Vol.146 文学フリマ札幌事務局 代表 奥村 哲哉さん
文学フリマ札幌の会場でもあるさっぽろテレビ塔地下の喫茶店でお話をうかがった。
[本日のフルコース][2019.1.21]
書店ナビ | 「文学フリマ」とは、「すべての人が〈文学〉の担い手となれる」イベントを目指した文学作品の展示即売会で、2002年に東京でスタート。 その後岩手、大阪、京都、福岡など全国各地で展開し、札幌では2016年から始まりました。 奥村哲哉さんは2017年の第二回文学フリマ札幌にボランティアで参加したのをきっかけに現在は二代目代表となり、会の普及に務めています。 聞けば、札幌では毎年900~950人を動員し、120?130ブースが参加されているとか。会場がさっぽろテレビ塔2階とアクセスもよく、北海道有数の文学イベントとして定着しつつありますね。 |
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奥村 | はい、今年も7月7日日曜開催が決まり、現在出店受付中です。詳しい情報はぜひ公式サイトをご覧ください! |
書店ナビ | 現在22歳で社会人一年目の奥村さん、フルコースのテーマも大学生対象と若々しい! |
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奥村 | 社会人になってからも時間があるときはできるだけ本を読み続けていて、「ああ、大学時代に読んでおけばよかったなあ」と思えた5冊を選んできました。 |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
時をかけるゆとり
朝井リョウ 文藝春秋
『チア男子』『何者』の朝井リョウさんが早稲田大学在学中に書いたエッセイ集『学生時代にやらなくてもいい20のこと』に新作を加えた完全版。同じ年代だったとは思えない行動力に驚かされました。
書店ナビ | 1989年生まれの朝井さんは2013年に『何者』で戦後最年少の直木賞作家となりました。本書で特に印象に残っている章はどれですか? |
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奥村 | 『知りもしないで書いた就活エッセイを自ら添削する』という章がありまして。浅井さんがまだ学生時代に就活した”つもり”で書いた架空エッセイの原稿に、現在作家になった浅井さんが自分でツッコミを入れるというメタ的な構成で、その狂気と理性が錯綜する世界観に衝撃を受けました。 学生時代ってちょっと冷めた感じで社会を見ているつもりでも、学生特有の無茶というか狂気じみた世界にクビまで浸かっている感覚がすごくよくわかって、シンパシーを感じました。 この本を読むと、自分ももっといろんなところに行ったりして無計画に過ごせばよかったと思いました。 これからキャンパスライフが始まる大学1年生におすすめです。 |
本文下段に大人になった浅井氏のツッコミが注釈風に記載されており、それもある種の一言エッセイになっている。
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
人間の土地
サン=テグジュペリ 新潮社
『星の王子さま』で知られる著者のエッセイ集。職業飛行家だった彼が今のように安全ではなかった空を飛び回っていた頃に実感した教訓が示唆に富み、「人間とは」を考えさせる作品です。
奥村 | この本を勧めてくれたのは本好きのいとこです。『星の王子さま』を読んだことがあるかと聞かれて、「ない」と答えたら後日「古本屋で同じ作家の本を見つけたから」とプレゼントしてくれました。 ありがたくもらいましたけど、肝心の「星の王子さま」の話はどこに行ったのか……(笑)。 本書の話に戻ると、サン=テグジュペリは1935年にサハラ砂漠で不時着します。そのときに感じた孤独や生きる目的といった根源的な問いかけが、ちょうど就活が終わった頃に読んだ僕の心にいつまでも残りました。 僕自身は作品を書く側にはいませんが、こういう普遍的な問いかけをはるか以前に誰かが投げかけてくれたから、そのあとの時代にも脈々と文学が息づいている。そんな長い営みを感じました。 |
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魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
誰も知らない世界のことわざ
エラ・フランシス・サンダース 創元社
「ことわざ」の成り立ちや文化的な背景を通して、世界各国の側面が見えてくる。テレビニュースや動画で見るよりも世界は広く、「教師が教えてくれないこと」を教えてくれる楽しい本でした。
書店ナビ | 大ヒットした『翻訳できない世界のことば』シリーズの一冊です。世界のユニークなことわざや慣用句を51語集め、ユニークなイラストで紹介しています。 |
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奥村 | 確かTwitterで『翻訳できない…』が話題になっているのを知り、シリーズが出るたびに買い足していきました。一度ビブリオバトルでも本書を推したことがあります。 見ていて単純に面白いですし、ためになる。たとえば、フィリピン語の「あなたのレバーをいただきます」は深い愛情の表れで、日本語の「食べちゃいたいほど…」という言い回しと似ているな、とか。 大学に入ってからいろんな国の留学生と出会う感覚に近い、世界の広がりを楽しく知ることができます。 |
イタリア語の「オオカミの口の中へ!」は、相手を晴れ舞台に送りだすときのことば。日本語の「虎穴にいらずんば虎児を得ず」と似ているようで若干違う。
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
大人になると、なぜ1年が短くなるのか?
一川誠×池上彰 宝島社
2016年の第155回芥川賞受賞時、著者の村田さんも主人公同様にコンビニ勤めだったことが話題になりました。ヒロイン古倉恵子は三十半ば、大学時代に始めたコンビニのアルバイトで「普通」を装いながら生きている……。
書店ナビ | 大学生というと時間がある人種の代名詞のようですが、新卒一年目の奥村さんはやはり時間があっという間に過ぎていきましたか? |
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奥村 | はい、一日単位で時間が瞬く間に過ぎていく感じがします。勤め先がIT業界なので、モニターの前で作業をしていると「えっ、もう午後3時?」ということもしょっちゅうです。 この本は2018年8月ごろ、会社が休みのときに一気読みしました。時間を物理的に長くすることは不可能ですが、長く感じることは可能である。そのへんの仕組みが論理的に解明されていきます。 ほかにも色の三原色(赤・青・緑)に加えて最近はもう一色、橙色を知覚できる人の存在も明らかになっているようで、色の認識が増えるとモノの動きに対する認識も変わってくるなど、最新の科学情報をわかりやすくひもといてくれます。 堅苦しい本が苦手な学生でも、けっして無限ではない時間に対する考えを整理できる格好の教科書です。 |
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
コンビニ人間
村田沙弥香 文藝春秋
人気汽車絵本シリーズ『せんろはつづく』の竹下・鈴木夫婦コンビが、現役で運行しているさまざまな列車を描いた作品です。列車はもちろんのこと、列車が走り抜けていく情景や人々の表情もあたたかくて、胸にしみいります。
奥村 | 2018年11月に開店した江別蔦屋書店に行ったときに「そういえばこれまで読み逃していた話題書でも」と思い、買いました。 やっぱり強烈だったのは、主人公の人間像。彼女の生き方を見ていると、「普通ってなんだろう?」という今もよくわからない疑問を突きつけられるよう。 社会に出るといろんな価値観の人に会いますし、本人の自覚がない、あるいは病名がつくようなレベルかどうか不明なまま周囲との関係性に苦しむ人たちの姿を見ることがあります。 そんな時に自分はどうふるまえばいいのか、多様性に目を向ける必要性を教えてくれる本書は《デザート》でもビターな味付け。ほろ苦い余韻が続く《食後のコーヒー》かもしれません。 |
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ごちそうさまトーク 第四回文学フリマ札幌、出店者募集中!
書店ナビ | 奥村さんは小さい頃から本を読む環境だったんですか? |
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奥村 | 子供の頃、親が毎晩読み聞かせをしてくれたことは覚えています。親の都合で転校が多く、一緒に遊ぶ幼なじみがいなくてそれで自然と本を読む時間が長くなっていったんだと思います。 高校時代は「チーム・バチスタ」シリーズとか「笑う警官」シリーズを夢中になって読んでいましたが、社会人になってからは今日ご紹介したようないろんなジャンルを読むようになり、読書の楽しみがさらに広がった気がします。 でもやっぱり、時間がある大学生のうちにいろんな本に触れておくと吸収するものも大きいと思いながら、今回のフルコースを作ってみました。 文学フリマはプロ・アマを問わずさまざまな文学作品と出会える空間です。現在は2019年7月7日開催予定の第四回文学フリマ札幌の出店者募集中!ふるってご応募ください。お待ちしています! |
書店ナビ | 今年も受験シーズンに突入ですが、同世代の奥村さんが勧めてくれた5冊が春から新大学生となる皆さんの視野を広げてくれそう、そんな目が覚めるフレッシュハーブのようなさわやかなフルコース、ごちそうさまでした! |
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