今回の書店ナビBOOKニュースは、札幌にゆかりのある秋のおすすめ本3冊のご紹介から。
1冊目は、書店ナビ名物企画「本のフルコース」にもご登場いただいたことがある三省堂書店札幌店の工藤志昇(くどう・しのぶ)さん初のエッセイ集『利尻島から流れ流れて本屋になった』。
2023年10月18日発売のホヤホヤの新刊だ。
書店員歴約10年の工藤さんは、企画の人でもある。過去には札幌の有志が企画した全国の「読まさる」(「読む」の北海道弁。「思わず読んじゃう」の意味)本を集めた出版社合同フェア「ヨマサル市」を担当し、2022年には設立3年以内の独立系出版社17社を履歴書形式で紹介するオリジナルフェア「新人出版社の履歴書」を開催。
第541回 BOOKニュース 三省堂書店札幌店「新人出版社の履歴書」フェア
2023年1月に開かれた新人紀行作家・田所敦嗣(たどころ・あつし)さんのデビュー作『スローシャッター』(ひろのぶと株式会社)のトークイベントも、版元のSNSで書籍化を知った工藤さんが「本になると思ってました!完成したらぜひうちでトークイベントを!」とはたらきかけ、同僚たちの協力を得て実現した。
そんな工藤さんが2021年4月からnote(https://note.com/sinobukudo0123/)に書きためた文章がこの度、寿郎社によって書籍化された。
現在、書店には本屋や書店経営に関するコーナーが作られるほど関連本が増えているが、札幌の現役書店員が1冊丸々書いたエッセイ集が店頭に並ぶのは、もしかするとこの本が先陣を切ったことになるかもしれない。
タイトルにある通り、工藤さんは「島」生まれだ。北海道の最北端、稚内市の港からフェリーで1時間40分、日本海側に浮かぶ人口4000人の利尻島で生まれ、いかにして書店員になったのか。
日々、書店に立つ中でどんな光景が見えているのか。コロナ禍の「不要不急」時にどんな思いでいたか。そしてこの本をひときわ”工藤さんたらしめている”ご家族とのエピソードなどが綴られている。 例えば、こんな始まりで。
先日、母との電話でこんなやりとりがあった。
「俺ってさ、ちっちゃいとき、母さんに読み聞かせしてもらったことないよね」
「バカかお前! しました! ももたろうでもなんでも、全部母さんがあんたがたに読んでやってたんだからね! ふざけんなよテメェこら!」(『利尻島から流れ流れて本屋になった』「日曜日の定説」より抜粋)
工藤母がなぜこんなに怒ったのかも、エッセイを最後まで読むと見えてくる。
もともと書店員は裏方気質な方が多く、人を立てる方がお好きな工藤さんもご著書のPRに遠慮がちであろうことは目に見えている。
なので書店ナビがどんどん推していきたいこの秋の1冊。富良野在住の画家イマイカツミさんのイラストがまた、とてもいい。
10月18日発売当日の三省堂書店。後ろの「当店の社員が書きました」の文字が嬉しそう。本屋のノベルティ史上初であろう、同店限定特典は買ったらもらえる「利尻昆布のしおり」!
2冊目は、北海道出身の直木賞作家、桜木紫乃さんと人気写真家の中川正子さんが初めて組んだフォトストーリー『彼女たち』。10月13日の発売以降、共感の声が続々とブックレビュー等にあがっている。
本書のブックデザインを、札幌大同印刷株式会社のチーフディレクター岡田善敬(おかだ・よしのり)さんが手がけている。
所属企業の仕事とフリーのアートディレクター・デザイナーとしての活動を両立している岡田さん。
過去には「ダイナソー小林」こと恐竜研究者の小林快次教授が監修したぬりえ本『恐竜 骨ぬりえ』(KADOKAWA)の構成を手がけ、2023年は図書館の依頼を受け、子供向けのブックデザインワークショップも企画した。
『彼女たち』は、桜木さんのショートストーリーを読んだ中川さんが写真を撮り下ろすというコラボ作品。
「ダ・ヴィンチ」の桜木・中川対談によると、中川さんが撮影した「300枚超の写真をデザイナーさんに託して、写真のセレクトからトリミングまで、いったんすべてお任せしました」という大役を、岡田さんが担ったことになる。
そんな作家・写真家・デザイナー間の刺激的な協働を経て、「彼女たち」の物語が今、店頭に。皆さんの手にわたる瞬間を待っている。
そしてもう一人、大役に取り組んだ北海道人がいる。
札幌のイラストレーターFutaba.さんが、畑野智美さんの最新刊『ヨルノヒカリ』の装丁画を担当した。9月7日の発売日、店頭で人目を引いた濃紺の空間に浮かぶ「いとや手芸洋品店」、これが物語の舞台となる。
Futaba.さんが畑野作品の装丁画を手がけたのは、2022年1月に出版された『大人になったら、』(中公文庫)に続いて2作目。
イラストレーターとして広告畑で活動してきたFutaba.さんは、長年の夢である装丁画に取り組みたいと2021年に自身の作品集を制作。
それを見てほしい装丁家や出版社に送ったところ、装丁家経由で出版社に名前が知られ、『大人になったら、』の依頼が持ち込まれた。
『大人になったら、』はすでに13刷を重ねるヒット作に。
そして今回の畑野さんの書き下ろし『ヨルノヒカリ』にも声がかかり、着実に装丁画の実績を増やしている。
三省堂で買った初版サイン本にはFutaba.さんが描いたポストカードと限定の書き下ろし掌編が同封されていた。
2023年度末で7年間在籍した市立小樽図書館を”卒業”された鈴木浩一さん。その行動力と外に開かれた企画力から北海道の図書館関係者の絶大な信頼を集めてきた今年71歳の先達は、「ぼくはもう、ただのおじいさんです」と謙遜しつつ、やはりじっとしてはいられないご様子。
「新しい情報誌を発刊しました」と連絡をいただいた。
Vol.142 市立小樽図書館 鈴木浩一館長 [本日のフルコース] 市立小樽図書館の鈴木館長が60代に勧めたい 「人の一生とは?」考え始めたら読むフルコース
鈴木さんが一人編集長で作り始めた情報誌とは、「北のまちの図書館を創る情報誌 くすくす」。創刊号には、こう書かれている。
「かつて、道立図書館時代に発行していた「あけぼの号つうしん」をモデルに、道内や全国の本や図書館に関わる情報を発信しようと始めるものです」。
「くすくす」という名前に聞き覚えがある方もいるだろうか。かつて札幌で次々とヒット企画を飛ばした「くすみ書房」の故久住邦晴さんが発行していたフリーペーパーのタイトルだ。
「本にはすべての答えがある」と語り続けてきた久住さんの言葉に深く共感する鈴木さんが、自身のフリーペーパーでもその思いを受け継ごうと「娘さんのクスミエリカさんに使用許可をいただき、このネーミングをお借りすることになりました」
閲覧希望者にはメール等にpdfデータで送るフリーペーパー「くすくす」は年4回発行を目指す。画像は創刊号の冒頭。左上のキャラクターもくすみ書房時代のもので懐かしい。
2023年7月に発行された創刊号は全24ページ。図書館の「中の人」でなくても行ってみたくなる道内各地の元気な図書館紹介が載っている。
どのページをめくっても、一文字のスペースも無駄にしまいという情報量で鈴木さんの熱い図書館人スピリッツが伝わってくる。
小樽図書館時代にも地元水族館とのコラボ企画や市内の小中学校・町内会館などに図書館の寄贈本を置いてもらう「おたるまちなか図書館」など、「来館者をじっと待つのではなく、外に出ていく図書館」づくりに努めていた鈴木さん。
「くすくす」にも「まちに飛び出して学ぼうシリーズ」を作り、第一回はその意志を受け継いだくすみ書房を取り上げている。
10月末発行予定の第二回には僭越ながら、北海道書店ナビのライター佐藤優子を取り上げていただいた。
『「北海道書店ナビ」を知っていただくフルコース』をお届けする。
2023年夏、鈴木さんとお互いに取材し合った(取材場所:bokashi)。「80代になったら、全ての固定観念を捨ててドストエフスキーを読み直したいんです。楽しみだなあ」
行政の施策や自治体の方針などにも左右される図書館だが、鈴木さんは「できること」を諦めない。皆で知恵を共有し、次代の図書館人の背中を押す。「人生で初めて肩書きのない日々」どころか、「くすくす」編集長として高くて広いアンテナは健在だ。
空の上から久住さんも、あの柔和な笑顔で「鈴木さん、いいですねぇ」とご覧になっているのではないだろうか。
●「くすくす」を読みたい方はメールタイトルに「くすくす閲覧希望」と書いて、鈴木さん までご連絡を。
道内の出版社等で構成される一般社団法人北海道デジタル出版推進協会(通称HOPPAホッパ)が、北海道独自のデジタルコンテンツを創造しようと、2021年から始めた「北海道デジタル絵本コンテスト」。
2023年10月から第3回目の応募がスタートした。
主な概要はこちら。
応募のハードルが低く、中学生以上ならば親子や友人同士で参加できるところも魅力。過去の入賞作品は札幌市電子図書館やHOPPAのサイトで無料公開されている。
過去の受賞作を見たい方や「応募してみたい」とお考えの方はぜひ、下記のリンク先をご覧いただきたい。
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