北海道書店ナビ

第409回 紙芝居家「緑ぱんだ」こと 谷内広美さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.145 紙芝居家「緑ぱんだ」こと 谷内広美さん

「決められなくて」と2種類のフルコースを作ってきてくれました!取材協力/北海道鉄道観光資源研究会

[本日のフルコース]

オリジナルの鉄道紙芝居もつくっちゃう!

“ひーさん”の鉄道愛が走らせる「鉄道絵本」フルコース

[2019.1.14]

書店ナビ 過去にも絵本のフルコースはありましたが、今回は「鉄道絵本」バージョン!

北海道を代表する鉄道愛好家団体「北海道鉄道観光資源研究会」のメンバーであり、現役の保育士でもある谷内広美さんが作ってくれました。
谷内 私が生まれた長沼町は北海道で数少ない鉄道駅がないまちで、移動の大半はバスだったんです。

そうしたら祖父母が「汽車の乗り方を知らないと大きくなったら困る!」といって、長沼町から岩見沢市までバスで行き、帰りは汽車に乗って駅弁を買って帰ってくる、なんていう小旅行を計画してくれたことを今も覚えています。
書店ナビ 素敵な思い出ですね。紙芝居を始めるきっかけは?
谷内 長沼町や栗山町で保育士として働き、絵本の読み聞かせは日常的にしていたんですが、そのうちに人が作ったものを読むのではなく自分の創作活動がしたくなったんですね。

オリジナルの紙芝居を2本作って、札幌のパフォーマンスイベント「だい・どん・でん」で紙芝居家「緑ぱんだ」でデビューしました。

「緑ぱんだ」の命名は、北海道に緑のぱんだがいたら面白いだろうな、と思って。



いま所属している北海道鉄道観光資源研究会のことは、長沼コミュニティ公園に保存されている旧夕張鉄道の蒸気機関車25号機を塗装し直すプロジェクトで知りました。

鉄道ファンってちょっと偏ったイメージがあったんですが、うちの会はオープンマインドな永山茂代表のお人柄もあって、みなさん明るくてやさしい人ばかり。

研究会に入ってから、紙芝居や読み聞かせでも新たな道が開けました。
書店ナビ 新しい活動については、のちほど「ごちそうさまトーク」でお聞きしますね。



さて今回は、「どうしても選べないのでそちらで選んでほしい」という谷内さんが2種類作ってくださった鉄道絵本フルコースですが、どちらも大変すばらしいので、まずは「実在する鉄道が主役のリアルバージョン」を、ご紹介し、続けて「絵本作家の想像豊かなファンタジーバージョン」をご紹介します。
[本日のフルコース]

オリジナルの鉄道紙芝居もつくっちゃう!

“ひーさん”の鉄道愛が走らせる「鉄道絵本」フルコース




前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

しゅっぱつしんこう!

山本忠敬  福音館書店


作者の山本さんは『しょうぼうじどうしゃじぷた』や『パトカーぱとくん』を描いた、日本の乗り物絵本界の神様のような人。1982年発刊のこの本にはもう運行していない列車も出てきますが、いまも大人気のロングセラーです。


書店ナビ 絵本の構成は、実にシンプル。都会の駅から乗った家族が山間を通って田舎の駅に下りるまでを、途中の急行列車や普通列車の乗り換えを含めて描いています。
谷内 なにか特別なことが起きるわけではないんですが、その列車から見える風景を克明に描いているところがすごいんです。車両も含めて、一言でいうと「本物」が描かれている。だからいつまでも魅力が色あせないんだと思います。この間も2歳の男の子に「ひーさん(”広美”なので谷内さんは子どもたちにそう呼ばれている)、これ読んで」とねだられました。



ぜひ見比べてほしいのは1ページ目の都会の改札と、おしまいの田舎の改札。「おかえり!」という声が聞こえてきそうなラストにほっこりします。


スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

でんしゃにのったよ

岡本雄司  福音館書店


何色も重ねた木版画で表現された独得の色使いや、やわらかい雰囲気が大好きな1冊。おかあさんと一緒に電車に乗っている男の子の姿に、年中や年長の子どもたちは自分を重ねて旅をしているようです。


書店ナビ 作者の岡本さんは1971年生まれ。千葉県のローカル鉄道、小湊鉄道や都内の四ツ谷駅を題材にした木版画も手がけ、2009年に出版された本書が絵本デビュー作です。
谷内 主人公が乗っているルートは、静岡県の大井川鐵道から東海道新幹線に乗り換える旅。ページを開いていくとわかりますが、主人公以外の登場人物には顔のパーツが描かれていないんですね。なので読んでいる子どもたちはなおさら、主人公の男の子に感情移入しやすいんだと思います。



車掌さんが出てくるページになると、小さい声で「きっぷをはいけんします」って自分でつくったせりふを言うコもいます。たまりません。

行く街並みも書店や時計店があり、昭和のなつかしさが漂う。



魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

しんかんせんでいこう

間瀬なおかた  ひさかたチャイルド


新幹線大好きな私がジャケ買いした絵本です。日本地図をたどっていくと、全国の新幹線プラス各地で運行している列車たちが出てくるので、すみずみまで目が離せません。しかも前からも後ろからも読める仕掛けが秀逸!


谷内 はじめにお話ししたように私は鉄道駅がないまちで育ちましたから、テレビで見る新幹線は憧れの乗り物でした。
しかもこの絵本の表紙は、北海道新幹線「はやぶさ」「はやて」のH5系!メディアの露出が多いE5系ではないところがポイントです。

車両だけでなく観光名所や特産物のイラストも随所に描かれている。




書店ナビ 北海道から九州まで日本列島の地理・地形がわかり、鉄道に詳しくなくても楽しめますし、めちゃめちゃ勉強になりますね!
谷内 そうなんです!お子さんが乗り物好きだと必然的に親御さんもその趣味につきあうことになりますよね。この絵本を読み聞かせに使うと、「私にもわかりやすいし、すごく勉強になるから買います!」といって喜んでくださるおかあさんがたくさんいます。



しかもこの絵本の副題に「日本列島 北から南へ」とありますが、実は右開きだと北海道から九州へ南下し、裏表紙から読む左開きにすると九州から北海道へ北上する構成になっている。すごいですよね。ぜひご家庭に置いてほしい傑作です。

「北から南へ」と「南から北へ」の2枚の扉絵を比べると、登場人物の旅の目的がわかる仕掛けも楽しい。




肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

ながい ながい かもつれっしゃ

溝口イタル  交通新聞社


著者の溝口さんは雑誌『旅の手帖』や『散歩の達人』などで作品を発表してきたイラスト・ルポライター。2013年に本書と同じく交通新聞社から出した絵本『しあわせのドクターイエロー』で絵本デビューしました。



書店ナビ 交通新聞社という存在を初めて知りました。JR時刻表や『旅の手帖』『散歩の達人』、そして乗り物絵本や図鑑など子どものための本もたくさん出版している会社なんですね。
谷内 はい、この絵本も同社が出し続けている「でんしゃのひみつ」シリーズの第6弾で、タイトルどおり「かもつれっしゃ」に特化した内容。私も日々、子どもたちと接しているので伝わってくるんですが、最近子どもたちの間で「貨物」人気が熱いんです!

人を載せない貨物列車は普段なにを運んでいるのか、駅に着いたらどうなっていくのか。貨物列車について本当に詳しく、わかりやすく見せてくれるので、子ども大人もも楽しめる最高の絵本です。

コンテナの中の荷物の積み方も、うちの研究会のメンバーに見てもらったら「間違いない、この業界ではこう積んでいる」とお墨付きをもらいました。

本書は第11回住田物流奨励賞「特別賞」受賞作品。「貨物列車の人気モノ『金太郎』と『桃太郎』も登場します!」





デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

でんしゃがきた

竹下文子作・鈴木まもる絵  偕成社

人気汽車絵本シリーズ『せんろはつづく』の竹下・鈴木夫婦コンビが、現役で運行しているさまざまな列車を描いた作品です。列車はもちろんのこと、列車が走り抜けていく情景や人々の表情もあたたかくて、胸にしみいります。


谷内 鉄道絵本ですが、この絵本のもうひとりの主役は細部まで描き込まれている「情景」だと思います。絵本が出たのは東日本大震災から2年過ぎた2013年で、最後のページに描かれているのは大きな被害にあった岩手県の三陸鉄道。いつわりのない現状が静かに描かれていて、ぐっときました。



現在の三陸鉄道は北リアス線と南リアス線が復旧し、両者間をつなぐ旧JR山田線は運休中ですが、2019年3月にはJRから三陸鉄道に移管された宮古駅~釜石駅間が開通し、久慈駅から盛(さかり)駅までが1本につながります!

この絵本のラストページを見て、「乗りに行かなきゃ」と心に誓いました。

今回は谷内さんからもう1本!「年少さんや女の子も楽しい!ファンタジー鉄道絵本」フルコース

サラダ 『かん かん かん』

のむらさやか文・川本幸制作・塩田正幸写真 福音館書店
「簡単な言葉と楽しい立体イラストで見せてくれる写真絵本。”かん かん かん”と一緒に読んでくれる子どももいます。赤ちゃんの汽車絵本デビューにぜひ!」



車両もよく見るとスプーンとフォーク!とにかくかわいくてワクワクする!


スープ 『でんしゃがきました』

三浦太郎  童心社
「鉄道絵本でもこれなら女の子もくぎづけです!動物と大好物の組み合わせで次々とおいしそうな車両がやってくる、食いしん坊車両のフルコース。ラストが大好きです」



「やさいたっぷりでんしゃ」にはウサギさんが乗車中。「どれが食べたい?」と会話も弾みそう。



おさかな 『ノラネコぐんだん きしゃぽっぽ』

工藤ノリコ  白泉社
「大人気の『ノラネコぐんだん』シリーズは大人が読んでも大笑い!悪さばっかりするネコたちがやんちゃな子どもたちと重なります(笑)。石炭を入れる場面もあり、石炭を知らない世代に伝えたいですね」




おにく 『こんとあき』

林明子さく  福音館書店
「私の絵本人生のベストワン。あきちゃんとキツネのぬいぐるみのこんが汽車に乗って、遠く砂丘があるまちにいるおばあちゃんを訪ねます。もう、あらすじをなぞるだけで涙が……。国宝にしてもいい、愛しくてやさしい一冊です」




アイス 『おばけでんしゃ』

文・内田麟太郎 絵・西村繁男  童心社
「作品名にひとめぼれ!子どもたちはコワくてもおばけが大好き。もしかすると、おばけでんしゃって本当にあるのかも?なんてドキドキしてしまう、ひんやりした結末をお楽しみください」



実際に読み聞かせしてくれた谷内さん。「くらやみえきー くらやみえきー」、低くおさえた声音で雰囲気を盛り上げる。





ごちそうさまトーク 3日間で100回近くの読み聞かせを敢行!


書店ナビ 2018年11月23日から3日間、JR岩見沢駅で「岩見沢鉄道模型祭」がありました。主催はもちろん北海道鉄道観光資源研究会。3日間で3,000名近くが集うにぎわいを見せ、谷内さんも読み聞かせで参加されたとか。
谷内 はい、なんか気がついたら自分の中で火がついてしまいまして(笑)。このフルコースのようにおすすめしたい鉄道絵本を絞り込み、30分刻みのスケジュールを作って、3日間で100回近く読み続けました。

周囲の方にはずいぶん心配をかけてしまいましたが、終わってみると達成感で胸がいっぱいに!「やっぱり自分はこの鉄道絵本や読み聞かせが好きなんだ」と再確認できました。

自分の新たな創作活動のスタート地点に立てたという思いです。



この経験もあって、年明けに京王プラザホテル札幌で行われた「鉄道模型新春走り初め2019」では、新作の鉄道紙芝居を披露しました。

タイトルは「ふしぎなふしぎなかもつれっしゃ」。北海道を走る貨物列車に載っているものを楽しい仕掛けとともに紹介した。


谷内 鉄道好きにも「乗り鉄」や「撮り鉄」などいろいろありますが、うちの研究会のメンバーに「谷内さんは”絵本鉄だね”と言われて、とてもうれしかったです。
書店ナビ 絵本鉄!確かにそれは聞いたことがない、谷内さんが切りひらく新分野になりそうですね。今後の活動も期待しています。

「”鉄”ゴコロをくすぐるリアル列車」と「想像豊かなファンタジー列車」の二本立てフルコース、ごちそうさまでした!


●北海道鉄道観光資源研究会

rail-hokkaido.net



●谷内広美(たにうち・ひろみ)さん

長沼町出身。北海道文教大学短期大学部幼児教育学科卒業。保育士として働くかたわら、「紙芝居家・緑ぱんだ」の屋号で活動中。北海道鉄道観光資源研究会メンバー。鉄道絵本に特化した読み聞かせにも取り組んでいる。





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