北海道書店ナビ 第85回 白鳥社
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心を揺さぶる一冊との出会いは人生の宝物。書店独自のこだわりやオススメ本を参考に、さあ、書店巡りの旅に出かけてみませんか?
札幌北区の六番堂書店が昭和49年開業と聞いたときは驚いたものだが、中央区の行啓通商店街にある白鳥社はさらにさかのぼる昭和24年、札幌駅前通りのアテネ書房と並ぶ戦後の創業組だった。開業63年の歩みをうかがった。【2012.7.16】
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わずか10坪の書店に目をみはるような“お宝”があったーー。
「美しく・楽しい白鳥文庫」。今の文庫サイズよりひとまわり大きく、色鮮やかな表紙に読書欲をかきたてられる。
札幌市電の行啓通駅から歩いてすぐ、行啓通商店街に白鳥社を訪ねた。「うちはね、最初出版社だったんです」、そう教えてくれたのは現店主の金井紘三さん。創業者である父・祐三さん(故人)は小樽高等商業学校(現小樽商科大学)で学び、終戦と同時に得意の英語力を活かした翻訳・出版業を始めた。社名は、冬、北国に飛来する白鳥の美しく雄大な姿に惹かれたのだろうか、「北海道らしいものを」と考えた末に「白鳥社」と命名。昭和20(1945)年の開業後すぐに「白鳥文庫」を刊行した。ジャンルは海外の児童文学が中心で、翻訳は発行人である紘三さん本人が、印刷は兄が経営していた金井印刷が担当した。
国立国会図書館のデジタル化資料によると、白鳥文庫の第一弾「アンクルトムスケビン物語」は昭和21(1946)年11月10日の発行、と記されている。続く第二弾は「アラビヤ千夜一夜物語」で昭和22(1947)年4月10日発行。著者名にある「宇田河有三」は「父が母方の実家の姓を名乗ったペンネームです」と、紘三さんが解説してくれた。
店先には今も創業者である金井祐三さんの表札がかかっている。
取材中、なんと当時の姿そのままの白鳥文庫を見せていただいた。「美しく・楽しい白鳥文庫」と掲げたキャッチフレーズに、中身が読みたくなる色鮮やかな表紙。戦後を生きる子どもたちに夢と希望を育む出版業に情熱を注いだ祐三氏の高い美意識がうかがわれる。
出版業を立ち上げて4年後の昭和24(1949)年、白鳥社は書店経営にも乗り出し、やがてそちらが本業となっていく。成人後、自動車会社に勤めていた紘三さんも28歳のときから実家を手伝い始め、歳月とともに二代目店主に成長した。現在、紘三さんは71歳、10坪の店は開業63年目を迎えた。2年前に改装したという店内は白い壁とレトロな木目調の床が気持ちのいい輝きを放ち、「まだまだ現役」の気概を感じさせる。
雑誌はファッション誌が充実。取材中も入れ替わり女性客が訪れていた。
棚はファッション誌などの雑誌とコミックが大半を占め、文芸書、新書などは「お客様の注文があれば直接出版社から取り寄せる」方式で取次に頼らない独自の路線を貫いている。
紘三さんが毎日配達に出ている間は妻の咲子さんや近所に住むパートさん(「この子もね、10年以上うちにいてくれてるんです」)が店番をして、行啓通を行き交う客の相手を務めている。「ここは商店街も古いですから、昔このへんの学校に通ってた子が懐かしがって何十年ぶりかに来店してくれたりするのは本当にうれしいことです」。
いつまでもあり続けてほしい老舗書店だが、実はそう先延ばしにできない課題も抱えている。店が3年後に新設される盲学校のための道路拡張エリアに入っているのだ。「市との話し合いでどこまで改装費を負担してもらえるのか…話しあってみないとわからないね」と、紘三さんも表情を曇らせる。戦後の夢に始まり半世紀。白鳥社の営みがこれからも続きますように。店先に掲げてある創業者の表札に手をあわせた。