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第331回 学校法人北邦学園 理事長 佐賀 のり子さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.96 学校法人北邦学園 理事長 佐賀 のり子さん

詩を編むサークル「札幌ポエムファクトリー」の工場長でもある佐賀さん。


[本日のフルコース]
幼児教育に取り組み23年、私の心に響く夭折の絵本作家
「自分を貫いた才女、マーガレット・ワイズ・ブラウン」フルコース

[2017.7.3]


書店ナビ 札幌初の認定こども園「いちい幼稚園」を営む北邦学園の園施設は現在、本部がある札幌市内に4カ所、北広島市には札幌自由の森幼稚園とセカンドスクールいちいの村があります。
理事長の佐賀のり子さんは創立者である父、瀬川五水氏が70歳のときに事業を受け継ぎ、理事長に就任されて今年で6年目を迎えました。
佐賀 まだまだ勉強中の身ですが、父が掲げた建学の精神「自然から学ぶ」をこれからも大切に、ありのままの子どもたちを受け止めていきたいという気持ちに変わりはありません。
私自身、3人の子どもの母親でもありますので、保護者としての目線もプラスになれば、と思います。
働いてくれている先生方の処遇についても、世間的にも厳しいといわれる現状を変えて、少しでも働きやすさを実現していきたいです。風通しのいい職場づくりをマネジメントすることも、私の大事な使命のひとつになっています。
絵本は幼児教育に欠かせないものであり、私自身も好きが高じて小樽の絵本・児童文学研究センターに通うほか、絵本の勉強会やセミナーに参加したり、朗読も勉強しています。子育て中の方々に絵本の素晴らしさを伝える活動に力を入れています。
大好きなおすすめ絵本も数えきれないほどありますが、なかでも
アメリカ人絵本作家のマーガレット・ワイズ・ブラウンさん(1910年~1952年)の本は、何度読んでも心に響きます。
彼女の代表作といえば『おやすみなさい おつきさま』や『ぼくにげちゃうよ』が有名ですが、今回はあえてその2冊をはずして選んでみました。


[本日のフルコース]
幼児教育に取り組み23年、私の心に響く夭折の絵本作家
「自分を貫いた才女、マーガレット・ワイズ・ブラウン」フルコース


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

ちっちゃなほわほわかぞく
作:マーガレット・ワイズ・ブラウン 絵:ガース・ウィリアムズ 訳:谷川俊太郎  童話館

初めてこの絵本を読んだとき、とてつもなく衝撃を受けました。やさしい、誰にでもわかるような心地よいことばで紡がれた物語は、まるでその場で見ているように情景が目に浮かび、日本語の美しさ、素晴らしさを実感しました。


書店ナビ 本作の日本語訳は詩人の谷川俊太郎さんです。原題”Little Fur Family”を「ちっちゃなほわほわかぞく」と訳した時点でもう、脱帽ですね。それ以外に考えられない!
佐賀 ですよね!「ほわほわかぞく」自体は不思議な生き物なんですが、子どもが虫をつかまえる描写を読むと、きっと自分の子どもたちもこうしていたんだなと思えて、まっすぐ心に入ってきました。
音読するとことばの調べ、リズムの良さがよくわかり、個人的にはもしかすると原書よりも日本語版のほうがいいのでは、と思っています。

「ハックション!」もかわいい谷川氏の名訳。今年5月には佐賀さんの友人の古川奈央さんが札幌市中央区に谷川氏公認の「俊カフェ」をオープンした。




スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

ちいさなもみのき     
作:マーガレット・ワイズ・ブラウン 絵:バーバラ・クーニー 訳:かみじょうゆみこ  福音館書店

『おやすみなさいおつきさま』と並ぶ代表作のひとつ。小さなもみの木の成長とともに美しい四季が存分に描かれています。マーガレット作品の特徴である自然描写は、読むだけで私たちを”そこ”に連れて行ってくれる。自然の中でリフレッシュしたような癒しを感じます。



書店ナビ 外国の絵本を読む楽しさのひとつに《その国の文化を知る》もありますね。とくにマーガレットさんの母国アメリカでは、クリスマスは一年で最大のイベント。クリスマスの主役であるもみの木と少年の静かな物語に魅せられました。
佐賀 絵本の中にはごちそうもプレゼントも出てこない、ささやかでつつましやかな古き良きクリスマスが描かれています。
つつましいからこそ、小さなもみの木のクリスマスツリーの美しさがより輝きを放ち、いつまでもいつまでも心に残ります。子どもたちからも何回も「読んで」とせがまれました。

クリスマスキャロルの曲も入っており、弾きながら歌ってみたくなる。



魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

しずかでにぎやかなほん
作:マーガレット・ワイズ・ブラウン 絵:レナード・ワイスガード 訳:谷川俊太郎  童話館

マーガレット・ワイズ・ブラウンの絵本の中で一番好きな本です。彼女の絵本からはいつも「静けさ」を感じます。はりつめた静けさとは違う、自然の中で心癒される静けさを。その静けさが際立って感じられる一冊です。


書店ナビ 原題は”The Quiet Noisy Book”。ほかにも”The Country Noisy Book”や”The Winter Noisy Book”などのNoisy Bookシリーズがあるようです。
日本語訳はふたたび、谷川俊太郎さん。ことばを繰る詩人、谷川さんにしかできないことば遊びの数々がすばらしいですね。

「ことりのはねがそらをきるような」「ゆきがふってくるような」。考えたこともない音が楽しげに描写されている。


佐賀 私にとってマーガレットさんと谷川さんは”最強のふたり”。この本自体がまるで一編の詩のようで、クライマックスにいたっては静けさの中にも希望と喜びがあふれ出し、読む度に心動かされずにはいられません。





肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

ちいさな島 
作:ゴールデン・マクドナルド 絵:レナード・ワイスガード 訳:谷川俊太郎  童話館

マーガレット・ワイズ・ブラウンが別名で書いた “The Little Island”は、1947年にアメリカでその年に出版された子ども向けの本で最も優れた本に贈られるコールデコット賞を受賞しています。《自然豊かな小さな島と子猫のおはなし》の姿を借りた哲学書のようにも感じる深みのある作品です。


佐賀 物語の中で子猫がさかなに「しんじるってなんだい?」と問いかけると「それは、おまえのしらないことについて わたしのいったことを ほんとうだとおもうこと」とさかなが答えます。私にとってズシンと来ることばでした。
お前には信じるものがあるのか、信じる度量があるのかと問われているようにさえ感じました。
最後もすごく深いことばで結ばれていて、ひとは自立し自分の世界を持ちながらも、深いところでは世界とつながっているから決して孤独ではないことを教えてくれました。
今は成人した姪っ子が思春期の頃に、そんなメッセージを読んでほしくて贈った思い出もあります。大人にもぜひ読んでいただきたい絵本です。

マーガレットさんは絵本画家レナード・ワイスガードとのコンビも多く、さまざまな名作を送り出している。




デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

たいせつなこと
作:マーガレット・ワイズ・ブラウン 絵:レナード・ワイスガード 訳:うちだややこ  フレーベル館

マーガレット・ワイズ・ブラウンらしい詩的なことばで、意外なものの意外な「たいせつなこと」が書かれています。納得したり、ちょっと不思議に思ったり。彼女の卓越した観察眼や繊細な感覚に心が奪われます。   



書店ナビ 主体が「スプーン」や「靴」「空」「雨」「花」などの万物で、森羅万象にとっての「たいせつなこと」にうなずかされますね。
佐賀 エンディングの主体は「あなた」。「あなたにとってたいせつなのは」という問いに彼女がくれる答えが、手書きの優しい文字で書かれています。このページを開いた時、誰もがハッとすることでしょう。いつもマーガレットさんの包み込むような優しさを感じながら温かい気持ちで本を閉じています。

「あめ」にとってたいせつのは「みずみずしくうるおすということ」。



ごちそうさまトーク 日常のなかに喜びを見出す心を育む

書店ナビ ネットでマーガレットさんの画像を検索したところ、とてもきれいな人で驚きました。1910年5月23日、アメリカのNYブルックリンに生まれた彼女は美術を学び、30年代から児童書の編集者・絵本作家として活躍しますが、残念なことに血栓が心臓にできる塞栓で42歳で急死。
生涯狩りを愛し、男性とも女性とも恋愛関係を持った、おそらく当時のアメリカでもかなり進んだ生き方を満喫していたようです。
自分であることを貫いた才女、そんな印象を持ちました。

佐賀さんが集めたマ―ガレット作品。絵本作家には絵と文の両方を手がける人もいるが、女流詩人のガートルード・スタインを尊敬していた彼女は終始ことばの職人であり続けた。


佐賀 マーガレットさんの絵本は何も起こらない日常を美しくシンプルなことばで称える作品が多いように感じます。
絵本というと子どもに道徳を説くイメージを持たれがちですが、彼女の本はけっして押しつけがましくなく、人生を本質的に豊かにしてくれる真実をそっと耳打ちしてくれるよう。42歳で夭折したのが本当に惜しまれます。
そんなすばらしい絵本を、子どものものだけにしておくのはもったいないですよね(笑)。大人の方にもぜひとも読んでいただきたい本ばかりです。
書店ナビ 「自然から学ぶ」北邦学園の精神と、自然描写が美しいマーガレット作品には共通点があるようにも感じました。夭逝の才女、マーガレット・ワイズ・ブラウンの世界に浸るフルコース、ごちそうさまでした!

●学校法人 北邦学園 http://www.hoppou-gakuen.ed.jp/ 
●佐賀のり子さん
札幌出身。父は北邦学園創立者の瀬川五水氏。「当初は継ぐ気持ちはなかったのですが、職員として働くうちに本当にいい仕事だと実感するようになり」、2012年に同園理事長に就任。札幌ポエムファクトリー工場長。














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