北海道書店ナビ

第372回  株式会社日本旅行北海道 新規事業室長 永山 茂さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.123 株式会社日本旅行北海道 新規事業室長 永山 茂さん

鉄道愛好家団体「北海道鉄道観光資源研究会」の代表も務める永山さん

[本日のフルコース]
ながまれ海峡号鉄旅グランプリの仕掛人が勧める!

「汽車に乗って北海道を旅したくなる本」フルコース

[2018.4.16]





書店ナビ 2018年3月2日、北海道唯一のローカル線であり五稜郭・木古内間を走る道南いさりび鉄道(函館・五稜郭間はJR北海道の乗り入れ)の観光列車「ながまれ海峡号」が、鉄旅オブザイヤー2016グランプリに輝くまでの軌跡を追った一冊の本が出ました。
『〝日本一貧乏な観光列車〟が走るまで 「ながまれ海峡号」の奇跡』。その観光列車を運行するプロジェクトの仕掛人であり、本の監修をされた永山茂さんにご登場いただきます。

永山さんが関わった鉄道関係のクラウドファンディングは7戦7連勝中!”北海道に永山あり”の手腕を発揮している。

「ながまれ」とは道南の方言で「のんびりして」「くつろいで」の意味。


書店ナビ 永山さんは京都生まれ。初めての鉄道体験は5歳のとき、新幹線ひかり2号をお父様と一緒にご覧になったとか。「撮り鉄」歴も早半世紀。SL撮影旅行で訪れた北海道に根をおろして日本旅行に入った筋金入りの鉄道愛好家です。

〝日本一貧乏な観光列車〟が走るまで 「ながまれ海峡号」の奇跡
佐藤優子著・永山茂監修  ぴあ



ぴあの編集者が鉄旅グランプリ受賞の記事をネットで読み、書籍化を企画。札幌在住の永山氏に連絡を取ったところ、「北海道のライターを使ってほしい」という希望で札幌のフリーライターが執筆した。




永山 『日本一貧乏な観光列車が走るまで』の発売以来、新聞やサイト、鉄道仲間のブログなどあちこちで取り上げていただいて、本当にありがたいです。

道南いさりび鉄道の「ながまれ海峡号」は、私のおります日本旅行北海道という旅行会社が企画・プロデュースから募集、販促、催行、清算までの一式をお引き受けするという全国初のスキームで誕生した観光列車です。

私はすべての取りまとめ役という立場上、本でも取り上げていただきましたが、このプロジェクトの本当の主役は沿線自治体である函館市、北斗市、木古内町の地域の皆さんです。

あの方々のご協力がなければ、日本一の鉄道商品を決める鉄旅オブザイヤーでグランプリを受賞することもできなかった。鉄道を機軸にしたまちづくりを地域の皆さんのお力で実現できた、幸せな事例です。
書店ナビ 観光列車「ながまれ海峡号」の運行は5月から10月までの隔週土曜。運行3年目となる今年も現在申し込みを受付中だとか。この新刊が弾みとなってまた注目されるといいですね!
道南いさりび鉄道 お食事を伴う観光列車「ながまれ海峡号」発売のご案内



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「汽車に乗って北海道を旅したくなる本」フルコース



前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

線路の果てに旅がある

宮脇俊三  新潮社


言わずと知れた「乗り鉄」の入門書シリーズ。宮脇さんの本は全巻持っていますが、今回は最初と最後の章で北海道が登場するこの一冊を選びました。



書店ナビ 著者の宮脇俊三さんは元『中央公論』の編集長。1978年に国鉄全線完乗の旅を綴った『時刻表2万キロ』で作家デビューし、同作で第5回日本ノンフィクション賞を受賞しています。
永山 私たち”鉄っちゃん”には3人の神様がいまして、「乗り鉄」の神様はこの宮脇さんで、「撮り鉄」の神様は鉄道カメラマンの広田尚敬(ひろた・なおたか)さん、そして最後のおひとりがレイルウェイ・ライターで知られる種村直樹さんです。

私が宮脇さんの本を読み始めたのは中学生のとき。その頃は撮影に行くのも貧乏旅行ばかりでしたから、宮脇さんのように一流企業に勤めながら週末は趣味の鉄旅に出て、しかも豪勢な寝台列車や食堂車を楽しむなんていう大人の乗り鉄スタイルにめちゃくちゃ憧れました。

宮脇さんが釧路に来ると必ず立ち寄られた赤ちょうちんが今もあるんですよ。我々北海道鉄道観光資源研究会の仲間も釧路に行くたびにそこに集まっています。



スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

北海道文学百景

北海道文学館編  共同文化社


スマホじゃなくて、文庫本を片手に汽車に乗りましょう。旅先をどこにするかを決めたら、この本をパラパラとめくりましょう。今回の旅に持って行く本が決まります。



書店ナビ 道内を9ブロックに分け、ご当地に関連する文学作品を紹介する、まさに「文学百景」。1987年に発刊されました。
永山 確か、誰かにいただいたんですが、とてもいい本です。文学からその土地を知るガイドブック。

例えば、道南では日本初の女子修道院「トラピスチヌ修道院」が出ています。あの三島由紀夫が、函館の修道院に入ると言い出したわがまま娘を主人公にした『夏子の冒険』を書いていたとは知りませんでした。

ご当地にちなんだ小説だけでなく詩や短歌なども掲載されている。




書店ナビ すみません、素朴な疑問なのですが、「乗り鉄」の皆さんは乗っている間何をして過ごしているんでしょうか。本を読むとか……?
永山 いや、乗ったらもう、やることがいろいろあって忙しいんです(笑)。車窓の景色を楽しんだり、「あと何分で上りの特急とすれ違うな」と心の準備をしたり。

こちらは帰る途中でも、すれ違う車両にはこれから旅に出る人が乗っているかもしれない。そう思うと、「どうぞ、いい旅を」と心の中で声をかけたくなる。スマホにばかりかまけてはいられませんね。




魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

函館・道南鉄道ものがたり

原田伸一  北海道新聞社
 

道南方面に出かける前に読むべき一冊。古き良き時代にタイムスリップし、車窓の風景がいつもと違って見えます。







永山 著者の原田さんは元北海道新聞の記者で、私より8歳年上。北海道鉄道観光資源研究会の顧問をしていただいています。

彼が道新さんの役職時代にね、部下の方を通して「私に会いたい」と言ってこられたことがあるんです。でも私、現場の記者さんたちは大歓迎ですが、エライ人はキライですから(笑)。高くて気どった店じゃなくて「第三モッキリセンター」っていう安酒場ならいいですよ、と申し上げたら喜んでいらしたんです。

どうやらね、私が父親のカメラでSLの写真を撮り始めたという新聞記事を読んで「自分も同じだ。この人と鉄道の話がしたい!」というのが会合の目的だったんだそうです。モッキリセンターにマイアルバムを持参されて、そこからはもう、仲介者そっちのけで僕ら二人の世界です(笑)。

エラぶったところが全くない人格者で、僕の兄貴のような存在です。


肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

北辺の機関車たち
大木茂・武田安敏・堀越庸夫  復刊ドットコム


昭和46年3月6日、父のカメラを持ち出して初めて蒸気機関車を撮影しました。この本はその年の夏8月20日に出版されたもの。書店で見つけ、食い入るように見ていた少年時代の思い出の一冊です。


書店ナビ 永山少年が手に取った写真集は、キネマ旬報社版。約半世紀前に1500円とは写真集のなかでもかなりの高価格ですよね。
永山 お風呂が7円の時代ですから、小学生にはとてもムリ。でも、この写真集を見たときの衝撃は忘れられなくて、いつも頭の片隅にあった。復刊ドットコムから出てすぐに購入しました。

復刻ドットコム版は4000円。帯に「撮り鉄」の神様、広田氏が献辞を寄せている。


書店ナビ 著者の三人は早稲田の学生だったとか。機関車を撮りに北海道にやってきました。
永山 ここに写っているのは、冬の北海道の光景なんですよね。真っ白の銀世界の中を真っ黒な機関車がもくもくと蒸気を上げて疾走する。僕はこの人たちの足跡を追うために北海道にやってきて……そうだなあ、この写真集の七割くらいは追体験できたかなあ。
この本によって僕は北海道に永住することになりました。


デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

矢島さとしのまるごと北海道みやげの歴史

矢島さとし  中西出版


旅とみやげは切っても切れない縁があります。汽車で旅をしていると、甘いものが欲しくなったり、酒のつまみや記念のみやげに興味が湧きます。そんな思いが一冊にまとまって、気軽に楽しめます。


書店ナビ 《デザート》本らしいスイーツ本です。
永山 北海道鉄道観光資源研究会にはいろんな研究グループがありまして、こういう駅にまつわる食を研究するのは「供食部会」。駅弁、駅そば、駅前食堂も研究対象です。

僕が汽車に乗るとき毎回”儀式”がありまして、必ず駅そばを食べることにしています。駅のホームで立ち食いそばを食べられるところはめっきり少なくなりました。北海道では札幌、新得、遠軽の3駅だけです。なくなってほしくないなあ。




ごちそうさまトーク 撮影意欲がわく車両に出会いたい!

書店ナビ 日本旅行北海道の新規事業室長や地方創生推進室長、さらにはご自分で立ち上げたグループ会社の要職も兼任されてご多忙な永山さん。

そこに新刊の販促活動も増えて、プライベートで撮影旅行を楽しむお時間があまりないのでは?
永山 それがですね、最近は「撮りたい!」と思う列車がいなくて、ちょっとさみしい。そうなると、かつての名車と呼ばれたものをもう一度走らせたいなとか、そっちのほうに考えがいっちゃいますね。




新刊の宣伝活動はいつでも大歓迎です! ながまれに関わった皆さんの努力が結集した本ですから、たくさんの方に読んでいただきたい。著者の佐藤さんともども取材の申し込みとかありましたら気軽に声をかけてください。
書店ナビ ながまれのプロジェクトのように鉄道と地域社会を結びつけている永山さんにお会いして、”鉄っちゃん”のイメージが変わりました。

長い冬も終わり、鉄道に乗って知らないまちを訪ねてみたい。そんな旅心をかきたてられるフルコース、ごちそうさまでした!



●永山茂さん

1959年京都市出身。1982年(株)日本旅行に入社。営業や企画、管理部門、札幌支店長を経て、2011年(株)日本旅行北海道新規事業室長、2017年より地方創生推進室長を兼務、現在に至る。新規事業として2012年に訪日外国人向け着地型旅行会社、北海道オプショナルツアーズ(株)を創業し、取締役に就任。また観光と第一次産業の連携を目指す農業会社(株)あぐりツーリズムネットを設立、代表取締役に就任。

地域活動団体「北海道鉄道観光資源研究会」の代表として鉄道文化の保全や利活用に取り組む。「釧網本線世界遺産登録推進会議」会長。拓殖大学北海道短期大学観光学講師(非常勤)。








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