北海道書店ナビ

第310回 紀伊國屋書店札幌本店 池田 朋子さん



5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.77 紀伊國屋書店札幌本店 池田 朋子さん

担当は客注・雑誌の品出し。北海道の雑誌発売日には大忙しの池田さん。


[本日のフルコース]
北海道の春はもう少し先、だから読みたい
書店員おすすめ「こころが温まる本」フルコース

[2017.2.6]






書店ナビ 紀伊國屋書店札幌本店の池田朋子さんにお願いしたフルコースづくり、テーマ選びは悩みましたか?
池田 掲載される2月だと、北海道はまだまだ冬の後半。冬らしい切り口でもいいかなと思い、「こころが温まる本」にしました。
書店ナビ これまで出てこなかった切り口です。それでは一緒に見てまいりましょう!


[本日のフルコース]
北海道の春はもう少し先、だから読みたい
書店員おすすめ「こころが温まる本」フルコース


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

うさぎパン
瀧羽麻子  幻冬舎

幼い頃に母を亡くした女子高生・優子は父の再婚相手と暮らしている。転校先の学校で仲良くなった富田くんや家庭教師に囲まれて成長していく青春ストーリー。




池田 ダ・ヴィンチ文学賞受賞作と聞いて読みました。主人公の優子が同級生の富田くんと放課後パン屋めぐりをするほっこりとした日々の中に、ちょっとファンタジーのような仕掛けもあり、タイトル「うさぎパン」の秘密がわかるラストまでじんわりと物語が進んでいきます。
大きな波風は立たないけれど、日常が大切に思えてくる描写がとても好き。どなたでも読みやすいと思うので、《前菜本》にしました。

もし1冊だけ好きな本をあげるとしたら?「このフルコースにはいれませんでしたが、小川糸さんの『食堂かたつむり』です」




スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

それからはスープのことばかり考えて暮らした
吉田篤弘  中央公論新社

失業中の青年がある町に引っ越し、近くの映画館とサンドイッチ屋に通うようになる。ゆったりとした時間の流れが心地よい一冊。



書店ナビ 著者の吉田篤弘さんは、パートナーの吉田浩美さんと共に「クラフト・エヴィング商會」名義でも著作を発表。装幀なども手がけています。
池田 《スープ本》にはやはりスープの本を(笑)。新しい町のサンドイッチ屋さんで働くようになった青年は新メニューの開発を任され、それから考えるのは「スープのことばかり」。
映画館通いで知り合った初老の女性や大家のマダムたちと触れ合いながら、自分の味を探していきます。
もし自分が新しい環境で暮らすことになったら、こんな風に人とつながっていきたい。そう思わせてくれるストーリーです。




魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

星やどりの声
朝井リョウ  角川書店(角川グループパブリッシング)

亡き父が残した喫茶店を営む母、6人の子どもたち。物語は子どもたちの視点で語られ、父との思い出や家族の出来事を振り返る。そして最後はそれぞれの物語が眠っていたひとつのやさしいヒミツにつながっていく…。 




書店ナビ 各章のタイトルが「長女 琴美」「二男 凌馬」みたいに子どもたちの名前ですね。
池田 ええ、早坂家の三男三女の中でもお父さんの記憶がある年上のコと、当時まだ小さいすぎてよく憶えていないコがいて、それぞれの心に残る父親エピソードが描かれています。
私が特に好きだったのは、三男の真歩の章。真歩は「笑わない子」なんですが、カメラを通して自分の気持ちを確かめていく様子が胸にしみわたります。



肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

島はぼくらと
辻村深月  講談社

瀬戸内海に浮かぶ島で暮らす高校生4人の物語。家族、進路、故郷の行く末に心を悩ませながらも、それぞれが将来の手がかりを見つけていく著者渾身の書き下ろし長編です。






池田 主人公は、本土の高校にフェリーで通う同級生4人組。女三代で暮らす朱里(あかり)と網元の一人娘、衣花(きぬか)、東京からの移住組である源樹(げんき)と演劇部の新(あらた)の全員がいきいきと描かれていて、きっとお気に入りのキャラクターが見つかるはずです。
携帯電話はあっても今のようにLINEはない設定なので、そういうSNSに頼らない友情が清々しく、朱里ちゃんの結婚・出産に向き合う素直な姿勢に心が洗われる思いです。
4人の進路と故郷の過疎化の問題は切り離して考えることができず、私は札幌出身ですが自分だったら、と考えさせられます。
書店ナビ 過疎化問題を抱える自治体が多い北海道には、主人公たちと同じように進路選択に悩んでいる高校生たちがいっぱいいそうです。
池田 そういう方たちにもぜひ読んでほしい物語です。

お客様に聞かれて気になった本のタイトルはそっとメモし、次に読む本リストに入れておく。





デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

初恋料理教室
藤野恵美  ポプラ社

京都の町屋長屋で開いている”男子限定”の料理教室。年齢も職業も異なる4人の男性がなぜ、そこに通うようになったのかを解きほぐしていくオムニバスストーリー。



池田 ライトノベルのポプラ文庫から出ていますが、実は巻末に「初恋料理教室」のレシピ集が載っていて、大人の読者も十分楽しめる一冊です。
教室に来る生徒は定年前の会社員やパティシエたち。料理の腕をあげると同時に自分たちの暮らしに新たな風を吹き込んでいく…。
人生における食が、いかに大事なことかを教えてくれます。なにより、どの料理もすごくおいしそうで食べたくなります!

ごちそうさまトーク 半径数メートル以内の風景を慈しむ


書店ナビ ほっこりとした5冊を紹介してくれる池田さんのやさしい話しぶりにも癒されました。
池田 恐縮です(笑)。ドラマチックなアップダウンがある物語も面白いと思いますが、どちらかというと日常の大切さや身近な人々との関わりを考えさせてくれる本に、つい手が伸びてしまいます。
書店員としては、これからもっと北海道のことを題材にした本も読んでいきたい。地元の作家さんたちを応援したいです。
書店ナビ 遠くばかりを見つめるのではなく、自分の半径数メートル以内の人・もの・風景を愛しく思えるようになるフルコース、ごちそうさまでした!

●池田朋子さん 
札幌出身。2004年に紀伊國屋書店に入社。サッポロファクトリー店、オーロラ店を経て2年前から札幌本店勤務。現在は客注・雑誌品出しを担当。













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