5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.55 DEXTURE アートディレクター 久米井 大輔さん
社名のDEXTUREはDE(SIGN)と(FU)TUREの造語。「デザインで未来を楽しく」という想いを込めて付けた。
[2016.7.11]
書店ナビ | 今回のフルコースは今年の4月、北海道のデザイン業界に華やかな話題を届けてくれたこの人、デザインプロダクションDEXTURE(デクスチャー)の代表取締役、久米井大輔さんにお願いしました。 久米井さんが運んでくれた朗報とは、2020年に開かれる東京オリンピック・パラリンピック競技大会のエンブレム公募「佳作」受賞のお知らせです。 佳作は、2016年1月に開かれたエンブレム委員会の審査で採用候補の4つに選ばれたものの、その後の商標調査で残念ながら落選となった3作品のこと。応募総数14,599点の中から、しかも北海道のデザイナーは久米井さんただ1人が佳作に選ばれたというニュースが北海道中をかけめぐりました(受賞作品は公表できない決まりです)。 この実績が今後に弾みをつけてくれそうですね。 |
---|---|
久米井 | ありがとうございます。今年2月には長男も生まれ、2016年は濃い上半期を過ごしました。後半は気持ちを切り替えて進んでいきたいです。 デザインに限らずなんでも自分の中の固定概念を塗り替えてくれるものが好きなので、《発想の転換本》を切り口にフルコースを考えてみました。 |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
テクノイズ・マテリアリズム
佐々木敦 青土社
若い世代に人気を誇る音楽テクノの起源にさかのぼり、音に対する「唯物論的な姿勢」(マテリアリズム)をテクノ批評の第一人者が解説。
書店ナビ | RSR(RISING SUN ROCK FESTIVAL)の販促物やCD・DVDのジャケットデザインなど音楽関連のお仕事を得意とする久米井さん。やはり《前菜》は音楽本ですね。 |
---|---|
久米井 | 中学のころからノイズや現代音楽を聞いていて、つねに「音って何だ、音楽になるって何だろう?」という疑問を持っていました。 その疑問に理論立てて答えようとしてくれたのが、この「テクノイズ・マテリアリズム」です。「なにも音楽行為がない」ことで有名なジョン・ケージの楽曲「4分33秒」の解説も載っています。 |
書店ナビ | テクノというジャンルのなかでもミニマル=最小限の音を使うのが「ミニマルテクノ」。他方、「ノイズ」とは楽器以外の音、電子音や心音や鳥のさえずりなどを使用した音楽のこと。 |
久米井 | この本を読んだあと、僕の中ではミニマルテクノとノイズの境界線はほとんどなくなり、物質としての音を今まで以上に認識するようになりました。 ただのBGMでもなく、ともに口ずさめるようなAメロもないのに聴衆を惹きつけるノイズの聴かれ方は、クラシック音楽と同じ。まったく別のジャンルですが、どちらも普遍的な力を持っていると感じています。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
MIND-EXPANDING SOUND BOOK
ヤマタカEYE リトルモア
ニルヴァーナの全米ツアーのオープニングアクトもつとめた日本のバンド「ボアダムズ」のボーカル、ヤマタカEYEこと山塚アイのビジュアルブック。1996年発刊。
書店ナビ | 恥ずかしながら初めて知りました、世界的に活躍する日本のバンド「ボアダムズ」。メンバーも音楽スタイルもバンド名もつねに自由に変わり続け、2007年にはNYのブルックリン・ブリッジ・パークでメンバーを含めた77台のドラムパフォーマンス「77BOADRUM」を敢行。ニューヨーク・タイムズにも取り上げられたとか。 そのボーカル兼リーダーがヤマタカEYEさん。ビジュアル面でも才能を発揮されているんですね。 |
---|---|
久米井 | 僕の音楽とデザイン、両方に影響を与えた人です。 クリエイターというと「ゼロからつくる」イメージがあると思うんですが、この人のコラージュ作品は「過去に別の誰かがつくったものを組み合わせて、まったく新しい表現を提示する」面白さにあふれている。 「そうくる?」という組み合わせが刺激的ですし、それに好きな色が僕と同じ。赤、ピンク、紫を巧みに取り入れているところにも見入っちゃいます。 |
ヤマタカEYE氏は1992年放送のバラエティー番組の企画「ナインティナインの史上最悪最強のバンド計画」にも出演。貴重な動画がネットの海に残っている。
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
MARQUEE
マーキー・インコーポレイティド
松本昌幸編集長による隔月の音楽雑誌。最新号は2016年6月10日発売のVol.115。
http://www.marquee-mag.com/
久米井 | 『MARQUEE』を手に取ったのは、編集長が松本さんだったから。もとはロック専門の音楽誌をやっていた人で、センスのいいバンドばかりを紹介していました。 その彼が急に方向転換してアイドル音楽誌を?という驚きもありましたし、『MARQUEE』創刊とほぼ同じころにももクロが出てきて、モー娘にもAKBにも興味がわかなかった自分の中でアイドルが少し面白くなってきた。 そこにとどめを刺してくれたのが、アキバカルチャーから出てきた6人組の「でんぱ組.inc」です。2012年に社員旅行で行ったAOMORI ROCK FESTIVALで初めてナマのステージを見て「こんな世界があったのか!」と衝撃を受けました。それ以来活動をチェックしていて、MARQUEEでも何回も特集されています。 |
---|
「かわいい」だけじゃないアイドルの世界を掘り下げる『MARQUEE』。久米井さんが見せてくれたのは2011年12月号。
書店ナビ | 松本さんはなぜアイドル誌に移ったと思いますか? |
---|---|
久米井 | きっとアイドルの世界にロック以上の面白いものが見つかったんだと思います。追いかけたくなるような強烈な個性が。 好きなことに対して大きく舵を切るその姿勢もリスペクトしています。 |
2016年3月にリニューアルオープンしたタワレコ秋葉店のポスターに「でんぱ組.inc」が登場。このポスターをデザインしたのが、なんと久米井さん!音楽好きを見込まれてタワレコ関係者から声がかかったという。すごい!
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
おやすみプンプン 1
浅野いにお 小学館
どこにでもあるような街の、どこにでもいそうな少年プンプンの波乱の人生を描いた作品。全13巻。
久米井 | 浅野いにおは先に『ソラニン』を読んでいて、絵が好きでした。 |
---|---|
書店ナビ | この主人公、”こどもがお絵描きで描くような線画のひよこ”として描かれていますね。他の登場人物とタッチが明らかに違います。 |
久米井 | そうなんです!そこがこのマンガのすごいところで、主人公と親族以外はすべてリアルな人物描写。ストーリーも混み入った人間模様が描かれているのに、肝心の主人公であるプンプンは最初”ひよこ”で、しまいにはただの”三角”として描かれる。 三角ですよ(笑)。その発想、ヤバくないですか? こんなマンガは見たことがない。浅野いにお、天才だと思います。 |
主人公が記号化されている『おやすみプンプン』。ほかの登場人物にはプンプンが普通の人に見えているという設定も「ヤバい」。
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
かんたんdancyu からあげ練習帳
プレジデント社
外で食べるとおいしいのに自宅ではなかなかうまくできない唐揚げが、おいしく作れるようになるお助け料理本。「ザンギ」大好きな道民は必読!
書店ナビ | 久米井さん率いるDEXTUREは、札幌の中央区でイタリア料理店「TRATTORIA CUGIRA」(トラットリア・クジーラ)も営業されています。 クジーラは揚げピッツァが評判ですが、こちらは唐揚げ本ですか。 |
---|---|
久米井 | もともと料理が好きで唐揚げも何度も練習したんですが、今までどうしてもカリッと揚がらなかった。 それがこの本のとおりにしたら自分史上最高の出来上がりになって驚きました。「なんだ、そうすればよかったのか!」という成功の秘訣は…みなさんもぜひ読んで試してみてください。マジで買ったほうがいい本です。 |
書店ナビA | 味付けはしょう油派ですか? |
久米井 | 最近はすっかり塩派です。北海道はしょう油味がスタンダードなのに、小樽の「なると」は「塩ザンギ」と名乗らずに普通に塩味を出している。そこもカッコよくて気に入っています。 |
今年パパになった久米井さん。休日は育児にがんばっている奥さまを手料理でねぎらうことも。
ごちそうさまトーク 誰にも負けないものを見つけたい
書店ナビ | 東京オリンピックエンブレム佳作受賞の追い風を受けて、今後はどんな風に活動していきたいですか? |
---|---|
久米井 | 今年DEXTUREを設立して6年目を迎え、いま自分は37歳ですが、40代や50代になったときに「これだけは誰にも負けない」ものがあると信じたい。 いまのところ、それの最有力候補が唐揚げかも(笑)。というのはまあ冗談だとしても、スタッフ皆と「楽しい仕事をする」姿勢はこれからも変えずに、最近はそこにちょいちょい「笑い」を入れたい欲が出てきました。 うまく笑えなかった若いころの自分を思うと、ちょっと大人になったのかもしれません。 |
書店ナビ | 今後も北海道をかきまわす活躍を期待したい久米井さんの発想転換本フルコース、ごちそうさまでした! |
©2024北海道書店ナビ,ltd. All rights reserved.