北海道書店ナビ 第75回 ちいさなえほんや ひだまり
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心を揺さぶる一冊との出会いは人生の宝物。書店独自のこだわりやオススメ本を参考に、さあ、書店巡りの旅に出かけてみませんか?
絵本専門店「ひだまり」は新発寒の住宅街にある一軒家。正面の外壁には名作「スーホの白い馬」の主人公スーホ少年の絵が。「絵の上手なお客様が描いてくれたんです。雨風で色があせてもそれがまたいい“味”に」。ご店主自慢の守り神だ。【2012.4.30】
[youtube:http://www.youtube.com/watch?v=WLjF2nSn6LA]
青田さんが大好きなスーホ少年が目印の一軒家
「ちいさなえほんや ひだまり」は1994年4月2日(アンデルセンの誕生日!)にオープン。当時、札幌市内唯一の絵本専門店が閉店したことに危機感を抱いた青田正徳さんが、15年間勤務した児童書販売代理店を退職し、自ら絵本の魅力を伝える〈えほんや〉として開業した。
はじめは知人が経営する喫茶店の一角を借りていた店舗も、96年には現在の手稲にある一軒家に。玄関で靴を脱ぎ畳の部屋にあがると、目利きの青田さんがセレクトした2500タイトルの絵本がずらりと並んでいる。
「『三匹の子ぶた』ってありますよね。あれね、最後に子ぶたがオオカミを食べちゃうって知ってました?」「ももたろう、おばあさんが川
月刊「こどものとも」創刊号から続く貴重なバックナンバー(青田さん私物)
に洗濯に行きますね。川から流れてくるももは一つじゃないんです」「『はらぺこあおむし』のこのページ、さて、このちょうちょはオスでしょうかメスでしょうか!」
青田さんが次々と披露してくれる名作の読み解きを聞いていると、今まで誰も教えてくれなかった〈絵本の素顔〉が見えてくる。他者の命をいただくことの大切さや、おじいさんにおいしいももを食べさせたいと思うおばあさんの愛情、人生の伴侶を探すオスのちょうちょの美しさ…「そうだったんだ!」という驚きとともに絵本の奥深さを垣間みることができるのだ。
平日は学校や自治体に招かれる講演会あるいは配達に忙しい青田さん、2012年の5月からは週末のみだった店の営業日を増やして、金曜から月曜・祝日営業に拡大した。本人いわく「講演会というよりは絵本の読み聞かせがたっぷり入ったお楽しみ会に近い」絵本トークをきっかけに店を訪れる親子やママ友同士の口コミにより「18年の歳月を支えていただきました」と感謝の言葉を口にした。
講演会には事前にセレクトした絵本フルセットを持参する。「お気軽にお問い合わせください!」
取材も終盤にさしかかり、絵本はロングセラーが多いですよね、という話になると、青田さんの表情がいっそう輝いた。
「日本で売れている絵本のベスト3、ご存知ですか? 3位は『はらぺこあおむし』(偕成社)、2位は『ぐりとぐら』(福音館書)、そして1位は『いないいないばあ』(童心社)。僕はこの3冊がつねに上位にくる日本は“まだ大丈夫だ”と思う。親が子どもに願うのは健康でいてほしいこと。そんな親心を感じさせる不動のラインナップです。未読のかた、ぜひお子さんに読み聞かせてあげてくださいね!」
Store picture
店では絵本の原画展や企画展も開催。日程はホームページをチェック!
2012年4月で258号を数える絵本通信「ひだまり」は来店者に無料で配布、希望者には年間費千円で郵送も
Basic information
【 名 称 】ちいさなえほんやひだまり
【 住 所 】札幌市手稲区新発寒3条4丁目3-20
【 電 話 番 号】011-695-2120
【 営 業 時 間】朝 10:00〜1900
【 営 業 日 】月・金・土・日・祝日のみの営業
フェア情報
絵本出版記念小寺卓矢写真展「いっしょだよ」2012年5月11日~2012年6月30日まで
十勝管内芽室町在住の写真家小寺卓矢さんの3作目の写真絵本「いっしょだよ」の出版を記念し、その写真を展示します。
「君と未来をつなぐ絵本展」2012年4月1日~2012年5月12日
第54回子ども読書週間に合わせてずっと読み継いでほしい絵本を展示・販売
青田店長がセレクト!3冊のおすすめ本
1)大塚勇三再話・赤羽末吉画「スーホの白い馬」(福音館書店)
モンゴルの楽器、馬頭琴伝説を横長62センチの絵で表現した名作。国際アンデルセン賞・画家賞を受賞した赤羽末吉さんの絵に心を揺さぶられます。初めて「スーホ」を読んだとき、なんて悲しい結末だと思ったんです。でも何度も繰り返し読んでいくうちに、これは「希望の物語」だということに気づかされました。横長62センチという規格外のサイズはモンゴルの雄大さそのものであり、私憤にかられなかったスーホの行いは大陸的な視野に立った崇高さで皆をなぐさめる。〈絵で物語る〉醍醐味を教えてくれる、これ以上の絵本を僕は知りません。何度読んでも熱くなる、人生の書です。
2)星野道夫写真・文「ナヌークの贈りもの」(小学館)
生前ご本人にお会いすることはありませんでしたが、僕が心から敬愛する写真家星野道夫さんの遺作となった写真絵本です。ホッキョクグマの「ナヌーク」(氷の王者という意味です)が少年にいのちのつらなりを語りかけます。星野さんは1996年8月8日、ロシア・カムチャツカ半島でヒグマの襲撃に遭い、永眠されました。訃報を知ったとき、僕は生まれて初めて悲しくない涙を流したことを覚えています。最期まで僕たちにいのちを教えてくれた星野さん、本当に大きな存在です。
魅力的な装丁の本)
湯本香樹実文・酒井駒子絵「くまとやまねこ」(河出書房新社)
装丁というよりもトータル的な「造本」の素晴らしさに感動した一冊をご紹介します。とにかくすばらしいのが、酒井駒子さんが描くモノクロ世界の饒舌さです!全編モノクロの中、ピンク1色を効果的に配置し、悲しみから希望を見出そうとしているくまとやまねこの想いをせつなくなるまでに伝えてくれます。物語の結末に待つピンク1色のページに、あなたは何を思いますか?