北海道書店ナビ

第329回 アダノンキ 石山 府子さん


5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.95 アダノンキ 石山 府子さん

お気に入りの1冊とお気に入りの「1本」を手にする石山さん。1本はクラフトビールファンなら垂涎もの、ミッケラーの限定銘柄「I Beat yoU」。


[本日のフルコース]
古本とビールの店が縄文時代に恋をした!
「縄文でドキドキ!」フルコース

[2017.6.19]


書店ナビ 札幌市中央区にある古本とビールの店「アダノンキ」さんは2008年にオープン。札幌出身のご店主、石山府子(あつこ)さんが愛する「古本」と「ビール」の両方を楽しめる空間として知る人ぞ知る人気です。
と、思っていたので、フルコースのテーマもてっきり「ビール本」かなにかでくると思っていたんですが、大外れでした(笑)。
いつから「縄文」がお好きなんですか?
石山 とっかかりは「土偶かわいい!」くらいの気持ちだったんですが、最近はすごくおもしろい縄文本が増えて、ますます好きになっていきました。
教科書的に縄文の歴史をひもとく本はたくさんあると思いますが、今回ご紹介する本は切り口が秀逸だったり見せ方もユニーク。《縄文愛》を高めてくれるフルコースになりました。


[本日のフルコース]
古本とビールの店が縄文時代に恋をした!
「縄文でドキドキ!」フルコース


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

知られざる縄文ライフ
譽田亜紀子  誠文堂新光社

縄文時代の生活をイラストで具体的にイメージできる1冊。文化人類学・民俗学・民族考古学が専門の武藤康広奈良女子大学教授が監修している。


書店ナビ 著者はフリーライターの譽田亜紀子(こんだ・あきこ)さん。公式サイトのプロフィールに「取材先で出会った奈良県出土の観音寺本馬土偶に衝撃を受け、土偶界へと足を踏み入れる」とありました。
石山 今年に入ってから読んだ本で、子ども向けかと思っていたらとんでもない!「縄文人の一日」とか「縄文時代の旬の食べ物」とか、私たちが歴史の教科書でぼんやりと習ってきた「縄文」を身近な視点で切り取った情報が満載。
確かに「人」が住んでいたという感情移入をしながら、縄文時代の全体像をつかめる格好のガイドブックです。

縄文女子の髪型さえも再現。レイア姫に通じる気高さと複雑さに注目!




スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

PAPER SKY no.46
ニーハイメディア・ジャパン

縄文特集号。レキシの池ちゃんが東北の縄文遺跡を巡り地ビールを呑む。



書店ナビ トラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』の発行元、ニーハイメディア・ジャパンは、”日本発のインターナショナルメディアを作る”という目的のもと、アメリカ人のルーカス・バデキ・バルコ氏が1996年に創業。
本誌『PAPERSKY』は「地上で読む機内誌」をコンセプトに、読者を架空の旅へと誘うコンテンツを提供。その46号は「縄文」という時を超えた世界への旅がテーマなんですね。
石山 ネットで話題になっていたので取り寄せました。「地上で読む機内誌」と聞いて納得のかっこいいデザインやレイアウト。見ていると旅心がかきたてられます。
しかも縄文遺跡の一大スポットである北海道や東北のクラフトビールの話題も載っていて、アダノンキ的には100点満点の一冊です。

札幌市在住の縄文太鼓演奏家、茂呂剛伸さんも紹介されている。


魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

信州の縄文時代が実はすごかったという本
藤森英二  信濃毎日新聞社

縄文時代、最も盛り上がっていた八ヶ岳の中心の動向を知る。 


書店ナビ 「縄文のビーナス」「仮面の女神」という2つの国宝土偶が出土した長野県茅野(ちの)市の縄文文化。そんなに「すごかった」んでしょうか。
石山 本の帯にあるとおり、かの地は「縄文時代の銀座」だったようで、食物・鉱物・陶土など資源が豊富で、ヒト・モノ・技術の行き来の中心となった地。その時代を担った一番ホットな場所で起こったことを知ることは、縄文を理解するうえでとても重要。
まじめな本のように思えますが、本のつくりが読みやすくてわかりやすい。本格的なのに形式ばっていない、すごくいい本だと思います。

誌面には縄文フィギュア(!)も登場。細部に縄文愛があふれている。




がっつりこってり。読みごたえのある決定本

縄文美術館  
小川忠博  平凡社

素晴らしい質・量の土偶・土器の写真をみっちり堪能する。



石山 とにかくものすごい情報量!これを見ているだけで、いくらでもビールがすすむ「縄文飲み」ができちゃいます。
通常、私たちが知る土器や土偶は一方向からの画像が多いですが、この本では遠くから近くから、360度に渡って「そのもの」の細部を写しとり、本質的な魅力に迫っています。
見応えのあるページばかりなので、縄文に興味がない方も「ハマる」きっかけになる写真集だと思います。
書店ナビ それでいてなんとお値段が2000円台!ご家庭に1冊の縄文本ですね。

教科書では見たこともないイノシシ型の土製品なども掲載されている。




デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

縄文ZINE
ニルソンデザイン事務所

「縄弱のための質疑応答」「土偶絵描き歌」など縄文を楽しむ斬新なアイディアが満載。



書店ナビ 縄文太鼓演奏家の茂呂剛伸さんにフルコースをお願いしたときも、この縄文ZINEが入っていました。
縄文のことを知らない人を「情報弱者」になぞらえて「縄弱」というセンスにも脱帽です

縄文時代にTwitter があったら?「腹減ってもしかしたら土器かじる」なんていうつぶやきもホントにありそう!





石山 私が大好きな「土偶絵描き歌」なんて、もう無理矢理ですよ(笑)。でもこの勢いが大好き。縄文愛もばっちり感じますし。
創刊号を見たときに「すごい!でもこのあともこのパワーが続くのかなあ」という心配は杞憂でした。現在6号ですが、そのテンションはまったく衰えず。お見事です。


ごちそうさまトーク 荒削りのわからなさがおもしろい!

書店ナビ 石山さんが惹かれる縄文の魅力とはなんでしょうか。
石山 なかなか一言では表現しづらいんですが、基本は「なんでこういう形なんだろう?」とか「どうしてこういう風習になったんだろう?」というワケのわからなさがあるから、もっと知りたくなる。
私たちが知る縄文ってちょっと荒削りなイメージで、音楽でいえばロックのような。上手いとかではなくて、ざらりと心臓をなでられるような引っかかりがある。その引っかかりが気になってしょうがないんだと思います。
書店ナビ お店からお知らせがあったら、お願いします。
石山 いまいる建物の改築の都合で現在引っ越し先を探しています。そのため開店時間が流動的なので、開店したときはいつもTwitter でお知らせしています。
あと、お手伝いしているサッポロクラフトビアフォレストのチケットも当店で販売しています。7月8日(土)と9日(日)の2日間、会場はban.Kで。皆様のご来場をお待ちしています!
書店ナビ 最後に「縄文」らしいクラフトビールってありますか?
石山 千葉に女性ブルワリーが作る「ロコビア」という醸造所がありまして、そこの「Honey “Sweet Heart” Ale」は、昔ながらのハチミツを使った醸造法でできた”古代エール”。
コクとうまみが共存しておいしいですよ。当店で取り扱いしています。
書店ナビ 本を片手に「縄文飲み」がしたくなるフルコース、ごちそうさまでした!

●古本とビール アダノンキ https://twitter.com/adanonki
●石山府子(いしやま・あつこ)さん
札幌出身。東京で見たさまざまな古本屋を参考に、2008年に札幌で古本とビールの店「アダノンキ」を開業。「書店のノウハウを教えてくださった神保町の古書店さん、いまは無くなってしまったんですが、本当に感謝しています」。アダノンキの店名は当初、画家・田中一村の作品『アダンの木』に衝撃を受けた石山さんのブログタイトルを「アダンノキ」としていたが、「ずっとアダノンキだと読み違えていた」という声があり、そのまま店舗名にした。













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