北海道書店ナビ

第621回 「ぷらっとBOOK」棚オーナー体験記 前編

[本のある空間紹介]
136棚が満床!北海道最大のシェア型書店「ぷらっとBOOK」
ライターの「棚オーナーになってみた!」体験記[前編]

札幌にできた棚貸しのシェア型書店「ぷらっとBOOK」。古書・新書・自費出版等の販売本のほかに店内閲覧用など多様な本が並んでいる。

[2025.7.14]

今年2月開店、全136棚が埋まり現在キャンセル待ち

シェア型書店の「中の人」になり、5カ月が経った。「ぷ」と打てば、「ぷらっとBOOK」と即座に出る単語登録も済ませている。
2025年2月1日に129枠(当時)の棚が並ぶ北海道最大規模のシェア型書店「ぷらっとBOOK」が、札幌都心の南4条東3丁目に誕生した。

企画運営の代表者は、子育て支援などの市民活動に取り組む札幌の星野恵さんだ。店が入る物件とはまるで導かれたような縁があった。書店ナビの過去記事で紹介しているので、始まりの物語を知りたい方はぜひそちらをのぞいていただきたい。

場所は札幌市中央区南4条東3丁目19番地。最寄り駅「地下鉄バスセンター前駅」6番出口から徒歩7分。画像は改装に着手したばかりの2024年9月2日撮影。

第607回 物件決定!札幌市のシェア型書店「ぷらっとBOOK」

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開店直後から始まったメディアラッシュの影響もあり、7月現在136枠に拡大した棚は全て埋まっている。今はキャンセル待ちの人もいるほどだ。
棚の賃料は店番ありの月額3300円コースと店番なしの月額5500円コースの2種類あり、本稿を書いている自分は前者を選択した。

開店5カ月間で店番を2度経験し、他の棚オーナーさんが企画したイベントにも参加して、ぷらっとBOOKを取り巻く人々も見えてきた。
そこで今回の北海道書店ナビは「棚オーナーになってみた」体験記を前後編に分けてお届けする。棚主仲間の方々にもご協力いただいた。

本稿をまとめながら”シェア型書店とはどんな空間なのか?” “棚オーナーになるのはどんな人たちか?”の答えを皆さんと一緒に探っていきたい。

星野家がDIYで作った書棚は1枠32cm四方。借主がどの場所を選ぶかは早い者勝ちだった。

自費出版本を見てもらう固定の場所が欲しかった

シェア型書店の大きな特徴の一つは、商材である本を各棚の借主が自由に選書するところにある。
136棚あるぷらっとBOOKでは(2枠借りている人やグループで1枠借りている棚もあるため)130人前後が選んだ本の売買が行われている。図書館ではないため無料の貸し出しはしていない。

7月1日に撮影。全棚が借りられ、見応えのある空間になった。

2024年冬から棚オーナー募集の告知がSNSやnote、クラウドファンディングを通じて始まり、すぐに申し込むと利用規約が送られてきた。

そこに記載されている「商品陳列・出品に関するルール」には著作権を侵害するものや公序良俗に反するものへの禁止条項などが明記されており、どれも「ですよね」と納得できる説明ばかり。
だが正式に賃貸契約を交わしたことで改めて「守らないとな」という気持ちが湧いてきた。

自分が書店の棚オーナーになるのは北18条にあるSeesaw Books、西線6条駅そばのラボラトリー・ハコに続いて3度目になる。
屋号はずっと「Sandy Books」。海外小説『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(ハヤカワepi文庫)からとっている。
棚を借りたら一番売りたい本は、2022年から取り組んでいる自費出版の本だった。書店流通をしていないため、販路はSNS経由の直接販売か文学フリマ札幌などのイベント販売のみ。

1冊でも多く売るには「ここに行ったらありますよ」といえる固定の販売場所が欲しかった。フリーランスの自分を知ってもらうきっかけにもなるため、毎月3300円の家賃は必要経費だと考えた(売上の話は本稿の後編で)。

ライターの自費出版本。札幌のデザイナーや印刷製本会社とワイワイ作るのが楽しい。できて満足ではなく「売らないと」という切実な思いもある。

以前購入したzineを参考に棚紹介の小冊子を作っていくことにした。不器用なので工作しながら何度も心が折れかけた。

自分の棚開きは2月11日。SNSにこの画像をアップした。自宅の書棚からも読み終えた本を数冊ピックアップし15タイトルくらい並べた。

130人近くのLINEグループを仕切るスーパー星野さん

ぷらっとBOOKの棚オーナーになると専用のLINEグループに加入する。基本のやりとりは全てここで行われ、個別対応が必要なことが出てきたら管理人の星野さんと直接インスタなどを通してやりとりする。
グループメンバーは約130人(!)。毎日何がしかの投稿がある。メンバーが数十人の頃はこまめにチェックしていたが、3桁に近づくにつれ「メンバー全員に向けた@allのメンションがあるときだけ見る」という人がいても驚かない。LINEの通知をオフにしている棚主もいたりする。

棚オーナーは法人も大歓迎。家族やグループなどが共同で借りている棚もある。

それにしても圧巻なのは、それらの投稿すべてにまめに返信する運営サイドの星野さんだ。これが企業広報だとしたら100点満点中200点を差し上げたいくらいのスピード感。
できること・できないことのジャッジも明確で、店番の人が当日体調がすぐれず来れなくなっても必ず「お大事に」の一言を忘れない。
ご自分が答えを持っていないときはためらわずに聞き返すオープンさも見ていて気持ちがいい(そこから新たな決まりができていくこともある)。

これは勝手な憶測だが、星野家の4人の子育てや育児支援活動を通じて体得したグループワークのコツみたいなものが星野さんの中に蓄積されているのではないか。
しかも[上司と部下]でも[先生と生徒]でも[企業と消費者]の関係でもない、互いにアイデアを出し合い、失敗や反省を受けいれあう市民活動特有の「お互い様ですよね」という横並びの関係に慣れている。そんな気がする。
全国各地のシェア型書店運営者たちは棚オーナーとのやりとりをどうしているのだろうか。

店番シフトは申告制、基本は午後営業だが変則バージョンも

以前星野さんに聞いたことがあり、「棚主の9割近く」が店番ありコースを選択していることは知っていた。自分も含めて本屋体験に対する関心の高さがうかがえる。
運営側にとっても棚主店番制は常駐スタッフを雇わずに済むという利点がある。「店番がいる日に店を開ける」という、通常書店とは逆転の発想が面白い。

店番チームのメンバーは3、4カ月に一度出勤する。Googleカレンダーに希望日時を入力した順にシフトが決まっていく。
基本は13時から17時までの4時間営業だが、希望によって前後する日や短縮または延長バージョンもある。来店の際にはインスタにアップされているカレンダーをチェックしておくと安心だ。

開店3カ月ほどはメディア対応もあり、店に常駐していた星野さん。皆が慣れてくると水曜定休が決まり、星野さんが休める日も増えてきた。

自分の初回の店番は3月26日だった。営業開始の13時前に店に着く。当時は星野さんが毎日出勤してくれていたため、心強かった。マニュアルも用意されていたが対面で確認しながらレジを開ける。

画像の左奥がレジスペース。建物オーナーが残した電子ピアノも店内に置くことになり、フリーピアノもできる書店になった。

店番でわかる現金払いの安心感と伝票スリップの重要性

メインの仕事となるレジは現金払いオンリー。これにはかなりホッとした。万が一、カード払いやタッチ決済でトラブルが起きても一人で処理できる自信がまるでなかったからだ。
ぷらっとBOOK側があらかじめ用意した釣り銭の中でやりとりをする。数百円の本に一万円を出されると内心「おっ」と思ったりして、レジに立つ身を経験することも勉強になる。

そしてここでひときわ重要性を実感したのは、売り物である全ての本に挟むスリップだ。一般書店でも使っているスリップとは、売上伝票のこと。レジや売上管理が全て手作業で行われているぷらっとBOOKでは、どの棚から何という本がいくらで売れたかをスリップ一つで把握している。

棚番号と店名、本のタイトル(正しく書くこと)、値段を明記すること、どの本にも挟み忘れないことの大切さが、店番をやってみて改めて実感できた。スリップ、マジ大事なのである。

スリップ用紙は自由。ぷらっとBOOK側が用意したフォーマットもあるが自分は家にあった紙を切って使っている。

後編は棚オーナーたちの「なぜ棚主に?」「売上は?」

営業中は「ここ、本屋さんですか?」と不思議そうに入ってくるお客様にちょっと誇らしげに概要を説明したり、本の補充に来た他の棚主たちに「何番さんですか?」と挨拶がわりに声をかけたりして親交を温めた。
絵本に詳しい棚主さんが来店し、ちょうど絵本を探している男性客に頼まれてアドバイスするという光景も見られ、4時間のシフトが終わった時は心地良い疲れに包まれていた。

運営サイドが「◯◯さん、まだ店番をやってないですよ」と個別に声をかけることはなく、ぷらっとBOOKは基本「性善説」(星野さん談)に基づいて回っている。
実際のところ6月は本来定休日のはずの水曜も全てシフトが埋まり、7月のお休みは1日のみ。開店1年目ということもあり、棚主たちのやる気がとにかく熱いぷらっとBOOKなのである。

体験記後半はこちらの棚オーナーさんたちの話をお届けする。「なぜ棚オーナーに?」「置いている本はどんな本?」「今まで何冊売れました?」

以上、シェア型書店の仕組みを一通り紹介したところで棚オーナー体験記の前編を終了する。後編は棚主たちのリアルな声や日常化する市民型ブックイベントについても言及している。どうぞお楽しみに!

この階段状の窓が目印。イラストは棚オーナーでもあるイラストレーターのマット和子さんが描いてくれた。

ぷらっとBOOK

札幌市中央区南4条東3丁目19
基本は13:00~17:00営業、水曜定休だが日々変わるので
インスタでカレンダーチェックがおすすめ。
最寄り駅は東西線「バスセンター前」6番出口から徒歩8分。
https://www.instagram.com/prattobook/

執筆 ライター佐藤優子

第622回 「ぷらっとBOOK」棚オーナー体験記 後編 – 5冊で「いただきます!」フルコース本 北海道書店ナビ

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