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第312回 ニシクルカフェ 大久保 亜紀さん



5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.79 ニシクルカフェ 大久保 亜紀さん

店は2013年12月にオープン。内装はプロの友人に依頼し、ほぼ自分たちで完成させた。


[本日のフルコース]
ニシクルカフェのお客様が愛読する
「カフェタイムを彩るビジュアル本」フルコース

[2017.2.20]





書店ナビ 札幌のブックメーカー、シミー書房さんからご紹介いただいた今回のフルコース選者は、札幌市南区にあるニシクルカフェのオーナー、大久保亜紀さんです。
お店は南区ですが、店名は「ニシクルカフェ」? 「ニシ」は西ですか?
大久保 よく聞かれます(笑)。「ニシクル」とはアイヌ語で「雲」の意味です。大空に浮かぶ雲みたいにのんびり過ごしてほしくて、そう付けました。
美専の学生だった頃から画集や写真集が好きで、店にも愛着のある本を置いています。今回はその中からお客様にも人気がある本でフルコースをつくってみました。

ウッディな落ちついた内装が長居を誘うニシクルカフェ。北海道産小麦100%でつくったベーグルもおいしい!





[本日のフルコース]
ニシクルカフェのお客様が愛読する
「カフェタイムを彩るビジュアル本」フルコース


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

みさおとふくまる
伊原美代子  リトル・モア

みさおおばあちゃんと白ネコふくまるの写真集。最初はただカワイイだけなのですが、見ているうちに愛なのか絆なのか命なのか、なにか尊いものを感じてぐっときます。


書店ナビ すっかり耳が遠くなったみさおおばあちゃんと、生まれつき耳が聞こえないオッドアイの白ネコふくまる。二人の間に通い合うものが誌面から溢れ出て、大勢の読者を魅了する人気写真集です。
大久保 撮影者がおばあちゃんのお孫さんなんですよね。カワイク撮ろうとしてなくて、みさおさんもふくまるも普段の姿がそのまま写っている。続編の『みさおとふくまる さようなら、こんにちは』も置いています。
いろんなお客様が手にとってくださって、うちにある2冊はバラバラになったページもあるくらいです(笑)。

「うちにもロシアンブルーのドンちゃんがいます」。2015年2月22日ふくまるは空に旅立ったことを、著者の伊原さんが昨年Facebookで発表した。




スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

(un)Fashion
Tibor + Maira Kalman  Harry N. Abrams  

世界中の人々のファッション集。楽しかったり奇抜だったり、国の情勢を反映した恐ろしいものだったり。多種多様な世界のファッション。


大久保 書店でひとめ見て「これは買わなきゃ!」と思いました。各章が「WORK」とか「UNIFORM」「HEADGEAR」とかのテーマに分かれていますが、ただ見ているだけでも十分楽しい。頭にミシンをのせている民族がいたりして「どういうこと??」と思いながら、何度も見てしまいます。
ご自分でものづくりをされているお客様が好んでご覧になっているようです。

「巻末のクレジットと照らし合わせながら読むと、より理解が深まります」




書店ナビ 著者は世界的に著名なデザイナー、ティボール・カルマンと妻のマイラ。社会問題にフォーカスした作品づくりで知られています。本書も体裁はファッション写真集ですが、実際は報道写真集に近いかも。世界のことを教えてくれる一冊ですね。




魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

シミー書房の本
シミー書房 

物語も絵も独特、主張しないあたたかさ、つかみどころがなさそうで実は切れ味がいいシミー書房の詩や物語。ご本人たちが手がけた装丁もステキで、大切な人にプレゼントしたくなります。  


書店ナビ シミー書房は札幌在住の新明史子(しんめい・ふみこ)さん・岡部亮さんのお二人が2005年から始めたブックメーカー。手のひらサイズの小さな本はすべて手製本。
テキストやデザインは新明さんが、絵と製本は岡部さんが担当し、「生活の中に心地よく存在する作品」を発表しています。
以前、このフルコースにもご登場いただきました。
大久保 札幌芸術の森でシミー書房さんの本を見かけて、たちまちファンになりました。幸いなことにうちのお客様の中にシミー書房さんのお知り合いがいて、そこからご縁が始まりました。

ニシクルカフェのシミー書房コーナー。「許可をいただいてクッキーのパッケージにも絵を使わせてもらっています」




大久保 私も絵を描くんですが、どうしても”ちょっと狙って”描きたくなってしまうんです。その点、シミー書房さんは絵もテキストも実に自然で、”これしかない”というベストマッチの組み合わせ。ほかの誰にも描けないシミー書房ワールドが大好きです。




肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

ナンシー関の記憶スケッチアカデミー
ナンシー関  角川書店

提示されたお題を記憶のみに頼って描く記憶スケッチ。全国の老若男女による投稿サンプルを”理事長”のナンシー関が鋭く分析します。しんどいときも悲しいときもこれさえ読めば笑顔が戻る魔法の一冊です。




書店ナビ 大久保さんがお持ちの本書は文庫本になる前のソフトカバー版、しかも続編も揃えていらっしゃいます。私も一年に一度必ず読み返して、笑いと元気をもらっています。
大久保 ホントに?この本を知っているひとは少ないので仲間がいてうれしいです。母がカタログ誌の『通販生活』を買っていて、連載されているこのコーナーに釘付けになりました。
うちの店でひとり静かにコーヒーを飲んでいらっしゃる方もこの本で突然笑い出したりして、一気に話に花が咲きます。
何年経っても色あせない笑いとオドロキ。それが記憶スケッチアカデミーの魅力です。

お気に入りのお題は?「これこれ、ギターの回。77歳のおばあちゃんが描いたギター、これってもうゲタだよねっていう世界です」





デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

詩ふたつ
長田弘  クレヨンハウス

クリムトといえば官能的な人物画を想像しますが、この本で紹介されているのは風景画のみ。長田弘さんの美しく切ない詩との組み合わせがすばらしいです。




書店ナビ 詩人の長田弘さんの2篇「花を持って、会いにゆく」「人生は森のなかの一日」と、画家クリムトの絵が対になった詩画集。美しいですね。
大久保 うちに来てくださる本好きのお客様に教えていただきました。クリムトってこんなに美しい風景画を描く人だったのかと、新鮮な思いでページをめくったのを覚えています。ずっと見ていられますね。

ごちそうさまトーク Uターン4年目、人脈づくりの真っ最中


書店ナビ 10年近く離れていた北海道にUターンして現在のカフェを始めた大久保さん、今後の予定を教えてください。
大久保 戻ってきてまだ3年過ぎたところなので、まだ人脈をつくっている真っ最中ですが、シミー書房さんのようにいいなと思ったクリエイターの方々とたくさんつながっていけたらいいですね。
南区にあり、車がないと来づらいかもしれませんが、若いお客様も大歓迎です。お近くにいらしたときは気軽にご来店ください。
書店ナビ 大久保さんの「好き」がお客様にも広がっていくビジュアル本フルコース、ごちそうさまでした!

●ニシクルカフェ https://nisikurucafe.jimdo.com/
北海道札幌市南区石山2条2丁目7ー33 コーポラス美沙101
TEL.090-6264-3832
営業時間11:00~18:00
火曜定休(不定休あり)公式サイトでご確認ください。

●大久保亜紀さん 
札幌出身。美術専門学校を卒業後、デザイン会社や飲食店などさまざまな職種を経験。道外で10年間勤務後北海道にUターン、2013年にニシクルカフェ開店。今後は店内でイベント等も企画予定。















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