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第275回 なにわ書房 東光ストア行啓通店店長 山根 舞さん



5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.50 なにわ書房 東光ストア行啓通店店長 山根 舞さん

取材のために私物の2冊を持ってきてくれた山根さん。「お風呂で読んだのでヨレッとしててスミマセン(笑)」



[本日のフルコース]
札幌老舗書店の女性店長が読んできた
「有名作家のマイナー本」フルコース

[2016.5.30]



書店ナビ 2015年、札幌市中央区にできた商業施設「Le trois(ル・トロワ)」の3階にオープンしたブックカフェ「BOOKS&CAFE’ LINER NOTES ル・トロワ店」が連日にぎわっているなにわ書房さん。
東光ストア行啓通店の山根舞店長にフルコースづくりをお願いしました。
「有名作家のマイナー本」とは面白い切り口ですね。
山根 有名な作家さんのメジャーな作品は皆さんご存知でしょうが、「実はこういう作品も書いているんですよ」という新しい視点をご紹介できればいいなと思って考えてみました。
書店ナビ 「売れ筋の本には食指が動かない、だけど面白い本とは出会いたい!」という人が喜びそうなフルコースです。早速、ご紹介をお願いします。

[本日のフルコース]
札幌老舗書店の女性店長が読んできた
「有名作家のマイナー本」フルコース



前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

おとぎのかけら 新釈西洋童話集
千早茜  集英社

シンデレラや白雪姫、みにくいアヒルの子…日本でもおなじみの西洋童話の現代版。全7篇を収録しています。

書店ナビ 北海道江別市出身の千早茜さんは2009年の『魚神』でデビュー以来、受賞ラッシュが続く若き実力派。デビュー作で第37回泉鏡花文学賞を受賞し、『あとかた』(第20回島清恋愛文学賞受賞)と『男ともだち』の2作が続けて直木賞候補となりました。
山根 その彼女がデビューの翌年に書いたのが、この「おとぎのかけら」です。短編集なので詳しい筋書きには触れませんが、私が好きだったのは「ヘンゼルとグレーテル」と「マッチ売りの少女」を土台にした2作です。
童話が持つ”闇”の部分を上手に引き出していて思わず一気読み。後味は苦めですが、コワ面白い余韻が残ります。


スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

少し変わった子あります
森博嗣  文藝春秋

行方不明になった後輩が通っていたお店は毎回訪れるたびに違う女性が同席してくれる、一風変わったレストラン。都会の片隅で出会った”少し変わった子”たちに私は惹かれていく…。


山根 学生時代に読んだ本です。表紙に女性のイラストが載っていて、ただキレイなだけじゃない”少し変わった”雰囲気に惹かれて手に取りました。
書店ナビ 著者の森さんは工学博士の学位を持つ理系のミステリ作家。第1回メフィスト賞受賞作『すべてがFになる』のS&Mシリーズや『黒猫の三角』のVシリーズなど多くのシリーズものがあり、『スカイ・クロラ』はアニメやゲームにもなりました。
山根 そうしたシリーズものについてきたファンにとっては、この本は「えっ、森さんがこんな作品を?」という驚きの一冊だったはず。SFや犯罪ミステリではなく普通の現代小説の体裁ですが、どこか現実離れしたところがあり、このあとどうなっていくのか引き込まれていく…シリーズものをまったく知らない方にも存分に楽しんでいただけると思います。


魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

天保悪党伝
藤沢周平  新潮社

天保年間の江戸の町に極めつきのワルだが憎めぬ連中がいた。博打好きの御家人・片岡直次郎や辻斬りで財布を奪う金子市之丞、吉原の花魁・三千歳。ひょんなことで知り合った彼らが大胆にも挑んだ悪事とは…。痛快無比の連作長編!

書店ナビ あらすじを読むと、江戸版”ルパン三世”的な?
山根 そうかもしれません(笑)。章ごとに主人公は変わりますが、物語は続いています。借金まみれの花魁とかキャラクターが立っていて面白いですよ。
私、池波正太郎や司馬遼太郎の時代小説が好きで、藤沢さんは『蝉しぐれ』の映画をきっかけに読むようになりました。本書は姉が先に読んで、「面白かったよ」と譲ってくれました。
時代小説といえば何十巻も続く長編シリーズを想像して敬遠される方もいると思いますが、こういう一冊完結モノから読み始めてみてはいかがでしょうか。
書店ナビ なるほど、悪漢小説ならではの痛快さもあって面白そうですね!

「一番本を読んだのは大学時代。週に多くて5冊くらい。本は捨てられないのでたまっていくばかりです」




肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

堪忍箱
宮部みゆき  新潮社

蓋を開けたら最後、この近江屋に災いが降りかかる…。決して中を見てはいけない文箱をめぐる「堪忍箱」をはじめ、人生の苦さが沁みる時代小説8篇。


書店ナビ 表題作の「堪忍箱」、恐そうですね。作者は押しも押されもせぬベストセラー作家の宮部みゆきさん。
読みごたえたっぷりの長編で知られていますが、こういう短編集も出しているんですね。
山根 私が宮部さんにハマったのは中学生くらいから。『レベル7』が好きで、ほぼ全作を読んでいると思います。時代小説あり、ミステリあり、ファンタジーありと本当に幅広い作品を書かれていますよね。
そんな彼女の長編しか知らない方には、本書がおすすめ。短編独特の「もうおしまい?」という物足りなさはありますが、「これ以上引っ張らずにあえてここで終わらせるんだ!」と感心してしまうような大胆な結末を味わう面白さが詰まっています。
表題作は確かに恐い話ですが、ほっこりした作品も収録されています。



デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

むかしのはなし
三浦しをん  幻冬舎

今「昔話」が生まれるとしたら、をテーマに直木賞作家が描く衝撃の本格小説集。


書店ナビ 《前菜本》は西洋のおとぎ話でしたが、最後の《デザート本》は日本のおとぎ話。昔話でサンドイッチしたフルコースですね。
山根 選んでいるうちにそうなっちゃいました。こちらの著者は映像化作品も多い三浦しをんさん。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を受賞する一年前に本作を書き、そのときも直木賞候補になっています。
個人的には”モモちゃん”という不良高校生が主人公の「桃太郎」ベースの話が大好きで、「こういうことをさらっと書いちゃうんだ」という意外な余韻がいつまでも忘れられません。


ごちそうさまトーク 広く読んでお客様の問いに答えたい


書店ナビ どれも読みやすそうで、しかも聞いたことがないタイトルばかりでした。
山根 そう言っていただけてよかったです。本はできるだけ”広く”読んで、お客様からの問い合わせにお答えしたいという思いがあるので、なるべく読書傾向が偏らないように心がけています。
「あの作家さんがそんな本を?」という話の種にもなるので、これからもメジャー本以外の面白さを追いかけていきたいです。
書店ナビ 人気作家を敬遠しがちな人にもやさしい突破口を開いてくれたフルコース、ごちそうさまでした!


山根舞(やまね・まい)さん
学生バイトのときからなにわ書房東光ストア行啓通店で働き、卒業後正社員に。同店とマルヤマクラス店、東光ストア円山店の文具も担当し、多忙な毎日を送っている。











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