5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.12 札幌弘栄堂書店パセオ西店 店長 石川 幸さん
札幌の書店ではそう多くない?女性店長の石川さん。
[2015.8.17]
書店ナビ | 北海道キヨスク株式会社が運営する札幌弘栄堂書店パセオ西店。サツエキの利用者を顧客とする絶好の立地にあぐらをかくことなく、オリジナルのフェアやユニークな手書きポップで“攻めている”ところが大好きなお店です。 店長の石川さんはフルコースのテーマに「将棋」を選んできました。ということはもちろん、ご本人も盤に向かわれるんですよね? |
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石川 | 初めての将棋はおじいちゃんから教わりました。ずっと遠ざかっていたんですが、3、4年前に羽生さんの対戦を観てからまた興味がわいてきました。 私自身は全然強くなくても名人戦とかを観るのが大好きな“観る将”です。今回は将棋をまったく知らない方々にも「面白そう」と思ってもらえそうな本を並べました。 |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
3月のライオン
羽海野チカ 白泉社
観る将棋ファン=「観る将」入門書の鉄板!史上4人目の中学生棋士である天才少年・桐山零。彼の抱える悩み、葛藤…苦しみながらも成長していく姿に胸打たれます。著者の徹底取材をもとに描かれる先輩棋士たちは実在のモデルがいるという噂も。
書店ナビ | 現在10巻まで出ているメガヒットコミックです。 |
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石川 | 入りやすさも考えて、最初はコミックがいいかなと思いまして。プロ棋士の先崎学九段が監修をされていて、将棋のルールや将棋界のシステムがよくわかります。対局場面の盤上には実際にあった棋譜(きふ:対局の記録)が正確に再現されていたりして、細部にいたるまで将棋の世界がリアルに描かれています。 実在の棋士を連想させる変わった登場人物たちが次々と登場しますが、私が特に好きなキャラクターは島田八段。主人公の零や宗谷名人のように天才肌ではありませんが、みっともなくても指し続ける姿にぐっときます。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
梅田望夫 中央公論新社
生ける伝説!史上最強の棋士・羽生善治。観る将棋ファンを自認する著者が、羽生の対局・対談を通して羽生を含む現代将棋についてまとめた一冊。終局後の感想戦での姿や対局者の様子など、舞台裏に潜入した気分になります。
石川 | “観る将”はもともと、本書の著者である梅田さんが提唱した考えで、ご本人もプロ棋士ではなくIT系コンサルティング会社の代表取締役。本書ではいろんなタイトル戦に密着した観戦記も書かれています。 将棋は対局が終わったらすぐにその場で対局内容を振り返る反省会みたいな「感想戦」があります。羽生さんが第57期王座戦第2局で山崎隆之七段(現在は八段)に勝ったときの感想戦なんてすごいですよ。 羽生さんが勝ったのに悔しそうにしている。投了した相手に向かって「こうすればもっと続けることができたのでは」的なことを指摘する羽生さんのプロ意識を、梅田さんが克明に書き残しています。 |
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書店ナビ | 負けてなお叱られる。山崎七段、つらすぎますね。 |
石川 | 二度殺されている(笑)。きっと羽生さんくらいになると、純粋に将棋を少しでも長く楽しみたい一心なんだと思います。他にもさまざまな羽生エピソードが詰まっているので、ぜひ読んでいただきたいです。 |
「守って勝つタイプと攻めて勝つタイプがいますが、羽生さんはオールラウンダー。そこも強さの理由だと思います」
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
聖の青春
大崎善生 講談社
難病と闘いながら29歳の若さでこの世を去った伝説の棋士の伝記。ただひたすらに名人を目指し戦い続け、最高級のA級在籍のまま逝去。自分の弱さを知り、だからこそ盤の前では誰にも負けない強さを発揮する。羽生善治のライバルといわれた男の、命がけの勝負。涙なしには読めません。
書店ナビ | 故・村山聖(むらやま・さとし)九段(追贈)は広島県出身、1969年6月15日生まれ。5歳のときに腎臓の難病であることがわかり、入院中に父から教わって将棋に目覚めます。プロ入り以降も体調の悪化を激しい闘争心でおさえこみ、亡くなるまでに数々の名勝負を残しました。 |
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石川 | 羽生さんとほぼ同世代で、何回も戦っています。『3月のライオン』にも彼をモデルにしたであろう二階堂くんというキャラクターが出てきます。 ご本人の魂を燃やすような生き方は本書を読んでいただければわかりますが、私個人的には師匠である森信雄七段との師弟関係が大好き。森さんは弟子が多い方で、弟子第一号が村山さんでした。いまは彼の弟弟子の中から村山さんが悲願としていた竜王が出て、森さんも感慨深いと思います。 |
書店ナビ | 今年の6月に映画化が発表されました。 |
石川 | 別にイケメンとかは出なくていいから普通に作ってほしい。将棋に命をかけた若き天才の姿を映してほしいです。きっと観に行きます。 |
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
将棋エッセイコレクション
後藤元気 筑摩書房
将棋の知識がなくても楽しめるエッセイ集。棋士のエッセイにとどまらず、山口瞳や菊池寛らの貴重なエッセイも収録。今話題の桐谷七段も登場…!
書店ナビ | 桐谷七段って、あの株主優待で暮らしている桐谷さんですか? |
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石川 | そうなんです。桐谷広人さん、いまは現役を引退されていますが、師匠はあの升田幸三名人です。棋士の方って独特の口調があって、はじめて桐谷さんをテレビで見たとき「もしかして…?」と思い、あとで経歴を知って納得しました。 その桐谷さんを含め、将棋好きの作家や観戦記者など多彩な書き手が揃ったエッセイ集なので、どこから読んでも楽しめる一冊になっています。棋譜もたくさん載っています。勉強になりますよ。 |
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
ダークゾーン 上
貴志祐介 祥伝社
プロ棋士の卵である主人公が目覚めたのは孤軍の要塞・軍艦島。いやおうなしに巻き込まれる地獄の七番勝負のルールはどこか将棋に似ている…? 徐々にあいまいとなる夢と現実の境界線。闘いの果てに待つものとは!? 将棋好きの著者が満を持して送り出す完ぺきな世界観に圧倒されること間違いなし。
石川 | うんと簡単に言ってしまうと、人間将棋で自分が「玉」(ぎょく)という設定で物語が始まります。 |
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書店ナビ | バトルロワイヤル的に最後まで生き残った人が勝ち、と。 |
石川 | 作者はエンタメ小説の鬼才、貴志祐介さんですから、なんの予備知識がなくても大丈夫。将棋をまったく知らないうちのスタッフも「面白い!」と言ってくれました。 |
「将棋好きの作家さんて多いですよね」
ごちそうさまトーク 1万円の写真集も観る将は買う
書店ナビ | フルコースづくりで特に頭を悩ませたところはどこでしょう? |
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石川 | 5冊に絞り込むのが大変で、きっと50冊でもイケたと思います。 以前、店頭で将棋フェアをやったときに1万円の写真集を置いたところ、2冊も売れて「お客様の中にも仲間がいるんだ」とわかってうれしかったです。 |
書店ナビ | 初心者にもわかりやすい観戦のコツはありますか? |
石川 | コツではないかもしれませんが、将棋のタイトル戦には「おやつタイム」があります。渡辺明棋王はケーキが好きだとか誰々はフルーツ盛り合わせを頼んだとか、しかも食べているところまでずっと画面に映し出されるなんて、ちょっと他にはない世界ですよね。そんなぽわ〜んとしたところと盤上に向かう真剣勝負のギャップもまた、観る将の楽しみのひとつです。 |
書店ナビ | 棋士もまた人なり、ですね。将棋の世界に一歩も二歩も近づくフルコース、ごちそうさまでした! |
気がつけば 腕の長さが ちがいます
代表的な書店員あるあるのひとつ。バックヤードから店頭まで20冊近くを抱えて移動するのは当たり前。慣れないころは苦労しても月日が経てば、本をさす利き手とは反対側の腕にずらーーっと並べてスタスタスタスタ…「腕の長さのちがい」は書店員キャリアの証しかも。
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