北海道書店ナビ

第303回 POP甲子園開幕への序章&岩崎夏海特別講演



11月22日、札幌市教育文化会館で開催された特別講演会。


[講演会]来年開催予定「POP甲子園」への序章
『もしドラ』作家、岩崎夏海さんの特別講演も

[2016.12.12]






もし北海道の小中高生がおすすめ本の「POP」を描いたら?


小中高生が好きな本のPOPを制作する「POP甲子園」北海道大会の2017年開催に向けた動きがいま、札幌から始まろうとしている。
発起人は、現在9刷を重ねるビジネス本『繁盛店が必ずやっているPOP最強のルール』を書いた株式会社ピーオーピーオリジン(札幌本社)代表取締役の沼澤拓也さん。
店舗や企業へ効果的なPOP制作セミナーを行うかたわら、教育現場でのPOP講座にも力を入れており、「子どもたちの豊かな発想に刺激を受けて」POP甲子園のアイデアが生まれたという。
11月22日に札幌市教育文化会館で開かれた特別講演会『POP甲子園開幕への序章!』は、札幌市教育委員会も後援。第一部では沼澤氏がPOP指導の現場を紹介し、第二部ではベストセラー作家の岩崎夏海さんがPOPの魅力を解説。第三部は沼澤氏が非常勤講師を務める札幌大学の小山茂教授も参加してパネルディスカッションが行われた。


繁盛店が必ずやっているPOP最強のルール
沼澤拓也  ナツメ社





小中学校での事例を紹介「描けない子をどうする?」

自身を「POPスター」と紹介し、全国でPOP制作指導の実績を持つ沼澤さんのお話。「そもそもPOPとは”Point Of Purchase”の頭文字。Purchase、すなわち購買、お客様の目線に立って価格以外の価値を伝える広告です」。
続いて小学校での指導風景をスライドで映し、沼澤氏がプロデュースするチームPOPジャパン™の指導員たちの話を聞き出した。
小学2年生24名に対し90分(2コマ)の指導の一例。なかには、少し複雑なストーリーの本を選び、描き出しに悩む子もいたという。
「そういうときは”どんなお話だった?”"誰が好きだった?”など根気よく聞き出して、とっかかりを一緒に探します。
子どもたちの考える力、あきらめない力はこちらが考える以上に高く、学校の先生たちからも”たくさんの気づきをもらえた”と言っていただき、好評です」と、指導員が現場の熱気を伝えてくれた。



一部の終わりに、沼澤さんが次に登壇する岩崎夏海さんとの出会いを語った。
2009年に氏が書いた『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』に感動した沼澤さんは、チームPOPジャパン™『もしドラ』のPOPを岩崎さんに届けに行ったことから交流が始まったという。
「私にとって『もしドラ』は、ストーリーそのものがドラッカーの『マネジメント』のPOP広告。世界一長いPOPだと考えています」とユニークな持論を述べ、岩崎さんの登場を盛り上げた。

幾つもの事例を紹介する沼澤さん。「札幌市中央図書館で伏見中の学生が作ったPOPを掲示すると、推奨本の大半がすぐに貸し出されていくそうです」

向陵中は、なにわ書房マルヤマクラス店と連携して「向陵中学校の棚」を設置(現在は終了)。力作POPが店頭を埋め尽くした。写真提供/向陵中学校 髙橋教諭






SNS社会&もの余り現代は、コンシェルジュの時代


第二部、ベストセラー作家の岩崎さんが語るPOP広告トークは、はじめに現代のネット社会を「一億総商売人」時代と看破するところから始まった。
「マイクロビジネスが増え、誰もがものが売れるうれしさを体験できる時代だからこそ、いい売り方が必要不可欠になってきた。ということを踏まえると、プリミティブなメディアであるPOP広告は、宣伝ツールの原点。
しかも真心をこめて作ったらきちんとその気持ちが伝えられる、”会って話す”感覚に近いメディアだと思います」。

続けて、「店頭に50種類の歯ブラシが並んでいても、欲しいのは自分にあう1本だけ。選択肢が多いことが決して幸せには直結しない」といい、そこから求められる「コンシェルジュの時代」について次のように語った。
「実は数年前から地道に活動していたピコ太郎を、あのジャスティン・ビーバーが”面白い”といったから世界的に大ブレイクしたように、現代はいいものを紹介してくれる人、コンシェルジュの価値がかつてないほど高まっています。
これは本選びについても同じことで、私の『もしドラ』もおそらくビジネスマンや社会人がドラッカーに関するコンシェルジュを求めていた潜在的なニーズと出版のタイミングが幸運にも合致した。それで、あれほど大勢の方に読んでいただけたのではないかと考えています」。

東京都日野市出身の岩崎さん。東京芸大建築科を卒業後、作詞家の秋元康氏に師事し、お笑い番組の放送作家として活躍。AKB48のプロデュースにも携わったという異色の経歴が、『もしドラ』を生み出したのかも。

では、シンプルで力強いリコメンドメディアであるPOP 広告の制作もきっと今後、小小中高生たちがやりがいを感じて取り組んでくれるに違いない。
お話を聞いていた私たちがそう、納得しかけたところで、しかし岩崎さんは、「対象についてより真剣に考える責任感」の重要性を説くことも忘れなかった。「大人にも自分にもウソをつかず、物事を真摯に評価する力をPOP制作を通して学んでほしい」と強調した。

「伝えることは我々の生きる本能であり、連綿と続く人々の営みのなかで我々は”リレーの第三走者”のような存在です。自分自身でゴールテープを切ることはありませんが、中間にいて誠実に次のひとにバトンを渡したい。
沼澤さんがやっておられるPOP制作の普及は、この最も本質的なことを学べる重要な機会であり、私自身の執筆活動においてもおおいなるヒントをいただいています」と話を結び、会場から大きな拍手を送られた。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら
岩崎夏海  ダイヤモンド社
2015年12月に発売された『もしドラ』第2弾!今度は野球部をゼロからつくる女子高生の”イノベーション”が始まる!





各地で模索する書店、図書館、出版社の関係性




第三部のパネルディスカッションは、沼澤・岩崎両氏に札幌大学の小山茂教授が加わった。交通計画やまちづくりを専門とする小山先生は、大学生の主体性を引き出す授業実践に力を入れており、POP講座を積極的に授業に取り入れている指導者のひとりである。
「課題を自ら発見し、一歩踏み出せる学生」の育成につながるツールを熱心に探しておられる印象だった。




子どもたちと読書、図書館という話題では、沼澤さんが白石区に11月7日にオープンした「札幌市えほん図書館」を紹介した。実は岩崎さんのご実家は学校や図書館向けの本や児童書を出版してきた 岩崎書店であり、現在は岩崎さんも経営に加わっている。
他方、青森県つがる市では2016年7月、イオンモールつがる柏と市の共同出資で市立図書館が開設されるなど、図書館、書店、出版社、流通を含めた本のありようを各地が模索している情報が行き交った。


札幌大学の小山先生(写真右)。「子どもたちには書店でいっぱい本と出会ってほしいです」


「POP甲子園」は現在企画進行中で、2017年秋に開催予定。まずは北海道大会から幕を開け、徐々に全国への拡大を目指す。

●POP甲子園のお問い合わせやPOP制作セミナー依頼はこちらまで
株式会社ピーオーピーオリジン

http://poporigin.com/



































ページの先頭へもどる

最近の記事