北海道書店ナビ

第253回 札幌国際大学 観光学部国際観光学科 教授 宮武 清志さん



5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や編集者が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.29 札幌国際大学 観光学部国際観光学科 教授 宮武 清志さん

「まちづくり」を専門とする宮武さんの個人事務所でお話をうかがった。


[本日のフルコース]
まちづくりの専門家が教えてくれた
明日の北海道観光をデザインする本フルコース

[2015.12.21]




書店ナビ 札幌国際大学で「観光」や「まちづくり」に関する授業を受け持っておられる宮武さん。ご自身が経営する株式会社リージャストからは、8刷りのロングセラー商品も出した「毎年カレンダーシリーズ」を出版しています。
手のひらにのるミニサイズの毎年カレンダーは、「北海道花暦」や「北海道の野鳥」など全5種類。北海道旅行のいい思い出にもなりますし、万年カレンダーなので毎年使うことができます。
宮武 北海道観光のお土産は「食」だけでなく、まだまだ活かされていない資源がいっぱいあります。その一例として形にしたかったのが、この毎年カレンダーです。
第一弾の「北海道花暦」は、北海道植物画協会会員47名の皆さんに366点の植物画を描いていただきました。ポストカードを366枚買うことを考えれば、カレンダーにまとまっていてしかも毎日楽しめるこちらのほうが断然お得です。
おかげで女性のお客様を中心に人気が広がり、現在8刷りで3万2000部を売り上げ、これ以降順当にシリーズを増やすことができました。
今回のフルコースのテーマはやはり、私の専門である「北海道観光」で選ばせてもらいました。毎年カレンダーシリーズもそっとしのばせています(笑)。

北海道の四季や動植物を365日楽しめる「毎年カレンダーシリーズ」(本体1500円※「北海道の野鳥」のみ1600円・税別)。新年のプレゼントにいかがですか? お問い合わせはinfo@hokkaido-quality.comまで。



[本日のフルコース]
まちづくりの専門家が教えてくれた
明日の北海道観光をデザインする本フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

続々・ほっかいどう百年物語

続々・ほっかいどう百年物語
STVラジオ編  中西出版

STVラジオの日曜午後5時から始まる30分のラジオドラマが、札幌の出版社中西出版さんから本になって出ています。番組のテーマは「北海道で繰り広げられた先人たちの壮絶な人間ドラマ」。観光業界からは登別温泉の滝本金蔵と羅臼の村田吾一、2名のパイオニアが紹介されています。

書店ナビ 宮武さんは電子書籍の『ほっかいどう百年物語その8(産業・観光編)』でお読みになったそうですが、紙の書籍のほうは『続々・ほっかいどう百年物語』に羅臼観光の発展に寄与した村田吾一氏が、第六集に滝本金蔵氏が取り上げられています。
宮武 第一滝本館の創始者である滝本さんは、皮膚病だった妻が登別温泉で治ったことから、より多くの人に湯治をしてもらいたいという一心で温泉施設を整備し、温泉までのけもの道をも官の力を借りずに自費で改修した人物です。
現在さまざまな北海道観光の取り組みが進んでいますが、私が思うにどんな取り組みでもその原点には、滝本さんのように一個人の熱い思いがあってほしい。「なんとかしたい!」と強く願う気持ちが周囲の人にも伝播し、大きなエネルギーを生み出します。
もうかる・もうからないは結果論として後からついてくるもの。“何もない時代の北海道”で奮闘した先人たちの情熱から、私たちが学ぶことはたくさんあると思います。






スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

ディズニーランドという聖地

ディズニーランドという聖地 
能登路雅子  岩波書店

ディズニーランド本はたくさん出版されていますが、本書はディズニーランドを学術的な立場から紹介している草分け的な本です。中で紹介されているハードやソフトの両面におよぶさまざまなアイデアや工夫には、北海道観光にも活かせるヒントが潜んでいるのではないでしょうか。


書店ナビ 皆が大好きなディズニーランド。ホスピタリティーや人材育成の面からも注目されることが多いですね。
宮武 観光を提供する側の目線で見ると、ディズニーランドは実に完成された空間です。楽しみに来た来場者は目に見えるところに心を奪われますが、実は重要なオペレーションは全て地下にあり、“魔法の国”とは正反対の最新のテクノロジーが使われています。
ランド内にはなぜ、乗り物中心のアトラクションが多いのか。その疑問も「1時間に何人のお客様を乗せることができるか、運営側が受け入れ人数を把握しやすいから」という合理的な答えを知れば、納得するばかりです。
《目に見えないところが観光の本質である》ことを教えてくれる、非常に勉強になる一冊です

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則

稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則 
木下斉  NHK出版

北海道は従来から“官依存体質”と言われてきましたが、こと観光事業では官との連携は諸刃の剣となります。本書では行政支援がもたらす弊害や留意点、民間ならではの発想を活かしたまちづくりが紹介されており、地域住民を主体とする、元気で持続可能な北海道観光の仕組みを考えていくうえで大変参考になります。





書店ナビ 官依存体質、ちょっと耳が痛い話題です。でも補助金や助成金があると何を始めるにしても始めやすい…。
宮武 肝心なことは官のサポートが終わったあとにどうなるか、どうするかです。この本でも紹介されているように、「自治体に助けてもらえる」という安心感が事業継続の足かせになるケースも少なくありません。
書店ナビ 本書の第二章『まちづくりを成功させる「10の鉄則」』の中には“補助金を当てにするな”という核心をついたものや、“「全員の合意」は必要ない”“最初から専従者を雇うな”といった「えっ」と驚かされる教えも含まれてます。
宮武 もちろんすべての行政支援が不要だというわけではありませんが、観光の基本は民間が主導していくべき。北海道観光も本書に書かれた失敗を“他山の石”としたいですね。

本書も電子書籍で読んだという宮武さん。キンドルの中にはおよそ200冊が収蔵されている。「ほとんどの新書はこちらで読んでいます」。


肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法
デイヴィッド・ケリー、トム・ケリー  日経BP社

新しい北海道観光を創造していくためには、北海道が持っている自然や歴史、文化を活用して質の高い新規のアイデアに挑んでいく必要があります。本書は創造的な仕事をシステム的に進めていくための「デザイン思考」について事例を交えて解説しています。






宮武 最近皆さんが耳にする「インバウンド」という言葉に象徴されるように、近年の北海道観光は右肩上がりで外国人が増えています。ということは、ライバルは国内だけではない、世界を相手にした思考が必要になってきます。
それが、iPhone開発もバックアップした世界的なデザイン会社IDEOの創設者であるケリー兄弟が唱える「デザイン思考」。この本一冊で、デザイナーやクリエイターだけでなく誰もがクリエイティヴィティーを発揮できるようになるノウハウを教えてくれます。
創造というとゼロからものを生み出すイメージがあるかもしれませんが、実はそうではなくて「今あるものを上手に使う」ことがイノベーション。そこに気づける思考法が身に付けば、きっといろんなことが楽しくなってくるのではないでしょうか。
書店ナビ フルコース中、唯一のハードカバーで質量ともに読み応えたっぷり。まさに《肉料理》にふさわしいセレクトですね。

1枚の中で次々とアイデアをつなげていくマインドマップも紹介されている。




デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

大好き北海道

大好き北海道
リージャスト編集  リージャスト

最後にあらためて北海道が持っているすばらしい資源を見てみましょう。当社の毎年カレンダーシリーズの「大好き北海道」は、366の北海道の美しい自然や景観をご紹介しています。日本語と英語の2カ国語表記なので、外国のお客様にもおすすめです。




書店ナビ そっと《デザート》にしのびこんでいました(笑)、御社制作・発行の毎年カレンダーシリーズです。
第一弾の植物画集「北海道花暦」はロングセラー。第二弾がこちらの「大好き北海道」で、続いて石狩市在住の植物画家安藤牧子さんが一冊まるごと描かれた「北海道花物語」、北海道在住の日本画家等89名による「絵ごよみ北海道」、そして第五弾が札幌の野鳥写真家大橋弘一さんによる「北海道の野鳥」です。
宮武 タテ9cm×ヨコ12cmのミニサイズなので持ち帰りしやすいところも好評のようです。Amazonでも買えますし、当社から直接お買い上げいただくこともできます。

「観光は見る場所も季節も限定されますが、この『大好き北海道』を365日めくることで『今度はこの季節の北海道に行こう!』という二度目、三度目の北海道観光へと促せたらうれしいです」


ごちそうさまトーク 近江商人の“三方よし”に学ぼう!



宮武 私は近江商人の心得が好きでして、「売り手よし・買い手よし・世間よし」の皆が喜ぶ”三方よし”こそが、観光を含めた持続可能なまちづくりの重要な指針になると考えています。
毎年カレンダーシリーズも1刷りするごとに画家や写真家の方々にきちんと使用料をお支払いすることで信頼関係が強まり、今日まで応援し続けてくれるのだと思います。
新しいことに挑んだり旧体制を変えたりするのは大変なことですが、“楽しい大変”なら続けられる。北海道観光の明日もそうであってほしいと心から願っています。
書店ナビ 北海道観光の枠組みを広げ、新しい北海道像を結べそうな予感がするフルコース、ごちそうさまでした!









2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんや編集者の方にお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。

《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。

読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。

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