第1回氷室冴子青春文学賞で大賞を受賞した櫻井とりおさんの『虹いろ図書館のへびおとこ』は、いじめで学校に行けなくなった小学6年生のほのかが主人公。
たどり着いた図書館で「顔半分がみどり色」の司書イヌガミさんや「スタビンズ君」、たくさんの本に出会い、止まっていたほのかの世界が少しずつ動き出す物語だ。
図書館を舞台とする作中には、『ドリトル先生の楽しい家』や『指輪物語』といったさまざまな古今東西の名作が登場し、その本のタイトルがそのまま章の名前にもなっている。
ほのかの成長を後押しする物語の力は大勢の読者の心の琴線にもふれたのだろう、2019年に刊行された『虹いろ図書館のへびおとこ』は現在7刷目に突入。
2020年には第2弾の『虹いろ図書館のひなとゆん』が店頭に並び、続けて2021年11月には、第3弾となる『虹いろ図書館のかいじゅうたち』を発表!
しかも今度は1作目でほのかをいじめていた「かおり姫」ともう一人、いじめを受けていた少年ケンを主人公に据えた物語だという。
北海道書店ナビでは2作目『虹いろ図書館のひなとゆん』が発表された時も、著者の櫻井とりおさんと編集者の岩崎奈菜さんにメールで質問を送っている。
第493回 BOOKニュース:森の六畳書房&虹いろ図書館シリーズ – 5冊で「いただきます!」フルコース本 北海道書店ナビ
今回も『かいじゅうたち』を読後、お二人に質問を送らせていただいた。その回答をお届けする。
書店ナビ:「虹いろ図書館」シリーズ3作目出版おめでとうございます!
櫻井:ありがとうございます。皆さまのおかげで、なんとかシリーズ3冊目が出版できました。前2作の『へびおとこ』『ひなとゆん』は、それぞれ独立した物語として、小説投稿サイトの「エブリスタ」上に掲載したものでした。
今回の『かいじゅうたち』は、まったくオリジナルで一から考えた話ですが、舞台の街や図書館、登場人物たちはすっかりおなじみですので、こちらが少し状況説明するだけで自由勝手に動いてくれました。
書店ナビ:1作目『へびおとこ』のいじめっこ、かおりが主人公で驚きました。アメリカ児童文学の傑作『ワンダー』も主人公のオーガストをいじめたジュリアンのスピンオフ『もうひとつのワンダー』が出て、話題になりました。
かおり主人公の構想は1作目の時からあったのでしょうか。
櫻井:次回作を書くなら、主人公はかおりをおいて他にないと思っておりました。世間で「わたしはいじめられていた」と告白する人はよく見ますが、「わたしはいじめていた」という人はとても少ない。
いじめっ子はなぜ、いけないとされるいじめをするのか? 彼らはわたしたちと全く違うのか? いやそうではなく、わたしやあなたであったはずだ。では、その罪は許されないのか? 許されるとしたらどんなふうに?など、複数の問題点がランダムに浮かんできました。「かいじゅう」というキーワードが、それらを束にしてうまいことまとめてくれた気がします。
『ワンダー』を読んだとき、ジュリアンに対する学校側の処分があまりにもきっぱりしていて驚きました。これはお国柄なんだろうなと、勝手に自分に言い聞かせて納得しておりました。
『もうひとつのワンダー』は先日ようやく読んだばかり。いじめっこジュリアンのエピソードの展開が意外すぎて、『かいじゅうたち』を書く前に読んでなくて、かえって幸運だったと感じました。
書店ナビ:シリーズのキーマン「イヌガミさん」が人気です。
櫻井:地味な非モテキャラクターだったはずのイヌガミが、読者の皆さんの多くに「すてき」とほめられモテているので驚きました。彼には傍観的なところがあり、多くの場面で一拍置いてから対処するのが、なんとなくカッコよく見えるのでしょうか。私もそのように行動しようと思います。
いつか、大人向けに、イヌガミの青春時代を書きたいと思っております。彼の弱かったり、ずるかったり、みっともなかったりする面も描いてみたいです。
岩崎:今回の帯のキャッチコピーは、物語の転換点となるシーンで、イヌガミさんがかおりに伝えた言葉から使わせていただきました。こういう言葉をしっかり渡せるイヌガミさんに憧れます。
書店ナビ:本作は、モーリス・センダックの世界的なロングセラー『かいじゅうたちのいるところ』の世界観が大きな下地になっていると感じました。
櫻井:センダックの原題”Where the Wild Things Are”の”Wild Things”を、訳者の神宮輝夫先生が「かいじゅうたち」に訳したのに感嘆します。この本能的な、衝動や焦燥の塊のような抽象的な気持ちを、センダックは小さな子どものために具象化してみせました。そのたくらみを神宮先生は見事に見抜いていたのですね。
『虹いろ図書館のかいじゅうたち』の英語タイトルには、現代のニュアンスを考えて”The Monsters”を使いましたが、意図するところはまさに同じです。心の中の「かいじゅう」は、決して悪いことばかりでなく、生きる原動力でもあると思います。
『かいじゅうたちのいるところ』は、子どもの頃読むと、好き放題できる喜びにあふれた本ですが、大人になると最後の、湯気の立ったスープにじんときます。子どもが好き放題あばれて”Wild Things”を解放するためには、ちゃんと大人がそばにいてみていることが前提なんだな、自分は大人の責任を果たしているのだろうか、などと考えさせられます。
書店ナビ:「虹いろ図書館」シリーズは毎回、装丁にも魅せられます。
櫻井:もし、お手元にあれば、『へびおとこ』と『かいじゅうたち』を並べて置いてみてください。デザイナーさんとイラストレーターさんの緻密な計算が浮かび上がります。『かいじゅうたち』のかおりは笑顔ではありませんが、『へびおとこ』の表紙のほのかも、すっとぼけた不愛想な表情をしています。ほのかもかおりも、隣が気になるけれど目は合わせたくない、という絶妙な視線の向きです。(帯の下にある)紅茶のカップと甘酒のマグの対比も楽しいです。
『かいじゅうたち』の後表紙、頬杖つく不機嫌そうなかおりのまわりにある植物にも、にんまりさせられます。ぜひ最後までページをめくってください。
岩崎:今回もデザイナー野条友史さんとイラストレーター浮雲宇一さんが素晴らしい装丁をつくってくださいました。かおり姫の後ろを行進しているかいじゅうたちが何ともユーモラスで好きです。
ちなみに、カバーには『へびおとこ』と同様に金色が使われていますが『へびおとこ』とは、少し色味が違います。細かいところまで比べて見て楽しんでいただけると嬉しいです。
それから、今回もいつもの巻末口絵があります。お楽しみに!
背表紙にまで細かい遊び心が散りばめられている「虹いろ図書館」シリーズ。
書店ナビ:個人的には今回、大人たちのふるまいに目が行き、なかでも大人の新キャラ「霜月先輩」が気になりました。
櫻井:霜月先輩は、私が役所に勤めていた頃の、型破りな複数の先輩方がモデルです。今となっては、存在すら許されない破天荒な伝説を持つ職員が、当時はあちこちにいたんですよねえ。
二日酔いでブックトークへ行って子どもたちに大ウケをとったり、いないと思ったら保存書庫で寝てたり、お客さんとケンカしたり……彼らはいったい、今どこにいるのでしょうか。せめてお話の中だけでも活躍させてあげたいです。
書店ナビ:最後に、本書を手にとってくださる方々へ一言お願いします。
櫻井:『虹いろ図書館のかいじゅうたち』を手に取ってくださった皆さん、本当にありがとうございます。この本から読んでも、他の『虹いろ図書館』シリーズから読んでも、お話を楽しめるように書いたつもりですが、キャラクターへの印象は変わるかもしれません。
どうか、読んでる間だけはリアルの心配事は脇へ置いて、柿ノ実町の図書館とその周りを楽しく散歩して、見ていってください。そして、読み終わりましたら近所の図書館や書店へ行って、多くの本と出合ってください。
2021年12月18日夜には本作の出版を記念して参加無料のオンライントークイベントが開催される。ゲストは第1回から氷室冴子青春文学賞の審査員を務める作家の久美沙織さんと櫻井とりおさん。
申し込みは当日に日付が変わるまで受付中。見逃し配信もあるので詳細は氷室冴子青春文学賞公式サイトまで。
久美沙織・櫻井とりお トークライブのお知らせ | 氷室冴子青春文学賞
日時/12月18日(土)19:00~20:30
配信方法/Zoom LIVE配信 参加無料
※後日、氷室冴子青春文学賞YouTubeチャンネルでアーカイブあり
申込み方法/メール i.himurosaeko@gmail.comと上記の公式サイト内申し込みフォームで受付中
メールに以下、記入のうえ、送信ください。
・オンライン上で配信されるお名前
・メールアドレス
・居住都道府県(メールアドレス・居住都道府県は表示されません)
・久美沙織さんと櫻井とりおさんへの質問
申込み締切日/12月17日(金)23時59分
主催/NPO法人氷室冴子青春文学賞
共催/河出書房新社 協力/岩見沢市教育委員会 株式会社エブリスタ
広報お問い合わせ先/氷室冴子青春文学賞事務局 i.himurosaeko@gmail.com TEL080-4387-0607(栗林)
「土肥美帆 写真集「北に生きる猫」より」
世に数え切れないほどの犬猫本が出回っている中で、土肥美帆さんの作品集『北に生きる猫』は明らかに他とは違う輝きを放っている。
「かわいい」「まったり」「癒される」とは一線を画する、厳しい冬の北国を生きる猫たちの「生」の瞬間。
雪の上を走る、強風に丸まる、魚を奪い合う、つららをなめる、長時間カメラを構える土肥さんに近づいてくる…どれもその瞬間を全身で受け止める猫たちの表情をとらえ、あの動物写真家・岩合光昭さんも「ネコを写真として見てもらえる絵にするのは難しい。土肥美帆さんは見事にそれを成し遂げている」と、帯に賛辞を寄せている。
北海道書店ナビでは2018年12月に『北に生きる猫』が出たばかりの土肥さんに「猫本フルコース」を作っていただいた。
北海道登別市生まれで、現在は滋賀県草津市在住の土肥さんがカメラを持つまでのお話もうかがっているので、ぜひリンクをたどっていただきたい。
[本日のフルコース] 初の写真集『北に生きる猫』が好評発売中! 土肥美帆さんの強く愛おしい猫本フルコース
[イベントレポート]たくましく生きる猫たちが教えてくれたこと 「北に生きる猫」土肥美帆トークライブレポート
土肥さんがひときわ愛情を注ぐボス猫は「ケンジ」という。2020年3月にケンジのInstagram(@big_face_cat_kenji)を立ち上げたところ、たちまち人気に火がつき、2021年12月時点のフォロワー数は約4.9万人。
「なまらハッピーでゲンキになれるような」ケンジグッズを販売する「ケンジ商店」も完売御礼状態が続いている。
そのケンジたちの姿が大きなパネルになって市立小樽美術館で展示される。2022年1 月から5月までロングラン開催される土肥さんの写真展が決まったのだ。
構成は第1章「北に生きる猫たち」と第2章「ボス猫ケンジ」。約3カ月半に渡る会期中にはトークイベントも2回開催される。
本展をコーディネートした編集者の杉本真沙彌さんは「芸術性が高く評価され、人の心を動かす作品が、小樽で生まれていることを多くの人に知ってほしい。作品を見た後には、皆さんの心がほっこりし、猫たちに一層あたたかい眼差しが向けられることを願っています」と語る。
会期/2022年1月22日(土)~2022年5月8日(日)
※休館日 毎週月曜日(3月21日を除く)、2月15日、2月24日、3月22日・23日、 5月2日、5月6日
会場/市立小樽美術館 2階企画展示室 小樽市色内1丁目9番5号
開館時間/9:30~17:00(入館は16:30まで)
観覧料/一般 500(400)円 高校生・市内高齢者 250(200)円 障がい者・中学生以下無料
※( )内は 20 人以上の団体料金
※1階中村善策記念ホール、3階一原有徳記念ホールも閲覧可
ギャラリートーク1
出演/写真家・土肥美帆×杉本真沙彌(本展コーディネーター、編集者)
日時/2022年2月6日(日)14:00~
会場/市立小樽美術館2階企画展示室(要観覧料)
申し込み/1月4日(火)より電話で受付開始。先着順・定員30名
ギャラリートーク2
出演/写真家・土肥美帆×加藤重男(みんみん舎代表、河出書房新社北海道地区コーディネーター)
日時/2022年4月29日(金・祝)14:00~
会場/市立小樽美術館2階企画展示室(要観覧料)
申し込み/4月2日(土)より電話で受付開始。先着順・定員30名
申し込み・お問い合わせ/市立小樽美術館 TEL0134-34-0035
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