未来屋書店桑園店 今野託店長の「#GoTo読書」おすすめ本は大阪を舞台にした『プリンセス・トヨトミ』(大阪府)と北海道「朝日河市」の本屋さんを描くコミック『キューナナハチヨン』。
[2021.3.15]
旅行や出張等の移動が制限されるコロナ禍で「想像の旅」に誘ってくれる書店発の読書フェアが、じわじわと広がっている。
火付け役は未来屋書店石巻店のTwitter担当者、成田開生さん。「作家さんと本好きさんをつなぐ売り場をつくりたい」という思いで、2020年11月27日にTwitterで各都道府県を舞台とした作品を募集した。
SNSの中でもサブカル気質の強いTwitterは書店員や作家、読者層と親和性が高く、本や書店を応援するネットワークが各所で出来上がっている。
今回の未来屋書店石巻店のつぶやきも「1週間もたたないうちに作家さんらから100件を超えるエントリーが集まり、”いいね”は1,800件を超え」(未来屋書店公式サイトより)情報が拡散されていった。
集まったご当地本の発注を終えて売り場が完成した2020年12月28日、石巻店から「GoTo読書」フェアがスタート。さらに翌日続いたのが札幌市の桑園店だった。
聞けば、桑園店の今野託店長は石巻店の尾張早矢香店長が発寒店時代に部下だったこともあり、「一緒にやらない?」と声をかけられすぐに賛同したと言う。
「自分たちだけで企画したらきっとここまで大きな反響は得られなかったと思います」と語る今野店長。「読書で旅心を満たすコンセプトが支持されただけでなく、Twitterユーザーを巻き込んだ参加型企画であったことがここまでハネた要因なのでは」と振り返る。
「GoTo読書」対象本には共通の青い帯が巻かれている。約370タイトルのリストは未来屋書店の公式サイトからもダウンロードできる。画像は現在の桑園店。
ハッシュタグは「#GoTo読書」。Twitterでは今も多くの「この本を買いました」投稿が続いている。
「GoTo読書」のラインナップは新刊だけに限らない。若手作家のライトノベルや既刊本も含まれる。
2020年10月に『小樽おやすみ処 カフェ・オリエンタル』を発表した道内在住作家の田丸久深(たまる・くみ)さんも、同書に加えて札幌を舞台にした『眠りの森クリニックへようこそ』(2019年初版)と『YOSAKOIソーラン娘 札幌が踊る夏』(2017年初版)の3冊が、「GoTo読書」リストに載っている。
「GoTo読書」は以前からフォローしていた未来屋書店石巻店のつぶやきを見てすぐに知り、自著の3冊を推した。
「自薦でも他薦でもOK、とあったのでエントリーしやすかったです」
『小樽おやすみ処 カフェ・オリエンタル』の初校が出た2020年の2月末は、札幌市民に市外への移動を自粛要請する緊急事態宣言が発令された頃。「本当はもう一度小樽に行きたいけれど、今移動するのは…」と葛藤したこともあったが、3月19日の緊急事態宣言解除後は札幌市が勧める万全のコロナ対策をして単独で小樽を再訪。悔いのない校了を迎えることができたと言う。
田丸さんのように2020年に新刊が出た道内の作家たちは、その後も予断を許さない北海道および札幌市の「警戒ステージ」の発表にその売上が大きく左右されたに違いない。
店頭に並んだ新刊を見てくれるお客がいないまま、発売3、4カ月後にはまた次の新刊に入れ替わる…。
そうした不運な旧”新刊”本に再び注目を集める意味でも、書店独自のフェアには意味がある。
実際、田丸さんの『小樽おやすみ処 カフェ・オリエンタル』は2021年3月現在、桑園店の「GoTo読書」フェアで最も売れていることを本人に伝えると、「うれしいです!こうしてまた店頭に並ぶチャンスをいただけて本当にありがたいです」と声を弾ませた。
「私自身が旅行好きなので、この一年はストレスがたまるばかり。今はせめて本の中で旅行を楽しみたくて」桑園店で東京、京都、福島、栃木を舞台にした本を購入。一読者としても「GoTo読書」企画を満喫しているそうだ。
今はガイドブックが動かない分、桑園店では北海道にまつわる雑学系やドキュメントバラエティ「セブンルール」に出演した看護師であり写真家の半田菜摘さんの写真集『ピリカ』が売れている。
直木賞作家・桜木紫乃さんの直筆サイン本も手に入る。
北海道の野生動物をリアルに描写するブランド「エゾニマル」のトートバッグや愛らしいシマエナガグッズも取り扱い中。
当初は企画発祥の宮城県や札幌市中心だった「GoTo読書」実施店舗は、「Twitterのあの企画はこの店ではやらないんですか?」と言うお客からの問い合わせも後押しし、現在は全国の未来屋書店で拡大中。
3月1日からは桑園店で新たにコミックに特化した姉妹企画「#コミックでGoTo読書」も始まった。こちらもTwitterでご当地コミックを募ったところ、約250タイトルの情報が寄せられた。3月以降、札幌市内の手稲山口店や旭川西店など実施店舗が着々と増えている。
桑園店から始まった「#コミックでGoTo読書」フェア。地名が書いてある黄色い帯が目印。
なじみのない都府県もコミックを入口にすれば親しみがわきやすい。「いつか行きたい」場所と出会えそうだ。
全国47都道府県以外にも「離島」や「複数県」「異世界」「特地」といったくくりもある。
現在、未来屋書店の公式サイト内「GoTo読書キャンペーン」ページでは「全国の書店さま・図書館さまへ」と題して同企画の作品リストおよびPOPデータを公開中。
「参加いただける書店さまや図書館さまのご都合にあわせてご展開ください」と呼びかけている。
これに応じて茨城県行方(なめがた)市立図書館や神奈川県大磯町立図書館、三省堂書店神保町本店が続々と参加を表明。作家、書店、読者の立場を超えて互いにエールを送り合う様子がSNSに飛び交っている。
雪国は長い冬が過ぎ、季節は春に向かう。桜前線とは反対かもしれないが、北から始まった読書前線が全国に広がりますように。
私たちをどこにでも連れて行ってくれる旅の扉は、いつでもあなたが開いてくれるのを待っている。
©2024北海道書店ナビ,ltd. All rights reserved.