北海道書店ナビ

第277回 三省堂書店札幌店 礒野 桂さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.51 三省堂書店札幌店 礒野 桂さん

児童書担当の礒野さん。ステラプレイス5階の店頭で。

[本日のフルコース]
キキとジジの物語は続いています
『魔女の宅急便』全6巻&特別編フルコース

[2016.6.13]

書店ナビ 札幌駅のステラプレイス5階に広がる三省堂書店札幌店の児童書担当、礒野さんがつくってくれたフルコースはなんと『魔女の宅急便』スペシャル! 
童話作家、角野栄子(かどの・えいこ)さんが書いたこの名作をスタジオジブリが映画化したことは広く知られていますが、原作にはさらに続きがありました。
1982年に雑誌『母の友』で連載が始まった魔女キキの物語は2009年に第6巻が刊行されて堂々完結。あとで詳しく触れますが、2016年には〈特別編〉が出ています。
この全6巻と〈特別編〉の全7冊でつくるフルコース、解説が楽しみです!
礒野 私が初めて『魔女の宅急便』を知ったのは小学生のとき。ジブリの映画が先で、そこから原作にハマりました。
大人になってから読み返したのは、実は最近のことなんです。2015年6月に角川書店から出たイラストレーター100%ORANGEさんの新装版が欲しくて、一気に全巻買いそろえました。
それまで3巻までしか読んでいなかったのを最後まで読み通してみると、どの巻にも胸に響く名言がいっぱい。「このシリーズをもっと大勢の方に読んでほしい!」と思い、『魔女の宅急便』スペシャルのフルコースをお届けします。

[本日のフルコース]
キキとジジの物語は続いています
『魔女の宅急便』全6巻&特別編フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

新装版 魔女の宅急便
角野栄子  KADOKAWA/角川書店

新装版 魔女の宅急便(2)
キキと新しい魔法
角野栄子  KADOKAWA/角川書店


ひとり立ちを迎えた13歳の魔女キキがコリコの町で始めたしごとは、宅急便屋さん。相棒の黒猫ジジとともにお届けものをしながら、大事なことを発見していきます(『魔女の宅急便』)。2年目になると仕事の依頼も徐々に増え、うれしいことばかりかと思いきや、「あたしの仕事っていったいなんなんだろう」、キキに大問題がもちあがります(『魔女の宅急便 その2』)。

礒野 私がこのシリーズで一番好きなところは、キキが単なるがんばりやさんの魔女じゃなくて、面倒くさがりだったり、言い訳をしたり、たまに今で言うところの”こじらせてしまったり”する普通の13歳の女の子だというところ。
映画ほどいい子じゃないので、自分との共通点を見つけやすいところが気に入っています。
映画のもとになった1巻のはじまりを経て2巻になると、運ぶものが「黒い手紙」とか「さんぽ」とか少しずつ複雑になっていく。なかには届け先が見つからない?なんていう不思議な依頼もあり、それをどう解決していくかが見物です。
ひとり立ち前まではいやがっていた薬草作りに対する気持ちも、どうして変わっていったのか。キキの成長をまぶしく感じる1、2巻です。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

新装版 魔女の宅急便(3)キキともうひとりの魔女
角野栄子  KADOKAWA/角川書店

キキ、16歳。ある日突然、12歳の”なりたてほやほやの魔女”ケケがキキの生活に飛び込んできます。魔女は一つの町にひとりのはずなのに…。自由奔放にふるまうケケに、キキの心は乱されっぱなし。魔女猫ジジが言った「横取り屋」なんていうことばが心に引っかかります。

書店ナビ ケケは3巻のもうひとりの主人公。キキと比べると、かなりズケズケとものを言うタイプです。
礒野 確かに謙虚な性格とは言えないかも。しかもケケは行動力があるので、するりと人の懐に入っていく。キキの大事な友達であるとんぼさんとも仲良くなって、当然キキはイライラします。
気にくわない(でも一緒に住んでる!)ケケと、どうつきあっていけばいいのか苦しみます。
書店ナビ 魔女であることで他の人とは違うキキが、今度は同じ魔女仲間なのに自分とは違うことばかりするケケにとまどい、ねたんだりする。
ひとは一人一人が自分とは違う他者であり、その他者を受け入れる難しさにぶつかるんですね。
礒野 しかもキキはひとり立ち修行中ですから親を頼ることはできません。そこも含めて、キキが自力で暗いトンネルを抜け出ようとする3巻の読後感は格別です。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

新装版 魔女の宅急便(4)キキの恋
角野栄子  KADOKAWA/角川書店

コリコの町に来て4年目、キキは17歳の夏を迎えようとしています。遠くはなれた町の学校に入ったとんぼさんとの夏休みを楽しみにしていたのですが…。

書店ナビ 副題が「キキの恋」! きました、この話題が。
礒野 とんぼさんの里帰りが待ち遠しいキキの恋心とは裏腹に、当のとんぼさんは昆虫の不思議に夢中。「なぜか行かなければいけないよう気持ち」になって自然がいっぱいの雨傘山で休みを過ごす計画をひとりで決めちゃいます。
書店ナビ いまの17歳ならLINEで大ケンカですね。
礒野 ですね。その後とんぼさんから何通も手紙がくるんですが、山での時間を超満喫している様子にキキはまたイラッとくる(笑)。ただ、ほうっておかれた自分にも少し浮かれてしまうようなことがあり…。
後半ではキキのおかあさんが病気で倒れてしまいます。魔女の薬草も効かないみたい。ハラハラドキドキの4巻です。

礒野さんが手にしているのはロングセラーの福音館書店版。物語に寄り添う表紙画・挿画を1巻は林明子、2巻は広野多可子、3?6巻は佐竹美保が担当した。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

新装版 魔女の宅急便(5)魔法のとまり木
角野栄子  KADOKAWA/角川書店

宅急便を始めて5年。キキは19歳になりました。とんぼさんとの遠距離恋愛も仕事も順調?でもないようで、最近魔女猫ジジの様子がおかしくて、おまけに飛ぶ魔法も弱くなってきた! 次々と試練が押し寄せます。

礒野 私がこの巻で印象に残っているキャラクターは、冒頭に出てくる新米魔女のライちゃんです。かつてのキキのように彼女もひとり立ちを迎えたばかり。お手製のスープを売ろうとお試しの店を出したところにキキが通りかかります。
でもそのスープがおいしくないんです! 一口食べたキキが(これは、ひどい!)と驚くくらい。
書店ナビ スープの出来以外にも不安がいっぱいのライちゃんを見ていると、キキはすっかりお姉さん気分になりますよね。
ところがこのあとに続くライちゃんの行動が実にすばらしい。著者の角野さんが少年少女読者の真の成長を願ってこの本を書いていることが伝わってきました。
礒野 この本のすごいところは、読み手の年齢や気分、置かれている状況次第でいろんな視点から楽しめるところだと思います。
魔女の話だから男の子は楽しめないかというと、とんぼさんもいるので必ず”僕のターン”がやってきます。高校生や大学生にもおすすめです。
キキが二十歳の誕生日を迎えて幕を下ろす5巻、私たち読者の胸もいっぱいになるような場面が最後に待っています。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

新装版 魔女の宅急便(6)
それぞれの旅立ち
角野栄子  KADOKAWA/角川書店

キキに出会った人びと
魔女の宅急便特別編
角野栄子  福音館書店


いまや双子のお母さんとなったキキ。子どもたちはおてんばな女の子ニニと、その弟でちょっぴり内気なトト。二人とも将来はどう考えているの?聞きたくても聞けない親心の向こうで、子どもたちの心もざわざわしています(『魔女の宅急便 その6』)。ところで、キキが出会ったあの人この人にもキキと会う前、会った以降の物語があります。おソノさんの青春や町長さんのふしぎな思い出など『魔女の宅急便』ファミリーの物語(特別編)。

礒野 5巻から15年の月日が流れた6巻にはキキの子どもたち、双子が登場します。弟のトトが”あるもの”に出合う場面が私は大好きで、はじめての体験にビックリしているトトにある人が「君、魔法にかかったね」と言うんです。「夢中、夢中がいいんだよ。そうすると、魔法になるんだ」と。
素敵なことばですよね。そう言われたトトの感動が自分ごとのように伝わってきます。
書店ナビ 特別編の『キキに出会った人びと』は作者あとがきの日付を見ると「2015年秋」とあり、初版は2016年1月に出版されました。
礒野 1982年に始まり、24年かけて紡がれたキキの物語が完結してから4年後に書かれた本です。おなじみの登場人物たちにまた会えたのはすごくうれしいですし、これほど長い時間をかけて書かれてきたお話の人物像がまったくブレていないことに感動します。
著者の角野さんに心の底からお礼を言いたくなる余韻の2冊です。

ごちそうさまトーク 一家に1セット!何歳でも何度でも

書店ナビ 『魔女の宅急便』シリーズ、一番の魅力はなんだと思いますか?
礒野 “魔女が主人公”というファンタジーの部分と、ひとり立ちの日常生活や思春期特有のとまどいなどのリアルな描写がバランスよく調和しているところだと思います。
そのうえ心に響くメッセージがたくさん詰まっていて、何歳からでも何度でも楽しめます。一家に1セット揃えてほしい永遠の名作です!
書店ナビ お話を聞きながらずっと頭の中で映画の主題歌がリフレインしていた『魔女の宅急便』フルコース、ごちそうさまでした!

礒野圭(いその・けい)さん
札幌市内の書店2社を経て、2015年9月から三省堂書店札幌店に入社。現在は児童書と地図ガイドを担当。趣味は絵を描く事。

『魔女の宅急便』以外にも礒野さんが大好きな絵本はこちら。「ちょっとトボけた感じの作品」がお気に入り。

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