北海道書店ナビ

第228回 BOOKs HIROSE




5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.5 BOOKs HIROSE 森山 潤さん

森山 潤さん
[本日のフルコース]
生き方を教えてくれる
時代小説の世界にいざ、見参!

本日のフルコース

[2015.6.29]





書店ナビ 道東の標茶(しべちゃ)町に本社がある広瀬書店は「戦前から営業」している老舗書店。現在はイオンモール釧路昭和店の2階にBOOKs HIROSEを展開しています。
同店の文庫・コミック担当、森山さんによるフルコースの素材は時代小説。まだ30代の森山さんですが、意外にも時代小説がお好きなんですね?
森山 親に頼まれて図書館で借りているうちに自分も好きになりました。
書店ナビ フルコースの中にはドラマ化されている作品もあります。
森山 僕は基本、原作ありのテレビドラマは見ない派なので、キャスティングとかも全然知らないんです。話が盛り上がらなくてスミマセン(笑)。
時代小説というと、僕らの親の世代が読むものと思いがちですが、今回はできるだけ「若者が読んでも面白いと思ってもらえそうな作品」でフルコースを考えてみました。



広さは256坪。店の奥には芸能本や写真集がずらり。


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

しゃばけ

しゃばけ
畠中恵  新潮社

病弱な若だんな、一太郎と周囲にいる妖怪たちがさまざまな事件を解決していく愉快で不思議な人情小説。鳴家(やなり)という妖怪がとにかく可愛い!



書店ナビ まずは大人気の“しゃばけ”シリーズからスタート。柴田ゆうさんが描いた表紙も可愛らしいですね。
森山 入りやすい一冊を、と思い、これにしました。チャンバラは出てきませんし、穏やかな江戸の日常生活を感じ取ることができる時代小説。ファンタジーの要素もあるので若い方にも気軽に楽しんでいただけると思います。「きゅわきゅわ」「きゃたきゃた」と鳴く鳴家(やなり)たちが大好きです。

この表紙が好きで買っている人も多い“しゃばけ”シリーズ。







スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

妻は、くノ一

妻は、くノ一
風野真知雄  角川グループパブリッシング

平戸藩の御船手方書物天文係の雙星(ふたぼし)彦馬は星が何より好きという変わり者。その彦馬のもとに美しい嫁・織江が嫁いでくるが、実は織江は平戸藩に潜入したくの一。婚礼後わずかひと月で失踪してしまう。妻を江戸に探しに行く彦馬、夫のことを忘れられない織江。はたして二人はもう一度会うことができるのかーー。




書店ナビ NHKのBS時代劇枠でドラマ化された作品です。
森山 この作品の魅力はなんといっても主人公である織江の一途さにあると思います。くの一としての使命を背負いながらも彦馬を思う女心。こういう一途な女性像が描かれているところも、時代小説の魅力かもしれません。


時代小説は長編が多い。「図書館は一人10冊まで借りられるので親のカードとあわせて一気に20冊借りたこともあります」と話す森山さん。






魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

密封 奥右筆秘帳

密封 奥右筆秘帳
上田秀人  講談社

奥右筆(おくゆうひつ)という役職は、大名でさえ恐れた重職だったという。奥右筆の手加減次第で、諸大名の書状が将軍などの上層部に届くかが決められるからだ。主人公の若き剣客・柊衛悟(ひいらぎえいご)は、隣家の奥右筆組頭・立花併右衛門(へいえもん)の護衛についたばかりに幕政の闇に巻き込まれていく…。







森山 この本は「バトルが読みたい!」と思って手に取りました。幕政をめぐる闘いの中には剣による闘いも含まれており、主人公の宿敵である〈最強の忍〉が主人公が強くなっていくのを見届けてから闘う、という設定にもゾクゾクします。
書店ナビ 全12巻で最終巻のタイトルが「決戦」。まさに最後の死闘が繰り広げられるわけですね。読みたくなりました。





肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

居眠り磐音江戸双紙1 陽炎ノ辻

居眠り磐音江戸双紙1 陽炎ノ辻
佐伯泰英  双葉社

やはり時代小説のフルコースに佐伯さんははずせない。主人公・磐音の波瀾万丈の人生を考えると胸が痛む。幼なじみの許嫁・奈緒との別れ・再会、そして新たな恋ーー。シリーズも終盤を迎えているが、結末が幸せであってほしい。






森山 魚料理のほうを“剣の闘い”だとすると、こちらは“人生の闘い”を教えてくれるシリーズです。主人公の坂崎磐音(いわね)は「春風のように穏やかな」性格で、実は師匠も一目置くほどの剣の達人。「構え方が、まるで春先の縁側で日向ぼっこをして居眠りをしている年寄り猫のよう」なので居眠り剣法と呼ばれています。
藩内の権力争いに利用され、江戸での浪人暮らしを余儀なくされるところから物語は始まりますが、自分が特に心を打たれたのは、悲恋に終わった幼なじみを生涯かけて想う磐音の気持ちと、磐音のその気持ちごと受け止める妻おこんの深い愛。そして運命に翻弄される幼なじみの奈緒…。登場人物が織りなすヒューマンドラマに目が離せません。
書店ナビ 作者の佐伯さんは「50巻を一区切りにする」と宣言されているようですね。
森山 ここまできたらなんとか大団円で終わってほしい。磐音のように穏やかに生きることは現実には難しいかもしれませんが、そういう生き方に強く憧れます。


居眠り磐音シリーズは現在48巻まで刊行。山本耕史主演のNHKドラマはDVDにもなっている。




デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

居眠り磐音江戸双紙帰着準備号 橋の上

居眠り磐音江戸双紙帰着準備号 橋の上
佐伯泰英  双葉社

地図と浮世絵で振り返る、磐音が歩いた江戸を満喫できる一冊。本編より若いころの磐音を描いた小説「橋の上」も掲載。シリーズ10周年記念として刊行された。





森山 というわけで、最後のデザートも磐音シリーズで締めさせてもらいました。他にもシリーズのガイドブックが数冊出ているのでファンとしては長く余韻を楽しむことができます。


シリーズものは途中で挫折する人も少なくない。しばらく時間があいたとしても、こういうガイドブックがあれば “復帰する”きっかけになりそうだ。



ごちそうさまトーク 坂崎磐音と桜木花道の共通点


書店ナビ 森山さんの解説をうかがっていると、時代小説は昔のことを学ぶ“歴史の書”という偏ったイメージから、血湧き肉踊る闘いや人間模様を描いたエンタメ小説なんだという見方に変わってきました。
森山 僕自身、『ドラゴンボール』の天下一武道会や『スラムダンク』の陵南戦のスリーポイントシュートにワクワクした世代です。そういうジャンプコミックの主人公たちのように、剣客としてあるいは一人の人間として闘いながら成長していく時代小説の主人公たちの魅力を、一人でも多くの方に知ってもらえたらうれしいです。
書店ナビ 時代小説の新たな魅力を切り取るフルコース、ごちそうさまでした!

居眠り磐音シリーズの特に好きな巻を持ってください、とお願いしたら31巻と32巻をチョイス。どんなくだりかは読んでのお楽しみ!







書店川柳

ウォッチッチ 子どもの関心 どっちっち

とかく子どもの関心は熱しやすくて冷めやすいもの。一大ブームとなった妖怪ウォッチ関連本の予約を店頭で受け付ける書店員だからこそわかる「そろそろ下火?」の予感。


2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんにお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。

《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。

読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。

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