これまでに何冊も買ってプレゼントしています。



スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

[現代語抄訳]言志四録  
佐藤一斎  PHP研究所

佐藤一斎とは幕末の儒学者で、弟子に佐久間象山や渡辺崋山、孫弟子に勝海舟、坂本龍馬、吉田松陰がいるすごい人。その一斎の語録が『言志四録』(げんししろく)です。


書店ナビ 調べたところ、『言志四録』は『言志録』『言志後録』『言志晩録』、『言志耋(てつ)録』の4冊からなる指導者のための指針の書なのだとか。
僕は確か、書店で見て買ったと記憶していますが、「学をなす。ゆえに書を読む」(自己研鑽のために書を読む)や、「人の言はすべからくいれてこれをえらぶべし」(他人のことばはすべて聞き入れてから選ぶべし)など、心にとどめておきたい名言ばかり。
原書のワンフレーズずつ現代語訳されているので、読みやすいところにも助けられました。

耳が折ってあるところを開いてみると「可愛がっている部下や女房の言うことばかりを聞く社長をボンクラ社長という」の一説が。


書店ナビ …今の時代にも普通にいそうですね、こういう社長さん。
反面教師にしたいものです(笑)。


魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

海賊とよばれた男
百田尚樹  講談社

言わずとしれたベストセラー。出光興産創業者をモデルにした田岡鐵造の豪快な生涯を描いた物語。岡田准一主演で今年の12月に映画が公開されます。

実話を下敷きにしているとはいえ、小説にした時点でいろいろ”盛っている”ところもあるかと思いますが、基本は主人公も、モデルとなった出光佐山(いでみつ・さぞう)氏も、前菜本の『武士道』とスープ本の『言志四録』の教えを実践した指導者です。
戦後、ゼロから立ち上がらなければならない時代設定を差し引いても、現在のリーダーには欠けている覚悟のようなものを感じます。
書店ナビ 本書を読むとなぜイランが親日国なのかがわかってきますが、タイでリユース業を展開する湊さんにとっても、自分のあるいは会社のふるまい方が日本の印象を左右するかもしれないという思いはありますか?
生意気に聞こえるかもしれませんが、自分も「北海道の企業が世界の環境問題を解決する!」という思いを背負ってやっているつもりです。
モノとゴミが大量に増え続ける現代にリユースの心や仕組みを浸透させることこそが、環境問題の縮小につながると信じています。



肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

「正法眼蔵」の経営力
村山幸徳  PHP研究所

本書は禅宗の曹洞宗開祖、道元禅師の著書『正法眼蔵』(しょうぼうげんぞう)を経営の目線で読み解くビジネス指南書です。世界的にも禅の思想を経営に取り入れているトップは多く、その教えは今も生き続けています。



道元禅師は鎌倉時代の人で、24歳のときに当時栄だった中国に渡ります。そこで修行をして、悟りの境地を認められて5年後に日本に帰ってきました。
つまり、今でいうところのグローバルな視点や時を超えた普遍的な考えを自分のものとして、のちに日本で仏教を広めた。これってすごいことですよね。
書店ナビ 道元禅師の教えは「ありのままの姿がそのままの仏法であり、日々の修行がそのまま悟りである」と言われています。
経営においては「部下や顧客の心を動かす」本も多く出ていますが、正法眼蔵が対峙するのは、おのれ自身。自分の心なんですね。そのために座禅がある。
例えば昨日の売上げが良かったのは天気のせいなのか、ポケモンGOのせいなのか(笑)。
それとも逆に会社が不調なのは部下がサボっているからなのか、はたまた自分に原因があるのか…。
人を動かすという考えから自由になって「空」になり、おのれを省みること。
経営者になって20年近く経つ今も、自分にそう言い聞かせています。

東日本大震災時にはリユース業の強みを活かし、被災者の方々の生活に必要な家財を募り提供した湊さん。「私も人として成長する機会をいただきました」。




デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

大江戸リサイクル事情
石川英輔  講談社

江戸時代のリユース・リサイクルを風刺画とともに紹介しています。終始「へえ?!」と驚きっぱなしです。


最後は…ごめんなさい、テーマとするリーダー本じゃないんですが、リユースネタを入れたくてこの本にしちゃいました(笑)。
書店ナビ 竹やワラなどの自然素材のリサイクルはもちろんのこと、当時から古着屋さんがあったりして、江戸庶民の知恵が詰まっていますね。
「修理して使うより新品を買った方が安い」とか「いくらで捨てられる?」とか、いまの私たちの”常識”を見直すときがきています。




ごちそうさまトーク 「あんたのやっていることは”誉”というんだ」




書店ナビ 来年、御社は設立10年になります。今後の経営の目標は?
今はもう一度、現場に立ち返るとき。顧客のニーズを読み違えていないか。従業員と同じ目線に立っているか。
今一度「誰のための法人格なのか」を自問し、迷ったらまた今日ここでご紹介した本を読み返したいと思います。
書店ナビ 社訓はありますか?
去年定めたばかりでして、「経済活動を通じ 未来の誉(ほまれ)となる」です。
東日本大震災の支援活動をしているときに、被災した方々と温泉に行ったことがあります。
その晩ちょっとお酒も入って、いい気持ちになったところで、トイレで一団にいたおじいちゃんに詰め寄られまして(笑)。
「あんたのやっていることは”誉”というんだ」と、言っていただいたことばが文字通り僕らの誉、宝物になりました。
書店ナビ まさに「義」をもって行動された湊さんを祝福することばですね。ご自身の鑑とされているリーダー本フルコース、ごちそうさまでした!
湊源道(みなと・げんどう)さん
1975年札幌生まれ。学生時代にインターネット通販会社で起業し、アジア雑貨店、便利屋を経て2008年に株式会社ルーツ・オブ・ジャパンを設立。
札幌観光大使。一般社団法人北海道タイ親善協会代表理事。
●ルーツ・オブ・ジャパン http://rootsof.jp/











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