北海道書店ナビ

第276回 北海道書店ナビ  六番堂書店


[店舗紹介]六番堂書店 店主 秋山 忠継さん 

札幌市北区の新琴似にある六番堂書店。ご店主の住居兼店舗で、札幌市の有形文化財「新琴似屯田兵中隊本部」をモデルにした。


[2016.6.6]


開業42年、74歳の店主が営む宅配専門店

書店ナビ 2011年11月に本サイトで「店頭に本がないナゾの本屋さん」としてご紹介した札幌の六番堂書店さん。その正体は、店主の秋山忠継さんが昭和49(1974)年に開業した宅配専門の本屋さんでした。
開店後しばらくは店頭販売で売上を立てる一般書店でしたが、徐々に宅配に軸足を移していき、現在は主に個人宅を対象とする宅配業務に一本化。
雑誌1冊からでも届けてくれる”お客様思い”のサービスが高齢者の間で評判を呼び、宅配専門に特化していったそうです。
“店頭に売る本がない”理由は店にある全ての本が注文の品であり、行き先が決まっているから。日中は入口に「宅配中」の札を掲げ、北区に限らず遠くは丘珠や東苗穂まで配達にまわっています。

「店頭がそのまま在庫置き場になっています」。雑誌の注文が一番多い。





書店ナビ 前回ご登場いただいたとき、秋山さんは古稀を迎えられるところでした。あれから5年、お元気そうでなによりです。
秋山 ありがとうございます。もう5年になりますか。私のほうは注文してくださるお客様のおかげで、相変わらず配達に走り回っています。
実は3年前に妻が他界しまして、その前まではいずれ本屋も引退かと思っていましたが、一人になってみますと、やはりやることがあったほうがいい。いまは生涯現役の本屋でいようと頑張っています。

74歳と聞いてビックリ! 居住まいや表情も若々しく、はつらつとしている秋山さん。



札幌の人口25%を占める65歳以上にもっと光を


書店ナビ 六番堂書店の顧客である高齢者の方々は、だんだん外出がおっくうになり、近所に大型書店があったとしても店が大きすぎるとどこに何があるかわからない。
かといって自宅でネットショッピングをできる環境はなく、書店に電話をかけて「週刊誌を一冊届けてくれ」とは言いづらい…。一般的な書店サービスからこぼれ落ちてしまった層を、秋山さんがカバーしていることになりますね。
秋山 私がつね日頃言っているのは、児童書に力を入れている書店は多い一方で、高齢者向けの企画や棚づくりを仕掛けている店が少ないということ。
今年の住民基本台帳人口を見ると、札幌市の人口194万人のうち65歳以上は約48万人います。まちの25%を占めるこのターゲット層を、書店はもっと重要視したほうがいい。しかもこの割合は今後さらに増えていくと考えられています。
「若い頃は食べていくのに精一杯だったけれどセカンドライフに入ったいま、読書をゆっくり楽しみたい」とか「いつか書斎を持つのが夢」といった知的好奇心を持っている方々は確実にいます。
砂川のいわた書店さんが「一万円選書」というユニークな企画で際立っているように、他が考えないところに着目する。我々のような小さい店が生き残っていく活路は、そこにしかないと思います。

一定の支持者がいる思想・宗教本のジャンルで平成26年、六番堂書店はある本の売上が全国一位に輝き、日販から販売最優秀賞の楯を贈られた。「新宿の大手書店さんが1500冊だったところを当店は1900冊。お客様からの”ご紹介”があってこそ達成できた数字です」





人とつながることで生まれるハーモニーを楽しむ


書店ナビ ここで秋山さんの経歴をご紹介します。
北海道東川町生まれの秋山さんは早稲田大学に入学後、合唱部に所属。当時のご友人たちとの交流はいまも続いておられるのだとか。
30歳のときに新琴似に居を定め、昭和49年に開業した六番堂書店の経営のかたわら、まちづくりにも積極的に参加。
40代になってから大学で環境デザインについて学び、町内会や地元に流雪溝をつくる市民運動をけん引し、いまも新琴似六番通街づくりクラブのアドバイザーをお務めです。
秋山 大学時代の合唱もそうですが、基本は「人と一緒になにかをつくりあげていく」のが好き。本の宅配もその延長上にあると感じています。
1冊300円の雑誌を10年間同じお宅に届けてきたのも、笑顔で待っていてくださる相手がいるから。なかには「秋山さんが届けてくれることが最高のサービス」と言ってくださる方もいて、私のほうこそ最高のほめことばをいただいたと思っています。
人に会っておしゃべりをして、笑い合ったりしながら心豊かな時間を過ごす。
小さなまちの本屋ですが、クラス会で会う元合唱部の仲間からは「秋山、おまえが一番幸せな人生を送っているぞ」と言われ、気持ちよくそのことばにのっかることにしています(笑)。
書店ナビ いろんな人とつながることで生まれるハーモニーを、秋山さんご自身が誰よりも楽しんでいらっしゃるんですね。
秋山 そうかもしれない。あと何年かして、いつか宅配ができなくなったとしても、この店は開け続けます。カウンターの奥で昼寝をしてたらお客様に呼び鈴で起こされる、なんていうのが最高だなあ。

常設展示している水彩画家たかたのりこさんの作品の前で。本の注文はFAX・電話011-762-5533まで。休日は日祝日、GW・お盆・年末年始。




●六番堂書店

住所 〒001-0911北海道札幌市北区新琴似11条10丁目6?15
アクセス JR学園都市線 新琴似駅
営業時間 月~金 10:00~14:30
土日祝 お休み
前回北海道書店ナビで紹介した六番堂書店さんの記事はこちら




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