[2019.2.18]
厳冬の雪国、広角レンズで切りとる命の輝き
2018年11月に初の写真集『北に生きる猫』(河出書房新社)を出した登別市出身の写真家土肥美帆さん。
「本のフルコース」では、お気に入りの猫本5冊を紹介していただいた。
大病の経験から「生きる」ことをテーマに据えた土肥さんがカメラを向ける対象は、厳寒の雪国で生きる外猫たちだ。雪にまみれ、強風に耐え、つかの間の陽光に目を細める――生命力にあふれた一瞬をとらえている。
2019年2月9日には、札幌市図書・情報館で『北に生きる猫』トークライブが開催された。トークの相手はブックコーディネーターで司書の加藤重男さんが務めた。
広角レンズで撮影する土肥さん。「ここに猫が来てくれたら」というフレーミングを決め、猫が来るのをひたすら待つという。
2015年、2016年は岩合光昭写真コンテストのグランプリを2年続けて受賞(写真は受賞作)「尊敬する岩合さんから”二連覇、おそれいりました”と言っていただき、とてもうれしかったです」
写真集『北に生きる猫』は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」2017年12月号に掲載された土肥さんの写真に一目惚れした編集者のたっての希望で実現したという。
写真集のきっかけになった「ナショナル ジオグラフィック日本版」掲載作品を解説中。
「このコは絶対触わらせてくれないし、私も触わらないようにしていますが、撮影で訪れるたびにいつも近くに来てくれます」
アウトテイクなしの一発撮り。伸ばした腕の長さくらいの近距離で撮っている。
住む場所と食べる物、そして人のやさしさに生かされて
土肥美帆 写真集「北に生きる猫」より
上の写真は写真集の表紙に使われたカットだが、この日は貴重な候補カットもお披露目してくれた。それがこちらだ。
「強風が横から吹きつけているこのカットと表紙に使ったカットの撮影時間は、わずか2分くらいしか違わないんです。冬の北海道は瞬く間に天候が変わる。この2枚を見ると、あらためて猫たちが生きている環境がわかります。
厳しい自然を受け入れる力と、そこを生き抜くために互いに支えあう力。それは猫だけでなく、猫たちを見守る地元の方々や愛情を注ぐ漁師さんたちにも通じることだと感じました」
ちなみに表紙写真右の青い目のコは、撮影後に家猫になった。写真集を見て保護した方から連絡が入り、「こんな風に生きていたんですね」と写真集のことを大変喜んでくれたという。
「北の猫たちを撮り続けてきて気づいたことはありますか?」という加藤さんの問いかけに、土肥さんは「始めるまでは、猫は住む場所と食べる物があれば生きていけるのかなと思っていましたが、実はそこに”人のやさしさ”も必要であることがわかりました」と回答。猫は人とともに生きていることを実感した。
写真集に人物は一切登場しないが、こちらはオフショット。「めんこちゃん」(”お気に入りのコ”の北海道弁)キッコちゃんをかわいがるおじいさんの表情がたまらない。
トークの最後には、「猫にやさしいまちだから、いきいきとした写真が撮れました」と撮影地への感謝を述べ、「猫も人間と変わらない命です。皆さんのお近くにも猫がいましたら、どうぞそっと見守っていただけたら」と静かに呼びかけた。
「撮影した猫たちは今も地元の方々の愛情に包まれて、元気に暮らしています!」
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