札幌市南区のお店が休業日に取材させていただいた。店名の「ここのわ」は「ベーグルって小麦をこねて輪っかにするなと思って」と内藤さん。なるほど!
[2020.2.10]
書店ナビ:2011年に札幌市北区北34条でオープンした「ベーグル屋ここのわ」さん。
内藤希(のぞみ)さんと夫の義宏さんが良質な道産小麦100%を使い、手ごねの生地を一晩寝かせたもっちもちのベーグルが大評判!
プレーン生地の「黒こしょうチーズ」や自家製オレンジピールが入った「オレンジクリームチーズ」、ビターなココア生地に甘さ控えめのチョコが入った「おとなチョコ」…こうして書いているそばから食べたくなってくる!手作りベーグルの人気店です。
その「ここのわ」さんが、2019年9月に南区にお引っ越ししました。
札幌市南区川沿11条2丁目6-1 TEL070-2685-7346 月曜・火曜・不定休なのでサイトで確かめてからの来店がオススメ!
書店ナビ:実は北海道書店ナビの撮影担当が「ここのわ」ベーグルの大ファン。ブログを見ているうちに「んん?本の話題が多いぞ、この方は読書家だ!」ということがわかり、移転先まで追いかけて本のフルコースをお願いしました。
北区から南区とは思いきった移転ですね!
内藤:夫と二人でなにかお店ができたらいいね、というところから独学で始めたベーグル店ですが、もともと夫の実家がある南区で開こうと思っていました。
それがたまたま先に北区でいい物件が見つかってあの場所に。なので私たちとしてはこちらに「帰ってきた」という感じです。
書店ナビ:そうでしたか。南区の皆さんがうらやましいです。
さて、子どものころから本を読むことが日常の一部だったという内藤さんが選んでくれたフルコース、なにやら美味しそうな匂いが立ち上ってきましたよ…。
書店ナビ:目次が春夏秋冬の食べ物で構成されているのも素敵ですね。読んでいる季節にあわせて読み返すと、きっとその料理が食べたくなる予感がします。
内藤:フルコースを考えるときに真っ先に浮かんだのがこの本です。安野さんは『美人画報』とかのエッセイが好きで、この本を手に取ったのはまさに「くいいじ」というタイトルに引き寄せられたから。
私も食いしん坊なので安野さんの「食べたい!」という素直な気持ちに共感しました。
それに漫画家さんらしく、スタッフの皆さんと一緒に鍋をつつく光景とか、有名な少女まんがの食事シーンにまつわる話も面白いんです。
かの有名な”あの人たち”(一部自主規制)。「一応少女まんが家でもある」という一言がおかしい。
書店ナビ:レシピ本をたくさん出されている高山さん。『日々ごはん』シリーズが有名ですが、これは「読書記」なんですね。
そして変わったタイトル「はなべろ」とは…?
内藤:「はじめに」に説明がありまして、高山さんのだんなさんがあるとき、「鼻さぐり、ベロさぐり」と書いたメモを置いていったそうなんです。
「私の文の書き方は、嗅覚と味覚をたよりにしたものという意味で、夫なりのほめ言葉らしいです。」
面白いですよね。
中味は、たとえば小川洋子さんの『ことり』という作品――小鳥のさえずりがわかる兄と、兄の言葉を唯一理解できる弟の物語――があり、その作品に出てくるポタージュスープを、高山さんは「今、私がこの世で一番食べたいたべもの」といって、冷蔵庫にあるもので作り出す。
「そのレシピが写真と一緒に掲載されている構成です」
書店ナビ:これはまさに料理研究家にしか出せない読書記。おまけに『ことり』も気になってきました。
内藤:角田さんが好きだということもありますが、この本だけ唯一の小説です。ある短編の脇で出てきた登場人物が次の物語の主役になるという連作なので、相関関係を思い浮かべながら読んでいくのが楽しいです。
書店ナビ:特にお好きな一編は?
内藤:「豚柳川できみに会う」。亡くなった奥さんの思い出の味を再現したくて主人公の男性ががんばるお話で、読んでいてじんわりします。
そうやって出てきた物語の中のお料理を、プロの料理研究家が監修したレシピが巻末に載っています。
料理が鍵となる、しかも素敵な連作短編を考えて、そのレシピも載せて、とすごく凝ったつくりなんですが、それがちっともいやみじゃない。
下ごしらえが多いけれど食べたら絶対おいしい魚料理みたいですよね。
「豚柳川…今日、これやろうかな」と料理男子である撮影スタッフがつぶやいた。
書店ナビ:西加奈子さんはテヘラン生まれのカイロ&大阪育ち。日本だけではない食の思い出をお持ちの作家です。
内藤:カイロ時代に日本食を食べるために西さんのおかあさんが相当ご苦労された話が載っています。
お米が手に入っても「たくさんの石と死んだ虫入り」。それをおかあさんがひとつひとつハンドピックなさって真っ白なお米を炊いてくれたとか。
書店ナビ:そういうの、子どもはいつまでも覚えていますよね。内藤さんの「ごはんぐるり」話はなにかありますか?
内藤:いま夫の実家に住んでいるんですが、義母の作る豚汁がすごくおいしいんです。忙しいとどうしても甘えてしまって「自分でやらないと」と思いつつ、この豚汁を食べると本当にほっとする。私の元気ごはんです。
『ごはんぐるり』の巻末に載っている短編「奴」はすごく説明するのが難しいお話なんですが、主人公は不調のときにいつも「奴がくる」と考えているんです。その奴の正体が……あとは読んでのお楽しみですが「食べる」イコール「生きる」を表していて、私はすごく腑に落ちました。
内藤:この3つのお話はどれも人と人以外のもの――地下の調理室にいる小人のおじさんとかシカやアヒルと食を通して心をつなぐストーリーなんです。
「食」って”誰”とでも話せる話題ですし、やっぱり心に直に響くものなんだなと再確認しました。
『あるジャム屋のはなし』は名料理人だった父の跡を継いだ主人公が、小人のおじさんとある約束をしてどんな料理も再現できる「まほうの舌」を持つんです。
ということは他の店の名物料理を”盗んで”きては自分の店で作るので商売は大繁盛。ところがある日……。
書店ナビ:(内藤さんから結末を聞いて)うーん、このお話は料理だけじゃなくてものづくりの本質を教えてくれているのかも。いますぐみんなに言いふらしたいくらい、いいお話を教えてもらいました。
「『あるジャム屋のはなし』は人づきあいの悪い主人公の話。作ったジャムがなかなか売れないくだり、個人商店はぐっときます(笑)」
書店ナビ:「ここのわ」さんにはどんなお客様がいらっしゃいますか?
内藤:来店されるたびにひとつだけ、という方もいれば、一度だけ電話で50個の注文をいただいたこともあります。「全種類制覇しました!」という女性のお客様やいつも必ず同じものを頼まれる男性のお客様、皆さん思い思いに買っていってくださるのがうれしいです。
これからも毎日食べてもらえるようなベーグルを作っていきたいです。
ベーグルのほかに厨房で使っている自然岩塩やラスク、札幌の作家COMOさんの雑貨も販売。
小樽の陶芸作家あおのけ屋さんに作ってもらったオリジナル人形「ベーグルちゃん」を発見!「KOKONOWA」の刻印入り。かわいすぎる!
書店ナビ:食べて読んで、心とからだを元気にしてくれる「ここのわ」内藤さんのフルコース、ごちそうさまでした!
北海道札幌市生まれ。横浜市立大学文理学部文科卒業後、北海道にUターン。パソコン系の専門学校で義宏さんと出会い、のちに結婚。「二人で店を持てたら」と独学でベーグルづくりを始め、2011年北区で「ベーグル屋ここのわ」オープン。2019年9月に南区に移転した。
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