2008年1月に刊行した写真集『定山渓鉄道』(北海道新聞社)は久保さんが関係者への取材や貴重な資料収集も手掛けた渾身の1冊!
[2019.11.4]
書店ナビ:札幌生まれ札幌育ちのフォトグラファー、久保ヒデキさん。高校時代は新聞局で記事を書き、専門学校ではグラフィックデザインを専攻。
イラストも描けるマルチな才能を磨く一方で、肝心の写真を始めたのは先生から写真スタジオのアルバイトを紹介されたのがきっかけだったとか。
久保:そうなんです。既存のモノクロ写真にエアブラシで色を付ける作品に取りかかっているうちにだんだん自分でモノクロ写真から撮りたくなってきて。
2年間のグラフィック科を修了したあと、写真科に入り直したというのもあって先生がバイトの口を紹介してくれたんだと思います。
卒業後は広告写真スタジオでプロの現場を学び、独立したのは91年、31歳のときでした。
書店ナビ:ポートレイトや取材の人物撮影、料理・商品などの広告撮影と幅広く活動されている久保さんは、鉄道愛好家の顔もお持ちです。
以前書店ナビにご登場いただいた永山茂さんが代表を務める愛好家団体「北海道鉄道観光資源研究会」の副代表でもいらっしゃいます。
久保:永山さんとはほぼ同世代で、小学生のときにSLブームが到来し、父親のカメラ(オリンパスでした)で車両や駅を撮る少年時代を過ごしたところも一緒です。
私は中学生から既に廃線になっていた定山渓鉄道にハマりまして、資料を集めたりブログで発表していくうちにいつの間にか「定山渓鉄道のことなら久保」と言っていただくことが増えていった。
そして旅行会社にお勤めの永山さんが2013年に企画した「廃線探訪ツアー」でガイドとして定山渓鉄道をご案内した縁で北海道新聞社さんともつながり、「本、出しませんか?」という流れに至ったというわけです。
中学生だった久保さんが撮影した昭和40年代の豊平駅。よく見ると右上部にカメラのひもが写りこんでいるところも微笑ましい思い出の一枚。
書店ナビ:手塚理美さん、めちゃめちゃかわいい!「少女だった」というタイトルも刺激的ですし上半身ヌードもあったりして昭和50年代のおおらかな時代の空気を感じます。
久保:これは僕が駆出しの頃、初めて自分の意志で買った写真集です。手塚さとみのファンだったから手に取ったというのもありますが、素直に「こういうポートレートスナップを撮れるようになりたいな」と思わせてくれた一冊。師匠がブツ撮りが多い人だったので、他のスタジオでモデルとか人を撮っている同世代のやつらがうらやましかった(笑)。
この写真集は彼女が芸能界デビューしたての頃から二十歳くらいまでを撮ってるんじゃないかな。時間をかけて被写体との信頼関係を築いていくという意味でも学ぶところがある写真集です。
デザインができる久保さんはポートレートの見本誌も自分で制作。駅や鉄道とモデルをからめたカットもあるのが「久保スタイル」だ。
久保:《前菜本》の『少女だった』で手塚さとみが生身の自分をさらしているとしたら、こちらの宇井さんの作品集はありのままの光で、被写体のありのままの姿を描いている。そこに心を揺さぶられます。
よく「写真は瞬間は切り取るメディアである」と言われていますが、宇井さんの写真からはその一瞬の前後に延びる「ストーリー」が伝わってくる。だから見る人を引き寄せるんだと思います。
書店ナビ:確かに、どのページを見ても被写体が今にも動き出しそうな躍動感を感じます。
久保:自分も目指したいと思う境地です。それと個人的に嬉しいところは宇井さんも実は”鉄子さん”で、東京の廃線跡を撮った作品集『眠る線路』を出してるんですよね。東京で開かれた個展を見に行きました。
久保少年の思い出アルバムより。1970年代の北海道は全国で次々と消えて行ったSL最後の”聖地”だった。その勇姿を残そうと鉄道好きは大人も子どもを目を輝かせてシャッターを切った。
書店ナビ:ヘアヌードばかりが話題になりましたが、今あらためて見直すと1本のショートフィルムを見ているような濃密な世界観に引き込まれますね。
国内のヘアヌード写真集出版の突破口を開いた本作。樋口可南子は当時30代前半。
久保:《前菜》《スープ》から一転して、この『water fruit』は徹底的に光を作りこんでいる作品集。影の出方を見れば一目でわかります。「写真を作るのは光である」ということを痛感させられます。
出版年の1991年は僕が独立した年であり、あの頃は「いいな」と思う写真を見たら「どうやったら同じ光を作れるか」を知りたくて必死に勉強したものです。
今撮影していても気分的にすごくノッて撮れるのはたいていライトが”きまった”とき。経験を積んでいくうちにそのベストポジションを見つけるまでの時間がだんだん短くなっていくんだと思います。
書店ナビ:ヌード写真のように被写体がプレッシャーを感じるような現場では”早く撮る”ことも大事になってきそうですね。
久保:だと思います。被写体を不快にさせないというのは無論当然のことですが、できるだけ不要な時間をかけずにいいカットをテンポよく撮るのが理想。そのためにも被写体をよく見ることが重要です。
書店ナビ:白鳥さんといえば、広告写真の大家のお一人。この「貌」シリーズで2冊の写真集を出しています。あとがきを読むとご自分でレタッチしているネタバレもあり、ちょっと意外でした。
特におおげさなポーズをとっているわけでもないのに、ページごとに現れる「貌」から目が離せません。
久保:出てくる著名人、特に役者さんは役を離れた素の自分というか、白鳥さんが思い描く”その人らしいイメージ”を、一人一人のモデルを見ながら向きや光を細かく替えて撮影していると思います。
顔をアップで撮るという構図は他の人もやっていることですが、白鳥さんの写真は、たとえ被写体がカメラをにらみつけていてもどこかやさしい感じがして好きなんです。
結局のところは、いかにモデルを見つめて、どこに光を当てていくのか。光をコントロールする写真論に収斂されていくのだと思います。
書店ナビ:フルコース中、唯一の洋書です。
久保:確か、『VOGUE』を読んでいて知ったんだったかな。表紙にすごく惹かれて国際郵便で取り寄せました。
「ピントがあっていないカットもあれば、もっと暗くて被写体が写っているかどうかもわからないカットもある(笑)」
久保:なのに透明な世界観が統一されていて、すべてが味になっている。
こういう仕事、いつか自分もしてみたいです。
書店ナビ:少女、アイヌ、女優、貌、ヌーディストたち……多彩なポートレート写真集のご紹介ありがとうございました。
ここで再び、久保さんの代表作『定山渓鉄道』の話題に戻りましょう。届いたばかりのニュースによると、豊富な内容が鉄道写真集という枠組みを超えて郷土史的な役割も果たし、『定山渓鉄道』は鉄道友の会が選定する2019年「島秀雄記念優秀著作賞」(単行本部門)を受賞されました!おめでとうございます!
久保さんが参照した桐原酉次著『定山渓鉄道』。
中学生だった久保少年に定山渓鉄道関係者が惜しまず資料を提供し、それを久保さんが大切に保管しておいたことが本書の充実度を支えている。
久保:ありがとうございます。定山渓鉄道については以前からブログでも発信してきましたが、こうして紙の媒体にまとめられただけでもうれしかったのにありがたい賞までいただいて…望外の喜びです。
奥の2冊は久保さんがフィルム写真のデータ化や画像処理を担当したもの。「僕としてはこの3冊をあわせて、自分の《鉄道本三部作》。今回評価していただいたモノクロ写真のカラー化は今後も手がけていきます」
書店ナビ:ポートレートと鉄道愛の2本のレールで写真集の魅力を語っていただいた久保さんのフルコース、ごちそうさまでした!
1960年札幌生まれ。広告写真スタジオ勤務ののち、1991年より独立。1996年にAPA入会。撮影対象の幅広さと画像処理もできるアートワークが持ち味。ライフワークとして2013年1月よりエゾリスの撮影に取り組み始め、エゾリーナ®(登録商標6094284)のニックネームで写真展やオリジナルグッズを製作・販売。北海道鉄道観光資源研究会副会長。
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