北海道書店ナビ

第285回 有限会社エアーダイブ コーディネーター 三守 小百合さん




5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.58 有限会社エアーダイブ コーディネーター 三守 小百合さん

エアーダイブの代表作『義男の空』の最新刊10巻は9月10日発売予定。
編集を担当する『札幌乙女ごはん。』も雑誌『poroco』で好評連載中!


[本日のフルコース]
《聖地巡礼》してみたい!
「北海道を描いた地域コンテンツ漫画」フルコース

[2016.8.8]


書店ナビ 札幌の出版社エアーダイブさんが展開する地域密着型出版レーベル「Dybooks(ダイブックス)」の代表作『義男の空』は、全国に愛読者がいる感動のドキュメンタリー漫画です。
北海道・苫小牧市に実在する小児脳神経外科医の高橋義男さんを主人公にした設定もさることながら、ストーリー・作画もすべてエアーダイブの社内スタッフが手がけ、印刷も札幌の須田製版に依頼する「100%メード・イン・北海道」の制作体制が、第1巻の発売当初から全国の注目を集めています。

義男の空 第1巻
エアーダイブ  Dybook

第15回文化庁メディア芸術祭〔マンガ部門〕審査委員会推薦作品
北海道書店商業組合・北海道学校図書館協会推薦

書店ナビ この『義男の空』のことを聞きつけ、「すごいことをやっている会社がある!」と感激して入社したのが、今回の選者である三守小百合さんです。
札幌出身の三守さんは東京の編集プロダクションや出版社で漫画やライトノベルの編集経験を積んだのち、札幌にUターン。エアーダイブで今年5年目を迎えています。
現在は地域コンテンツとして漫画を位置づける同社唯一のコーディネーターとして、紙媒体の編集に限らずイベント企画なども手がけています。
三守 札幌に帰ってきてあらためて気がついたのは、自分が北海道のことをまるで知らなかったということ。
書店ナビ 三守さんが編集を担当している『札幌乙女ごはん。』は、恋にも仕事にも遊びにも頑張るアラサー女子たちが実際にある飲食店で語り合うリアリティーさと、コミックらしい「だったらいいな」感のバランスが絶妙ですね。
三守 ありがとうございます。『札幌乙女ごはん。』には前身となる企画があり、札幌商工会議所さんが発行したフリーマップ「札幌の漫画舞台を旅しよう!マンタビ」を作った経験やアイデアが活かされています。
それと私が札幌に帰ってきて気づいたもうひとつのこと、札幌の女性たちはとても元気で、特に皆さんよく食べてよく飲む(笑)、そしてエアーダイブの編集部も「食」が大好き!そのバイタリティーを漫画にしたら面白いと思い、『札幌乙女ごはん。』の企画が生まれました。
今回のフルコースは私が大好きな、道産子漫画家が北海道を描いているコミック5タイトルです。

札幌乙女ごはん。コミックス版
松本あやか  Dybook

札幌商工会議所発行の漫画情報誌版に大量の描き下ろしを加えて好評発売中!



[本日のフルコース]
《聖地巡礼》してみたい!
「北海道を描いた地域コンテンツ漫画」フルコース



前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

チャンネルはそのまま!
佐々木倫子  小学館

北海道ホシテレビに謎の採用枠「バカ枠」で入社した新人・花子が織りなすドタバタコメディー。テレビ局のことがきちんと取材されているので、テロップの作り方や泊まり込みの様子など番組制作の裏側がわかるのも面白い。全6巻です。




書店ナビ 北海道民ならばモデルとなったテレビ局が「ONちゃんのいるところだな」とすぐに察しがつきますね。
三守 ですね(笑)。劇中で放送されるニュースも上平川(ホントは豊平川)の氾濫とか、地元の人間にとって身近な地名や話題ばかり。「見たことある!」と思う場所で「こんなハプニングが?」と思いきり笑わせてくれるのも、ご当地漫画のいいところだと思います。
この作品を読んでからは逆に、地元ニュースを見る目も変わってきそう。映像化したら面白いのに、と思います。


スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

銀の匙 Silver Spoon  
荒川弘  小学館

札幌の私立中学校に通っていた主人公、八軒は受験に失敗後、恩師のススメで道東の大蝦夷農業高校(エゾノー)に入学。夢や明快な進路を持つ同級生と比べ、逃げるためにやってきた八軒は鶏や豚、牛を食肉とする現実に直面する…映画化もされた酪農青春グラフィティー。

三守 『鋼の錬金術師』の荒川先生が次は「酪農」をテーマにした作品を?という時点で驚きましたし、壮大なファンタジーから高校生たちのヒューマンドラマまで幅広く描ける先生の才能に感動しました。
自分の将来に向き合う覚悟や命をいただくという食育の大切さも教えてくれる、すばらしい作品だと思います。  
この作品以降、酪農高校の受験生が増え、出てくる場所にも全国から観光客が押し寄せたと聞いています。漫画が地域コンテンツとなりうる大きなお手本を示してくれた作品です。
書店ナビ 進路や就職という視点では、エアーダイブさんも一般社団法人北海道建設業協会ほか3団体に協力し、若者を対象とした建設業界PRコミック『ただいま工事中!!』の建築工事編・土木工事編を制作されました。
コミックだからこそ縮められる”距離”はまだまだ、ありそうですね。

企業や業界団体からの依頼で作ったPR冊子。北海道ラーメンや数の子の普及、介護職の紹介など幅広い話題を取り扱う。



魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

僕だけがいない街
三部けい  KADOKAWA/角川書店

売れない漫画家・藤沼悟は、「再上映(リバイバル)」という特殊能力を持っていた。母親の死をきっかけに戻された先は、18年前の過去。少年に戻った悟が未来を取り戻すために、殺人事件の被害者である少女の運命を変えるべく孤独な戦いを始める。8巻完結です。


三守 読み始めたときは、特殊能力の漫画なのかな?と思っていたんですが、こちらの予想を覆す怒涛のサスペンス展開が待っていました。
狡猾な犯人は誰?悟が挑む戦いの行方は? 久しぶりにドキドキハラハラしながら漫画を読みました。
書店ナビ 物語の舞台は作者の出身地でもある苫小牧です。
三守 冬のシーンが丁寧に描かれていて、雪の大きさや温度感が登場人物たちの孤独やさみしさを一層際立たせています。
逆に、互いに心を通わせる場面で冬らしい小道具、マフラーや手袋を使ってあたたかな触れ合いを表現できるのは北海道の作家ならでは。せりふの随所にも「なしたの?」とか「~しょ」などの北海道弁が自然に使われています。

高校時代に(学校にナイショで)漫画家のアシスタントをしていたこともある三守さん。「描き手にはなりませんでしたが、編集者という立場で今も漫画に関わっていられるのがうれしいです」




肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

うしおととら
藤田和日郎  小学館

寺の息子である蒼月潮は、ある日自宅の蔵で一本の槍に縫いとめられていた妖怪「とら」を解放してしまう。その槍こそ、妖怪を滅ぼす「獣の槍」だった…。著者の藤田さんは旭川出身。本作が連載デビュー作という天才です!

三守 とにかく面白くて、昔から大好きだった作品です。
壮大なスケールの世界観と複雑にからみあう因縁。主人公の潮がいろんな人とめぐりあって成長し、縁をつむぎあわせていく姿に胸が熱くなります。
それに、潮ととらの”一人と一匹”の関係がすごくいい!
相棒のような、ときには反発しながらも、いじらしく感じるくらいの信頼関係にぐっときます。
ストーリーの中盤、潮のルーツを探るために北海道に訪れるシーンが描かれています。時計台に住まう雪女の話や洞爺湖を舞台にした戦いなど、道民にとってうれしいシーンが盛りだくさんです!  

「ここで描かれている札幌駅は今のステラプレイス札幌ができる前の駅ビルです」





デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

君に届け
椎名軽穂  集英社

陰気な見た目で”貞子”とあだ名を付けられている爽子。クラスでは浮いている存在でしたが、クラスの人気者・風早君と出会い、勇気を出して変わっていきます。何事にも一生懸命な高校生たちのピュアな気持ちにキュンキュンする大好きな少女漫画の一冊です。

書店ナビ 作者は北海道の羽幌町出身で、札幌在住。代表作である本作はアニメや映画にもなりましたが、残念ながら映画のロケ地は北海道ではなかったようです。
三守 原作の舞台は北海道のどことは明らかにしていませんが、北幌高校というネーミングや札幌の地名は出てきます。
風早君のかっこよさにときめき、それ以上に爽子の健気さに応援したくなる気持ちでいっぱいになります。北海道のおおらかさが育んだ、気持ちの優しいキャラクターたちに癒されること間違いなし! 




ごちそうさまトーク 実は漫画王国、北海道から発信!


書店ナビ 北海道出身の漫画家さんて、実は多いんですね。
三守 2013年に札幌芸術の森で開かれた「ほっかいどう大マンガ展」、ご覧になりましたか。あれを見ると、北海道からいかにたくさんの、しかもすばらしい漫画家さんたちが輩出されたかがわかります。
実は出展作家の中に私どもエアーダイブも加えていただきました。
「ピーアールが苦手」と言われる北海道からでも質が高くて意義がある漫画を作っていけば、きっと全国の方々に読んでもらえるはず。
漫画が持つポテンシャルをもっと発揮できるように、これからもいろんな企画に挑戦していきたいです。
書店ナビ 『札幌乙女ごはん。』の主人公そのままにいきいきと働く三守さんの地元愛&漫画愛を育んだ北海道漫画フルコース、ごちそうさまでした!
三守小百合さん
1980年札幌生まれ。漫画アシスタント、編集者を経験して2012年4月からエアーダイブへ。担当した『札幌乙女ごはん。』は地域振興コンテンツとして全国から注目を集め、JALパックツアーとのコラボ企画も実現した。











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