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第515回 詩人・覚和歌子さんトークイベントレポート

谷川さんとともに札幌の「俊カフェ」を応援している詩人の覚和歌子さん(写真右から二人目)。『千と千尋の神隠し』の主題歌『いつも何度でも』を作詞した。

[イベントレポート]
俊カフェ誕生月に詩人・覚和歌子さんのトークイベント
コロナの日々を書いた「空気の日記」も朗読

[2021.5.24]

谷川さんとの対詩で俊カフェ応援CDを制作

2021年5月15日、札幌市中央区の俊カフェで詩人・覚和歌子(かく・わかこ)さんのトークイベントが開催された。
会場となった俊カフェは、詩人・谷川俊太郎さんのファンである古川奈央さんが2017年5月3日にオープン。谷川さんと親交が深い覚さんが俊カフェ誕生月にたまたま札幌で予定があり、「お祝いに」と時間を作ったことで実現した。

谷川さんと覚さんは2020年コロナの影響を受け集客に苦心した二つの店舗、俊カフェと代官山にあるイベントスペース「晴れたら空に豆まいて」を応援しようと、二人のメール対詩CD『草の匂いが濃くなるまえに/Before the Grass Smell Grows Strong』を制作。谷川宅で収録した音源に俊カフェではオリジナルの音源も加えてCD化した。俊カフェの店頭および通販サイトで買うことができる。

【俊カフェ オリジナル】CD:谷川俊太郎+覚和歌子『草の匂いが濃くなるまえに/Before the Grass Smell Grows Strong』 | 俊カフェ ONLINE SHOP

shuntcafe.thebase.in

古川さん(右端)が「このCDについてお客様からの問い合わせもありましたし、私自身の力になりました」と感謝の気持ちを伝えるところから約1時間半のトークが始まった。

作詞家・ソングライターとしても活躍する覚さんが初めて詩を書いたのは、小学2年生のとき。「校庭で遊んでいたら、ふと書きたくなって、私の好きなものというテーマで “私の好きなものはチョコレートと歌だ”と書きました。それを母親がすごく褒めてくれたのを覚えています」
13歳、テレビで谷川さんの朗読を見て「こういう仕事をする人になりたい」と思い、大学卒業後はまず作詞家として頭角を表した。沢田研二やオルケスタ・デル・ソル、平原綾香、SMAP、夏川りみと幅広いアーティストに作詞を提供した。

1992年からは自作詩の朗読ライブを始め、一躍名前が知られるようになったきっかけは、2001年のスタジオジブリの映画『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」だろう。
2008年公開の『崖の上のポニョ』でもオープニング主題歌「海のおかあさん」の作詞を宮崎駿監督と共作している。

初の詩集は『ゼロになるからだ』(徳間書店)を2002年に出版。2015年からは観客の前で詩作の時間を共有するイベント「ライブ対詩」を谷川さんと続け、そこで生まれた作品は『対詩 2馬力』というタイトルで書籍化もされている。

30歳でうつになった時は気流法という身体術をきっかけに”うつ抜け”した。以降は「言葉と感情と体は三位一体。身体感覚と照らし合わせながら言葉を紡ぐようになりました。この時に手に入れたものが、俯瞰の視点。目の前の感情に没入するのではなく、俯瞰することで喜びも悲しみも全てが等価値になる。その視点のまま、半径3メートル以内のことを書く」現在の姿勢が定まっていったという。

その時必要な言葉が届くオラクルカード『ポエタロ』

トークの終盤では、覚さんの著作の一つであるオラクルカード『ポエタロ』も紹介された。名前が「ポエムタロットカード」の略であることからも分かるように、各カードに短い詩文が書かれ、同封の小冊子には「詩文を読み解く」ガイドが載っている。

『ポエタロ』(地湧社)は2016年に発売。覚和歌子著・石川勇一監修・大野舞イラスト。

全部で47枚のカードが8つのジャンル[源、生命、人間、道具、つながり、やすらぎ、変容、宇宙]に分かれており、さらにジャンル別に5~7個のエレメントで構成されている。

「そのカードを引いたからと言って”こうしなさい、ああしなさい”ではなく、解釈はご自分次第。それでも愛用されている方々に聞くと、不思議とその時の自分に必要な言葉が届くようです」と古川さんは語る。

最後は覚さんの朗読タイム。「俊カフェの4周年祝いに」と合唱でも歌われている「アプローズ」と「ありったけの夏」を読んだ。
また2020年4月から1年間、23人の現代詩人が輪番制でWEB日記を書くプロジェクト「空気の日記」があったという。参加した覚さんはそこからPCR検査を受けに行った日を含め2篇をピックアップ。
最後は、戦場カメラマンの渡部陽一さんに書き下ろした東日本大震災の詩「海へ」で締めくくった。

空気の日記 | SPINNER 新しいweb上のコミュニケーション&マガジン

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「詩は言葉で伝えるものですが、意味と意味の間のディスタンス、そこに生まれる振動こそが詩の本質。読んだ方、聞いてくださった方々に持って帰っていただきたいのは、言葉そのものよりもその振動のほうなんです」
覚さんの澄んだ声が俊カフェの窓から5月の静かな空に上がっていった。

俊カフェ
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