5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
vol.66 ジャンベ・縄文太鼓演奏家 茂呂 剛伸さん
「手鼓太伸世流」(しゅこ だしんせりゅう)の家元でもある茂呂さん。これまでに3名の師範も誕生した。
[2016.10.10]
書店ナビ | 札幌の音楽家、茂呂剛伸(もろ・ごうしん)さんは20歳のときに西アフリカのガーナ共和国に1年間暮らし、ガ族の人々から打楽器ジャンベの基礎を教わりました。 帰国後は鍛錬を続け、ハンブルグ&パリ・オペラ座日本公演や青森県の三大丸山遺跡縄文アートフェスティバルなど、さまざまな大舞台を経験。 2013年には出雲大社「平成の大遷宮」で奉納演奏も行い、北海道を代表する打楽器奏者として圧倒的な存在感を放っています。 その茂呂さんが近年活動の軸としているのが、「縄文太鼓」です。 |
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通常は木製のジャンベを、茂呂さんが生まれた江別市の煉瓦用土を使って制作。「縄文バズーカ」と命名した。
撮影:kensyo
江別で出土した縄文土器を見本に制作された「縄文太鼓」。白なめしのエゾシカと野焼きした赤土のコントラストが美しい。チューニングはロープの絞りで調整する。
撮影:kensyo
茂呂 | あとで詳しくお話しますが、尊敬する詩人、原子修(はらこ・おさむ)先生との出会いが、北海道の表現者としての自分を変える大きな転機になりました。 北海道に生まれ育った自分が北海道から何を発信していくのか。その答えのよりどころとなるキーワードが「縄文」と「アイヌ」だと考えています。 私もいまだ勉強中の身ですが、北海道のアイデンティティーを考えるときに、どうしてもこの2つ抜きでは語ることができません。その思いを深めてくれた5冊のフルコースです。 |
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前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
都会の縄文人のためのマガジン 縄文ZINE
編集発行人・望月昭秀 株式会社二ルソンデザイン事務所
2015年8月24日に創刊された、縄文業界に衝撃を与えた全国版フリーペーパー。独創的な視点で”都会の縄文人”達を魅了し、今年秋に出たばかりの第4号は北海道の縄文とアイヌ文化が特集されています。楽しく縄文文化に触れることができる理想的なフリペです。DOGUMOって知ってます?
書店ナビ | 簡単に補足しますと、縄文時代は氷河期、旧石器時代を経て紀元前1万3000年頃に始まり、その後の弥生時代が始まるまで1万年間続きました。 土器の使用やムラの出現、狩猟採集文化の発達など優れた技術、豊かな精神文化を特徴とし、いま歴史的な再評価が高まっています。 北海道・青森県・岩手県・秋田県は現在、「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」で世界遺産の登録を目指しています。 今年3月の北海道新幹線開業祝賀会でも茂呂さんは、同じ縄文文化でつながる北海道と青森の陸路開通を縄文太鼓の響きでお祝いされました。 …と説明すると、学校の歴史の時間みたいになってしまいますが、この『縄文ZINE』を一言で言うとかわいい!オシャレなフリペでビックリしました。 縄文のことを知らない人を「縄文弱者」と名付けてQ&Aコーナーを設けたりして、一見”やんちゃ”な誌面づくりですが、しっかり読むと実は縄文のことがよくわかります。 |
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茂呂 | そうなんです。私も創刊号を見たときは「革命的なことをやってくれた!」とうれしくなり、すぐに編集部に連絡をして「北海道でも配りたいから送ってください」とお願いしました。 今、出たばかりの第4号は「アイヌに会いに」という特集で、私が北海道のコーディネート役を務めさせてもらいました。ぜひご覧ください! |
表紙を飾る女子たちは土偶のポーズを真似たモデル、その名も「DOGUMO」たち!「縄文ZINE」の北海道の設置場所は公式サイトでご確認ください。
●縄文ZINE http://jomonzine.com/
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
ゴールデンカムイ
野田サトル 集英社
マンガ大賞2016を受賞した超話題作。北海道の明治末期を舞台に「冒険(バトル)」と「歴史(ロマン)」と「狩猟(グルメ)」が次々と展開されていきます。北海道とアイヌ文化への興味がふくらむ”THE北海道マンガ”です。アシリパちゃん、超可愛い~。
書店ナビ | 桑原真人・川上淳共著『北海道の歴史がわかる本』(亜璃西社)によると「縄文文化の次に続縄文文化、オホーツク文化、擦文(さつもん)文化、アイヌ文化へと移り変わっていく」とあり、ただし正確には「アイヌ人とアイヌ文化は、いつ北海道で形成されたか」には「誰もが納得する答えを出すことは難しい」とあります。 この『ゴールデンカムイ』では専門家の監修のもと、アイヌ文化について詳しく描かれており、多くの大人読者から支持を集めています。 |
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茂呂 | 私がこの本で一番感動したのは、全巻の表紙の折り返しにあるアイヌ語のメッセージ「カント オロワ ヤク サク ノ アランケプ シネプ カ イサム」。 天から役目なしに降ろされた物はひとつもない、というアイヌ文化の壮大なコスモロジーに刺激を受け、アイヌの民族楽器ムックリ(口琴)奏者の川上さやかさんとともに「ウエトゥナンカラ」(出会い)という曲をつくりました。 この人気のまま、もし本書が映像化されるとしたら、ぜひ北海道の音楽を使ってほしい!なんて夢想しています。 |
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
考古学とポピュラー・カルチャー
櫻井準也 同成社
近年縄文やアイヌ文化が注目を集め、日本人の歴史好き、郷土史への関心の高さは世界レベルだと実感します。その魅力を最前線で発信しているのが考古学者であり、本書はポピュラー・カルチャーに登場する考古学者をクローズアップした研究書です。
書店ナビ | 私たちがすぐに思い描く考古学者といえば、インディ・ジョーンズや映画『ハムナプトラ』の主人公、日本では『ワンピース』のロビンも『となりのトトロ』のパパもそうでした。 |
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茂呂 | 先ほど紹介した『縄文ZINE』にも共通することですが、いまの時代は考古学的な言説を一般の人たちにわかりやすく届けるためのパブリック・アーケオロジー(公共考古学)の視点が求められているように感じます。 考古学、郷土史の分野は「保存」と同じくらい「発信」も大切。専門分野と一般の方々の橋渡しに、私も縄文太鼓の力でお役に立てたらうれしいです。 |
ソロ演奏やピアニスト福田ハジメさんとのデュオ「DJEMP」(ジャンピ)など、柔軟な演奏姿勢で大勢の観客を魅了する茂呂さん。
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
叙事詩 原郷創造
原子修 共同文化社
著者の原子先生は詩人・劇作家であり、縄文芸術家集団JAMの主宰もされている、北海道から世界に向かって縄文芸術を発信する北の偉人です。本書はその原子先生の集大成。我々の先祖である縄文人の心”Jomon Spirits”をたっぷり感じることができます。フルボトルの赤ワインで乾杯!
茂呂 | 私が原子先生と出会ったのは2008年のことでした。私のジャンベ演奏をご覧になった先生が「縄文の音がした」とおっしゃって、それを聞いた当時の私の頭の中はクエスチョンだらけ(笑)。 どういうことだろう、と知りたくなって小樽のご自宅に通いつめるようになり、縄文の世界はもとより先生ご自身のお人柄に惹かれるようになりました。 |
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書店ナビ | 縄文太鼓というアイデアも、その出会いに触発されて生まれたそうですね。 |
茂呂 | 原子先生から縄文や続縄文時代のお話をうかがっていくうちに縄文の発信者として役目をいただいたような、「この道を進みなさい」と言われているような心持ちになりました。 この『叙事詩 原郷創造』は舞台にもなっていますが、起承転結がある物語というよりは原子先生がご自身の中に内包している宇宙感そのもの。 ちょっと抽象的な表現になりますが、先生の集大成であり出発点でもあり、私は読むたびに感想が変わる”一生読み続けていく”人生の一冊です。 |
「縄文の音」を紡ぎ出した厚くて柔らかい茂呂さんの手のひら。ガーナの修行時代は血豆ができるほど叩き続けて太古のリズムを体に刻みこんだ。
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
生の岸辺―伊福部昭の風景”パサージュ”
柴橋伴夫 藤田印刷エクセレントブックス
映画『ゴジラ』の作曲で有名な北海道が生んだ音楽家伊福部昭氏の評伝です。釧路で生まれ、アイヌの人達と音更で出会い、青年時代を札幌で過ごし、北海道林業にも関わった、その感性を北海道の大地で育んだ氏の生涯を丁寧にたどっています。
茂呂 | 本書の出版パーティーで演奏させていただいたときに伊福部さんのお弟子さんたちがおっしゃっていたのは、「先生は5拍子にこだわっていた」ということ。 通常はおさまりのいい4拍子になりそうなところをなぜ「5」にこだわったのか。「5」の世界に何を見出そうとしていたのか、そんな話で盛り上がりました。. 本書のページをめくっていくと、同じ北海道出身の柴橋伴夫先生が各地で取材している風景が見えてきて、その旅路の余韻を一緒に楽しむことができます。陽だまりのなかコーヒーを片手に読む、そんな休日におすすめです。 |
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ごちそうさまトーク ともに語り合う場から新たな創造が
書店ナビ | 縄文&アイヌ文化ともにいろいろな立場での意見があり、議論が続いているジャンルです。 |
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茂呂 | どんな話題もオープンに語り合う素地ができてきた現代はとてもいい時代になったと思います。 一部の詳しい方々が縄文&アイヌ文化の魅力・価値を語りあう重要性がある一方で、これは私見ですが、いまを生きる北海道の皆さんとまったく関係のないところでそういう議論を進めたくない、という気持ちもあります。 その隔たりを超えたところで北海道ならではの美しいものを造り出せるのではないか。そう信じて、これからも活動を続けていきたいです。 |
書店ナビ | 「北海道らしさ」とはなにかを考えさせてくれるフルコース、ごちそうさまでした! |
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