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第289回 株式会社メディアネットコーポレーション 代表取締役 土田 博文さん




5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.62 株式会社メディアネットコーポレーション 代表取締役 土田 博文さん

10代の土田さんの心を撃ち抜いたお宝「戦士の銃」をかまえて。 


[本日のフルコース]
少年に「真の男とは」を教えてくれる
「大好き!松本零士本」フルコース

[2016.9.5]


書店ナビ タウン誌や住宅情報誌の営業・記者を経て独立し、現在はWEBディレクターとしてクライアントの課題に応える土田博文さん。「大の松本零士ファン」と聞きつけて、フルコースづくりをお願いしました。
土田 ぼくは昭和41年生まれで、中学のときに『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』の劇場アニメが次々と公開された、まさに松本アニメの洗礼を受けたド真ん中の世代です。
当時、同じクラスに絵を描くのがうまい友人がいて、その影響も大きかった。これ、彼が描いたイラストです。

松本作品の世界に誘ってくれたお友達のイラストを土田さんは大切にしまっておいていた。「ちなみにいま彼は看板屋をやっています」。






[本日のフルコース]
少年に「真の男とは」を教えてくれる
「大好き!松本零士本」フルコース



前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

ロマンアルバムシリーズ
徳間書店

『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』などの人気アニメ作品を詳しく紹介する資料的な雑誌シリーズです。松本作品以外もいっぱい特集されてきましたが、記念すべき創刊号の特集はやっぱり『ヤマト』。創刊号は480円でしたがだんだん値上がりして890円に(笑)。



書店ナビ 先にご紹介しますと、漫画家松本零士さんは1938年福岡県久留米市生まれ。代表作の『宇宙戦艦ヤマト』は、プロデューサーの西崎義展氏を中心に立ち上げられた映像企画で、当初デザインスタッフのひとりとして加わった松本氏がのちにキャラクターやメカデザインを含めたすべての設定・デザイン・美術を担当。
実は初回の放送では視聴率が伸びず、途中で打ち切り。その後の再放送で一気に人気が爆発し、のちに日本中を巻き込む大ブームをつくりあげました。
第一作がテレビ放送されたのは1974~75年、劇場公開は1977年。漫画のほうはテレビ放送とほぼ同時期にアニメ雑誌『冒険王』で連載され、単行本化されるときに大幅に加筆されました。
土田 あのころは劇場公開の初日に行くとセル画や資料設定集などの貴重な特典がもらえたんです。朝の3時とかに映画館の東映の前に並びましたねぇ。

「捨てられない性格」の土田さんが次々とお宝を見せてくれた。セル画とはセルロイド製の透明シートに場面が描かれたアニメ作品の素材のこと。「当たり外れがあるんですけど、このハーロックは大当たりでした」。





書店ナビ アニメと漫画、どちらがお好きでしたか?
土田 僕は松本零士作品の絵や世界観が好きですから、どちらかを選ぶとしたら漫画派です。でもまあ、西崎さんみたいな人がいたから一連の劇場アニメが生まれたことを思うと、どちらも別物としてすばらしいですよね。
このロマンアルバムもヤマトブームによって創刊された雑誌のひとつ。いまに残る影響ははかりしれない作品です。



スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

惑星ロボダンガードA  
松本零士  秋田書店

松本作品では珍しいロボット漫画。なのですが、2巻完結の最後のほうまでロボットが出てきません。戦闘機や戦艦ほどロボットが得意ではなかったのかもしれません。








書店ナビ 土田さんの説明を読んでビックリです。ロボットが出てこないロボット漫画?
土田 ええ(笑)。1巻で組み立てる前のパーツがちらっと描かれるだけで、あとは2巻の最後になってようやく全貌がわかるという。
松本作品を大きく分けると、ヤマトなどの「宇宙もの」、後で出てきますが「四畳半もの」「戦場もの」「原始時代もの」の4ジャンル。いわゆる合体系のロボットにはあまり愛着を感じていなかったようです。
書店ナビ 本作もアニメ企画が先行で、1977年~78年に全56話が放送され、それと並行して『冒険王』で漫画を連載というパターン。
主人公一文字タクマと謎の指導者キャプテン・ダンの厳しすぎる師弟関係やライバルキャラであるトニー・ハーケンとのロボットバトルで人気を博しました。




魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

宇宙海賊キャプテンハーロック
松本零士  秋田書店

一番大好きな作品です。”自分の旗”のもとに宇宙を自由に旅する宇宙海賊キャプテンハーロック。松本零士を語るうえで外せないキャラクターです。「男には、負けると判っていても戦わなければならない時がある」この台詞が私の心の支えです。


土田 松本作品は手塚治虫のスターシステムのように、ハーロックやエメラルダス、トチローなどの名キャラクターたちが複数の作品に登場します。
ハーロックの肩にのっているトリさんや『ヤマト』の佐渡先生がかわいがっているミーくんも、いろんなところに顔を出します。

『クイーンエメラルダス』にも登場するハーロック。アルカディア号の設計者大山トチローはハーロックの親友であり、エメラルダスの恋人でもある。





書店ナビK ハーロック=古代守説がありませんでしたっけ?
土田 ありましたね。そういうところにもまたロマンを感じてしまう(笑)。
ハーロックといえばなにものにも縛られず、自分の友や配下を守り抜き、己の信条を貫くという男の夢・ロマンを体言しているキャラクター。
実人生ではいろんな葛藤がありますし、宇宙海賊ほどドラマチックではありませんが、でも心の中にはいつもハーロックがいる。そのつもりです。





肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

元祖大四畳半大物語
松本零士  朝日新聞出版

松本零士ワールドが煮詰まっている初期の作品です。松本作品にハマっていろいろ読み始めたときに古本屋で見つけて買いました。四畳半で繰り広げられるちょっとムフフな下宿物語。




土田 ハーロックを”理想の漢(おとこ)”像とすると、こちらは”等身大のおとこ”の姿。1970~74年に『別冊漫画アクション』に連載されました。のちに『男おいどん』ともつながる「大四畳半シリーズ」のルーツです。
いまの時代ならきっと誰も読まないような、お金もなくイケメンでもなく、さえない”サルマタ”(タテジマパンツ)愛好家の主人公、足立太。
とてもモテそうにありませんが、それでも主人公の特権でいろんな美女とのからみがあり、お色気シーンも出てきます。
実は僕の実家は昔、土田荘という下宿をやっていたので、主人公に対する思い入れもひとしお(笑)。「もしかして自分にも」と想像をかきたててくれました。
書店ナビ ハーロックと足立太。キャラクターの振り幅がすごいですね。
土田 見た目はそうですが、でも実は四畳半も考えようによっては自分の宇宙。どこまでも果てしなく内省する四畳半と、どくろの旗がたなびく無限の宇宙は、松本ワールドではつながっているんだと思います。

タウン誌時代に一度だけ松本氏本人に取材したことがある土田さん。通常、著名人の取材は合同取材で各誌に質問時間が割り当てられるが、土田さんの熱い”松本愛”を察した同業者たちが「回答を共有する」という前提で、土田さんにほとんどの時間を譲ってくれたという。「うれしかったなあ」。




デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

ザ・コクピット
松本零士  小学館

戦闘機や戦車など松本零士を語るうえで欠かせない要素が詰まった、メカニック好きにはたまらないシリーズです。ハーロックに通じる作品も掲載されています。


書店ナビ 連載されていた雑誌は『ビッグコミックオリジナル』。宇宙のどこかの星ではなく地球上の戦いに焦点を当て、戦士たちの葛藤や苦悩を描いています。
土田 全11巻のどこからでも読める一話完結シリーズで、第4巻にはハーロックの先祖ファントム・F・ハーロック2世が登場する「わが青春のアルカディア」が収録されています。
松本作品では『銀河鉄道999』の機関部のようにメカニックな描写だけで見開きを使ったりするのは当たり前。計器の描き方も独特で、のちに「松本メーター」とか「レイジメーター」と呼ばれるようになりました。




ごちそうさまトーク 夢は彗星図書館に並ぶ本づくり

書店ナビK 土田さんの膨大な松本コレクションのなかでも個人的にもっともシビれたのがこちらです。「戦士の銃」!

大山トチローによって製作された「戦士の銃」、別名コスモドラグーン(宇宙竜騎兵)。ハーロックやエメラルダス、星野鉄郎など”真の宇宙戦士”のみが所有している。




土田 発売当時、北海道では買えなくて、東京行きの修学旅行で自由時間に買いに行きました。当時確か2500円でした。
書店ナビ 土田さんの青春はまさに松本ワールド一色。そういう作品に出会えたこと自体がとてもステキですね。
土田 『銀河鉄道999』の『彗星図書館』というエピソードに、地球上で発行されたあらゆる本が置いてある図書館のような本屋が出てきます。
ぼくの仕事は現在WEB制作が中心ですが、根っこにはいつも「本をつくりたい」という気持ちがあります。
あの『彗星図書館』のように自分のつくった本を遠い未来の誰かが手に取って「面白い」と思ってもらえたら最高だなぁ。かなえたい夢です。
書店ナビ 土田さんの男心を育んだ松本零士フルコース、ごちそうさまでした!
1966年北海道札幌市生まれ。タウン誌、住宅情報誌勤務を経て2003年、WEB制作会社メディアネットコーポレーションを独立開業。イベント企画や商品開発など多岐に渡って展開中。
●株式会社メディアネットコーポレーション http://www.web-media.co.jp












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