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第221回 wonderful world!

「本を読まない人のための本屋」と書かれた看板を見た以上は、入るしかあるまい。函館の隣まち北斗市の産業道路と227号線がぶつかる角地に立つ小さな個人書店「wonderful world!」。店主の上村佳樹さんがセレクトした本と雑貨がひしめく小さな異世界に足を踏み入れた。[2015.5.11]

[youtube:http://www.youtube.com/watch?v=CoEf62UPhWE]


「営業時間12:12〜23:23」とある貼り紙一枚を見ても、この店がタダモノではないことが感じられる。
「あ、特に深い意味はないんです。ネタっぽくて覚えてもらいやすいかなと思って」と笑う店主は上村佳樹さん。
大阪出身の42歳。書店勤務などいくつかの転職を経て、4年前に北海道にやってきたIターン組だ。



遊び心あふれる看板に引き寄せられる客、多数。


Iターンのきっかけは、観光で訪れた函館に「一目惚れ」。
「都会すぎず、田舎すぎず。海も山も雪もあり出会った人たちもよくて、長年あたためていた独立をここで実現しようと決めました」。
一年がかりで場所を探し、函館市と北斗市の境にあたる現在の場所で2012年8月「wonderful world!」を開業した。

店内を見て、ピンときた人もいるだろう。
勢いのある手書きポップや、サブカル本・雑貨・洋服の混沌としたラインナップを見て、「遊べる本屋ヴィレッジヴァンガード」の香りが漂っていることに気がつくはずだ。もしかすると、上村さん…?

「はい、10年近くおりました(笑)。そこで学んだノウハウをもとに、今は自分が本当に面白いと思うものを集めてご紹介しています」。
ヴィレヴァンに入るまでは「クソみたいな」世の中だったが、そこで出会った本や商品を通じて「この世界もいいと思えるようになった」。
自身の体験に基づく喜びを地元のお客様に広げようと頑張っている。



本と雑貨のコンビネーションで棚の世界観を構築。
「お!」と足を止める場所が人によって違うところも面白い。


失礼ながら古巣のような知名度はなく、店の外に貼ってあるポップ(「本日も時代の流れを逆走中!」「お子様には『あんなお店、入っちゃダメよ』と、指導する事を強くオススメします」)も万民受けするとは言いがたい。
そこを面白がってくれる「ちょっと変わったもの好き」な男女が、小さな30坪の店を訪れる。


北斗市のゆるキャラ「ずーしほっきー」グッズ。
この店によく似合う。



所さんの番組で紹介されたドリンクも取り扱い中。


開店3年目に入り、少しずつだがリピート客も増えてきた。
「普段本を読まないけど、ここに来ると買ってしまう」と、まさに上村さんが喜ぶことを言ってくれるお客様もいるという。

ここで買った本に影響されて「世界一周の旅に出る!」と決意した男性客がいた。しばらく姿を見せず、一年後ひょっこり顔を見せに来た。旅行資金を貯めるためにバイトざんまいの日々を送っていた。
「“日本にいたんですね!”と内心ツッコミそうになりましたが(笑)、『今までどの仕事も長続きしなかったけど、こんなに頑張って金貯めてるなんて人生で初めて。この店のおかげです』と言ってくださって、すごくうれしかったです」。

この男性客のように新しい人生の扉を開けた一人が二人になり、いつしか二人が三人に、三人が四人になる日もくるだろう。「本を読まない人のための本屋」の迷宮のような店の出口は、あなたがまだ知らない世界へとつながっている。


Basic information

住所 北海道北斗市七重浜4-39-1
電話番号 0138-48-5201
営業時間 12:12~23:23
定休日 火曜日
駐車場 有り




上村さんがセレクト! 3冊のおすすめ本

1)宮崎駿著『シュナの旅』(徳間書店)

宮崎駿著『シュナの旅』宮崎駿が映画化したかったけれど、結局最後まで出来なかった30年以上前の作品。宮崎駿自身による200ページを超えるフルカラーイラストは大変貴重。宮崎映画を1本観る感覚で感動できる絵物語です。『もののけ姫』『ゲド戦記』の元ネタとも言われており、『トトロ』から入った若いお客様にもぜひ読んでほしい1冊です。



2)タナカカツキ著『水草水槽のせかい』(リトル・モア)

タナカカツキ著『水草水槽のせかい』(リトル・モア)当店の入口では水草水槽を展示しておりますが、私がこの世界を始めるきっかけとなったのが、本書です。水槽に描かれた美しい「水景画」の数々は、眺めているだけでワクワクもの。自分の部屋が水草水槽だらけになった気分になれるオシャレなハウツー本です。水槽といえば、子どもの頃に飼った金魚を思い出す方もいらっしゃるかもしれませんが、水草水槽こそ大人の趣味。一緒に癒されましょう。


3)ルイス・キャロル著『不思議の国のアリス・オリジナル』(書籍情報社)

ルイス・キャロル著『不思議の国のアリス・オリジナル』(書籍情報社)花模様の入ったゴールドのボックスケースがとても美しい装丁本。誰もが知るアリスの物語は、作者がたった一人の少女のために書き下ろした究極のプレゼントとして生まれました。そのルイス・キャロル直筆の原本と解説・翻訳本の2冊が入った完全復刻版なので、内容的にも大変貴重な作品だと思います。女子へのプレゼントにいかがですか。

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