5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.115 紀伊國屋書店札幌本店 伊藤 恵理子さん
2階の人文担当チームに所属する伊藤さん
[本日のフルコース][2018.1.15]
書店ナビ | 2018年初のフルコース企画は、紀伊國屋書店札幌本店さんからスタートです!2015年5月の第2回に人文担当の林下沙代さんにご登場いただいて以来、第115回にあたる今回は、同じ人文チームの伊藤恵理子さんがフルコースを作ってきてくださいました。 |
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伊藤 | 人文の歴史担当になったのは2カ月前のことです。以前は医学書や語学担当で目的買いされるお客様が大半でしたが、今度の人文は棚に来るお客様の関心がもう少しゆるやかに広いので、そこをどう、足を止めていただけるような棚にしていくか。チームリーダーの林下さんにいろいろと教わりながら勉強している最中です。 |
書店ナビ | フルコースのテーマ「このふたりだから」という切り口は、フルコース史上初めてです。対談や合作、恋愛問答歌もあって面白そう…。 |
伊藤 | 一番好きな1冊ははじめから決まっていたので、それを《肉料理本》に決めたら、あとは自然に「このふたりだからこんなにオモシロイ本が出来上がったんだよなあ」と思える5冊になりました。 |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
黄昏
南 伸坊 糸井重里 東京糸井重里事務所
昔馴染みのおじさんふたりが観光名所を巡りながら、思いつくかぎりのエピソードをただただしゃべりたおす。くだらなくも時に真面目な雑談珍道中。
書店ナビ | イラストレーターの南伸坊さんは1947年生まれで、「ほぼ日」の糸井重里さんは1歳年下。南さんがコミック雑誌「ガロ」の編集者時代に糸井さんと出会い、「ペンギンごはん」シリーズの連載を始めて以来のつきあいです。 |
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伊藤 | このふたりはとにかく相手のことが大好きで、相手が何か面白いことを言ったらすぐに自分もかぶせたがる(笑)。全篇、それの繰り返しです。 ためになるとか、役に立つとかは一切なし。本を読んでいる感じもしない。 仲のいい小学生同士が電車で会話しているのを聞いてるようで、こちらも幸せな気持ちになります。 |
確かに、こんなに椅子があるのに「なぜ?」というくらい近いふたり。
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
帽子から電話です
長田弘・作 長新太・絵 偕成社
日本を代表する詩人と絵本作家のふたり。この作品でふたりが描いているのは、こども独特の無邪気さと大人もひるむような鋭い視線。もしかすると、ふたりともこどものままなんじゃないか。
書店ナビ | 主人公の少年あっちゃんのお父さんは、青いしましま帽子をよくなくします。すると帽子からうちに電話がかかってきて、自分の居場所を告げるという、ちょっとシュールなお話は実に長新太さんぽいのですが、文章が詩人の長田弘さんというところがとても意外でした。 |
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伊藤 | そうなんです。私が思い描く長田弘さんは絵本作家のいせひでこさんが絵を描かれた「最初の質問」のイメージで、人生や世界の豊かさをやさしく問いかけてくる印象が強かったんですが、この本を見たときに「えっ、これも長田さん?」と驚きました。 |
書店ナビ | ネタバレは避けますが、どうしてお父さんが帽子をなくすたびに必死になって探すのか、あっちゃんにはその帽子がどうして「ちっともいらない」のかを語るくだりはドキリとしますね。 これを読んでいる自分には帽子がいるのかと自問したくなります。 |
伊藤 | 子どもの目から見た大人の世界と長新太さんのらくがきみたいな絵がマッチしていて、「これはきっと、長田さんが長新太さんのイラストありきで書いたお話なのかなあ」なんて想像しています。 |
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
大家さんと僕
矢部太郎 新潮社
お笑い芸人「カラテカ」矢部太郎さんと矢部さんの住む家の大家さんとのなんでもない日常風景。ちいさな幸せがこの先も続いて欲しい。
書店ナビ | 39歳の矢部さんと87歳のおばあちゃんの大家さん。古い木造の一軒家の1階に大家さんが暮らし、2階は矢部さんが。ちょっと不思議なふたり暮らしを描いたコミックエッセイは大ヒットし、新潮社には専用サイトも作られています。 |
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●大家さんと僕 立ち読みコーナーもあり!
http://www.shinchosha.co.jp/ooyasantoboku/
伊藤 | 私が特にいいなと思うのは、大家さんのご自分の人生を悲観しない考え方。あのくらいのご高齢になると、思うところはいっぱいあっても不思議ではないんですが、そこを恨みつらみや哀しみにとらわれず、毎日を淡々と。形見分けを矢部さんに手伝ってもらったりして、とっても素敵なんです。 ふたりの距離感もちょうどよくて、ありきたりの毎日が愛しく思える1冊です。 |
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肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
物物
集・猪熊弦一郎 撮・ホンマタカシ 選・岡尾美代子 ブックピーク
画家・猪熊弦一郎(1902~1993年)が集めたものたちの企画展『物物』からスタイリストの岡尾美代子がセレクトし、ホンマタカシが撮影した愛すべきものたちの写真集。ふたりの軽妙な会話ににんまりして猪熊さんの想いがじわっと伝わる本。
伊藤 | くすみ書房に勤めていたときに、ここ紀伊國屋書店で棚にささっているのを見つけて、「何だろうこれ?」と思い、くすみ書房で注文しました(笑)。 猪熊さんが世界各地で手にした膨大なコレクションに、「これ、何だろう?」とか「これ、岡尾さんのじゃない?」「欲しい。ください」とツッコむふたりの会話がおもしろくて、つい吹き出してしまいます。 |
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書店ナビ | 伊藤さんが特にお気に入りの”物”はなんですか? |
伊藤 | 「バッキンガム宮殿」と書いた紙袋に丸い小石が入っていて、もう、まるで意味がわからない(笑)。でもきっと「バッキンガム宮殿」と書く意味があったんでしょうね。 |
企画展「物物」は2012年に香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催された。
伊藤 | どのページをめくっても猪熊さんがこれを集めたときの情景やそのときの気持ちが立ち上ってくるようで、本当に何回も何回も…すごい数読んでいます。 買ったときの本の帯が破れてしまい、でもどうしてもこの装丁にこの白い帯は欠かせなかったので、出版社に問い合わせをしたら2枚目を送ってくれました。 |
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書店ナビ | すごい!帯のおかわりですか!出版社もきっとお喜びでしたね。編集者冥利に尽きるエピソードです。 |
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
回転ドアは順番に
穂村弘 東直子 筑摩書房
1962年生まれの穂村さんと1963年生まれの東さん。ともに歌人で親交のあるふたりが紡ぐ恋愛詩歌往復書簡。甘くてひりひり。
書店ナビ | 竹野内豊主演のNHKドラマ、朗読教室を舞台にした「この声をきみに」でも劇中で取り上げられました。 念のため確認しておきますが、著者のおふたりが実際の恋人同志なのではなく、ふたりが「恋人たち」の思いを交代で綴った恋愛問答歌ということですね。 |
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伊藤 | はい、ページの頭に穂村さんか東さんのマークがあり、いまどちらの視点かがわかるようになっています。 短歌の感じ方は人それぞれなのでこれ!という正解はなく、私が勧めた友人たちも反応は両極端でした(笑)。でもこの世界観にハマり始めたら一語一語がしみいるように、恋人たちの熱い想いが見えてくる。 できれば途中であきらめずに最後まで読み通してほしいです。最後にもまた大きな仕掛けが待っています。 |
ごちそうさまトーク 先を急がずに繰り返し、繰り返し。
書店ナビ | 5冊を振り返ってみていかがですか? |
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伊藤 | うーーん、どれもユルい本ばかりになりました(笑)。なんというか、自分の中では本だからといって上段から構えるようなものではなく、「こんなオモシロイ本もあるよ」くらいのものが好き。 結果を知るために先を急ぐような読書よりは、文章や世界観に感動しながら繰り返し読むことが好きなのかもしれません。 |
書店員歴は13年。「家では雑誌を読む程度で、大体通勤や移動、休憩中に読んでいます」
書店ナビ | 「このふたりだから」という相乗効果が伊藤さんをいつまでも惹き付けるフルコース、ごちそうさまでした! |
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●伊藤恵理子(いとう・えりこ)さん
札幌出身。北星学園大学経済学部でマーケティングを学び、販売の仕事に関心を持ち、大好きな本を扱う書店員に。くすみ書房などを経て、2015年から紀伊國屋書店札幌本店に勤務。
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