5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.16 TSUTAYA厚別西4条店 波呂 栄治さん
映像レンタル担当20年の実績を持つ映画通の波呂さん。
現在は書籍担当に移動し、新書・ビジネスを任されている。
[本日のフルコース]
年間約150本鑑賞の映画好きスタッフが選ぶ
原作が読みたくなる!最近の日本映画フルコース
[2015.9.14]
書店ナビ | 北海道書店ナビのフルコース企画ではつねに、独自のフルコースを作ってくださる方を探しています。ときには一度ご登場いただいた方々に「同僚の方でどなたかいらっしゃいませんか?」と推薦してもらうことも。 今回はその推薦枠からご登場いただきました。しかも初の「映画」枠です! |
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波呂 | 先におわびしておきますが、実はどの原作も未読です。映画の面白さ優先でフルコースをつくっちゃいまして…スミマセン。 |
書店ナビ | いえいえ、映画と本は親和性が高いので、いつかこういうフルコースが出てくると期待していました。かなりの映画通とうかがっている波呂さんのセレクション、楽しみです。 |
波呂 | 映画は多いときで年間150本以上見ています。今回は2012年から封切られた最近の日本映画のなかで原作ありのおすすめ作品をピックアップしました。 |
[本日のフルコース]
年間約150本鑑賞の映画好きスタッフが選ぶ
原作が読みたくなる!最近の日本映画フルコース
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
真夏の方程式
映画:監督/西谷弘 販売/ポニーキャニオン 公開/2013年
原作:東野圭吾 文藝春秋
原作は物理学者の湯川学を主人公とする『ガリレオ』シリーズ3作目の長編。映像化は2007年のテレビドラマが先で、福山雅治主演で人気に火がついた。
波呂 | 実は原作もテレビドラマも見ていなくて、特に福山ファンでもないんですが(笑)、映画好きが集うSNSで評判が高かったので劇場に行きました。 ものすごく古い映画にジャック・タチ監督の『ぼくの伯父さん』(1958年公開)というフランス映画があります。『真夏の方程式』の湯川と少年の関係を見ていると、『ぼくの伯父さん』のジェラール少年とユロ伯父さんのことを思い出しました。 ヒロインの杏さんも頑張っていましたが、本作では子ども嫌いの湯川と少年の心のふれあいが一番心に残っています。 |
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書店ナビ | その少年が、本人の知らぬところで事件と関係しているというのがまた切なかったですね。 |
波呂 | こういうミステリーものの映画は、映像だと編集でうまく観客をミスリードすることができますが、原作はどう表現しているんでしょうか。読んで確かめてみたいです。 |
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スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
桐島、部活やめるってよ
映画:監督/吉田大八 販売/バップ 公開/2012年
原作:朝井リョウ 集英社
小説すばる新人賞を受賞した浅井リョウのデビュー作。映画はその年の映画賞を総ナメにし、神木隆之介、橋本愛、東出昌大ら若手キャストの熱演も高く評価された。
波呂 | 吉田大八監督が撮ったと聞いて見に行きました。シネコンで3回、いまはもうないミニシアターの蠍座でも見て全部で4回。映画がとてもよかったので原作もすぐに買いました。読みかけですが(笑)。 |
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書店ナビ | 原作は各章に登場人物の名前が付いていて、その人物の視点で描かれるオムニバス小説ですが、映画は曜日で章立てし、同じエピソードを視点を変えて何度も描くユニークな手法が成功しています。 波呂さんは本作のどのへんがお気に入りですか? |
波呂 | ちょっと派手な体育会系とか地味でオタクな文化系とか、高校時代独特のクラスターをリアルに描いていますよね。調子にのったり内心は焦ったりする高校生たちの感情の動きがストレートに伝わってきました。 野球部に所属しているのに部活と距離をとろうとする菊池を演じた東出くんが、野球部の練習を見ながら涙をこぼす場面は本当によかった。 あと、神木くん演じる映画部の子たちの愛読誌が原作では『キネマ旬報』で、映画では『映画秘宝』になってたりとか、吉田監督の遊び心を見つけるのも楽しいです。 |
シアターキノの会員になっている波呂さん、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にも毎年足を運んでいる。
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
悪の教典
映画:監督/三池崇史 販売/東宝 公開/2012年
原作:貴志祐介 文藝春秋
人気教師が実はサイコキラーで生徒たちを殺戮していくという血まみれの原作を三池崇史が料理。主演は『海猿』の好感度を投げ捨てる勢いで嬉々として演じた伊藤英明。
書店ナビ | 監督の三池さんはVシネ系からアニメ原作、時代劇…と非常に幅が広く、悪を描かせたら当代随一という印象です。 |
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波呂 | サイコパスな教師が主人公という一見厄介そうな原作を存分に楽しみながら撮られたんじゃないでしょうか。悪いヤツがいきいきと悪事をはたらくピカレスクロマンの要素も感じました。 「ハスミン」役の伊藤英明、よかったです。松田優作主演の『蘇る金狼』を彷彿とさせて、昼は目立たない表の顔、夜は…という二面性を違和感なく演じ分けていたと思います。 原作者の貴志さんも教師役でちょっとだけ登場しています。原作者の特権ですね。 |
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
野火
映画:監督/塚本晋也 配給/海獣シアター 公開/2015年
原作:大岡昇平 新潮社
著者の戦争体験をもとに人間の極限状態を描いた戦争文学。1959年に市川昆監督が映画化し、2015年公開作は塚本晋也監督が監督・製作・脚本・主演を務めた。
書店ナビ | 寡作で知られる塚本さんですが、『鉄男』をはじめ熱狂的なファンが多い鬼才です。 |
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波呂 | 前情報をまったく入れないで見に行ったので、かなりビックリしました。大勢の餓死者を出したレイテ島の陸上戦や極限状態で人肉を…という重いテーマに、限られた予算や人数で挑んだ塚本さんにしか作れない作品でした。 |
書店ナビ | 札幌では劇場公開が終わりましたが、強烈そうな内容につい腰が引けてしまって見に行けませんでした。 |
波呂 | 気持ちはわかります。ただ、本でも映画でも楽しくて明るい内容ばかりでなく、ときには刻み込まれるようなトラウマ体験も必要なんじゃないかなと思います。 『野火』を観たら戦後70年の節目とかいま白熱している法案の是非論を飛び越えて「戦地に行くってこういうことなのか」と素直に理解できる。まさに一度見たら心に刺さる、五つ星の傑作です。原作にもしっかりと向き合ってみたいです。 |
オフの日も映画ざんまい。多いときは一日4本“見だめ”する。
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
神去なあなあ日常
映画タイトル/『WOOD JOB!(ウッジョブ) 〜神去なあなあ日常〜』:
監督/矢口史靖 販売/東宝 公開/2014年
原作:三浦しをん 徳間書店
お仕事小説の名手、三浦しおんが今度は林業をフィーチャー。映像化したのはエンタメ作品を得意とする矢口史靖監督。初の原作付き作品となった。
波呂 | 矢口監督は『ひみつの花園』以来ずっと好きなんです。どの作品も主人公がスーパーヒーロー・ヒロインじゃなくて、ちょっとヌケている。全然カッコよくないところから始まって物語とともに少しずつ成長していく。 観客に「俺たちにもできるかも」と思わせてくれる。『WOOD JOB!(ウッジョブ)…』も、そんな後味がさわやかな一本でした。 |
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書店ナビ | 主人公を演じた染谷くんが終始眠たげで、つかみどころがない感じが実にイマドキっぽかったっですね。 主人公の兄貴分ヨキ役の伊藤英明さんは本作で日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞しました。『悪の教典』のサイコパス教師から一転して今度はふんどし姿が似合う山の男。売れっ子です。 |
波呂 | 伊藤英明が自分んちからダッシュして、走っている軽トラに飛び乗るワンカットシーンがすごかった。ネットでも絶賛されていました。 大がかりなクライマックスシーンも映像ならではの表現だと思いますが、伊藤英明の飛び乗りも見どころのひとつです。 |
ごちそうさまトーク 思いがけない感動を求めて映画館へ
書店ナビ | 今回のフルコースを選んでみていかがでしたか? |
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波呂 | どれも“濃い味”の作品ばかりになりましたが、なんとか“デザート”でさわやかさが出せてよかったです。これからも思いがけない感動を求めて、いろいろな映画を見続けていきたいです。 |
書店ナビ | “スクリーンで見てから原作を読む派”の波呂さんが選んだ2012〜2015年公開のおすすめ日本映画フルコース、ごちそうさまでした! |
返す本 腰来る重さの 憂いかな
受け取る側も大変だが、よく考えてみるとそれを運んでいるおじさんたちも大変だ。同じく腰痛を職業病とする介護の現場で介護ロボットが注目されているように、書店の流通現場にもロボットを導入、なんてどうだろう。星新一のショートショートとかにありそうだ。
《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。
読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。
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