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第450回 くさかカバン店 代表 日下 功二さん

Vol.168 くさかカバン店 代表 日下 功二さん

札幌市の狸小路8丁目に店を構える「くさかカバン店」は日下功二さん・弘子さん夫婦のお店。今年で20周年を迎えた。

[本日のフルコース]
札幌の鞄職人・日下功二さんが節目節目に読み返す
「タイムレスな輝きを教わったものづくり本」フルコース

[2019.11.11]

書店ナビ「自分達が使いたい鞄、自分達の好きなあの人に使ってもらいたい鞄」を札幌で作り続ける鞄工房「日下公司」さん。
北海道芦別市で育った日下功二さんが大学で上京し、そこで革の面白さに目覚め、三笠市にJターン後に開いた工房です。
靴の職業訓練校で出会った弘子さんとは1996年にご結婚。1999年に札幌の中央区にあった第2三谷ビル2階で「日下公司」の店舗を構え、2007年に現在の狸小路8丁目に移転。工房併設の店舗で新たなスタートを切りました。
2013年からは店舗屋号を「くさかカバン店」とし、合田鞄製室や後で詳しく触れる新ブランド「KOROBOTCH」など取り扱いブランドを徐々に増やしています。

くさかカバン店

kusaka.net

書店ナビ今回は、2019年で工房開設20周年を迎えた日下さんが「今の自分を構成している、節目節目で読み返す」5冊を選んでくれました。
日下さんヒストリーも交えながら、早速お話を聞いていきましょう!

[本日のフルコース]
札幌の鞄職人・日下功二さんが節目節目に読み返す
「タイムレスな輝きを教わったものづくり本」フルコース

前菜 そのテーマの導入となる読みやすい入門書

工房生活のすすめ
秋岡芳夫  みずうみ書房
1979年刊。工業デザイナーであり著述家の顔も持つ著者は「暮らしのためのデザイン」の提唱者。大量生産の時代に棹を差す「クラフト」という概念を広め、「消費者」を「愛用者」と呼ぶなど血肉の通うものづくりを大切にした。

書店ナビ他の工房に在籍したことがなく、独学で鞄を作り続けてきた日下さん。小さい頃からものづくりがお好きだったんですか?

日下そうですね。小さい頃はオモチャなんてそう簡単に買ってもらえませんでしたから、遊びたいのならオモチャごと作るしかなかった。
一度組み立てたプラモデルを解体してその部品を使ってまた別のものを作ったりして、いつも手を動かすのが好きでした。中学・高校は美術部でした。

書店ナビ芦別高校を卒業後、次の《スープ本》でも再度触れますが、和光大学の人文学部美術学科に進学されました。

日下大学では現代美術を学び、オブジェを作ったりインスタレーションを考えたり。廃材を使ったインダストリアル系バンド形式のパフォーマンスもして、そのときに初めて一部に革を使ったサンドバッグを自作しました。

この秋岡さんの『工房生活のすすめ』は、そんな「将来はものづくりで生きていきたいけれど実際にはどうすれば……」とあがいていた学生時代に手に取りました。
一番教わったことは「ものづくりの基本は道具の仕立てにあり」という考え方。すぐに簡単にできる大量生産とは真逆の考え方ですが、たとえ時間がかかっても僕たちにはこっちのほうががしっくりくる。
これを読んでから秋岡さんの本を読みあさり、『木工(道具の仕立て)』も大切なバイブルです。

愛用の革包丁たち。長年使いこんだものと新品を並べると刻んだ歳月が一目瞭然。「初めて買った豆鉋(まめかんな)は、秋岡さんの本を読んで油台にしました。鞄職人で同じことをしている人はあまりいないと思います」

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

ぼくは本屋のおやじさん
早川義夫  晶文社
1960年代に活動した伝説のロックバンド「ジャックス」のボーカルリーダー、早川義夫。2枚のアルバムを残してバンドを解散したのち、早川は1972年から川崎市内で「早川書店」を経営する。本書はその22年間の書店日記。

書店ナビ本書はレイモンド・マンゴーの名著『就職しないで生きるには』にインスパイアされた同名シリーズの第一巻。
1963年生まれの日下さんは、ジャックスが解散したあとにその存在を知る世代ですね。

日下中学生の頃にFMで流れていたジャックスの最初のシングル曲『からっぽの世界』に衝撃を受けました。
高校生になってラジオ番組『サウンドストリート』で、交通事故で亡くなった元メンバーの木田高介の追悼企画で流したジャックス特集に第二の衝撃を受け、そこからどっぷりと早川義夫の世界にハマり、大学も早川氏が中退した和光大学へ。
もうひとつ本音を言うと、学費が安かったからというちゃんとした理由もあったんですが、結局そういう選択肢になりました。

早川氏の本は、1冊目のエッセイ集『ラブ・ゼネレーション』を読んでからこの本を。曲同様に早川義夫の生きづらいナイーブな世界。自身の醜悪な部分をあからさまにしていくなかで浮き上がってくる本当のこと……。
自分たちの店づくりと重なる部分が多く、もしかすると無意識にこっちがなぞっているところもあるのかもしれません。

ジャックスの音楽を今も愛する人がいるように僕たちも、時代を超えて愛されるベーシックなものを土台にしながらプラス、”自分たちらしいタッチ”を加えたものづくりをしていきたい。
そこに気づいてくれる人、ハマってくれる人たちとの関係を永く大切に続けていきたいと思っています。

書店の立ち読みマナーを「その注意書きを特に読んでほしい幾人かの人」にどう届けたらいいのかという悩みと、スタッフに声をかけてから店頭サンプルに触ってほしい革工房の悩みは同じ。高い場所にあっても「届くから自分で取れます!」ではなく、遠慮なくスタッフにお任せしてほしい。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

別冊暮らしの設計 No.5 鞄とバッグの研究
中央公論社
1979年に出版された鞄のムック本。編者を務めたコピーライターの西尾忠久氏は日本に海外のトップブランドを紹介した第一人者であり、本書にも西尾氏を中心とした編集者・執筆者たちの筆の力とプライドが凝縮されている。

日下とにかく驚かされるのは圧倒的な取材量。一体どれだけの取材を積み重ねて書き上げているのか、鞄の資料書としても一級品です。
一説では、いまファッション誌などで組まれている鞄特集のうんちくはこれが種本になっているのではないかという話もあるくらい。
“仕事をする”ってこういうことなんだよなあと思い知らされます。

書店ナビいまはネットで単語を入れるだけで何でも調べられる時代ですが、昭和70年代にこの情報量は圧巻ですね。
しかも字がびっくりするほど小さい!それぐらい”載せたい情報”があるという作り手の気概が伝わってきます。

日下同じような本として『ルイ・ヴィトン―ルイ・ヴィトンの秘密と全製品カタログ』(グラフ社)と『エルメス大図鑑』(講談社)これら2冊をあわせて、個人的に”70年代の鞄の三大ムック”と呼んでいます。

「ヴィトンやエルメスの工場内部を見ることができるなんて夢のよう」。写真に写っているすべてのものから作るプロセスを思い描いていく。

日下『ルイ・ヴィトン』のほうはちょっといわく付きで、出版後すぐにルイ・ヴィトン側から回収依頼があり、最終的には増刷禁止になったそう。
あくまでも推測にすぎませんが、おそらく取材の段階で工場長はOKを出したけれど、刷り上がりを見た会社のトップたちが「ここまで見せたらだめだろう」とNGを出したのかもしれない。
2016年に東京でルイ・ヴィトンの大々的な回顧展があり見に行きましたが、会場でこの本も紹介されていたので、どこかのタイミングで和解したんでしょうね。
いずれにしても本の価値は変わることなく、僕たちには大事な資料です。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

デザイン
小池新二  保育社
1965年刊。著者の小池氏(1901~1981)は造形理論及び造形史の研究者。なかでも工業意匠の分野で幅広い活動をし、同時にデザイン振興にも力を注いだ。本書でも普遍的なデザインや各国の作品を紹介している。  

日下ちゃんと読んだのは数年前ですが、自分たちの「好き」のど真ん中に響いた一冊。
今思うと僕たちが子どもの頃、昭和30~40代当時の暮らしのなかにあったものたちが、本書でもたくさん取り上げられているように感じます。
僕らが目指すところもそれと同じで、50年後に見てもカッコイイ!と思えるもの、見る人が興味をそそられるものをつくりたい。暮らしの中に永く居場所がつくれるものをつくっていきたいと考えています。

カイ・ボイスンの木製「モンキー」と一緒に南部鋳物の猿をくさかカバン店の店頭でも発見!

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

誰も知らない小さな国
佐藤さとる 講談社
1959年刊。アイヌの伝承に登場する小人コロボックルにヒントを得たファンタジー小説。佐藤さとると挿絵・村上勉コンビの代表作ともなった。毎日出版文化賞・国際アンデルセン国内賞を受賞。1987年までに6冊のシリーズ本を刊行した。

日下こちらは弘子さんが大好きなシリーズなんです。

弘子さんこの本を読むとたちまち、子どもの頃のワクワクする気持ちに戻ります。50年以上も前の文章なのにキラキラとして色褪せない。私たちのお手本のようなシリーズです。
 
実はこのコロボックルシリーズをヒントに、工房開設20周年を記念したくさかカバン店の新ブランド「KOROBOTCH」が生まれました。
北の街にひっそりと隠れ住んでいるらしい、働きものの小さな人々コロボッチ……そんなコンセプトで働く人がちょっと楽しくなるような”なにか”を作っていく予定です。
 
ロゴやパッケージデザインをお願いしたデザイナーの前田さつきさんにも世界観をわかっていただきたくて、コロボックルシリーズを読んでもらいました。年末には「KOROBOTCH」第二弾も発売予定です。

「KOROBOTCH」の第一弾は濡らして曲げる「革のこぐま」。新しい札幌土産を探している人はコレ!大人もうれしい愛らしさと持ち運びに便利な薄さ、買いやすい価格、全てが魅力。

書店ナビコロボックルシリーズは現在、佐藤さとるさんのご指名で人気作家の有川浩さんが書き継いでいます。2017年には新刊も出て、今日のお話を聞いて1冊目から有川版までから一気読みしたくなりました。

ごちそうさまトーク ゆるやかな企画会議を続けて20周年

書店ナビ日下さんと弘子さん、ものづくりの分担とかは決まっているんですか?

日下基本は一人で一つの製品を作り上げる。途中で作業交代はしないですね。新作のヒントやアイデアを一から話し合うこともほとんどなくて、ある程度まで形作った考えを「どう思う?」と煮詰めていくやり方です。
「いいな」と思うものや感じ方が7~8割重なっているので、あとは味付けのための意見交換という感じ、だよね。

弘子さん鞄以外の展示会や博物館を見に行ったときのほうがいいヒントをもらうことが多いんです。「あれ、いいね」とか「ああいうものづくりをしたいね」とか。
夫婦ですから工房でも家でも、ゆるやかに企画会議が始められる状態です(笑)。

くさかカバン店のファンは海外にも多く、昨年フランス人男性客が来店。店に入ってすぐにお目当てのものを見つけ、「これを」と指さしたそう。

書店ナビもしかすると、その「ゆるやか会議」が永く続けられる秘訣かもしれませんね。
最後になりますがあらためて工房開設20周年おめでとうございます。ものづくりの感性を共有するおしどり夫婦の「くさかカバン店」さんが札幌にいてくれることがうれしくなる「ものづくり本」フルコース、ごちそうさまでした!

くさかカバン店

kusaka.net

日下功二(くさか・こうじ)さん

1963年赤平市生まれ、芦別市育ち。和光大学人文学部美術学科卒業後、聴講生として1年間通いアトリエでものづくりを継続。アパレル販売員や工務店のアルバイトを経て、1995年に実家のあった三笠市にJターン、革工房「日下公司」を立ち上げる。1996年、弘子さんと結婚。1999年、札幌に店舗を構え、2007年に現在の狸小路8丁目に移転。2013年、店舗屋号を「くさかカバン店」に変更。

 

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