[2020.3.23]
新型コロナウイルス感染症に関する報道が連日続いています。
「こういうときこそ、読んでほしい本を紹介してもらうのはどうだろう?」と2020年3月9日月曜から立ち上げた選書企画「いま、あなたとシェアしたい この本を このことばを」は3週連続の短期連載。
毎週10人に1冊ずつ選んでいただき、30人の選者が出そろった今週でいったん最終回となります。
短期間の、しかもメールだけのやりとりにも関わらず選書にご協力いただいた皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
最終回は北海道書店ナビ「中の人」3人も選者の輪に加わりました。このひとはなぜ、いまこの本を差し出すのか。それぞれのおすすめコメントから選者の体温を感じる今週の10冊、ぜひご覧ください。
[選者]「北海道書店ナビ」運営会社コア・アソシエイツ代表の麻生榮一です
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[コメント]
「最初から最後まで読みたくなる雑誌」をめざしたというミシマ社の雑誌「ちゃぶ台」シリーズはもう特集内容からわくわく。Vol.5のテーマは「宗教×政治」で、執筆陣の教養の高さにガツンとやられる。
冒頭の記事によると、土着と外来が習合するとアラアラ、独特の文化が出現。それが日本の宗教「神仏習合」だと。ところが次は「田舎のパン屋が語る政治の話」?ナンダナンダ。曰く、土があればパンが出来る!お金だけが資産でない!うなずく私、たたみこまれていく。
次は太古の京都盆地の話。そこはかつて湿地が広がり、人を寄せつけなかった。「糺(ただす)の森」という尊い原始の森が今もあり、強力な言霊が宿り人々から敬われている…これでも雑誌はまだ中ほどだ。
エッセイ「競馬と念仏」もあれば、対談「物理学者は”神”を見る」、胎児の時、人は母親の食事の音を聞いて育つという「縁食論(4)食を聴く」など、右から左から斜めから脳みそが知のトリプルパンチを受け続ける。
学者、お坊さん、ギターリストなど20人以上の知的パワーで埋め尽くされている「ちゃぶ台」こそ、いまおすすめしたい雑誌なのです。
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北海道書店ナビのご愛読、ありがとうございます。
[選者]「北海道書店ナビ」取材班カメラ・WEB制作担当の麻生悠木です
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驚くことに最初の読後感が全くない。覚えているエピソードは何個もある。
「マニュアル至上主義の店」マニュアルと電子化に踊らされる飲食店とお客の話。「空虚な誕生日パーティ会場に”魚雷”を落とす」行きたくもない誕生日パーティーの話。どれも”あるある話”が多くて、クスっと笑える。
なのにどうして「めちゃめちゃ面白かった!」みたいな強烈な読後感がなかったかというと、それは著者のハライチ岩井勇気さんが事件を事件と感じていないから。そうか、これらの話はどれも”事件”じゃないのか…。
そう考えると世の中のことも自分に起きていることも冷静に見ていきたい。読後感がない理由を探すうちに、そんなもうひとつの答えが見えてきた。
[もうひとこと]
皆様の人生にも事件が起きませんように。 One Love
[選者]北海道の読書環境改善に尽力する北海道ブックシェアリングの荒井宏明さん
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[コメント]
不機嫌な顔でお父さんが帰ってくる。酒を飲みながら仕事のグチを言い、そばを通ると「おれが我慢して働いてやっているからこそ、お前たちが暮らしていけるんだぞ。わかってんのか」と声をかけて寄越す。そんな家庭ってけっこうあるんじゃないですかね。子どもたちも「働くってそんなに不愉快なんだ」「仕事ってそんなに面白くないんだ」と思い込むようになっちゃう。いやいやいや、お子たちよ。この本を手にとるが良い。あんたの父さんはどうだか知らんが、世の大人たちはこんなに良い顔して働いているんだぜ。ちなみに我が家でわたしは子どもたちに「働くって楽しい、働くって美しい、働くってカッコイイ、働くが一番おもしろい」と、この本と同じようなことを言っています。いや、大変なことも多いんだけどよ。そこはそれ、大人なんだから笑って乗り切らないと。
[もうひとこと]
2020年4月15日に江別市に学校図書館サポートセンターをオープンします。
[選者]詩人「久石ソナ」の顔も持つ美容師、「雨とランプ」の大塚卓人さん
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「自分の見ているものが相手とは違う。相手の見ているものも自分とは違う」という認識。「相手に自分を信じてほしいのなら、まずあなたが相手を信じてみる」という考え。30歳を超えてから「宇宙飛行士になりたい」という壮大な夢に挑戦する漫画『宇宙兄弟』。その主人公である南波六太の考えや行動から、リーダーに必要とされる「リーダーシップ」とは何かを学んでいく本です。リーダーシップなんて自分には必要ない、関係ないという人も、リーダーシップのとらえ方が変われば、職場や学校でのふるまいも変わるかもしれません。もう少し肩の力を抜いて生活できるのではないでしょうか?
[もうひとこと]
2019年11月に札幌の琴似に本と髪質改善の美容室「雨とランプ」をオープンしました。大きな本棚と店内の作品を見ながら髪を綺麗にする空間です。
[選者]絵本・児童文学研究センターで学んだ江別蔦屋絵本コンシェルジュの佐賀のり子さん
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[コメント]
この本を読むとなんだか胸が苦しくなるのです。
もう絶対に戻れない過ぎ去った過去のおもいで。懐かしくてせつなくて、何か大切なことを取り戻せそうな気持になるのです(決して取り戻せないのですが)。
様々な詩人の20篇の詩をおとなの「ぼく」と小学生の「きみ」が対話を重ねながら一緒に読んで物語が進みます。最初は関係性もわからない二人ですが読み進めていくうちに、その優しい交流にも胸を打たれます。
詩と向き合う二人の対話が実に本質的で哲学的。1冊全部がひとつの繊細な美しい詩のようです。
「おとなになるまえ」のひとたちだけでなく、おとなにもぜひ読んでもらいたい1冊です。
[もうひとこと]
お声がけいただければ大人向け、子ども向けの出前絵本講座や読みきかせ会をします!
[選者]「北海道書店ナビ」取材班ライターの佐藤優子です
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ここは宇宙。宇宙大学に入学するための最終テストは出身惑星も受験動機も異なる受験生10人が1グループとなって宇宙船で53日間滞在すること。ところがなぜかテスト船に乗船したメンバーは「11人いる!」。
全員失格もありうる不測の事態だらけの最終テストを、流麗な萩尾望都ワールドで描いた日本SFコミックの金字塔です。
読むたびに自分だったらどう行動するかを考えるし、「うっわ、萩尾先生そうきましたか」とうなる筋立ては何度読んでも身もだえる。最後のページにたどりついたとき、この本は本当にいま必要だなと再確認できました。あの極限状況のなかでタダとフロルの純粋さはまるで宝石のようだった。
[もうひとこと]
「俊カフェ」さんで4月11日土曜昼と15日水曜夜、取材ワークショップを行います。詳細は俊カフェFacebookをご覧ください。
[選者]くすみ書房やかの書房のドキュメンタリー番組を制作したディレクターの田辺陽一さん
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[コメント]
よりによってなぜ今、こんなタイトルの本を?訝る御仁もあるやもしれません。深くは問うてくださるな。ただこの本を読めば、あなたが今悩んでいることが卑小なものに思えてきて、明るく晴れやかな扉が開くかもしれません。著者は「芸術は爆発だ」で一世を風靡した、ぎょろりとした目玉のあの男。
「ぼくがここで問題にしたいのは、人類全体が残るか滅びるかという漠とした遠い想定よりも、今現時点で、人間の一人ひとりはいったいほんとうに生きているだろうかということだ。自分を大事にしようとするから、逆に生きがいを失ってしまうのだ。己を殺す決意と情熱を持って危険に対面し、生きぬかなければならない」
ま、だいたいご想像の通りかもしれませんねえ。ただきっと想像以上なのは、その文章力。読者をぐいぐい引き込んで一冊全部読ませてしまうだけのものがあるんだな、これが。
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ここしばらく元・札幌交響楽団のコンサートマスター大平まゆみさんの活動を追っています。彼女は去年11月に難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)が発症したことを公表。病の中で演奏を続けています。人として素晴らしい方で、追いかけているといろいろなことを感じます。NHKで番組が流れる時は1人でも多くの方に見ていただきたいです。
[選者]松岡正剛主宰のイシス編集学校で「編集術」を身につけた幕別町図書館の司書、民安園美さん
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[コメント]
古典から学ぶ。ふと時間ができた時に、なかなか手に取れない名著に挑戦してみよう、と思うことがありますが、結局、読み終えないうちに慌ただしい日常に戻ってしまうことが度々あります。
イラストだけでサクッと世界の名著のあらすじがわかる本書は、二葉亭四迷の『浮雲』を「気位が高いが融通が効かない青年の煩悶」と明快に解説し、途中で何度も挫折してしまう、長くて複雑な『百年の孤独』をわずか10のコマ割りで解決するなど、世界の名著をまさにザックリ、スッキリと説明しています。
「古典には価値観を喚起させる力がある(本文中より抜粋)」
いにしえのものから学ぶ時なのかもしれません。
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この本を糸口にして、本物の古典作品を図書館で借りてどっぷり浸かってみてはいかがですか?
[選者]人文書に詳しい紀伊國屋書店札幌本店の書店員、林下沙代さん
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[コメント]
自分が生きている物語と同じように見知らぬ他人にもそれがあるという、よく考えれば当たり前の事実を普段は忘れてしまいがちだ。著者であるミランダ・ジュライは映画の脚本執筆に行き詰まり、まるで逃げ道を探すかのごとく、フリーペーパーに売買広告を出す見知らぬ人たちに電話をかけ、インタビューする。さまざまな人に会うにつれ、彼女の人生に対する視点にも変化が起きていく。(自分を含めた)誰もがたしかな重さを持って同じ時代を生きているのだということを、思い出させてくれる大切な一冊です。
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[選者]札幌市東区にある書肆吉成の店主、吉成秀夫さん
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[コメント]
「どうしよう…あたしたち古本の中で遭難したわ」
いやもう本当に傑作そろいでヤバいんですけど、なかでもこれは「古本地獄屋敷」でのセリフでして、種を明かせば古本マニアの怨霊がつくりあげた「古本の地獄」に迷いこんだ父を紙魚子と栞子が探しに行くという筋なのだけど、さすが古代伝奇ロマンを大きいスケールで描く諸星大二郎、ここでも異界の作り方が冴えきっていて古本マニアにとって古本地獄がいかに天国のようなところか、なにはともあれ傑作漫画集『ビブリオ漫画文庫』にてお読みくだされ。湊谷夢吉「粗骨の果」の活劇も最高だし、久住昌之「古本屋台」は心に沁みるし、うらたじゅん「中之島の図書館で」は泣けます、しびれます。定番・つげ義春「古本と少女」にもあらためてときめいちゃって下さいね。
[もうひとこと]
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