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第491回 絵本作家かさいまり先生講演会レポート

会場の俊カフェオーナー古川奈央さんと一緒にぱちり。かさいさんが持っているフェルトの「サン」は知人のお手製。冠はかさいさんが自作した。

[イベントレポート]あの「むかわ竜」が主人公!
「きょうりゅうのサンシリーズ」2作目を発表
絵本作家かさいまりさん講演会レポート

[2020.10.5]

むかわ町穂別で発見!「カムイサウルス・ジャポニクス」

日本でただひとつ、「恐竜ワールド戦略室」という部署があるまち、北海道むかわ町。
町内の穂別地区で国内最大の恐竜全身骨格が発見されたことは記憶に新しく、2019年、それらの化石は新属新種の植物食恐竜ハドロサウルス科であり、「カムイサウルス・ジャポニクス」(アイヌ語で「日本の竜の神」の意味)と命名されたことが発表された。

通称「むかわ竜」と呼ばれる世紀の大発見に町はわき、恐竜を全面に打ち出したまちづくりが進むなか、関連絵本も出版された。
それが『きょうりゅうのサン いまぼくはここにいる』。同町出身で東京在住の絵本作家かさいまりさんが文章を担当した。

きょうりゅうのサン いまぼくはここにいる
文 かさいまり 絵 星野イクミ  アリス館
監修は「むかわ竜」の発掘をけん引した北海道大学総合博物館の小林快次教授。巻末に穂別博物館の解説も載っている。約7200万年前にくらしていたきょうりゅうのサンが海におわれ、「いまここにいる」までのおはなし。


そして2020年9月には「きょうりゅうのサン」シリーズの2作目『きょうぼくはなまえをもらった』が発売され、札幌市清田区里塚にある絵本屋南風の店主・出町南さんがかさいまりさんの原画展や講演会を企画。
9月28日月曜の18時半からは札幌市中央区の俊カフェでも約2時間の講演会が行われた。

むかわ町に小学2年から中学2年まで暮らしていたかさいさんは、小樽女子短期大学英文科、北海道芸術デザイン専門学校を卒業。結婚を機に上京し、絵本作家デビューを果たした。

この日の講演タイトル「心のゆれを絵本にして」にあるように、作品づくりのテーマは「さみしい、うれしい、かなしいという大人にも子どもにも共通する心のゆれ」。大人同士の会話から「話の種」を見つけることが多く、そこからアイデアを膨らませて、誰もが共感する物語に落としこんでいく。

現在100冊以上にも及ぶかさいさんの絵本は中国や韓国、台湾、フランスでも翻訳されており、なかでもドールハウスのような世界観が楽しめる『とくべつないちにち』(ひさかたチャイルド)は中国とタイの子どもたちにも読まれている。

子どもたちが喜ぶ仕掛けがいっぱいの『とくべつないちにち』。気になる登場人物がどこにいるかを探す「絵探し」も楽しい!

翻訳出版を手がけたタイの出版社Nanmee booksが立ち上げた生涯学習施設「Go Genius Learning Center」には、J.K.ローリングやパウロ・コエーリョなどの「世界の著名な作家」をテーマにした宿泊棟があり、部屋ごとに異なる内装で来訪者を迎えている。
そのラインナップにかさいさんの『とくべつないちにち』も加わることが決まったといううれしいニュースが、講演会で明かされた。これから詳細を詰めていくという。

「いい絵本をつくりたいから」作画に執着しない編集者志向

絵本作家というと《絵をかくひと》あるいは《絵と文もかくひと》という印象が強いが、かさいさんの場合、キャリアを重ねるにつれ徐々に《文》に軸味を置いていったところが、大きな特徴になっている。

「いい絵本をつくりたいので、自分の絵よりも他の作家さんの絵がいいと思ったときは、ためらわずに編集者に相談します。自分の絵で描きやすい物語だけをつくるようになっては、作品の幅が広がらなくなってしまいますものね」

また「主人公を動物にするか、ひとにするかもメッセージの深さによって変える必要がある」と語るかさいさん。
初期の代表作『ぼくとクッキー さよならまたね』や『ぶひぶひこぶたものがたり』などの愛らしい動物作品も多いが、近年は小樽が舞台の『きくち駄菓子屋』や『ムカッ やきもちやいた』などひとが主人公の作品が目立ち、シビアなテーマを扱うほど、ひとを介して読者の共感力を高めていく。
こうした「画家というよりも編集者志向」で作品を客観的に見つめる姿勢が、各社の編集者から厚い信頼を集めているのではないだろうか。

「むかわ竜」をモデルにした『きょうりゅうのサン いまぼくはここにいる』も、当初は町から絵と文の両方を依頼された。だが物語を考えていくうちにかさいさん自身が「7200万年前のむかわ竜が海に眠っていたという壮大な時の流れを描ける方に絵をお任せしたい」と提案し、関係者を驚かせたという。

結果、のびやかなタッチで知られる京都在住の絵本作家・星野イクミさんに依頼し、「この方にお願いして大正解でした」という納得の仕上がりに。
監修は発掘に関わった北大総合博物館の小林快次先生が担当し、「サンの友達で出てくるアンモナイトの巻き方が違う、とか専門的な指摘を受けて、星野さんは大変だったと思います」。

この1冊目はむかわ竜発見に盛り上がる町からの依頼だったが、2020年9月に発売された2冊目『きょうぼくはなまえをもらった』はかさいさんと出版社の持込み企画。
卵からかえったサンが両親に自分の名前をつけてもらうまでの物語を綴った。

「みなさん、自分の名前の由来をおとうさん・おかあさんから聞いたことってありますよね。でもその意味を知っても、どうやってつけたかとか名前をつけた日はどういう日だったとか”プラスアルファ”まで知っているひとは、案外少ないと思います。そのプラスアルファこそが、子どもたちの心にいつまでも残るはず」と、かさいさん。命名でつなぐ家族の情愛を絵本にした。

きょうぼくはなまえをもらった (きょうりゅうのサン)
文 かさいまり 絵 星野イクミ  アリス館
2020年9月18日発売。監修は引き続き、小林教授が担当。「巻末にすごく素敵な文章を書いてくださいました」(かさいさん)。


この日、「自分も絵本をかいてみたい」という女性が客席にいたことからかさいさんは丁寧に絵本論を展開。
「絵本の力は心を開放すること。いくつになっても自分にとって大事な一冊を見つけることが大事」と語り、その大事な一冊をキャッチできる感性を磨くことの重要性もうったえた。

「不思議なことに、なにか困りごとがあるときはそれを解決してくれるような本と出会えるもの」というかさいさんの一言に深く頷いたのは、会場である俊カフェのオーナー古川奈央さんだ。
詩人・谷川俊太郎氏の著作を500冊以上揃える俊カフェでも、「詩や谷川作品にあまり触れたことがない」という来店者が、なにげなく選んだ一冊からいまの自分にぴったりのことばを発見していく場面が多々あるという。
「必要なことばが不意に目の前に現れるのは、詩集も同じです。大人になっても宝物になる一冊を持っていてほしい」と言葉を継いだ。

講演会後、参加者に感想を聞いた。前述の絵本づくりに関心がある女性は「話の種や主人公の設定の仕方など、絵本の作り方がわかってとても勉強になりました」。
『きょうりゅうのサン いまぼくはここにいる』をオンラインのお話会で読んだことがあるという学校司書の方は「絵本をすすめたい子どもたちに自信を持って絵本の力を伝えられるお話を聞けてよかったです」。
それぞれの心に響いたことばを持ち帰った

●かさいまり

●絵本屋南風

●俊カフェ

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