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北海道書店ナビ  第189回 ビブリオバトル in くすみ書房

北海道で頑張る書店を応援する北海道書店ナビ。今週は特別編として札幌市・大谷地のくすみ書房で開かれた書評ゲーム「ビブリオバトル」に密着!経営難のリアル書店に活気を取り戻す新たなコンテンツとなりうるか。約2時間のバトルに立ち合った。[2014.9.15]

[youtube:http://www.youtube.com/watch?v=2J6E_fgQa9I]


大学生まれの書評ゲーム。4つのルールで全国に普及

「ビブリオバトル」とは、誰もが参加できる本の紹介ゲームのこと。2007年に京都大学大学院情報学研究科の研究員だった谷口忠大(たにぐち・ただひろ)さんらがゼミの輪読会で試した〈参加者全員が課題本にふさわしいと思う本を一冊ずつプレゼンする〉というシステムが原形となり、幾つかの修正を経たのちに現在の枠組みが完成された(参照文献:谷口忠大著『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』文春新書)。
現在、公式サイトで発表しているルールは以下の4つである。

〈ビブリオバトル公式ルール〉

1 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。

2 順番に一人5分間で本を紹介する。

3 それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。

4 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。

ビブリオバトルは誰でも気軽に企画・参加できる書評ゲーム。


この公式ルールを踏まえたうえで「誰」と「いつ」「どこ」でやるかは当事者次第。誕生当初、京都や大阪の大学を拠点としていたビブリオバトルは後に普及委員会が結成され、2010年には大阪の紀伊國屋書店本町店に進出。初の書店開催を終えたところで、偶然にも同年が「国民読書年」だったことから東京都が推進する「『言葉の力』再生プロジェクト」に参画し、2010年11月に東京国際フォーラムで行われた「ビブリオバトル首都決戦」は400人を動員したという。
ちなみに翌年のビブリオバトル首都決戦では、なんと北海道教育大学岩見沢校の杉目美奈子さんが紹介した西澤保彦著『彼女はもういない』がチャンプ本に輝いたことを知らない道民の方も多いのではないだろうか。前述の参照文献に北海道での普及活動についてさらに詳しく述べられているので、興味のある方はぜひ読んでみてほしい。


2014年9月5日のくすみ書房でもバトルスタート!
ここからは時計の針を2014年9月5日金曜夜6時の札幌・くすみ書房に戻そう。今回紹介する「ビブリオバトル in くすみ書房」の主催団体は、札幌市内の大学生によるビブリオバトルサークル「リーブル」。北海学園大学法学部4年の勝田翔太さんが代表を務め、メンバー4人を中心に月に一度のバトルを楽しんでいる。同大学人文学部の田中綾教授は現在オープンキャンパスにビブリオバトルを取り入れている実践者の一人であり、「リーブル」にも助言を寄せている。くすみ書房との連携に力を注ぐ田中先生の仲介により今回の開催が実現した。

学生のビブリオバトルサークル「リーブル」の皆さん



ビブリオバトルの構成は実にシンプルだ。ルール説明・バトラー紹介後にバトル本番が始まり、プレゼン5分と質疑応答3分セットを人数分繰り返す。参加者全員の投票で「チャンプ本」を決めたら結果発表、関係者挨拶で締めくくられる。この日のバトラーは「リーブル」代表の勝田さんと女子高生の瀬戸さん・神田さん、書店でアルバイトをしている平田さんの学生男女2人ずつ。くすみ書房2階の店頭に田中先生ら関係者を含む15〜16人の聴講者が集まった。後で聞いたところ、4人のバトラーは皆バトルの経験者。とはいえ書店開催はアウェー感が強く、しかも大人相手のプレゼンは相当なプレッシャーを強いられたことだろう。緊張した面持ちで自己紹介する姿を〈本屋のオヤジ〉こと、くすみ書房店主の久住邦晴さんがやさしく見守っていた。

リーブル代表でありバトラーも務めた勝田さん。右の手書きスケッチブックで「4分」「3分」とカウントダウンを知らせてくれる。



さて、トップバッターの勝田さんが紹介した本は三浦しをん著『きみはポラリス』。現在開催中の札幌国際芸術祭連動企画「BLIND BOOK MARKET」で「人の数だけラブストーリーがある」という推薦文に惹かれた手にした一冊だという。「いろんなテーマのラブストーリーが詰まった短編集で、特に僕が好きだったのは『優雅な生活』。〈共同作業〉がテーマになっていて…」と細かくあらすじを紹介していたが、「え、残り1分?ヤバイなあ!」途中で軌道修正をはかり、「この本は解説を含めて楽しめます。もう一度恋愛をしたいという方にぜひ読んでほしい一冊です!」とまとめてオンタイムに終了。そう、このビブリオバトルではプレゼンの5分間をきっちり使い切ること(途中終了はなし)も、場を盛り上げる大事な要素の一つなのだ。
人が見えてくる1分間、プレゼンを補完する質問も
二人目のバトラーは高校生の瀬戸さん。4人中ただ一人、英文学からヴァネッサ・ディフェンバー著『花言葉をさがして』を推した。「主人公はひとくせもふたくせもある孤児なんですが、ある里親に出会って花言葉を学び、花を通して自分の思いを伝えることを覚えます」。後半は翻訳者の金原瑞人氏にも触れ、「もともと児童文学の人なので訳がわかりやすくて、子どもの心にもすーっと入り込んでくるところが好きです」。ここでプレゼン用タイマーを見て「まだ1分ある…どうしよう…」焦った様子でしばし沈黙が続いたが、覚悟を決めたのか「ここからは自分の話をします」という一言とともに顔を上げた。高校でグローバルコースに通う瀬戸さんは「ことばが大好き」。「学校では英語と中国語を勉強していますが、考えてみると手話も花言葉も同じことばなんですよね。自分や相手の思いを伝えることばのことをもっと勉強したいし、いまもいろんなことばを覚えていくのが楽しいです!」と言い終えると同時に5分ジャストの合図が鳴り、会場からも思わず拍手がわきおこった。



写真左から瀬戸さんと神田さん。自己紹介では緊張した表情だったが、愛情たっぷりのプレゼンを披露した。





続いて瀬戸さんと同じ高校の図書局に所属している神田さんが登場した。推薦本は高殿円著『メサイア 警備局特別公安五係』。実在しない公安5係を舞台にしたスパイ小説だ。「特別な殺人権を持つ5係のメンバーは国籍も抹消され、もし敵に捕まったとしても誰も助けにきてくれない。潔く散る、という意味で〈サクラ〉と呼ばれているんですが、唯一助けにいってもいいのが二人一組のパートナーで、そのパートナーのことを〈メサイア〉といいます」。スパイ小説ならではの込み入った設定を丁寧に説明していきながら、2011年に映画化された話になると「私が一番大事に思っている設定が映画では全然変わっちゃって…」と嘆き、バトラーから一ファンの顔に戻る場面も。終了後のインタビューでは「実は紹介本を2冊持ってきていて、最後までどっちにしようか迷った末に設定がややこしいほうを選んじゃいました(笑)」と舞台裏を明かしてくれた。

最後の一冊はバトラーの平田さんが解説する辻村深月著『ぼくのメジャースプーン』。主人公の少年「ぼく」は特殊な能力の持ち主。学校で起きたウサギ殺しでショックを受けた幼なじみ・ふみちゃんのために犯人にその力を使おうとするが…。「もし自分だったら犯人にどんな罰を下すのか、いろんなことを考えさせられました」。わかりやすい解説と適切な時間配分でなめらかなプレゼンが際立った平田さんだったが、質疑応答では「すみません、僕、実は説明下手なうえに今アガッていて、その質問にはうまく答えられなくて…」と恐縮し、バトラー独自の緊張を物語るやりとりもあった。
4人のプレゼンに対し随時手が上がった質問は「作者について教えて」「主人公たちの年齢は?」「何時間くらいで読めますか?」など。学生たちの初々しいプレゼンを聴講者の質問が補完する形になった。
コミュニケーションツールとしてのビブリオバトル
チャンプ本を決める投票は参加者全員目を閉じての挙手方式で行われた。結果、「ビブリオバトル in くすみ書房」初回のチャンプ本は平田さんが推した『ぼくのメジャースプーン』に決定!久住さんから図書カードを受け取った平田さん、「チャンプ本に選ばれるのは久しぶり。しかも会場が憧れのくすみ書房さんなのでなおさらうれしいです」と笑顔を見せた。



終了後ほっとした笑顔のバトラーたち。左端がチャンプ本を紹介した平田さん。皆さん、お疲れさまでした!



この日知人に誘われて来場した50代の男性は「投票では恋愛短編集の『きみはポラリス』に手を挙げました。主人公に犬もいると聞いて、奥が深そうだなと期待して。今回は学生さんが中心でしたが、プレゼン慣れしている大人版ならまたどんな盛り上がりになるのか見てみたいです」と率直な感想を語ってくれた。

主催サークルの「リーブル」は2013年に立ち上がったばかり。「大学生になってから周りに本の話をする友達がいなくなった」勝田さんがビブリオバトルの存在を聞きつけ、高校時代の同級生とともに「自分たちでやってみない?」と集まり出したのが始まりだ。「やってみてわかったのは、ビブリオバトルとは公式のキャッチコピーにあるように『人を通して本を知る 本を通して人を知る』場そのものだということ。5分間のプレゼンで見えてくる人となりがいい自己紹介になりますし、この人がこんな本を?という意外性も見えてくる。いまはコミュニケーションツールとしてのビブリトバトルの面白さを実感しています」。

久住さん(左端)を囲んだバトル後の懇親会でも本談義に花が咲いた。



場所を提供したくすみ書房の久住さん自身、ビブリオバトルを体験したのは今回が初めて。店の課題である夜6時以降の集客を高めようと、現在さまざまなイベントを進めており、今回の好感触を弾みにビブリオバトルもマンスリー企画の一つに加わった。「もうちょっとマニアックなものかと思っていたら普通の人も十分楽しめる内容で、予想以上に面白かったです。人に勧めるために本を読むと、また別の面白さが見えてくる。〈新しい読み方〉の一つを教わった気がします。プレゼンは能力よりも体験が鍛えてくれるもの。今日のバトラーが次回参加してくれたら、きっとさらにいいプレゼンを聞かせてくれると思います」といい、主催者たちをねぎらった。次回の「ビブリオバトル in くすみ書房」は10月3日金曜に開催が決定した。学校、職場、図書館、地域のコミュニティ、そして書店とさまざまな空間で広がりを見せているビブリオバトル。まだ体験していない方はぜひ札幌市・大谷地のくすみ書房へ!本と人の新たな交流を楽しんでほしい。
知的書評合戦ビブリオバトル公式ウエブサイト

http://www.bibliobattle.jp/

大学生ビブリオバトルサークル「リーブル」
Twitter:@biblio_livre
Mail:biblio.sapporo[at]gmail.com ([at]は@に置き換えて下さい)

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